サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
昨日の今日で始まったヒーロー科との合同訓練。
爆豪と切島の途中参戦により総勢37人となったヒーロー科だったが、依然として状況は変化していなかった。
「死ぃぃねぇぇぇぇー!!」
「おりゃああああああ!!」
「スマァァァァッシュ!!」
爆豪が単騎特攻で突っ込み爆撃を食らわせ、その後に続くように左右から切島と緑谷が殴り付ける。
だが、3人の攻撃は彼に届く直前で見えない何かに阻まれ、当たる事なく停止した。
「おいおいマジかよ!? 爆豪の攻撃も俺らの攻撃も全然当たらねえじゃん! 緑谷が言ってた見えない壁ってこれの事か!」
「うん、そうだよ切島君。僕達あれのせいで全然攻撃が当たらないんだ。仮に阻まれなかったとしても、皆の攻撃をあっさり避けられるだけのスピードと反応速度があるから余計当てられない」
「確かにこいつは厄介だな……」
「んな事誰だって分かってんだよ! ごちゃごちゃ言ってる暇あるなら、てめぇらもさっさと打開策考えろやアホが!」
緑谷と切島の会話に爆豪が割り込んで怒鳴り散らす中、間を置かずに次の攻撃が飛んでくる。
麗日、蛙吹、飯田、轟の4人による連携技である。
「レシプロ……エクステンドッ!!」
初手、飯田の蹴りが顔面に迫っていた。彼は咄嗟に仰け反って避け、背後に回った飯田を見やる。
よく見ると、飯田の脹脛にあるマフラーの周りを氷が覆っている。恐らく轟によるサポートだろう。飯田の個性は無理に使った場合、オーバーヒートを起こし故障するという特徴がある。氷はそれを未然に防ぐための対策。
なるほど、よく考えられている。これで飯田は暫くの間、トップスピードを保ったままの攻撃が可能となるわけだ。
縦横無尽に動き回る飯田の攻撃を躱しながら、彼は心の中で感心する。
「くっ、やはりこのスピードにも対応するか! 予想していたとはいえ、こうもあっさり避けられるのはショックだな……」
言いながらも全力で蹴り続ける事を止めない飯田。
そちらに気を取られている隙に、残った三人は何やら準備していたようで、轟がすかさず氷結攻撃を繰り出してきた。
それに気付いた飯田が横に飛び退いた事で、攻撃は彼に向かって突き進む。そして当たり前のように超パワーで粉々に消し飛ばす。
だが、氷結攻撃を消し飛ばしてから気付いた。
「梅雨ちゃん!」
「任せて! ケロォォーッ!」
蛙吹の口から伸びる長い舌、その先に巨大な氷塊が巻かれていた。
どう考えても細長い舌だけでは持ち上げられない程度の大きさの氷。それが何でもないかの如く軽々とこちらに投擲される。
信じられない光景に一瞬驚いたが、麗日が個性で浮かせているから軽いのだろうと結論付け、すぐさま目の前に飛んで来た氷に意識を集中させる。
「よし、ここら辺で……解除!」
そして氷塊が彼の頭上を通り越す手前で
およそ5m以上はありそうな巨大な氷塊を見上げ、吹き飛ばすために拳を握り締める。だが、2人の攻撃はこれで終わりではなかった。
「梅雨ちゃん、次これ! 私も投げるから!」
「ありがとう! お茶子ちゃん! そっちの! 氷塊は! 任せるわ!」
降ってきた氷を吹き飛ばそうとする前に、更に数多くの氷塊が追加で降り注いできた。一言ずつ発する度に氷塊を投げ飛ばす蛙吹の隣で、浮かせた氷塊を一緒に投げ付ける麗日。
その様はまさに流星群。どれもが人をすり潰せるくらい巨大な塊で、それらが彼を押し潰さんとやって来る。
だが、この程度で動揺する事も対処出来ない事もない。
「よし、命中した! 氷の山の下敷きになってるから今の内に──ッ!?」
連携技が決まって思わず安堵する声を漏らす麗日だったが、それもすぐに掻き消され現実に引き戻される。
何故なら下敷きなっているはずの彼が、積み上がった氷塊の山の頂上に座り、4人を見下ろしてくつくつと笑っていたからだ。
そう、彼は最初の氷塊に押し潰される寸前でその場から超スピードで脱出し、全ての氷塊が積み上がるまで上空で待機していたのだ。
「う、嘘やろ!? 体育祭でも使ったウチの超必……それも梅雨ちゃん達との連携やったのに、全く通用してへん……!」
