サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
はてさて、これ今後どのように影響していくのか……。
※投稿が遅れてすいません……。
敵連合のアジトに電撃訪問してから2時間近くが経過した。
「もう夜の10時過ぎたし、今日は家に帰って早く寝ときな!『いーや、夜はまだまだここからだ!』 次来た時は豚骨ラーメン頼むわ!『あっさり醤油味で!』 それじゃ!」
「今日はわざわざここまでご足労頂き、ありがとうございました。お陰様で、とても有意義な時間となりました。またのお越しをお待ちしております」
「そんじゃあまたな。別にいつ来ても構わねーけど、事前に連絡寄越すくらいはしてくれよー」
そろそろ寝る時間なので家に帰る旨を伝えた所、この2時間ですっかり意気投合したトゥワイス、黒霧、マスキュラーの3人が快く手を振って見送ってくれた。
「おい、マジでこのまま帰すのかよ。俺らのいる場所ヒーロー共に言い触らすだろ絶対」
「俺もこいつを何の縛りもなく雄英に帰すのは反対だ。確実に面倒な事になる」
死柄木と荼毘は最後まで機嫌が悪く、談笑してる時に度々不意を突いて襲い掛かってきた。その度に彼のデコピンで1秒と掛からず返り討ちにされていたが。
「そうは言っても、俺達じゃこいつを抑えられねえだろ。こうなりゃ賭けだ、こいつがヒーロー達に情報を漏らさない事を祈ろうぜ」
「弔君も荼毘君も、この子に全然勝てなくて拗ねちゃったのです!」
「「うるせえイカレ女」」
「まあまあ、2人も落ち着きなさいな。気持ちは分かるけど、良い歳した大人がみっともないわ」
「そうだぜマグネの言う通りだ。今更騒いだところでどうにかなるわけでもないだろ。俺の個性もあっさり破られたし……」
スピナー、トガ、マグネ、コンプレスの4人も完全に警戒を解いたわけではないが、飲み食いしながら談笑するくらいには打ち解けた。
今回は思い付きで行動したわけだが、彼としてはとても楽しい時間を過ごせたので満足している。
ちなみに爆豪はというと────。
『あ? 助けは要るのかだって? 要らねーわんなもん! てめぇの助けなんざ無くとも、こんな辛気臭え所なんか自力で脱出してやる! というか、てめぇの手だけは絶対に借りたくねぇ!』
爆豪も死柄木や荼毘と同じく不機嫌なままで、終始話し掛けても真面に取り合ってくれなかった。
それと一応、今夜の出来事は雄英に帰ってから誰かに言いふらしても別に構わない旨を伝えておいた。
『……そうかよ。じゃあ一応、伝えるかどうか考えとく』
伝えたらこのような返事をされた。爆豪はどちらの選択をするのだろう。それは今回の騒動が全て終わってからでないと分からない。
というような事があり、楽しい時間もあっという間に過ぎた午後10時15分。
彼は瞬間移動で発目の家の、発目の部屋の中に飛んで帰った。
「────うわっ! び、びっくりしたー」
部屋に飛ぶと、薄着の恰好の発目がベッドでゴロゴロしている姿が目に入る。
彼が戻って来るまでの間、スマホを弄って暇を潰していた発目は、突如部屋に現れた彼の姿を見てビクッと肩を震わせた。
「やっと戻って来ましたか。全く、こんな夜遅くまでどこをほっつき歩いていたのやら。人様の心配を無下にしないでくださいよ」
だがびっくりしたのも一瞬で、怪我もなく平然とした様子の彼を見て、ほっと安堵の溜め息を吐く。
想定以上に発目を心配させてしまっていたという事実に、彼は少しだけ今回の行動を反省した。そして、今度からは発目の不安を煽るような行動を、発目のいる前で取らないように注意しようと決心するのであった。
「まあ良いです。どこに行ったとか何をしていたとか、それを根掘り葉掘り聞き出しはしません。とにかく無事に帰って来たのなら、私としてはそれで十分ですから」
そう言ってにっこりと笑う発目に釣られ、彼も堪らず微笑む。
何だかんだ言って発目が相手だとつい甘くなってしまう。その事実を彼は改めて自覚した。
「さっ、明日も朝早いんですからもう寝ましょう。でもお風呂には入ってくださいよ? 2時間も外出していたのですから、それなりに汗を掻いていると思いますし」
早寝を急かされた彼は、急いでお風呂に入って体を洗うと、すぐ発目と一緒にベッドで横になった。
そして明日の朝に備え、その日もいつも通り寝た。つい先程まで超危険な場所にいたとは思えないほど落ち着き払った様子で、何事も無かったかのように。
──それから更に丸1日が経った次の日の夜。
『テレビをご覧になっている皆さん、これが見えますでしょうか!? まさに悪夢のような光景! 突如として神野区が半壊滅状態となってしまいました! 現在オールマイト氏が元凶と思われる敵と交戦中!
