サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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戦闘訓練はこの話で終わらせようと思っていたけど、結局収まりきらなかった。予定通りにはいかないって事ね。


第18話 vs ヒーロー科

 食堂に集ったヒーロー科の生徒達が、サポート科の彼と戦闘訓練する旨を話し合った、その日の放課後。

 

 いつもの工房にて。

 

 

「えっ、良いの? 本当に?」

 

 

 普段はサポート科の生徒と先生しか出入りしないこの部屋に、珍しくヒーロー科の生徒の声が響き渡った。

 

 

「いや、こちらからお願いしておいてなんだけど、本当に訓練に付き合ってくれるの? その、テスト勉強とかは……」

 

 

 心配そうな眼差しを向ける緑谷に対し、彼は作業する手を止めて頷く。

 

 高校で習う内容は中学卒業の時点で既に学習済みなので、筆記試験に関しては何の問題もない。その証拠に、中間試験の時はクラス内順位が1位だった。念には念を入れて復習も済ませている。

 

 そして実技試験においても開発は順調で、今のところ目立った問題は発生していない。まだ3回しか爆発を起こしていないため、壁まで修理する時間を省けているのも大きい。このペースでいけば、締切の3日前には完成まで持っていけるだろう。

 

 よって、ヒーロー科の訓練に付き合う程度、何の問題もない。むしろ良い気分転換になる。

 

 

「そ、そっか。3回も爆発を起こして問題ないって言うのは意味分かんないけど、とにかく大丈夫そうで良かったよ。それなら早速だけど、いつにするか予定決めよう」

 

 

 そう言ってメモ帳を取り出した緑谷に、どうせやるなら明日にしようと彼は言った。

 

 当然、緑谷は驚いた。

 

 

「ええっ!? あ、明日!? 明日って、いくら何でも急過ぎない!? ど、どうして?」

 

 

 理由は単純。思い立ったが吉日、行動を起こすならなるべく早い方が良いと思っているから。出来る事なら今日にしたかったが、今から始めてもすぐ下校時間になって大した訓練にならないので、妥協して明日の放課後だ。

 

 現に緑谷達も今日の昼休憩中に皆で話し合ってここへ来たという。ならば今日中に話し合って決めて、明日に訓練でも良いと思うのだが。

 

 それとも、ヒーロー科の皆はこの程度の事にも対応出来ないほど(のろ)いのか。そうであるなら残念だ。

 

 

「そ、そんな事はない! 確かにやるならすぐ行動に移すべきだったね! うん、それじゃあ明日の放課後、5時半になったら君のいる教室へ行くからさ。準備が整ったらすぐに訓練を始めよう。それで良い?」

 

 

 それで構わない。

 

 では明日の5時半までには準備を済ませておくから、そちらもなるべく大勢のヒーロー科を連れて来るように努めてほしい。

 

 きっと楽しい訓練になると思うから。

 

 

「えっ、何その含みのある言い方。嫌な予感がして凄く怖いんだけど……というか、場所はどこにする? どこか希望があるとか……」

 

 

 場所もそちらの自由で構わない。そちらにとって戦いやすく、有利な場所を選んでほしい。

 

 街中、入り組んだ工業地帯、見晴らしの良い平原等、とにかくどこでも良い。一切の遠慮はいらない。

 

 その旨を伝えると、緑谷はうんうんと頷きながらメモを取り、顔を上げて言った。

 

 

「うん、分かった。どうもありがとう。明日また迎えに来るから、その時に訓練場所も教えるね。それじゃあ今日の所はこれで失礼……あ、轟君は何か言いたい事あったりする?」

 

 

 粗方の予定を決め、工房を出ようとする緑谷だったが、一緒に来ていた轟の方を振り向き尋ねる。

 

 轟はこれまで一言も会話の中に入り込まず、緑谷に交渉の全てを任せていた。

 

 