「落ち着け麗日、相手が相手だ。むしろ計画通りにいかない事の方が多い、気にすんな」
「轟ちゃんの言う通りよ。相手は私達の想定を軽々飛び越えてくるような存在。冷静さを欠けば、不利になるのはこっちだわ」
「うん……そうやね……」
驚愕する麗日にすかさずフォローを入れる轟と蛙吹。しかし、それでもどこかショックを拭い切れない様子の麗日が目に入った。
ひょっとして先程の連携技が通用しなかった事で、体育祭決勝の爆豪戦で味わった苦い経験を思い出してしまったのだろうか。もしそうなら悪い事をしたかもしれない。そう思った彼は心の中で麗日に謝った。
どこか浮かない顔の麗日から視線をずらし、周囲に意識を向ける。すると今度は、椅子代わりに座っていた氷塊がドロドロに溶けだした。
何事かと辺りを見渡すと氷塊の山の麓に骨抜がおり、しゃがみ込んで地面と氷に手を置いていた。どうやら氷と周辺の地面を液状化させたらしい。麗日に気を取られていたために反応が遅れ、飛び出そうとする前に体をがっちり氷で固定されてしまった。完全に油断していた結果である。
そんな彼を見事拘束した骨抜が話し掛ける。
「……やっと君を捉える事が出来た。体育祭の時は君にしてやられたからね、ずっと慎重に動いて機を窺っていたんだ。もうあの超パワーを食らうのは御免だから、俺はこの辺でお暇して、後は皆に任せるよ」
そう言って液状化した地面に潜る骨抜。どうやら体育祭での出来事をずっと気にしていたらしい。
骨抜が潜って行った後の地面をまじまじと眺めていると、この機を絶対に逃がすまいと、轟がすかさず氷結攻撃を仕掛けてきた。
彼を拘束している氷塊の麓から掬うように、更に多量の氷で上空へ押し上げると、そこから幾層にも及ぶ氷の壁を追加で展開して押し固める。
そう、轟はほんの十数秒の間で超巨大な氷の監獄を作り上げたのだ。これには他の皆も開いた口が塞がらない。
「ま、マジかよ……轟の奴、本気出したらあんな事まで出来んのか」
「いや、本当に圧巻だな。体育祭終わってからめちゃくちゃ修行頑張ってるとは聞いたけど……これ体育祭の時より氷の規模デカくなってね?」
見る者を圧倒する氷の監獄を前に、切島と瀬呂が驚きに目を見開いたまま呟く。
だが、せっかく相手の動きを止めたこの千載一遇の好機を前に呆けている暇はない。2人のように未だ唖然とする者達に、轟が炎で体温を調節しながら大声を上げる。
「ぼーっとすんな! 今があいつに攻撃できる唯一のチャンスなんだぞ! 皆で一斉に畳み掛けろ!」
轟から発せたれた喝によって全員がハッと目を覚まし、すぐに氷の表面を蹴って彼の元へ駆け上がる。
拘束された彼の元へ皆が一斉に向かう中、一番に頂上へ辿り着いたのは爆豪、緑谷、飯田の3人だった。
「やっとてめぇをぶっ飛ばせる! 半分野郎のおかげってのが癪だけどなああああーッ!!」
「飯田君、ステインと戦った時のように……!」
「ああ分かってる! あの時のように息を合わせて畳み掛けるぞ!」
瞬間、彼の顔面に爆豪の攻撃が直撃した。周囲の氷を壊さないように爆破の範囲を抑えつつ、高い威力を保ったままの爆破だ。そんな高度な技術を駆使しながら何発も爆破を繰り返す。
「オラァァァァーッ! くたばれぇぇぇぇーッ!」
「緑谷君、爆豪君が一歩下がった瞬間を狙って俺達も一緒に……!」
「うん、行くよ飯田君……今だ! 5%・デトロイトスマッシュ!」
「レシプロエクステンドッ!!」
そして爆豪が態勢を整えるため一旦距離を取った瞬間、今度は緑谷と飯田が彼の顔面と胴体に鋭い殴打と蹴りを与える。
あっという間に3人の連携によるヒット&アウェイが成立し、彼に絶え間なく攻撃を浴びせ続ける。
だが、攻撃を続ける3人の内心は穏やかな物ではなかった。
(クソッ、俺の爆破が奴に効かねえ事は織り込み済みだが、デクと眼鏡の攻撃を顔面に受けても平然としてやがる! ……何度見ても気味が悪いぜ)
(こんだけ殴っているのに声の一つも上げない! それになんて硬さだ! グローブが無かったら今頃こっちが怪我してた! ステインとはまた違う強さだ!)
