サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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軽い気持ちで敵連合のアジトに直接乗り込んだ主人公。
当然の如く皆から警戒されているが、一体何をやらかすつもりなのだろうか……。

※5分遅れてしまった……くそう。


第25話 時代が変わる前夜

 日本国内、某県某所のとあるバーにて。

 

 世間を騒がす敵連合のアジトにいきなり乗り込んだ彼は、合宿中に攫われ拘束された爆豪には目もくれず、敵連合のメンバーと向かい合っていた。

 

 両者の間には緊張が走っており、予断を許されない状況。あまりの緊張感に、傍から見ているだけの爆豪の頬から冷や汗が伝い落ちる。

 

 とはいえ、その張り詰めた空気を作っているのは敵連合の方で、一方の彼はまるで数年ぶりに旧友と再開したかのような態度で、笑顔で相手に手を振っている。

 

 余りにも差があり過ぎる両者の雰囲気に、緊張感に加え不気味さまで醸し出していた。

 

 

「……おいお前、いきなり俺達の前に現れて何が目的だ? というか、どうやってここに来た? 言え、言わないと殺すぞ」

 

 

 連合のリーダー、死柄木弔がサポート科の彼を睨み付けて低い声で脅しをかける。

 

 死柄木の個性は五指で触れた物を分子レベルでボロボロに分解する『崩壊』。そんな『死』を象徴する恐るべき右手が、目の前にいる彼の眼前に差し向けられる。

 

 だが、彼の態度に変化はない。相変わらずニコニコとした表情で死柄木を見つめるばかりで、向けられた右手に対して振り払ったり後退ったりする様子は見られない。

 

 心底舐め切っているとしか思えないその態度が、死柄木の苛立ちを増長させる。

 

 

「いやはや、高校生らしからぬ実力があるのは体育祭で知ってたが、まさか1人でこんな所にやって来るとはね。余程自分の実力に自信があるのか馬鹿なのか……」

 

「いや、馬鹿だろ。どうかしてるぜこいつ」

 

 

 呆れたと言わんばかりに肩を竦めるのは、シルクハットと仮面を被った紳士風の男、Mr.コンプレス。そしてコンプレスの言葉に反応したのは、全身が火傷の跡に覆われた青年、荼毘。

 

 彼を見る荼毘の目は心底相手を見下し残酷に冷笑するもので、どこか薄気味悪さを感じさせる。だが、普通の人なら恐怖で竦み上がるその表情も、彼を前にしては全く通用しない。

 

 

「まあここに来た以上、生かして帰すわけにもいかねえよな。大体、敵陣のど真ん中に突っ込んで何するつもりだ? そこのガキを助けに来たのか? それとも俺達を捕まえに来たか? そのつもりだったらお生憎様。あまり舐めてると後悔するぜ」

 

 

 荼毘が続けて彼を嘲笑し、左手に僅かばかりの蒼炎を灯しながら構える。それを見て他の連合も次々と武器を手に取り、いつでも相手の命を刈り取れる準備を整えた。

 

 連合の殺気を感じ取り、彼の側で拘束されている爆豪が「どうするんだ」と問い掛ける目で彼を見やるが、彼の表情は依然変わらず。差し迫った危機を前に、まるで今から宴会でも行うかのような軽い足取りで彼は歩き出した。

 

 その瞬間、連合側が動いた。

 

 

「自ら近付いて来るとは、舐められたもんだな!」

 

「ごめんなさいね、爆豪君と違ってあなたは全然お呼びじゃないの!」

 

「とりあえず刺します! 刺して血をちぅちぅ吸ってやるのです!」

 

 

 緑色のトカゲの様な姿をしているスピナーが長剣を振り上げ、サングラスを掛け女口調で喋る男のマグネが直方体の大きな鈍器を肩に担ぎ、セーラー服に身を包んだ女子のトガがナイフを握り締め接近する。

 

 3方向からの容赦ない攻撃。殺すという一点のみに特化した、一切の躊躇がない動き。

 

