サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
それと、今話はちょっと短めです。
ヒーロー科との戦闘訓練が終わり、次の週。
7月に入り、1学期もいよいよ残り僅かとなった現在、1年H組サポート科の教室にて。
「はい、時間だよ。全員筆記用具を置いて、後ろから答案用紙を回収してって」
静かな教室内に、パワーローダー先生のテスト終了を告げる声が響き渡る。先生の指示に従い、後ろの席から生徒達の答案用紙が回収されていく。
今日で全ての筆記試験が終了し、残すは実技試験のサポートアイテム開発だけとなった。答案用紙が回収されていく様子をぼんやり眺めながら、彼は締切までの残り1週間をどうするか考える。
とは言っても提出するアイテムの開発は概ね順調で、あと3日もあれば完成する予定となっている。完成したら担任に提出して期末試験は終わりだ。試運転もしっかり予定に組み込んでいる。
その後はメディカルマシーンの開発に取り掛かる。出来る事なら、今回の期末試験のようにまた発目が協力してくれるとありがたいが、果たしてどうだろうか。
「ああ、全然問題ないですよ。むしろばっち来いです。こちらとしても育て甲斐がありますし、あなたとのベイビー作りはとても楽しくてワクワクしますから。
それにしてもメディカルマシーンですか……前に私が提案した選択肢の1つを改良した物でしょう? なら尚更一緒にやりましょう!」
全然OKだった。むしろばっち来いなんて言われた。少し誤解を招きそうな言い回しが気になるが、些細な事だから流しておこう。
そして筆記試験が終わったその日の放課後、いつもの様に発目との共同開発に勤しむ。
先程も言ったように開発は順調で、今日を含めて3日で完成する流れとなっている。全工程の9割近くは完了しており、残る1割は細かい微調整と試運転と改良の3つ。100点満点のものを求めたい一心から一切の妥協も許さない。
情けない話、開発当初はどこから着手すれば良いのか随分と悩んだ。くじ引きで決めたは良いものの、いざ作ろうとなった時に軽く後悔を覚えた。結果、初日はひたすら発目と話し合って何も出来なかったという稀な1日を過ごしている。
しかしそこで諦める事はなかった。次の日には初日の反省を活かし、
「さあ、残る工程も僅かです。あと少しで我々の共同ベイビーが誕生しますよ! 気張っていきましょう!」
発目による激励の言葉を追い風に、彼も完成に向けて今一度気合いを入れ直す。
工房内で他のサポート科のグループが思い思いの物を作り上げている中、そちらに一切目もくれない程の集中力を発揮する2人。
そうしてあっという間に3日が経過し、遂に実技試験で提出する発明品が完成したのだった──。
発目と彼が発明品を完成させた頃、ヒーロー科の方では演習試験が行われようとしていた。
「それじゃあ、演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿行きたけりゃ、みっともねえヘマはするなよ?」
「……先生多くない?」
校舎裏のグラウンドに集まったA組達は、演習試験にやって来た教師陣の多さに疑問を抱く。
ざっと確認しただけでも8人。対ロボット演習にしては明らかに過剰すぎる人員である。普通なら2人だけで十分足りるにも拘わらずだ。
殆どの生徒達がそんな事を思っていると、相澤の捕縛布の中に包まっていた校長から、今年から演習試験の内容が変わった旨が伝えられる。
「校長先生、変更って一体……」
「ああ、それはね……」
生徒からの質問に、校長から試験内容を変更した理由が説明される。
曰く、ここ数カ月の間で急激に敵が活性化している現状、これからの社会において対敵戦闘が激化すると考えた結果、ロボットとの戦闘訓練は相応しくないとの事。
だから、これからは対人戦闘や活動を見据えた、より実践的な教えを重視するべきだという結論に至ったという。
「というわけで……諸君らにはこれから、2人1組でここにいる教師1人と戦闘を行ってもらう!」
「せ、先生方と……戦闘!?」
いきなり告げられた試験内容を聞いて、A組内に動揺が奔る。変更された事にも驚きだったが、それ以上に雄英教師を務める程の実力派ヒーローと戦う事になるのだ。これで驚かない方が無理がある。
そんな生徒達の動揺を余所に、校長にバトンタッチされた相澤がペアの組と対戦する教師を淡々と告げていく。そこで更に動揺が広がるA組達。
中でも緑谷と爆豪のチームはそれが顕著に表れていた。お世辞にも仲が良いと言えない関係なのに、対戦相手があのオールマイトだったからだ。