(いかん、脚の装甲にひびが入った! 素足だと俺の脚が折れてしまうから、このまま装甲が壊れたら何も出来なくなってしまう!)
いくら攻撃してもびくともしないどころか、全く効いていない様子を見せる彼を見て、徐々に焦りと驚愕の感情が大きくなっていた。
少しも油断などしていないし、絶え間なく最大威力の攻撃を当て続けている。そして直撃している。だというのに、気付けばこちらの命が握られている。そんな寒気のする感覚を3人は味わっていた。
「黒影、3人を援護しろ!」
『ヨッシャ任セロォォーッ!』
「俺達も加勢するぜ!」
「抜け駆けすんなよ3人とも!」
「ウチ後方から皆の援護するね! 後ろは任せて!」
「ケロッ、それじゃあ私も皆のサポートに回ろうかしら」
「待ってください耳郎さん、蛙吹さん。お2人は葉隠さんのサポートに回って頂けますでしょうか。私、先程とは別の方法で手錠を掛けてみようと思いますの」
「というわけで、よろしく頼むね2人とも!」
と、3人が焦っていた所へ他のヒーロー科の面々が駆け付けた。A組、B組の半数以上が氷の斜面を登って彼を倒そうとやって来たのだ。
そして始まる一斉攻撃。その光景は傍から見ればただのリンチである。
だが、状況は3人の時と大して変わらなかった。
「ああもう! 何でこんなに攻撃してるのにピンピンしてんだよ! 耐久力高すぎだろ!」
「こっちも駄目だ! 黒影の攻撃がまるで効いてない!」
「それなら私が……痛っ!? あぐっ、手が……!」
「お、おい拳藤!? 手が腫れてるぞ! 肌も青くなってるし、それもう骨折してるじゃねーか! 一旦下がれ!」
「近接が無理なら遠距離から……って、これでも駄目なの!?」
「だったら僕があいつの個性をコピーして……ん? 何だこれ、もしかしてスカか? いや、それにしては何というか……」
「とにかく攻撃を続けるんだ! 効かないとしても、このチャンスを無駄にしちゃいけない!」
数十人がかりで集中攻撃しても一切ダメージがないどころか、逆に怪我を負って戦線離脱してしまう人が現れる始末。流れは悪くなる一方。
これまで彼からの攻撃は皆無にも拘わらず、それでもヒーロー科側の人数が減っている。そんな異様な状況が続いたせいで、皆の心の中にとある不安が芽生えていた。
この状況でもし彼が反撃を始めたらどうなってしまうのだろう、と。
タイミングの悪い事に、その不安はすぐにやって来た。
「行きます、準備は良いですかお三方?」
「ヤオモモ、こっちはいつでもOK! 後は合図だけ!」
「頼むよ耳郎ちゃん、梅雨ちゃん!」
「ケロケロ、任せて頂戴。必ず成功させ──ッ!?」
他の皆が攻撃している間に何やらコソコソと準備を進めていた八百万、耳郎、蛙吹、葉隠の4人。だが、いざ作戦を開始しようとした瞬間、突然足場の氷が大きく揺れた。
そして、一体何が起きたのか状況を確かめる間もなく、大きく揺れた衝撃によって氷がバラバラに砕け散り、足場が無くなってしまう。
「な、何なの今の衝撃はああああああッ!?」
「耳郎ちゃああああああああん!」
「一体最前線で何がありましたの!?」
「マズいわ、このままじゃ皆地面に叩き付けられちゃう!」
当然、足場が無くなった事によって頂上にいたほぼ全員が地面に落下していく。そして蛙吹の言う通り、このまま落下すればほとんどの人が地面に真っ赤な花を咲かせる事だろう。