 3人の相手がもしヒーロー科の生徒なら、殆どの生徒が成す術なく殺害され、悲惨な最後を遂げていた事だろう。

 

 

「いっ!?」

 

「なあっ!?」

 

「ええっ!?」

 

 

 ──スピナー達の殺意は、彼に届く目前の虚空で完全に停止した。

 

 目標の脳天まであと10cm。しかしどんなに力を入れても、どんなに体を揺らそうとしても、凶器を振り下ろしかけた姿勢から一寸たりとも動かない。動かせない。

 

 彼は驚愕に目を見開く3人を素通りして、そのまま荼毘の横を通り過ぎようとする。

 

 

「……おい、良いもんやるよ。受け取りな」

 

 

 通り過ぎた直後、彼の肩に荼毘の手が置かれた。

 

 何かと思い振り向いた瞬間、彼の視界が蒼に染まる。荼毘の蒼炎が彼の顔面に直撃したのだ。

 

 轟の出す紅い炎よりも更に灼熱の蒼い炎が、彼の皮膚を焼き侵食する勢いで激しく燃え上がる。常人ならこれだけで即死か重症になってもおかしくない。

 

 だが、目の前にいるのは人の枠組みから外れた化け物(サイヤ人)

 

 

「────ッ!?」

 

 

 刹那、彼の右手が荼毘に向かって伸びた。

 

 余りに一瞬の出来事。伸ばした彼の右手が()()()()()()()()()()()()まで、荼毘はその動きを認識する事が出来なかった。

 

 そして暫しの硬直時間。数秒か数十秒か、顔面を覆う蒼炎が徐々に消えて無くなり、当たり前のように無傷だった彼を見て、ようやく荼毘が口を開く。

 

 

「……おい、その手をどけろ。邪魔だ」

 

 

 荼毘がそう言うと、彼はあっさりと頭に添えていた手を引っ込め、軽く手を振ってみせた。

 

 そして皆の注目が集まっている中、彼は荼毘との距離を一気に詰めると、その耳に口を近付けて直接呟いた。荼毘にしか聞こえない小さな声で。

 

 

「あ? 何だお前、急に近寄って…………おい、何でお前がそれを知ってやがる?」

 

 

 彼の呟いた一言に、鬱陶しそうにしていた荼毘の態度が急変する。今までの他者を見下すような笑みと余裕は消え、悍ましい程にどす黒い感情の籠もった目で彼を睨む。

 

 再び室内に緊張が走るが、彼はいつもの明るい口調で適当にお茶を濁した。流石の荼毘もこれには苛立ちを隠せない。

 

 

「いい加減にしやがれてめぇ。いつまでも調子乗ってんじゃ……ちっ、俺もかよ」

 

 

 苛立ちの感情のままに、今度は手加減無しで蒼炎を繰り出そうとした荼毘。しかし、その行動は実際に行われる直前で、スピナー達と同様に虚空で停止した。

 

 これをされてはもう打つ手がない。荼毘は何とか荒れ狂う感情を心の底に抑え込み、すんなりと抵抗を止めて引き下がる。

 

 その一方で、興味本位で荼毘の頭の中を覗いたら、まさかあのヒーローと繋がりがあったなんて……、と内心驚く彼であった。

 

 アジトにやって来た瞬間から、荼毘の持つ気が何となくA組のとある人物と似ていたので、気になった彼は思わず荼毘の過去の記憶を覗いてみたのだ。

 

 それによって判明したある重大な事実は、流石の彼でも驚きを禁じ得なかった。下手すれば現代のヒーロー社会が崩壊するレベルである。

 

 これは心の中に仕舞っておこう。取り繕った笑顔の裏で、彼は荼毘の抱える重大な秘密を2度と口には出さないと決意した。

 

 

「黒霧! 早くこいつ飛ばせ!」

 

「ええ、これ以上この場で好き勝手されては困りますので……お帰り願います!」

 

 

 彼が荼毘の動きを封じていると、今度は黒霧と死柄木が動き出した。

 