そしていつものように、作戦を練ろうと話し掛ける緑谷に爆豪は目もくれず、お互い話し合わずに試験直前まで暇を持て余す事になる……はずだった。
だが、今日の2人は少し違った。
「……か、かっちゃん。あの……い、今から作戦、を……」
「ああ? んなもん言われんでも分かっとるわ。オールマイトをぶっ潰す作戦、今から練っておくぞ。さっさと来いやクソナード」
「えっ……?」
「……どうした? てめぇから話し掛けといてシカトすんのかよ。舐めた事してんじゃねえぞデク」
「あっ、うん! ごめん、ついびっくりしちゃって! 今行くから! 一緒にオールマイトに勝つ作戦を考えよう!」
「言っておくが、俺の足を引っ張る真似だけはすんなよ!」
「うん!」
緑谷との話し合いに素直に応じる爆豪。
いつもとは違い過ぎる2人の行動に、相澤とオールマイトが顔を近付けてヒソヒソと話をする。
「……あ、相澤君、何というか2人の仲、ほんの少しだけど改善されてる感じしない?」
「ですね。俺も内心びっくりしてます。緑谷はともかく、あの爆豪が素直に作戦会議に応じるとは……。恐らく、何らかの要因で爆豪の心境と2人の関係に変化が起こったのでしょう。何にせよ良い事です」
「そうだね。これを機に2人がもっと互いに歩み寄ってくれたら、教師としては嬉しい事この上ないね」
オールマイトと話し合う相澤だが、2人の関係が少しずつ改善している理由に内心当たりを付けていた。
それは先日行われたA組・B組の合同訓練。
(あの2人に、特に爆豪に何らかの変化があったとすれば、一番考えられる可能性はこの前の合同訓練だろう。体育祭に続き2度目となるあいつとの対戦を経て、より現実を見据えた勝ち方を選ぶようになったと思われる。緑谷もまた、奴にコテンパンにされたせいなのか、あの日以降から行動に積極性が増している)
憶測の域を出ない、根拠無き推論に過ぎない。それでも相澤は、2人の関係が改善されたであろう切っ掛けを作った、サポート科にいる彼に心の中でお礼を言った。
その数時間後、緑谷と爆豪のチームは終始高いレベルの連携を発揮してオールマイトを翻弄。何と試験開始から10分と経たずに演習試験場の脱出ゲートを潜り抜け、見事クリアを果たしたのであった。
場所は変わり、開発工房にて。
1年A組の演習試験が無事終了し、
彼と発目は、1カ月前から開発を進めていた物が遂に完成したので、サポート科1年H組の担任であるパワーローダー先生の所に来ていた。
「──で、お前達2人が共同で一体どんなアイテムを作ったのか……早速見せてもらおうか」
「ええ、では篤とご覧あれ! 今回我々が開発したベイビーはこちらになります!」
アイテムが完成して上機嫌な発目は、元気溌剌とした声でアタッシュケースを取り出すと、それを慎重にテーブルに置いて丁寧に開く。
開かれたケースの中に入っていた物は、掌から少しはみ出る大きさの精密機器。半透明なガラスと吸着盤とスイッチの付いた機械が合体しており、片眼鏡に似た構造をしている。
それを見たパワーローダー先生が発目達に尋ねた。
「これは……何だ?」
「これは『スカウター』という物ですよ! パワーローダー先生!」
「スカウター?」
この『スカウター』というアイテムは、片耳に装着して使用する単眼式のHMDみたいな物で、様々な機能が備わっている精密機器である。
主な機能として、目標の位置を特定する索敵機能、目標の距離や方角を算出する誘導機能、戦闘力の数値換算により個体戦力を可視化する分析機能、機種間での無線音声通話を可能とする通信機能の4つがある。
それらの情報はスイッチを押す事によって測定・算出され、付属する半透明の小型スクリーンに表示される。ちなみに本家ドラゴンボールでは傍受機能もあったが、プライバシー保護の観点からその機能は付けていない。
最大索敵範囲は半径30km、通信機能限定だと約3倍の半径100kmに及ぶ。惑星規模での索敵、宇宙規模での通信が可能な本家スカウターの足元にも及ばないが、それでも関東のほぼ全域をカバー出来る距離なのでまあ良しとしよう。従来のインカムに比べれば破格の通信距離である。
「索敵範囲30km、通信距離100kmって……従来のインカムの性能を軽く超えてるじゃん。んな恐ろしいもんポンポン生み出すとかお前らマジ何なの? というか、どんな原理で索敵しているんだそれ? 相手の戦闘力を数値化するって機能もどういう仕組みか気になるし……」
そう、パワーローダー先生が疑問に思った通り、スカウターの最大の特徴はそこにある。
