サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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お待たせしました、ここから第3章スタートです。合宿の悲劇や神野事件も近付いているこの状況で、とんでもない所へ赴いた主人公達。果たしてどんなやり取りが起こるのか……。


第3章
第21話 蛇腔総合病院


 蛇腔総合病院に着いた彼と発目の2人は、受付で用件を伝えて早速目的の人物と面会した。

 

 

「初めましてお二方。そしてようこそ、蛇腔総合病院へ。私がここの理事長を務めている殻木球大と申します」

 

 

 広々とした応接室に入りソファーに腰掛けた2人は、テーブルを挟んで向かい合う形で座る白衣姿の老人から自己紹介を受けた。

 

 初対面という事で、彼と発目も失礼のないように定型的な挨拶で対応する。

 

 普段の彼らからは似ても似つかない、礼儀正しく堂々たる振る舞い。とても16歳になったばかりの学生とは思えない貫禄を感じさせる一方で、殻木の方は子供に対するものとしては些か畏まり過ぎている様にも見える応対。

 

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いします。しかし殻木先生、そう畏まられるとこちらも恐縮してしまいますね。私達はまだ若輩の身ですし、立場としてはお願いする方なのですから、そう硬くならなくても良いのでは?」

 

「私達は初対面ですから。それにお願いする方とは言いますが、私としてはお互い対等な立場だと思っておりますよ。ですが、どうしても気になるようでしたら改めましょうか」

 

「では、そのようにお願いします。こちらとしても格式ばった場は得意ではありませんから。少しばかり胸襟を開いて話し合いたいと思っておりましたので」

 

 

 発目にそう言われながらも彼と殻木は中々敬語を崩そうとしなかったが、早速発目がいつもの口調に戻ったのを見て、他の2人も普段通りの口調で話し合う事になる。これにより、その場に漂っていた見えない緊張の糸が緩まった。

 

 

「──という事があって、どんな大怪我もすぐに完治できるメディカルマシーンなるものを実現したくて、こうして殻木先生の所に来たというわけなんですよ!」

 

「ふむふむ、それはまたとんでもないの。体育祭で披露したホイポイカプセル、あれの登場で物流業界は大荒れだと言うのに、今度は医療業界に革命をもたらす気とは! やはり若い子は良いのう、才能と活力に満ち溢れておる」

 

「おっと、そういう反応を示すという事は!?」

 

「ああ、君達のいうメディカルマシーンの治療液、その研究開発に是非とも助力しよう。ワシの心の内にある研究魂が疼くわい」

 

 

 話し始めて数分後、あっさり殻木との共同による治療液開発が正式に決まり、彼はほっと息を吐いた。とりあえず、直前で突っ撥ねられて交渉決裂という事態にならなくて良かったと思うばかりだ。

 

 それにしても「研究魂が疼く」と言っていたが、普段は一体どのような研究をしているのだろうか。少し気になった彼は殻木に尋ねた。

 

 

「どんな研究してるかって? まあ、簡単に言えば個性に関する研究だな。ほら、ワシが経営しておる病院や施設の理念は『個性に根差した地域医療』じゃろう? その理念に基づいて、病院設立から今日まで色んな個性の研究を進めておる。時に患者にも協力を得て研究する事も少なくないぞ」

 

 

 言われてみれば確かに、この部屋に来るまで実に多くの病室を横目に見ていたが、患者1人1人の個性に合わせて適切な治療や処置を看護師達が行っていた。

 

 中には自身の個性を使って患者の世話をする病院の先生もいた。現行の医療のみに頼っていない、一味違った医療体制をこの病院は取っている。

 

 やっている事がどことなくリカバリーガールに似ている。恐らくそれらを可能にしているのが、普段行っている個性の研究なのだろう。

 

 殻木の返答を聞いた彼はこれまでの記憶を振り返り、確かにと納得して頷いた。

 

 

「それじゃあ早速本題の方に移ろうか。まずはどこまでメディカルマシーンの開発が進んでいるのか、それを詳しく知っておきたい」

 

「分かりました、それじゃあ一から説明していきますね。まずは──」

 

 

 それから15分間、彼と発目はメディカルマシーンの開発の進捗具合を説明した。

 

 