「……いや、今は特に言う事ねえよ。これ以上ここに居座って邪魔するのも悪いし、早く帰ろう。ただ……明日を楽しみに待ってる。じゃあな」

 

 

 そう言って片手を上げる轟に、彼はサムズアップと笑顔で返す。

 

 そして緑谷と轟が教室に帰った後、その一部始終を作業しながら聞いていた発目がすぐさま寄って来た。

 

 

「いやはや、面白い事になりましたねえ。まさかあなた1人とヒーロー科全員が戦う事になるとは。良ければ私も助力しますけど、要ります? 要らないなら私は工房に籠って作業の続きしてますけど」

 

 

 いや、こちらは1人で十分だ。ついでに言うと、過剰戦力になるからサポートアイテムの類も要らない。

 

 だが何のハンデも無しだと流石に向こうの身が持たないので、身体を鍛える時によく着用する特殊な素材で作られた重い運動着を着るとしよう。見た目は普通の運動着だが、それに反して総重量は300kg超えという超特殊な一品だ。

 

 これで少しくらいはハンデになる……気が微塵もしないが、無いよりはマシだろう。

 

 こうして、急遽決まったヒーロー科との戦闘訓練に備えて色々と準備を進め、あっという間に1日が経過した。

 

 

 


 

 

 

 次の日、雄英高校の職員室にて。

 

 

「ねえ聞いたマイク? 今日の放課後、A組とB組が合同で戦闘訓練するんだって。何でも演習試験に備えてだとか!」

 

 

 残って業務を熟していてるプレゼントマイクに、近くにいたミッドナイトがヒーロー科の合同訓練について話す。

 

 昨日の今日で急に決まった事なので、それを知らなかったプレゼントマイクは首を傾げる。

 

 

「合同訓練って……試験はロボット演習だっていう前情報しか持ってないはずでしょ? まさかどっかから情報が漏れたとか……?」

 

 

 今年の演習試験は例年通り対ロボット演習。いくら頑張っても生徒達はそれしか把握出来ていないはずで、USJ襲撃事件やヒーロー殺しの件を踏まえ、今年から大幅に試験の内容を変えた事はまだ極秘となっている。

 

 だというのに極めて実戦に近い合同訓練を試験直前になって行う。いつの間にか情報漏洩したとプレゼントマイクが考えるのは当然の事だった。

 

 しかし、ミッドナイトが首を横に振ってその考えを否定する。

 

 

「いいえ、情報は漏れていないと思うわ。漏れていたらこんな目立つ事せずにこっそり備えておく思うし、それに合同訓練の内容もかなり特殊なの」

 

「特殊って?」

 

「ほら、いるでしょ、例のサポート科のあの子。彼がA組とB組の全員を相手するらしくてね。イレイザーがそう言ってたの」

 

「1人でヒーロー科全員の相手を!? それってどうなの……というか、どう考えてもただのリンチじゃん! と言っても、体育祭での活躍ぶりを見たらなあ……」

 

 

 体育祭で見た彼の活躍と暴れっぷりを思い出し、どこか遠い目で呟くプレゼントマイク。それに同意するようにミッドナイトも頷いた。

 

 

「イレイザーもよく許可出したなーって思うわ」

 

「……で、そのイレイザーはどこに? まさかとは思うけど……」

 

「ええ、そのまさか。何かあったら困るからって、こっそり見に行ってるの。ついでに言うと、オールマイトも一緒らしいわよ」

 

「……あの2人、心配性な所はお互い共通してますよね」

 

 

 


 

 

 

 ──授業も終わり、午後5時半過ぎ。

 

 ここはヒーロー科の一般入試の時にも使用される数ある演習場の内の1つ。大通りを中心に大小様々な建物が建ち並ぶ市街地演習場である。

 

 その大通りのど真ん中に、彼と向かい合う形で大勢のヒーロー科の生徒達が集まっていた。流石に全員というわけではないが、ぱっと見ても30人以上は出揃っており、そのほとんどがヒーローコスチュームに身を包んでいる。