 死柄木の指示の下、黒霧が個性を発動させワープゲートを展開。瞬間、彼の足元に円形状の黒い靄みたいなゲートが出現する。

 

 他の人なら重力に逆らえずゲートに向かって落下し、どこか遠くの場所へワープさせられていただろう。少なくともこの時、死柄木達はそうなるだろうと思っていた。

 

 だが、彼は足元に現れたゲートを確認すると、重力に従って落下せずその場に止まり────ゲートを横に蹴り飛ばした。

 

 

「「「「……………………」」」」

 

「…………おい、誰かツッコめよ」

 

 

 荼毘の呟きが室内に響く。だが、それに答える者はいない。

 

 そう、蹴り飛ばしたのだ。普通なら掴む事すら出来ない靄状のゲートを、彼はまるでサッカーボールの如く蹴り飛ばしたのである。

 

 これには流石の黒霧も面喰らっており、死柄木も信じられない物を見る目で彼を凝視していた。動きを止められた他の人は、もう訳が分からないとでも言いたげな顔をしている。

 

 途端に黒霧と死柄木が焦り出す。

 

 

「い、如何致しますか死柄木弔!? もう半数近くが行動不能にされていますが……!」

 

「待て、焦るな黒霧! まだ勝負が付いたわけじゃない。こうなれば脳無を出して……!」

 

 

 はい、そこまで。死柄木とか言う人も一旦落ち着いてほしい。焦る気持ちは分かるが、別に敵連合をどうこうする気はないのだから。

 

 そう考えている彼は2人の背後に一瞬で移動すると、落ち着いてもらおうと肩に手を置いた。

 

 

「なっ!? いつの間に……!」

 

「触るなガキ! 崩れろ!」

 

 

 だが、彼の一方的な気遣いが相手に伝わるわけもない。

 

 案の定背後を取られた2人は、彼を害そうとすぐさま個性を発動させて襲い掛かり────彼に触れる直前で動きを止めた。否、止められた。

 

 これまた荼毘達と同様、目に見えない強大な力によって指1本すら碌に動かせず、襲い掛かった体勢のままその場に立っている事しか出来ない。

 

 普段から命のやり取りをしている敵にとって、全ての行動が支配下に置かれるのは死活問題。これ以上ない屈辱と憎悪が死柄木の心をぐちゃぐちゃに掻き乱す。

 

 だが、今日まで逃げ延びてきた連合もただではやられない。

 

 

(……隙あり)

 

 

 コソコソ隠れて動き回り、彼の背後に回ったコンプレスが一気に距離を詰め、死柄木達に釘付けだった彼の背中に触れる。

 

 一瞬、彼の全身が僅かに光ったかと思えば、次の瞬間には180cm近くあった肉体が一気に縮まり、ビー玉程度の小さな球体に変化した。

 

 

「よし、成功だ! 閉じ込めちまえばこっちのもんだな。まあ、油断してると痛い目見るんだぜ坊や」

 

 

 彼が閉じ込められた事を確認し、球体を握り締めて思わずガッツポーズするコンプレス。これには他の皆も表情が明るくなり、見返してやったと晴れやかな気分になる。

 

 それでも不安を拭い切れない者もいる。特に警戒心が一際強い荼毘や死柄木は、圧倒的有利とも言えるこの状況下でも一切気を抜いていなかった。

 

 彼はコンプレスによって閉じ込められたはずなのに、どうして体の主導権を握られた人達は未だ動く事が出来ないのか。この不可解な現象を前に、2人の気が休まるわけもなかった。

 

 その嫌な予感はすぐに的中する。

 

 

「よーし、こいつどうしてくれようか? とりあえず一旦眠らせてから……ん? 何だ、腕が勝手に動いて────ぐほぉあ!?」

 

「「「なっ!?」」」

 

 

 状況が一変する。

 

 球体を握り締めていた右手が独りでに動いたかと思うと、いきなりコンプレスの顔面を真正面から殴り飛ばした。その衝撃で仮面が外れて床に転げ落ち、コンプレスは不意に殴られた痛みで顔を抑えて蹲る。

 