「……なるほど、大体は理解した。ワシは治療液開発の協力だけで良いという話だったが、本当にそれ以外は完成しているとは。まだ作り始めて1週間程度なのに、とんでもない製作スピードじゃ」

 

「まあ、ぶっちゃけ液体入れる容器に呼吸器を付けてプログラム設定するだけなんで、そこまで難しくはないですよ。ついこの間まで、もっとややこしい物を作っていましたし」

 

「そうなのか? それを難しくないと言い切れる君達の技術力がおかしいのだが……まあ良いか。ついて来ておくれ」

 

 

殻木に突っ込まれるまで彼は気に留めていなかったが、メディカルマシーンは治療液だけではなく機械の部分も高度な開発技術が要求される。

 

 彼も発目も、1週間前までスカウターなんて代物を作ったばかりからか、開発が難しいか難しくないかの境界線が曖昧になっている。雄英のサポート科1年どころか全学年の中で比較しても、2人の技術力は群を抜いていた。

 

 そんな事情など露ほども知らない殻木は、席を立って応接室を出ると、後からついて来る2人をとある場所まで案内する。

 

 そこは蛇腔総合病院の裏口を出てすぐ目の前、病院の後ろに隠れる形で建っている立方体に近い建物の内部。その建物の最奥に位置する部屋に、殻木は2人を招き入れた。

 

 

「この部屋じゃ、ワシが研究のために使っているのは。ここには色んな設備、資材、データが存在する。治療液の開発に持ってこいだろう」

 

「おお、これは……!」

 

 

 部屋に入ると見渡す限りの医療用実験器具、薬品、色んな臓器の模型、大量の試験管、何台ものデスクトップPCなどがずらりと並んでいた。

 

 流石は総合病院の理事長、非常に設備が充実している。

 

 

「ちなみに隣の実験室に行けば実験用のマウスがいるから、それを使った簡単な実験も行えるぞ」

 

 

 流石は総合病院の理事長、本当に設備が充実している。

 

 用意の良い殻木の対応に彼は舌を巻いた。確かにこれだけの設備が整っていれば、治療液の開発も十分だろう。

 

 

「荷物は邪魔にならない所ならどこに置いても構わないから、早速腰を据えて意見を出し合おうじゃないか」

 

 

 その日の会話は大変盛り上がった。

 

 

 


 

 

 

 ──殻木と出会って1週間以上が経ったある日。

 

 本日は雄英高校1学期最終日。明日から本格的に夏休みに突入する。

 

 やたらと話の長い根津高校の挨拶を聞き流し、終業式を終えた直後のサポート科の教室には、明日から始まる夏休みに浮き足立つクラスメイトで溢れ返っていた。

 

 もちろんこの2人も例外ではない。

 

 

「いやあ、ついに明日からですね夏休み! 今日から9月初めまでの約40日間! 思う存分ベイビー作りに励もうではありませんか! アッハッハッハッハ!」

 

 

 これから始まるサマーバケーション、もちろん彼も楽しみにしている。

 

 何やらヒーロー科の方では、ショッピングモールで敵連合のリーダーと偶然接触するという珍事件がつい最近起きたらしいが、サポート科にとってそんな事はどうでも良い。

 

 敵連合とヒーロー科とのいざこざは完全に蚊帳の外。対岸の火事なので関心が薄いのだ。変に関わる事もないだろう。

 

 それよりも今は、蛇腔総合病院で殻木と一緒に治療液の開発をしている状況。彼と発目にとってはそちらの方が重要であり、夏休みの大きな課題なのだ。

 

 

「しっかしまあ、治療液の共同開発から今日で1週間弱、まだまだ完成への道のりは遠いですね」

 

 

 現在、意見や案を一通り出し合った3人は手当たり次第にマウスを使っての実験を繰り返すという絶え間ない作業を行っている。

 

 肉体が傷を負った時どのようにして傷が癒えていくのか、何が傷を癒やすのか、傷を完治するために治療液に求められている性能は何か、足りない性能をどうやって補完するか、等々。

 

 山積みの課題を前に実験を通じて1つ1つ地道にクリアしていく毎日。平日はお互い集う時間が無かったため、彼と発目は学校で、殻木は病院でそれぞれ実験を行った。

 

 元々足りなかった医療知識は実験と並行して急速に取り込んでいる。分からない部分はリカバリーガールに直接聞いたり、電話で殻木に聞いたりしている。専門的な知識は独学よりも専門家に聞いた方が確実なのだ。