 

 そんな中、全員を代表して飯田が声を上げる。

 

 

「ではこれより、我々生徒らによる戦闘訓練を始める! 皆、準備は良いかぁー!?」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 

 その掛け声と同時に全員が一斉に身構える。そんな中で1人対峙する彼は、全体を見渡してある事に気付いた。

 

 爆豪がどこにもいないのだ。

 

 

「えっ、かっちゃん? あー、それが実は、今日合同訓練するって事伝えようとしたんだけど、かっちゃん1人で先に帰ったから伝え損ねちゃって……一応、さっきメール送ったんだけどね?

 でも、切島君に毎日勉強を教えてるみたいだし、そもそもメールの存在に気付いてくれるかどうか……。そういう訳で、かっちゃんは今ここにはいないよ。その関係で切島君もいないんだ」

 

 

 なるほど、先に帰っちゃったのか。如何にも爆豪らしい。それに友人にテスト勉強を毎日教えているなんて、案外面倒見が良いのだろう。

 

 爆豪の意外な一面を知れたところで、彼は改めて全体を見渡し観察する。

 

 まず爆豪と切島、それと雷を放出する個性の上鳴と酸を放出する個性の芦戸が不在。後は名前は知らないが、体育祭の時にヒーロー科の中で唯一予選落ちした、お腹からレーザーを放出する個性の男子生徒、それら計5名のA組生徒がいない。

 

 

「あ、ちなみに上鳴君と芦戸さんはテスト勉強がヤバくて訓練どころじゃないって言って帰ったよ。それと青山君は……まあ、うん、そもそも話が通じなかったというか、何というか……。まあそんなわけで、今ここにいるA組は15人なんだ」

 

 

 訓練に参加しない理由としてテスト勉強を優先するのは分かるが、もう1人の話が通じなかったとはこれ如何に。気になるが、知ってもここでは関係ないので放っておこう。それにこの訓練は強制ではないので、断る理由は何だって良いだろう。

 

 これで残るはB組だが、B組の方が明らかに人数が多い。そう思っていると、B組の拳藤一佳が声を上げる。

 

 

「ちなみにB組は全員来てるから。20人揃い踏みだよ! だから今日はよろしくね!」

 

 

 B組の方は全員来ていた。欠席者無しとなると、A組の出席率の低さがどうしても目立ってしまう。だがそんな事はどうでも良いだろう。B組の物間がこれ見よがしにA組に突っ掛かっているが気にしない。

 

 総勢35名が彼の対戦相手。傍から見ればただのリンチだが、実際には実力に雲泥の差があるため普通に戦っては彼が圧勝してしまう。そのため家から持参した重量300kg超えの特殊な運動着を着用している。これで少しはマシになるかもしれない。

 

 そしてもう1つ。訓練に当たり、あるルールを設定している。

 

 それは勝敗の付け方。その内容は、彼を戦闘不能状態にするか、八百万に創造の個性で作って貰った手錠を彼に掛けるか。このどちらかを果たせばヒーロー科側の勝利となる。

 

 反対に彼は、全員を戦闘不能状態にするか、制限時間が過ぎるまで逃げ切るかのどちらか一方を満たせば勝利となる。

 

 制限時間は30分。これを1ゲームとして、小休憩を挟みながら下校時間ギリギリまで繰り返すのが今日の訓練となっている。

 

 そして今、最初の1ゲーム目が始まろうとしていた。

 

 

「制限時間は30分、俺の携帯のアラームが鳴ったら終了だ! では行くぞ! よーい……スタート!」

 

 

 飯田による開始の合図が響き渡る。

 

 瞬間、中遠距離攻撃が主体の個性持ちが一斉に攻撃を仕掛けた。黒影、テープ、音、舌、紫色の球体、ツル、鱗、角、オノマトペ、他多数……。それら全ての攻撃が彼に向かって飛んで行き、そして彼に届く直前で──────ゆっくり停止した。