だが、地面に激突するまであと数mの所で轟が氷の滑り台を生成。その表面を骨抜がドロドロにして即席のクッションに変え、落ちてきた全員を怪我させずに救出する。
「あ、危なかったー! 今死ぬかと思った!」
「サンキュー轟、骨抜! お前らのおかげで何とか助かった!」
「礼は後で良い、今は相手に集中しろ!」
「轟の言う通りだよ。今まで無抵抗だった彼がああして派手に拘束を解いたって事は、ここからが本番。皆、気を引き締めて」
「ていうか、しれっとあの氷山を全部ぶっ壊してるのね。どんなパワーしてんだよあいつ……」
未だ困惑している者、冷静に状況を分析する者、感謝を告げる者。それぞれが十人十色な反応を見せる中、いち早く警戒を最大まで高めた者達はすぐに上空を見上げた。
その視線の先には、両腕を大きく広げた体勢のまま宙に浮く彼の姿があった。
「……なんてパワーだ。腕を振っただけであれ程の風圧と衝撃波を生み出せるとはな」
「しかもまだまだ本気じゃなかった。彼の底力が全く見えない……」
「それは今どうでも良いんだよ! 派手に抵抗したって事は、ようやく向こうもその気になったって事だ! 呑気な事言ってんじゃねえぞデク!」
飯田、緑谷、爆豪が片時も視線を逸らさず言い合う中、宙に浮く彼は地上にいる全員を見下ろしていた。
これまで回避か、そもそも攻撃を当てさせないかのどちらかだったのに、今の彼は先程の集中攻撃を受けた事で少々興に乗っていた。
勝てないと心の中で分かっていながらも、必死に作戦を考え実行し、見事な連携技で勝利を掴みに行こうとするヒーロー科達の気概に感心したためだ。
そしてもう1つ。先程の集中攻撃によって彼が着用していた超重量の運動着が汚れてしまったのだ。これも油断と手抜きが招いた結果で、家に帰ってから面倒な手揉み洗いをする事が確定してしまった。
攻撃を受けないようにしていたのは服を汚したくなかったから。その服を洗う必要が出てきたとなれば、もうこれ以上汚さないために気を遣う意味もない。
彼はストレッチとばかりに軽く伸びをすると、着ていた上着部分、つまり超重量の服を脱いで地面に投げ付けた。
それを見て、いきなり上着を脱いでスポーツ用のアンダーウェアだけの軽装になった彼に疑問を抱くヒーロー科達。だが、投げた上着がコンクリート製の地面を割った瞬間を見て全員が血相を変えた。
「……おいデク、あのジャージ」
「分かってるよかっちゃん……うん、ちょっとこれは想像以上にマズいかもしれない」
「ちょっとじゃねえわアホ……あの野郎、今まであんな物着て動き回ってたのかよ。クソが……」
爆豪と緑谷が事の深刻さに冷や汗を掻いている傍ら、上着の落下地点の近くにいた数名が恐る恐る上着を持ち上げようとする。
「服が地面割ったんだけど。一体どういう構造したジャージなん……だ……ろう?」
「ん、どうした?」
「……持てない」
「……は?」
「全然持てないんだよ。何だよこれ、嘘だろ。どうなってんだよこのジャージ! 全っ然! びくともしねえ! いやいやいや、まさかあいつ、これを着てずっと俺達の相手を? いくら何でもそりゃあねえだろ……」
「どれ、俺も少し……なっ!? この重さは!?」