 

 とはいえ道のりはまだまだ長い。課題が山のようにある現状、どれだけ治療液が早く完成したとしても、この夏休み中に完成は難しい()()()()()()

 

 かもしれないというのは、まだ確定したわけではないため。創造力と発想のセンスが飛び抜けている発目が、スカウター製作時のようにまた画期的なアイデアを打ち出すかもしれない。殻木が医師として積み重ねた経験を活かし、短期間で治療液を作り出すかもしれない。

 

 3人寄れば文殊の知恵と言われる様に、3人の手に掛かれば思ったよりも早く治療液が完成する可能性もゼロではないのだ。

 

 

「明日から蛇腔総合病院の所の研究室に毎日通い詰めですし、この夏休み中に完成出来れば良いんですがねぇ……どうなる事やら」

 

 

 どうなるかは分からないが、少なくとも開発のペースが上がるのは間違いない。

 

 そう思いながら発目と話していると、担任のパワーローダー先生が教室にやって来た。

 

 

「はい、皆終業式お疲れ様。明日から夏休みなわけだが、ヒーロー科と違って9月初めまでサポート科は学校お休みだからな。夏休みの課題もちゃんとやった上でしっかり満喫してくれ。

 でも開発工房は開いているから、何かサポートアイテムを作りたいという人がいれば好きに使ってくれ。でもその前に、職員室に寄って先生に報告する事を忘れるなよ」

 

 

 夏休み中でも工房は空いているとはありがたい。と言いたい所だが、生憎彼と発目は学校ではなく病院に通う予定なので、恐らく夏休み中に学校に行く事はないだろう。

 

 パワーローダー先生がこちらの方を見ながら話しているが、当分の間爆発騒ぎは起こらないので安心してほしい。多分。

 

 その後も夏休み中の過ごし方や注意すべき事など、多くの連絡事項が読み上げられていく。

 

 

「──よし、連絡事項はこれで全部だ。それじゃあ1学期お疲れ様って事で、皆楽しい夏休みを過ごしてくれ。以上、解散」

 

 

 ホームルームが終わり、静かだった教室内が再び喧騒に包まれる。

 

 すぐに教室を出て家に帰る人、教室に残って友達と雑談する人、部活動に行く人など、各生徒が思い思いに行動を開始する。

 

 今はまだ午前中だが、午後からの授業はないので残った時間は好きに使えるのだ。こんな時でもヒーロー科は午後も授業があるらしいが。

 

 そうこうしている内に荷物を持った発目が立ち上がり、彼の手を取って言った。

 

 

「それじゃあ今日はもう帰りましょうか。集合は明日の午前11時、蛇腔総合病院前のバス停で。荷物はホイポイカプセルにでも詰めてください」

 

 

 発目はそのまま駅に向かって、一足先に実家に帰るらしい。蛇腔総合病院が京都府蛇腔市、そして発目の地元が京都府播土(はんど)市。隣接する市のため、実家から直接行く方が楽だとの事。

 

 彼も一旦家に帰って身支度を済ませたら、翌日の朝に京都まで新幹線で向かう予定なので、今日中に買い物を済ませておく必要がある。

 

 それと、以前ヒーロー科との合同訓練の後に考えていた「ヒーロー科に気の存在と使い方を教える」件についてだが、この夏休み中は治療液の開発で無理そうなので、2学期以降に機会があれば教えるという事にしておこう。

 

 こうして高校生活1年目の1学期は終わり、2人は帰路に就いた──。

 

 

 


 

 

 

 一方その頃、都内某所。

 

 とあるこぢんまりとしたバーの中にて。

 

 人の手を模したマスクを顔に着用した不気味な青年と、バーテンダーの恰好をしたどこか紳士的な雰囲気のする霧状の男が、カウンター越しに向かい合い酒を口にしていた。

 

 その他にも、鋭利なナイフを携帯しているセーラー服姿の女子、体中の至る箇所が火傷に覆われた継ぎ接ぎ姿の青年、タンクトップ姿の筋肉質な大男、マフラーを巻いてタバコを咥えたサングラスの男の4人がカウンター席に座っている。

 