 先程まで喜びに満ちていたスピナー、マグネ、トガの3人は再び困惑に満ちた顔になり、当人のコンプレスも眼球が零れ落ちんばかりに目を見開いて驚愕していた。

 

 コンプレスの右手から球体が飛び出し宙に浮かぶ。

 

 本来なら閉じ込められた時点で抵抗も脱出も出来ず、良いようにされるがままの状態を強制される。それがコンプレスの個性だ。あの爆豪でさえ、圧縮され球体の中に閉じ込められては何も出来なかった。

 

 しかし何度も言うが、目の前にいるのは人外の化け物。人の枠組みから外れた彼にそんな理屈は通用しない。例え肉体がビー玉サイズに圧縮されても、縦横無尽に動き回り相手を圧倒する。そもそも彼がその気になれば、コンプレスの個性など簡単に無効化出来るのだ。

 

 これは何も今回に限った話ではない。最も殺傷能力が高い死柄木の個性であっても、彼の前ではただの悪足掻きにしかならない。仮に個性による攻撃を有効打にしたければ、彼と同等かそれに近い戦闘力を持つ必要がある。

 

 そういうわけで、驚愕に満ちた表情を晒すコンプレス達を横目に、彼は自身を閉じ込めている球体の膜を目力で破壊。いとも簡単に脱出して皆の前に姿を現した。

 

 

「マジかよ……俺の個性がこんなにあっさり……」

 

 

 今まで誰にも破られた事がない個性なのにまるで歯が立たない。絶望的な実力差を目の前で見せつけられ、コンプレスはショックを受けた。

 

 9人中7人の敵連合がたった1人の高校生相手に手も足も出せず完封された。その事実に、ずっと様子を見ていた爆豪の顔が悔しそうに歪む。

 

 

(クソが……俺らがあんだけ協力し合っても苦戦した相手をこうもあっさりと倒しやがる。ほぼ予想していた通りだったが悔しいな……)

 

 

 そして残る2人、黒と灰色のラバースーツを着て支離滅裂な言動を繰り返すトゥワイスと、タンクトップ姿の筋肉質な大男であるマスキュラーが一連の動きを見て言った。

 

 

「おいおい、お前の言った通りになったなマスキュラー!『なってねえよ!』 皆一瞬でやられちまった、ヤバすぎるぜ!『当然の結果だろ!』 お前が咄嗟に止めてくれなかったら、俺も大変な目に遭っていたなこれ!」

 

「だから言っただろ、どうせ行くだけ無駄だって。何故かあいつだけ強さがバグってるし、この場合は穏便に対応した方が早い。流石の俺でもそこは学習している。お前も下手に刺激すんなよ」

 

「OK、分かったさ!『いや知らねーよ!』 肝に銘じておくぜ!」

 

 

 九州で会った時は戦闘狂の節を見せていたマスキュラーだったが、今は驚くほど腰を据えた対応を取っている。

 

 全国的に有名な敵で『血狂い』の二つ名を持つ男とは思えない落ち着きぶりに、彼はすっかり面喰らっていた。

 

 だが気持ちをすぐに切り替え、買ってきたお菓子やジュースを袋から取り出し、それらをカウンターテーブルに置いて席に座る。それと同時に、動きを止めていた連合全員の拘束を解いた。

 

 今夜は寝るまで暇だから、少しだけ皆と雑談しよう。それを聞いてほとんどの人が理解に苦しむ中、隣に座るトゥワイスと早速ハイタッチを交わしてすっかり意気投合する彼であった──。

 

 

 


 

 

 

 それから30分以上が経過した。

 

 

「ええ、まあそうですね。あなたの推測通り、職場体験中にあなたを襲撃するようマスキュラーに依頼したのは私です。して、それを聞いてどうするおつもりで? こうしてバレてしまった以上、仕返しされるのも仕方がないと思って……えっ? ちょうど良い暇潰しになったから良かった? は、はあ……そうですか」

 

「おいお前、いくら強いからって言葉には気を付けてくれよ。あの時は全力で戦ったんだぞ。それを暇潰しなんて言われたら俺の立つ瀬がねえだろ……」

 