上着の重量をその身で感じて理解した峰田と障子は、あまりの重さにショックを禁じ得なかった。
そして2人の反応を見て周囲の人達にも動揺が広がる。今まで自分達が戦っていた相手は、攻撃せず手加減して戦っていただけではなく、最初から特大のハンデを背負っていたのだ。それでもなお実力に大きな差があるという事実に、峰田達と同様にショックを受ける者は少なくなかった。
しかし、その事実に気付くには少々遅過ぎた。
「くっ……皆、気持ちは分かるが今は落ち込んでる場合じゃない! 気を取り直して集中だ!」
「飯田の言う通りだ! ここで隙を見せたら、それこそ奴の思う壺! 全員戦闘態勢を整え……て……から……」
飯田がショックを受けた者達へ鼓舞し、轟がそれに賛同しながらも油断なく上空を見上げるも、その声は途中から尻すぼみしていく。
それもそのはず、先程から片時も目を離さず見張っていたはずの彼が、瞬きの間に上空から姿を消し、気付いた時には轟の背後に立ってコスチュームを鷲掴みしていたのだから。
(い、いつの間に轟君の後ろへ……)
(……動け、動け動け動け動け! 動けよ身体! 止まったら駄目だろ!)
意識の外から接近されて背後を取られた衝撃に、身体が硬直して動かせない飯田と轟。
束の間の出来事に反撃出来ない2人に対し、轟を捕まえた彼はニヤリと笑みを浮かべて言った。
せっかく面白くなってきたんだ、思い切りやろう、と。
「ッ!? あぐうううあああああああーッ!!」
「と、轟君!」
その言葉通り、コスチュームを掴んでいた方の腕を横薙ぎに振り払い、轟を遥か遠くに放り投げた。
しっかり調整しているとはいえ、それでもオールマイト並みの力で投げられたら普通は堪ったものではない。轟は膨大な力の奔流に逆らえず、市街地の上空を真っ直ぐ突き進む。
(軽く投げられただけでこんなにも……何てパワーしてん──ッ!?)
上空に飛ばされても何とか態勢を立て直そうと踠く轟。だが、そんな事を考える暇すら与えられる事はない。
目を見開けばまたしても轟の視界に彼の姿が映り、次の瞬間には強烈な衝撃と痛みが中腹部から全身へ広がった。彼が轟の腹を蹴ったのだ。蹴られた瞬間、轟の口から吐瀉物ではなく血が吐き出される。
あまりの衝撃に脳が全身に危険信号を送り出し、生命維持のために全身からアドレナリンが分泌され、身体が何とか痛みを和らげようと尽力する。
それでもなお消えない苦痛に追い討ちを掛けるように、蹴飛ばされた轟の身体は猛スピードで市街地のビルに激突。
「あがっ! うぐっ! がああああああーッ!!」
あっという間に1つ、2つと突き抜け、3つ目のビルにめり込んでようやく止まった。
たった1回、彼にとっては軽く蹴っただけだが、それでも轟の耐えられる限界を超えており、血を垂れ流しながらあっさりと意識を手放した。
その様子を唖然として見ていた他のヒーロー科達。その表情は完全に恐怖一色に染まっており、ほとんどが明らかに戦意を喪失している。
だが、それでも諦めない人はいる。
「クソがああああああー!
轟の様子を間近で見ようと向かう途中で、ヒーロー科の中で唯一空中戦が可能な爆豪が飛んで猛追してきた。
そして彼の目の前で手を突き出すと、昼間以上に眩い光を放ち視界を奪う。
「ずっとやられっぱなしで黙ってられるかよ!