 そう、ここは敵連合のアジト。普段は会員限定の隠れ家的なバーとして合法的に運営されているが、裏では様々な敵との交渉の場として利用されたり、こうして仲間達の集う場として使われたりする。

 

 そんな連合の拠点に集った曲者達だが、今彼らはとある映像を視聴していた。

 

 

「……先生とドクターから面白いもんがあるって言われたから見てみたら、何なんだこれは? おい黒霧、説明しろ」

 

「はい、それは先日の保須事件があった後、福岡のとある山奥で撮影された戦闘です。画面左に映っているのが、今目の前にいるマスキュラー。そしてもう1人が、雄英体育祭で一躍有名人となった例のサポート科の──」

 

「んな事は知ってんだよ。俺が聞いているのはそこじゃねえ。何なんだこいつは? どう考えても高校生のガキの強さじゃないだろ」

 

 

 バーテンダーの黒霧に問いかけているのは、つい先日ショッピングモールで緑谷と遭遇した敵連合のリーダー、死柄木弔。USJ事件、保須事件、緑谷との遭遇を経て、自身の信念を抱き仲間も集まりつつある急成長中の敵だ。

 

 そして今、カウンター席の端に座って酒を一杯仰いでいるタンクトップ姿の大男。福岡の山奥でサポート科の彼を急襲し返り討ちにあった敵、マスキュラーである。

 

 彼と戦い惨敗したマスキュラーにとって、今見た映像は苦い記憶。本気を出したのに碌にダメージを与えられず、終始小馬鹿にされながら最後は放置されて情けを掛けられるという、ある意味で屈辱的な敗北を経験したからだ。

 

 

「いやはや、こいつぁ驚いたよ。あの血狂いマスキュラーが全く相手にされていないとはね。全国指名手配中の凶悪敵ですら、この子の前では関係ないってか? 体育祭見て強いって事は知ってたけど、これ程とは思わなかったわ」

 

 

 今度はサングラスの男がタバコを吹かし、ニヤニヤとした笑みを浮かべて言った。

 

 この男の名は義爛。現在は敵連合に武器と人材の斡旋を行っている超大物の闇のブローカーである。

 

 

「こいつ、本当に俺達と同じ人間か……? ガキでもここまで強いと流石に気色悪いぜ。しかも体育祭では一切見せなかった謎の爆破攻撃。この火力、必殺技打つ時のエンデヴァー並みじゃねえか」

 

 

 映像を見て気味悪がっているのは、全身に火傷を負った継ぎ接ぎの青年である荼毘。普段は冷酷で残虐非道な性格の荼毘ですら、映像に映る彼とだけは遭遇しないように気を付けようと心に誓う。

 

 

「本当にびっくりしました。出来る事なら調子付いてる彼を刺して、直接血をチウチウ吸ってやりたいです。まあ、この映像を見てる限り出来そうにないのが残念ですが。というか、全然私の好みじゃない」

 

 

 最後の1人、セーラー服を着た女子の名前はトガヒミコ。他の皆からはトガと呼ばれ、現在連続失血死事件の容疑者としてヒーローと警察に追われている。

 

 そして、同じ敵である死柄木や荼毘からも「破綻JK」「イカレ女」などと、散々な名で呼ばれる程クレイジーな性格をしている。

 

 そんな彼らを前に、黒霧がまた新たなホログラムを携えてやって来た。

 

 

「……おい黒霧、今度は一体何だ? 何を持って来たんだ?」

 

「今度は別の映像です。死柄木が緑谷出久と遭遇するよりも少し前に撮影された、サポート科の彼とヒーロー科1年全員による戦闘訓練の様子です。結果はまあ、あなた方が想像している通りですが」

 

「じゃあわざわざ見るまでもねえな。今はそのガキに構ってる場合じゃないんだ、今度やる襲撃の計画に不備がないかもう1度確かめないと……」

 

「おっ、良いねえ。今ちょうど暇してる所なんだ、そいつも見せてくれよ。結果は分かっててもどんな内容か気になるし」

 

 

 映像を見ようともせず拒否する死柄木の言葉を遮って、隣に座る義爛が是非映像を見たいと言い出した。

 

 

「俺からも良いか? その映像を見せてくれ」

 

「あー私も! どんなものか気になります!」

 

「俺もだ。今一度あいつの強さをこの目で見ておきたい」

 

 