「……おい」

 

 

 やはり推測通り、九州でマスキュラーと戦ったのは敵連合の仕業だった。

 

 マスキュラーの性格から考えて、依頼を受けて動くタイプの敵ではないと思っていた。しかしこうして敵連合のアジトにいる以上、2カ月前の戦いも連合と何らかの関わりがあったに違いないと思った。

 

 それをマスキュラーと黒霧に問い詰めたところ、2人とも観念してあっさりと認めてくれた。とはいえ、あの時の事は別に恨んでいないし良い暇潰しになったので個人的には満足している。それを言ったらマスキュラーが目に見えて落ち込んだが。

 

 

「ま、まあマスキュラーも十分過ぎるくらい強いから、そう落ち込むなって。なっ? ほら、酒でも飲んでスッキリしろよ。美味いお摘まみもあるしよ」

 

「あら、それじゃあ私も頂こうかしら? 黒霧、私にも何か入れて頂戴な。出来ればこの生ハムに合う物を」

 

「分かりました。少々お待ちください」

 

「……おい」

 

 

 落ち込み出したマスキュラーの肩に手を乗せて、お酒を勧めて励まそうと声を掛けるスピナー。

 

 何となくだが、スピナーは色々と世話焼きな面があるように見える。戦闘員というよりはサポート役の方が向いていそうだ。個人的な感想だが。

 

 そして、スピナーの言葉に賛同して一緒にお酒を飲もうとするマグネ。発言の内容や佇まいから、連合の中でも取り分け人生経験に富んでいる節があり、皆の姉御的存在と言えるだろう。

 

 黒霧が棚から白ワインのボトルを取り出し、華麗にグラスに注ぐ様を眺めながら、彼はそんな事を思った。

 

 

「あっ、このグミ貰いますね! 私これのイチゴ味が好きなので。とっても赤くて甘いのです! 1番のお気に入り!」

 

「トガちゃんトガちゃん、俺の事大好き? マジで!?『ごめん無理!』 俺も好きだ、付き合おう!」

 

「しっかしまあ、こんなに買ってきて貰って何か悪いな。おっ、このポテチ意外と行けるぞ。どれどれ……レモン醤油味か、そりゃ美味いわけだ」

 

「……おい」

 

 

 気に入ってもらえて何よりだ。

 

 コンプレスが口にしているポテトチップスはつい最近発売された新作。個人的に薄塩味に次ぐお気に入りで、さっぱりとした味わいが特徴だ。

 

 トガの方もお気に入りのお菓子が見つかって良かった。やはり年齢が1つしか違わない若者同士のためか、味の好みが若干似通っている気がする。

 

 トゥワイスがどさくさ紛れに愛の告白をしているが、トガはそれを華麗にスルーしてグミと炭酸ジュースを味わっていた。

 

 

「いやあ、最初はどうなるかと思ったけど、何だかんだ丸く収まって良かったな! これが雨降って地固まるってやつ? なあお前、今度来た時はカップ麺頼むぜ! 俺、豚骨のこってりしたやつが──」

 

「「「おいって言ってんだろ! 聞けよ!」」」

 

 

 トガにあっさり振られたトゥワイスが、今度は彼に買って来てほしい物を注文していると、爆豪、死柄木、荼毘の怒声が重なって飛んできた。

 

 

「おいてめぇ! 何で雄英生の癖に敵と仲良くなってんだよああ!? 駄目だろどう考えても!」

 

「お前らも何でそいつと意気投合してんだよ。そいつ俺達の敵だぞ、一応は殺害対象なんだぞ? 談笑してる場合じゃねえんだよ」

 

「てめぇら、信用出来ない相手とさも当然の如く飲み食いしてる場合かよ……ステインが切っ掛けでここに来たはずなのに何してんだ。ステインが刑務所で泣いてるぞ」

 

 

 爆豪も死柄木も荼毘も、どうやら今の状況に着いて来れていないらしい。とてもピリピリしている。

 