そしてお馴染みの最大火力攻撃を顔面に食らわせようとする。しかし、その時には既に彼の姿はなく、爆豪ただ1人だけが宙に浮いていた。
「って、後ろか! そう何度も同じ手が通用するとぐほぉあ!?」
残念、爆豪の実力ならこれまでの経験を活かし、後ろからの攻撃には即対応してくると思ったので、対応出来る速度以上で移動して横から殴らせてもらった。顔面は不味そうだったので脇腹の方を。膵臓がある方ではないのでそこは安心してほしい。
だが、彼の分かりにくい配慮など爆豪にとっては無意味なもので、殴られた衝撃でこれまた口から血を溢した。
「ぐぎっ! ごほっ! がはっ! ぐふっ!」
そして殴り飛ばされた爆豪は轟と同様、市街地内の大きな建物を何軒も突き破って真っ直ぐ進み、最終的に市街地演習場を取り囲む巨大な壁にめり込んでようやく止まった。
たった1発、彼にとっては軽く殴っただけだが、それでも爆豪の耐えられる限界を超えており、血を垂れ流しながらあっさりと意識を手放した。
A組最強格の2人が一瞬で倒された事で、残った全員の士気が輪を掛けて低くなる。雰囲気は完全にお通夜と同等である。
しかし、それでもまだ諦めない勇敢な人もいる。
「5%……いや駄目だ! これじゃあ全く通用しなかった。ならば……!」
緑谷が建物と建物の間を蹴って進み、彼のいる所まで登ってきた。
今までとは明らかに異なる雰囲気を纏っており、その鬼気迫る表情には途轍もない覚悟と凄みがあった。
そんな緑谷が右腕を大きく振りかぶり、力の限り叫ぶ。
「100%・デトロイトスマァァァァッシュ!!」
大きく振りかぶった右腕を全力で振り下ろした瞬間、緑谷と彼を中心に大嵐の如き暴風が巻き起こった。
衝撃波で周辺一帯の建物の窓ガラスは全て粉砕され、直下の地面には大きなクレーターが形成され、遠くで見ていたヒーロー科達にも荒れ狂う暴風が襲い掛かる。
凄まじいの一言に尽きる一撃。そんな殴打を繰り出した緑谷は、体力を消耗し空中で激しく息を切らしていた。
(……ん? あれっ!?
全力で殴った反動が腕に来なかった驚きで、一瞬気を抜いてしまった緑谷。呑気にも先程の殴打を食らって怪我していないか確かめようと前を向いた。
だが、
「……う、嘘だろ? 全力、100%なのに……オールマイト並みの力なのに……!」
緑谷が受けた衝撃は凄まじかった。
憧れのNO.1ヒーローから受け継いだ力を、一切の出し惜しみなく全力で解き放ったのだ。自身が知り得る限り最強の2文字を体現した存在から貰ったその力は、緑谷にとって諸刃の剣であると同時に希望の光でもある。
そんな力の結晶の全力の一撃は、
「そ、そんな……こんな事が……」
先程までの勢いはどこへやら、緑谷は完全に戦意を喪失してしまった。
その隙を見逃すほど彼は優しくない。超スピードで緑谷の背後に回ると、両手を組んで振りかぶり、そして緑谷の背中に振り下ろした。
「あがああああああああーッッ!!」
瞬間、強烈な一撃が背中を襲い、あまりの衝撃に緑谷は苦痛に満ちた叫び声を上げる。
そして勢い良く地面に叩き付けられた緑谷を中心に、コンクリートの地面は深く沈み込み、天高く粉塵が巻き上げられる。
たった1撃、彼にとっては軽く振り下ろしただけだが、それでも緑谷の耐えられる限界を超えており、血を垂れ流しながらあっさりと意識を手放した。
「あ……あ……そんな、デク君が……」
「爆豪が……あんなにあっさり……」
「轟もあんなに強くなってたのに……抵抗すら出来ず……」
「こ、こんなのってあるかよ……これはもう、駄目だろ……」
僅か30秒の間に、轟、爆豪、緑谷の3人が何も出来ずに一瞬でやられてしまった事で、残った皆の戦意は今度こそ粉々に砕かれ失った。
それでもやると決めたからには最後まで容赦しない彼は、無慈悲にも今度は残った全員の目の前に超スピードで移動する。