 義爛に続いて荼毘、トガ、マスキュラーの3人も見てみたいと言い出す始末。こうなってしまっては止まらない。

 

 1度は拒否した死柄木も、カウンターに座る皆と黒霧を交互に見て、深い溜め息を吐いた。

 

 

「……分かった、んじゃそれも見る。黒霧、すぐに映像出せ。皆に見えやすいようにな」

 

「分かりました」

 

 

 それから数十分後、映像を見終えた彼らの騒がしい声がバー中に響き渡った。

 

 

 


 

 

 

 1学期が終了した次の日、夏休み初日。

 

 蛇腔総合病院前のバス停にて発目は待っていた。

 

 

「いやー、昨日は帰ってから色々と大変でしたね……」

 

 

 彼の到着を待つ間、発目はバス停の近くで独り言ちる。

 

 一体何があったのかと言うと、昨晩発目と彼女の両親の間で一悶着あったのだ。その内容は至極単純。

 

 

「まさか友人が実家に泊まりに来るってだけで、あんなお祭り騒ぎになるとは思いませんでした。流石の私も少し引いちゃいましたよ……」

 

 

 実は彼と発目、蛇腔総合病院に毎日通い詰める間どこに泊まるか話し合った結果、2人とも発目の実家に泊まった方が効率的かつ合理的という結論に至っている。

 

 そのため、彼は夏休みの間ずっと発目の実家に泊まり、そこから病院に通い続ける約束を発目と交わしているのだ。

 

 雄英高校からも夏休み中の長期外出は控えるようにと言われているため、ホテルよりは友人の実家の方が幾分かマシだろうという理由もある。

 

 だが、そこで黙って見過ごさないのが実家にいる発目の両親。可愛い1人娘である発目が夏休みに男友達を連れて帰ってくると聞き、あまりの衝撃に開いた口が塞がらなかった。

 

 発目は()()()()()()に疎く興味がないので気付いていないが、若い女性が実家に男を連れて帰ってくるという事は、普通なら()()()()()を意味するのだ。

 

 そのため、2人の普段の学校生活を把握しきれていない両親からしてみれば吃驚仰天ものであり、その興奮度合いはお祝いに赤飯でも炊こうかと騒ぐほどだった。

 

 というような事が昨晩あり、騒ぎ立てる両親を宥めるのに一苦労した発目は、現在珍しく疲労の色を見せていた。

 

 

「肉体的には大丈夫でも、精神的には大分疲れました。それにしても、そろそろ約束の午前11時頃だと思うのですが……」

 

 

 そんなこんなで独り言を呟きながら待つ事数十分、約束の午前11時に差し掛かったので病院前に停まるいくつものバスに目をやるも、彼と思しき姿がどこにも見当たらない。

 

 もしかして約束の時間に間に合わなかったのだろうか。それとも会う時間を間違えてしまったのか。何か急な用事が入って来れなくなってしまったのか。様々な疑問が頭の中を飛び交うが、発目は特に焦る事もなく彼の携帯に電話を掛けた。

 

 

「はいもしもし、もう約束の時間になったのですが、今どこにいます? 私、今バス停の前でずっと待っているんですけど、あなたの姿がどこにも見当たらなくて……えっ、もう着いてる?」

 

 

 全然姿が見当たらないので電話を掛けてみたら、何と彼は既に病院に着いているとの事。

 

 一体どこで見過ごしたのやらと、発目がそんな事を思いながら通話していると、突然誰かに背後から肩に手を置かれた。

 

 このタイミングで彼女に用がある人など1人しかいない。背後にいる人が誰なのかすぐに分かった発目は、待ってましたと言わんばかりに勢い良く後ろを振り向き……そして困惑した。

 

 

「やっと来ましたか! ここに来てから随分待ったんで…………あの、誰ですか?」

 

 

 何故なら発目の背後にいたのは、黒髪黒目のいつもの彼ではなく、金髪碧眼で変わった髪型をした謎の青年だったのだから──。

 

 

 




殻木球大ってさ、確かにマッドサイエンティストで悪行の限りを尽くす極悪人なんだけど、その医療技術とか知識は間違いなく本物なんだよね。むしろ非道な実験を繰り返していたからこそ、表社会でも活躍していたと言えるし。やっぱ人間どこか狂っている人の方が能力高かったりすると思うのよ。
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