 

 避けられたでも防がれたでもなく、ゆっくり停止した。彼に近付けば近付くほどスピードは遅くなっていき、そして彼の目と鼻の先で完全に動きが止まったのだ。耳郎の繰り出した音のように、実体のない攻撃も例外にあらず。

 

 その現象を目の当たりにしたヒーロー科側は驚きを隠せない。

 

 

「えっ、なに、どういう事? 何で攻撃が当たらないの!? 超パワーと空中浮遊の複合個性じゃなかったっけ!?」

 

「おい黒影、どうなってるんだ!? 説明しろ!」

 

『踏陰ェ……、何デカ知ラネーガコレ以上アイツノ所マデ近付ケネェ! イクラブン殴ロウトシテモダメダ! 動キガ遅クナル!』

 

「オイラのもぎもぎもあれじゃくっ付かねーよ!」

 

「ケロ、何だか不思議な感覚だわ……」

 

「ちょっと、ウチの攻撃も効いてないっぽいんだけど!? かなりの心音食らわせたのに何で……!」

 

 

 一斉に困惑しだしたヒーロー科達の会話を聞き流しながら、もしこれら全部が当たったら一体どうなるのだろうと、彼は呑気にそんな事を思っていた。

 

 

「皆どいてろ! 俺がやる!」

 

 

 だが、その思考を遮るように突如氷の大壁が押し寄せる。轟が仕掛けて来た証拠だ。

 

 しかしその攻撃はもう経験済み。あっという間に押し寄せて来た氷の塊を前に、彼は体育祭の時のように指を弾き、発生した風圧と衝撃波で粉砕した。

 

 

「……まあ、この程度でどうにかなるわけねーよな。けど今回は体育祭の時と違って俺1人じゃねえんだ」

 

「スマッシュ!!」

 

「はああああー!!」

 

「うおりゃああああー!!」

 

 

 そう言った轟の言葉に応えるように、今度は近接攻撃がメインの人達が攻撃を仕掛けた。

 

 まず緑谷、拳藤、鉄哲の3人が個性を使い、彼を取り囲む形で3方向から殴り掛かる。だが彼からしてみれば3人とも動きは鈍く、マスキュラーの方が数十倍も速いと言える程度には遅かった。

 

 彼は3人の攻撃をあっさり躱すと、そのまま歩きながら後ろに下がり、追撃する3人をポケットに手を突っ込んだまま対処する。

 

 3人で攻めても余裕綽々なその態度に、3人の中で1番血の気の多い鉄哲が声を張り上げる。

 

 

「こんの野郎がああああああ!! てめぇ、人をおちょくるのも大概にしやがれオラァァァァー!!」

 

 

 しかし、そんな鉄哲の叫びも彼の心には響かないし、叫んだところで状況は変わらない。

 

 それは相手も分かっているようで、追撃を続ける拳藤が鉄哲に続いて声を上げる。

 

 

「皆、今だよ! 取り囲んで!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 

 その掛け声と同時に、戦場を迂回してきた他の近接主体のメンバーが逃げ道を塞ぐように彼の背後に立つ。同時に彼も歩みを止め、ポケットから手を出した。

 

 辺りを見渡すと、まず近距離部隊が5mほど距離を取って円形状に取り囲み、その更に10m後方に中遠距離部隊が攻撃態勢を整えているのが目に入る。

 

 

「行くぜッ! 歯ぁ食い縛れやああああ!!」

 

 

 と、観察するのも束の間、鉄哲が体を金属化して殴り掛かる。それを難なく避けると、今度は左右から尻尾と拳が飛んできた。尾白と砂藤の攻撃である。

 

 この2人の攻撃も当然遅いので、後ろに飛んでひらりと躱す。それを見るや否や、2人の後に続くように他の人達も一斉に飛び掛かった。

 