 ひょっとしてお腹が空いているのだろうか? そんな堅苦しい事言ってないで、お菓子でも食べて落ち着いてほしいところだ。もう対立はとっくの昔に終わっているというのに。

 

 

「お菓子食ってる場合じゃないんだよ! てめぇ、敵連合と連んで何がしてえんだよ!? 裏切る気か!」

 

 

 大丈夫、そんなつもりは毛頭ない。爆豪が思っているような事にはならないので安心してほしい。彼はそう言って爆豪を宥める。

 

 そもそも彼からしてみれば、ヒーローも敵もそこまで大差がある存在ではない。ここにいる人達は確かに犯罪者の烙印を押されているが、言ってしまえばそれだけの事。ヒーローや敵である前に、同じ人間、同じ地球人なのだ。

 

 正直言って、たかだか数人殺害したり誘拐したりの程度でそんなに騒いでいたら切りがない。むしろサイヤ人と比較すれば、仏の如く慈悲深い存在と断言出来る。

 

 少なくとも、その星に住む全ての住人を容赦なく鏖殺して、挙句には星ごと破壊して宇宙の塵にするほど敵連合は狂っていない。

 

 

「まあまあ、死柄木もそうピリピリすんなって。俺はもう割り切る事にしたよ。確かにこいつは殺害対象で敵だけど、殺そうとした所でまた返り討ちにされるだけだぞ。さっきの二の舞になるのがオチだ」

 

「荼毘も何をそんなに苛ついてんだ? そりゃまあ、あんだけコテンパンにされて何とも思ってないわけじゃないけどさ?

 でも今の俺達でこいつをどうこう出来るとも思えんし……とりあえず敵意は無いみたいだから、もうそれを信じるしかなくね?」

 

 

 コンプレスが死柄木を、スピナーが荼毘を宥めようと話し掛ける。

 

 それでも2人はまだ納得していないようで、仲間の説得に対して苛立ちをぶつけている。とはいえ死柄木と荼毘の言い分も間違っていないので、彼から言う事は何もない。2人の説得はスピナー達に任せるとしよう。

 

 そう思いながら、彼は黒霧、マスキュラーの2人と世間話に興ずる。

 

 

 ──突如乗り込んで来た彼の存在により、紆余曲折ありながらも友達のように飲み食いしながら談笑する敵連合。本来なら世間を騒がす超危険な存在で、警察とヒーローが未だ血眼になって捜索している集団。

 

 しかし、今この瞬間だけは犯罪者ではなく普通の人間として、雄英生と交流を持ち、騒がしい一夜を過ごすのであった。

 

 

「つーかよ、ずっと気になってたんだが、お前どうやってここに来たんだ? お前が良いなら教えて……えっ、瞬間移動? お前ワープまで出来るのか? なるほどなあ、それでここが分かって……はっ? これでいつでもどこでも俺達の所へ飛んで行ける? 嘘だろおい」

 

「私が使うワープとはまた違うようですね。よろしければもう少し詳しく教えて頂けませんか? 同じワープ持ちとして、私も気になって──」

 

 

 

 

 ──彼が敵連合と談笑する様子を、モニター越しに楽しげに見ている者が2人。

 

 

「やけに楽しそうじゃの先生。あの子がやって来た事がそんなに嬉しかったのか?」

 

「まあね。いやはや、彼は本当に面白いよ。まさかあそこまで『ヒーローと敵』という境界線を気にしない子だったなんてね。ユーモアがあって、それを裏付けるだけの実力もある……良いね、益々気に入ったよ。弔にも、あの子の度量とユーモアを少しは見習ってほしいね」

 

「ほっほ! 確かにのう!」

 

 

 2つの悪意は高らかに笑う。

 

 

 




神野事件はスルーします。何故なら主人公にとって、オールマイトのピンチとか引退は割とどうでもいい話だから。
AFOとの戦いの行く末は多少気になるけど、だからと言って変に介入するような性格ではありません。サイヤ人の立場的に、1対1の真剣勝負に水を差すような真似は極力駄目だと思ってます。
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