対象の戦闘力を数値化して見れるという機能。それに加え、索敵機能と誘導機能も相手の生体エネルギー、つまり気を感知して作動している。これがスカウターを開発する上で一番の難点だった。
何せ『気』という全ての生き物にある生体エネルギーは、この世界では存在自体が認知されていない。彼自身は気を感知する感覚もコツも分かるのだが、それをどう科学技術で再現すれば良いのか全くイメージが湧かなかった。
開発初日で行き詰ったのはこれが原因である。そうして初日は何も進まないまま終了した。
だが、そこで止まったままにはならなかった。次の日、彼は考えたのだ。自分1人では分からないのであれば、気という生体エネルギーの存在を他の人にも共有すれば良いという事に。当たり前すぎて見落としていた事に。
つまり、共同で開発する発目に気の存在を教え、感じ取ってもらう事にしたのだ。元はと言えば『広範囲の索敵に優れた小型レーダー』という案は彼女が出したもの。これを機に、発目にも気の存在を知ってもらおうと思った。
気の存在を教える事自体はとても簡単。発目の手を取り、発目の体内に彼自身の気をほんの少しだけ流して操作する。この惑星の人類が初めて『気』を実感した瞬間だった。
『────ッ!? お、おおっ!? おおおおおおおおッ!? こ、これが気というエネルギーですか!? あっ、あっ、あっ! す、凄いぃぃー! これ、とっても凄いですぅぅぅぅー! 何か不思議な感覚で、身体中がぽわぽわしますぅー!』
というようなやり取りの末、発目は気という生体エネルギーの存在を、その身を以て理解した。
そして気を実感した後の発目は凄まじかった。
『……ふむふむ、なるほど。この未知なるエネルギーを利用するなら、これをこうして、こういう感じの仕組みにすれば機械でも行ける気が……』
彼では到底思い付きもしなかったアイデアを次々と打ち出し、それをすかさずメモして図に残していった。彼はそのアイデアを実物として形にしただけに過ぎない。
そう、2人で共同開発したスカウターだが、その大元となる仕組みの大半は発目によって考案されたものである。もしも発目がいなければ、彼が自力でスカウターを作るのはもっと先だったかもしれない。
相手の気を読み取るのは高難易度の技術なのに、どうして気の存在を実感したばかりの発目にそこまでの事が出来たのか。そこは甚だ疑問だが、発目だから出来たと考えれば妙に納得した。彼女は本物の天才なのだ。
こうして、出来るかどうか不安だったスカウターの開発は、発目の活躍により予想を超える速度で完成したのであった──。
「──なるほど、つまりその『気』とかいう謎のエネルギーを感知して、スカウターは作動しているというわけか。うん、1度聞いただけじゃ訳が分からんな」
当然と言えば当然の反応に彼は苦笑し、発目は笑顔で自慢げに胸を張る。
そして2つある完成品の内1つを取り出すと、それを左耳に装着しスイッチを押す。すると機械音と共にスクリーンに様々な情報が表示され、真ん中に表示された数値がどんどん上昇していく。
視線の先はパワーローダー先生。数秒後、上昇していた数値が止まり、再び無機質な機械音が工房内に響く。
「……ほうほう、パワーローダー先生の戦闘力は830。流石プロヒーロー、戦闘時でもないのにこの数値とは。伊達に鍛えているわけではないようですね」
「えっ、なに? 今度は何なの? もしかしてさっき言ってた戦闘力の数値化?」
その通り。これがスカウターのメイン機能である戦闘力の計測だ。
ただ、戦闘力の値が原作と同じだと大した数値は出てこないため、基準となる数値の設定を調整し、戦闘力の値の更なる細分化に努めた。よって数値の基準は原作とは大きく乖離している。
だからほんの少し体を鍛えただけでも戦闘力は劇的に変化するし、プロヒーローにもなると戦闘時以外でも一般人より非常に高い戦闘力数値を叩き出す。
とはいえこれはあくまでも目安。個性を使えばその分だけ戦闘力は上昇する。特に『爆破』や『半冷半燃』のような物理的な破壊力を持った個性だと、その変化は顕著に表れる。
反対に『無重力』や『抹消』など、物理的な破壊力を持たない個性の場合、個性を発動しても数値はあまり変化しない。何回か検証してみて分かった結果だ。
だから、スカウターを使えば相手の戦闘力はほぼ正確に読み取れるが、それは現時点での戦闘力というだけの話。個性の内容や経験次第で相手の強さは大きく変化するので、出た数値に頼り切る事がないように注意する必要がある。
以上が今試験で共同開発したスカウターの説明だ。