 だが、10人以上の近距離メンバーが総攻撃を繰り出すも、全ての攻撃が紙一重で躱されてしまう。そんな状況が続くので、いつまでも攻撃が当たらないもどかしさが皆の心に募り始めていた。

 

 

「ちくしょう、何で攻撃が当たんねえんだ!」

 

「いくら殴っても殴っても全部躱されちまう!」

 

「背後から不意を突けば……って嘘でしょ!? こっち見てないのに何で今のが避けられるの!?」

 

「皆さん、落ち着いて! そして下がってください! 準備が出来ましたわ!」

 

 

 攻撃を全て躱している中で聞こえた一際大きな澄んだ声に、彼は思わずそちらに目を向けた。

 

 その視線の先には、皆が一斉に横へ飛んで逃げる中、八百万が巨大な大砲を3つ作り終えて待ち構えていた。どうやらいつでも発射可能状態らしい。

 

 それを見て、最初の先制攻撃を止めたように気の圧力で見えない壁を作り、今度は逆に砲弾を押し返してやろうかと瞬時に考える。

 

 だが、その目論見は見事に外れる。

 

 

「これが今の私の最大限……発射ッ!!」

 

 

 3つの大砲から同時に3つの大きな砲弾が飛び出し、それが彼のいる方向へ猛スピードで飛んで行く。

 

 彼もそれに合わせ、一瞬で不可視の壁を作り出す。本当はこんな事をしなくてもダメージは無いのだが、今着ている超重量の服は汚れると洗うのが大変なため、なるべく埃を被りたくないのだ。

 

 そして放たれた砲弾は真っ直ぐ飛んで行き……彼にではなく、その手前の地面に着弾した。

 

 瞬間、砲弾が爆発を起こして地面が抉れ、彼の周囲に土煙がもうもうと立ち込める。これにより、周囲にいるヒーロー科達の姿が目視で把握出来なくなる。

 

 土煙はあっても鬱陶しいだけ。さっさと視界をクリアにするため、煙を振り払おうと掌を広げて構える。

 

 と、その時だった。

 

 

「──えっ? 嘘、何で!? 何で今のが避けられたの!? 私の姿は見えないはずなのに……!」

 

 

 背後からこっそり近付いていた葉隠が音も立てずに飛び掛かって来たので、彼は咄嗟に横に体を傾けて避けた。

 

 透明なためその姿を視認する事は出来ないが、八百万製の手錠が浮いている所を見るに、この煙幕に乗じて手錠を掛けようとしたのだろう。

 

 恐らく先程の砲弾はブラフで、煙幕を張って視界を遮る事で葉隠の奇襲を成功させるために撃ったと思われる。短時間で考えたにしては悪くない作戦だ。

 

 だが、彼は基本的に相手の気を読み取って動きを把握しているため、余程の事が無い限り煙幕は意味を成さない。つまり、葉隠の奇襲は最初から成功するわけがなかったのだ。

 

 奇襲に失敗し、手錠を振り回しながら「くっそー」と呟く葉隠を横目に、彼は手を振って土煙を払った。

 

 

「葉隠さん、奇襲は……!」

 

「ごめんヤオモモちゃん、避けられちゃった! 気配は消してたんだけどね、何でか知らないけど私の行動、向こうに把握されてるっぽい!」

 

「そんな……!」

 

 

 そんな2人のやり取りを聞いて、緑谷と轟と飯田が顔を合わせて頷き合う。

 

 

「轟君、飯田君!」

 

「ああ分かってる。どういう理屈かは知らねえが、あいつには目で見ずとも俺達の行動を把握出来る方法が存在する」

 

「加えて蛙吹君らの攻撃を止めた謎の技。あれについても警戒せねばならない」

 

「彼の個性についてだけど、ここまでの情報で考えられる可能性は2つ。1つ、超パワーと浮遊の他に、相手の動きを把握したり攻撃を止めたりする事も出来る複合型個性である可能性!」

 