そして急に現れた彼の存在に皆が驚く間もなく、彼は軽く一振り、腕を大きく振り払った。
その瞬間、嵐以上の暴風と衝撃波の襲来によって全員漏れなく吹き飛ばされ、飛ばされた先にあった建物に激突して気を失い、戦闘不能に追い込まれる。
この間僅か10秒未満。反撃開始から40秒も経たない内に、A組もB組も全滅して彼の勝利が決定した。完膚なきまでの圧勝である。
この衝撃的な結果に、遠方から様子を観察していた相澤とオールマイトは、驚きに目を見開いていた。
「彼の強さ、ある程度は分かっているつもりだったが……こ、これ程だったなんて……」
「ええ、俺もびっくりしてますよオールマイトさん。あそこまで過剰な力を持った奴は見た事がありません。一体何者なんですかね、あいつ。……それよりも、怪我した生徒達を婆さんの所まで運びましょう。ちゃんと見に来て良かった」
「あ、ああ、そうだな……なるべく急ごう」
こうして、放課後ギリギリまで続ける予定だった訓練は、彼の一方的な蹂躙により開始から30分程度で終了した──。
戦闘訓練が終了したその日の放課後、リカバリーガールのいる保健室にて。
「全く、あんたって子は! あんな派手に吹き飛ばす必要もなかったでしょうが! やるにしても、もうちょっとだけ加減出来ないのかい!? 最大限の努力はしてるようだけど、それでも相手にとっちゃただの言い訳だからね!」
あの後、様子を見守っていた相澤先生やオールマイトと協力し、大怪我を負った轟、爆豪、緑谷の3人を集中治療室に運んだ彼は、現在カンカンに怒ったリカバリーガールからがみがみと説教を食らっていた。
説教が始まって既に結構な時間が経つのだが、その一言一言がぐうの音も出ない正論なだけに、彼も反論の余地がなかった。人生の大先輩が発する言葉の重みは違うのだ。
「はあ……全くもう。爆豪の肝臓と緑谷の背中、これギリギリだったよ。今はほぼ完治してるけど、あたしじゃなかったら後遺症残ってたからね」
どうやら思っていた以上に深刻な状態だったらしい。起こるかも知れなかった最悪の未来を想像し、彼の頬に一雫の冷や汗が伝い落ちる。
これは早急にどんな怪我をしても大丈夫な物を開発する必要がありそうだ。今後もこのような事があっては、またリカバリーガールにどやされてしまう。
今回の期末試験で作る物は医療系ではないので、試験が終わったらメディカルマシーンの開発に本格的に取り掛かろう。それが出来れば今後どんな怪我を負ってもなんとかなるし、何より作り甲斐がある。
そんな事を考えながら、彼はすやすやと寝息を立てる3人に目をやった。
3人ともまだまだ実力不足だが、戦闘において重要な分析能力や精神力など、実力以外の要素は高い水準を誇っていた。それは他のヒーロー科にも言える事で、今後の成長に期待だ。
ちなみに、重傷を負った3人以外は既に治療を終えて帰っている。今回の訓練で全員相当なショックを受けている様子だったが、それも今だけの事で明日にはすぐ復活している事だろう。大丈夫、全員「Plus Ultra」の精神で確実に乗り越えてくる。何の心配もいらない。
……そうだ、今回の戦闘訓練で気分転換出来たお礼に空の飛び方、つまり舞空術でも今度教えてあげよう。個性で空を飛べる者も飛べない者も、習得すれば相当なアドバンテージになるのは確実だろう。それと簡単な気の操作も一緒に教えよう。彼はそう思った。
それからしばらくして、リカバリーガールの説教もやっと終わったので、彼は土塗れになった運動着を洗うべく急いで家に帰って行った──。
戦闘訓練の結末どうしようかなと考えましたが、キャラ補正とか物語の起伏とかを全て無視し、実力差を考慮してヒーロー科が徹底的に打ちのめされる展開にしました。
期末試験編は次回で終わりの予定です。ちょうど20話目で第2章終了とし、21話目から第3章にしようと思っています。