「へええ、そういう感じで数値化されるんだな。本当、またとんでもない物を作って……ん、ちょっと待てよ。何で個性の種類によって戦闘力が大きく変化するって判明出来たんだ? そういうのいつ検証したんだ?」
「ああ、それはですね、昨日のA組の演習試験の会場にいくつか潜入して、そこでスカウターの試運転を行ったからですよ。いやあ、おかげで多くのデータを収集出来ました!」
「なるほど、そういう事だったのか。それなら納得……っておい! 人が見てない所で何やってんだよお前ら! 他クラスの試験会場に潜り込むとか普通にアウトだよ! ……おい、2人とも目を背けないで、ちゃんと前向いてこっち見ろ!」
発目よ、どうしてその事をうっかり漏らしてしまったのだ。いくら何でも気が抜けすぎではなかろうか。彼は内心で溜め息を吐いた。
その後、他クラスの演習試験場に勝手に侵入したとして、2人は反省文10枚を書くよう命じられたのであった──。
──それから1週間後。
期末試験が終わり、筆記試験も実技試験も満足のいく結果を出せた今日この頃。
夏休みまで残り僅かとなった今、彼と発目は今日も工房でうんうん唸っていた。理由は次なる大型共同開発品、メディカルマシーンにある。
「うーん……ある程度の構造は出来ましたけど、流石に行き詰ってきた感じがします。構造自体はそこまで難しく考えなくて良かったんですけど、それを実現するために一番重要な治療液が無いのが難点ですよね」
メディカルマシーンの製作に取り掛かったは良いものの、1週間経った今、彼も発目も行き詰っていた。スカウターの開発をスラスラとやってのけた発目ですらだ。
原因は治療液の存在。どんな大怪我も呼吸器を装着して数十分浸かるだけで完治する奇跡のような治療液。メディカルマシーンの大前提ともいえるそれが、どうしても2人だけでは作れなかったのだ。
故に悩んでいた。
「本当にどうしましょうか。というか、このまま2人だけで考えても仕方ないですよ。ぶっちゃけ私達、そこまで医療に詳しいわけでもありませんし」
確かにそれはそう。医療科学の専門家ではない彼と発目がこれ以上考えた所で意味はない。ただ時間を浪費するだけだ。
ならばこうしようと、彼は発目にある提案した。
「……私達の活動に協力してくれる有志の専門家と一緒に治療液の開発に取り組む、ですか。高校生の私達に協力してくれるかどうかは分かりませんが、それしか方法は無さそうですね。では早速、リカバリーガールに尋ねてみます」
ならばこちらは外部の専門家に声を掛けてみるとしよう。協力者はなるべく多い方が良い。
こうして開発の手を一旦止め、2人は開発に協力してくれる有志を集める活動に移った。
だが……。
「治療液の共同開発? ああ、すまないけどあたしゃこう見えても忙しいんだ。時間がある時なら手伝えるけど、今はちょっと無理さね」
リカバリーガールには「仕事が多くて忙しい」という理由であっさり断られた。
外部の専門家もほぼ全員そのような返事だった。「忙しい」「いくら何でも無理がある」「時間とコストが割に合わない」等々、様々な理由で悉く断られた。
だが、そんな専門家達の中でもたった1人だけ、2人の活動に協力しようと快く承諾してくれた専門家がいた。何十人と声を掛けた専門家達の中でたった1人だけだ。
だから早速その人が運営しているという病院へ、休日に発目と2人で向かう事に。
──そして現在、目的地周辺を走る市営バスの中で。
「いやー、まさか私達に協力してくれる有志が現れるとは思いませんでした。何ともありがたい話ですよ。その人がどんな方かは知りませんが、良好な関係を築いていきたいですね!」
揺れるバスの中、隣に座る発目が笑顔でそう言った。彼も発目の言葉に首を振って肯定する。
今回、メディカルマシーンの治療液開発に協力してくれる専門家は総合病院の理事長を務めている。その他にも数多くの個人病院や施設などを運営し、慈善事業に精を出している著名な人だ。医学界で知らない者はいない程だという。
それ程までに権威ある人との提携。確かに良好な関係を築いていくべきだろう。新たなビジネスチャンスにも繋がる。
そんな事を考えていると、バスのアナウンスが耳に入った。ようやく目的地に到着したようだ。
『次はー蛇腔総合病院前、蛇腔総合病院前。お出口は左側です。お降りの際は足元に気を付けて……』
今回の目的地、蛇腔総合病院に──。
これにて第2章終わり、次回から第3章スタートです。1章分が10話程度の構成で、物語の進み具合的にヒロアカのアニメとほぼリンクしてますね。このペースで行くと漫画のヒロアカ最新話まで150話も掛からない気がするけど、まあこの調子でも良いかなと思っています。