「そんでもう1つ。その1つ目の可能性は全部ブラフで、本当は別の個性だけど応用で超パワーとか浮遊とかを実現している可能性だな」

 

 

 再び始まった総攻撃を避けながらも聞こえてくる3人の会話に、非常に好い線を行っているなと彼は思った。

 

 当たらずと雖も遠からず。そもそも『個性である』という前提条件から間違っているため、正確にはどちらの可能性も違うのだが、それでも正解を与えるなら轟が言った2つ目の方だろう。

 

 とはいえ、舞空術や他の技はともかく超パワーは気をあまり使用していないのでほとんど素の力に近い。

 

 

「しかしどうする? 2人の推測の内どちらかが合っていたとして、それで状況が変わるわけではない。むしろこのまま長引けば不利になるのは俺達の方だぞ」

 

「確かにな。だからどうにかして奴の隙を狙うか作るかしたいんだが、そんな都合の良い展開に出来るかどうか分かんねえ。近距離は避けられるし、遠距離はそもそも当たらねえんだぞ」

 

「それでも少しずつで良い! 少しずつで良いから、今分かる範囲内で対抗策を模索して、確実に手が届く所まで持って行こう! 戦いはまだこれからなんだ、焦っちゃ駄目だ!」

 

 

 彼が色々と思っている間、轟と飯田と緑谷の会話は未だに続いており、緑谷が打開策を打ち出そうと必死に頭を回転させる。

 

 

(轟君にはああ言ったけど、どうする? 現状、彼に有効打を与えるどころか攻撃を当てる事すら出来ていない。近距離からの総攻撃を全部避けて、葉隠さんの奇襲にも難なく対応したから、やろうと思えば遠距離からの攻撃も止めずに回避出来るはず。というか、皆の攻撃が当たっても効くかどうかすら怪しい。

 そもそも本気じゃないのが見え見えだから、まだ他にどんな手があるのか分からない。今までに見せたものが全てとはとても思えないし、体力切れによる疲労まで粘るのも現実的じゃない……底力が計り知れない)

 

 

 しかし、打開策を考えれば考えるほど、如何にヒーロー科側が厳しい状況に立たされているのか思い知らされ、緑谷の頬を一雫の冷汗が伝い落ちる。

 

 そして戦いが始まって15分が経過した現在、ヒーロー科からの攻撃ばかりで彼からの攻撃は1度たりとも来ていない。それにも拘わらず、戦いが長引くほど彼我の実力差が如実に現れてくる。

 

 職場体験や更なる基礎練の積み重ねで、体育祭の時よりも更に強くなったのに、それでもまだ彼の強さに擦りもしない。底が見えない。そんなどうしようもない事実が皆の矜持を徐々に蝕んでいく。

 

 彼の強さに届くまで、一体どれほどの距離があるのだろう。どれほどの研鑽を積み重ねたら、あれだけの強さを手に入れられるのだろう。彼と戦う皆の心に、そんな疑問が生まれるのは時間の問題だった。

 

 だが、そこでぽっきりと挫けないのがヒーロー科だ。

 

 

「皆、もう1回だ! また避けられても良い! 全部避けられるなら、当たるまで何回でも何十回でも何百回でも攻め続けよう! 僅かなチャンスを作るためにも、今出来る最大限をやり切ろう!」

 

「そうだなぁ! 拳藤の言う通りだ! おい皆、ぜってーあいつの顔面に鉄拳食らわせてやろうぜ!」

 

「おうよ!」

 

「だな!」

 

「まあ、とことんやるしかねえか」

 

「いやいや、完全にやぶれかぶれじゃんかよ! これもう無理だぜ! 嫌な予感しかしねーよ!」

 

「峰田ちゃん、皆の士気を取り戻そうする時に水を差すのは感心しないわ。でも今回ばかりは峰田ちゃんの意見に私賛成かも」

 

「とはいえ、現状これと言った打開策があるわけでもないしなぁ……」

 

「とにかくやるだけやってみようよ! もしかしたら次は上手くいくかもしれないじゃん!」

 

 

 淀みかけていた空気が拳藤の掛け声一つで活気づいていく。

 

 掛け声の内容は別として、皆の士気を取り戻させた影響はとても大きい。どんな時でも逆境に強いのはヒーローにとって最大の強み言えるだろう。

 

 しかし峰田と蛙吹の言う通りで、やぶれかぶれである事には変わりない。いくら出来る事が限られているとはいえ、攻撃が当たるまで何百回も同じ事を繰り返すのは流石に効率が悪すぎる。

 

 それとも何か策でも思い付いたのだろうか。彼はあらゆる可能性について思考を巡らせる。

 

 と、その時だった。

 

 

「死ねぇぇぇぇー!! 舐めプ野郎おおおおおお!!」

 

 

 突如聞こえた大声での殺害予告に驚き咄嗟に背後を振り向くと、そこにはなんと爆豪の姿が。

 

 コスチュームに身を包み、爆破で空を飛びながら怒り狂った顔でこちらに突進してくる姿はまさに鬼神の如く。

 

 

「えっ、かっちゃん!?」

 

「ば、爆豪!? あいつ先に帰ったんじゃなかったのか!?」

 

 

 突然の登場に全員の注目が集まる中、爆豪は何の躊躇もなく彼に真っ直ぐ突っ込むと、彼の目の前で両手を突き出し叫んだ。

 

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ォォォォーッッ!!」

 

 

 体育祭でも見せたあの大技を、何の躊躇いもなくいきなり彼に食らわせた。

 

 地面は抉れ、粉塵は巻き上がり、爆発による衝撃波と熱風が彼を取り囲む人達に押し寄せる。威力も体育祭の時とは比にならない。

 

 だがよく見ると、爆発によって抉れた地面の範囲は狭く、近くの建物への被害も精々が窓ガラスにひびを入れる程度。

 

 器用にも爆豪は、爆破の範囲は狭めつつ以前よりも数段強い威力で放つという事を実現していた。これは後に爆豪が習得する新技の前兆なのだが、この時の爆豪は無意識の行動だった。

 

 

「おいてめぇら、俺を放っておいて何面白え事やってんだああ!? 舐めた真似してんじゃねえよ!」

 

「いやいや、そんな事言ったってかっちゃんが先に帰ったんでしょ!? 僕その後ちゃんとメール送ったし……というかどうしてここに?」

 

「てめぇが送ってきたそのメール見て戻って来たんだよクソデク! やるんならもっと早くに伝えろやぶっ飛ばすぞ!」

 

「そんな理不尽な!」

 

 

 開口一番、コントじみた言い争いを繰り広げる幼馴染2人。

 

 緊張感のないそれを全員が冷めた目で見る中、爆豪の技を食らった彼が無傷で煙の中から現れた。

 

 その瞬間言い争いを止め、共に対峙する相手を注視する緑谷と爆豪。性格上全然反りが合わない2人だが、切り替えの速さは一緒だった。

 

 そして爆豪がいるという事はもう1人……。

 

 

「緑谷、メールありがとうな! お前が送ってくれたおかげで急いで戻って来れた!」

 

「あっ、切島君!」

 

 

 爆豪に勉強を教えてもらうため一緒に帰った切島も来ているという事を意味する。

 

 こうして35人から37人となったヒーロー科側の面々に、相対する彼は僅かに口角を上げた──。

 

 

 




はい、というわけで、やっぱり手も足も出せていません。完全に弄び、圧倒的な実力差で緑谷達ヒーロー科側の主人公補正を叩き潰しています。どうにもならない時は、本当に何をやっても上手くいかないのが現実って事です。でも決して無駄ではないです。
……皆の行動、上手く書けてますかね? こんな感じで良いっすかね?

※服の重さを500kgから300kgに変更しました。特に深い理由はありません。何となくです。
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