し、信じられません! 敵はたった1人! 街を壊し、数多のヒーローを追い詰め、平和の象徴と互角以上に渡り合って──』
この日の夜を境に、時代が変わった。
8月初旬、真夏の日差しが容赦なく照りつける猛暑日。
京都府蛇腔市は今日もいつもと変わらない日々を送っていた。
ただし、これまでの日々とは決定的に違う事がある。それは──。
「きゃああああ! だ、誰かー!」
「うああああ! 敵だ、敵が出たぞー! 早くヒーローを呼んでくれー!」
「ぎゃはははは! やった、ついにやっちまったぜ俺達! もう引き返せねぇ!」
「オールマイトが引退したんだ! この機を逃すわけねえよなぁ!」
「助けを呼んでも無駄だよ! 平和の象徴様はもう引退したんだ! 諦めな!」
「よーし、今日から俺達4人がこの街のボスだ! ヒーロー共が来たら片っ端から殺しまくってやろうぜ!」
「「「「おう!」」」」
発目と一緒に病院に向かう道中、誰かの悲鳴と下品な嗤い声、ガラスの割れる音や爆発音が響き渡る。
朝から嫌なものを見たと思った彼と発目は、今まさに銀行の入り口から飛び出て来た4人の敵を冷めた目で見やった。
数日前に会ったばかりの敵連合も同じ敵なのだが、ここにいる4人組と違って連合には品性があり信念と言えるものがあった。それらの有無でここまで印象が変わるのかと彼は内心驚く。
「オールマイトがヒーローを引退してまだ1週間と経っていないのに、この街でもあちらこちらで敵による犯罪が頻発してますね。平和の象徴の影響力は伊達じゃなかったという事ですか」
そう言って溜め息を吐く発目に、彼は静かに首を振って同意する。
──数日前、オールマイトがヒーローを引退した。事の経緯はこうだ。
彼が暇潰しに敵連合のアジトに乗り込んだ次の日の夜、神奈川県神野区にて突如謎の敵が出現し、街を壊滅に追い込んだ。
その敵はたった1人にも拘わらず、その場に居合わせたトップヒーロー達を一瞬で蹴散らし、多くの民間人を虐殺する実力を持っていた。
騒動が加速し報道陣がヘリコプターから街の様子を中継する中、オールマイトが謎の敵と戦闘を開始。激闘を繰り広げた。
だが敵の力はあまりに強大で、オールマイトは徐々に防戦一方となってしまう。更には筋骨隆々のオールマイトがゾンビの様な痩せこけた姿になるなどのアクシデントが発生し、絶対絶命のピンチに追い込まれた。
しかし、そこで折れないのが平和の象徴。何とか持ち直したオールマイトは渾身の力を振り絞り、エンデヴァー達の援護の下、敵との一騎討ちに出た。
それを見た敵も負けじと右腕を肥大化させ応戦。街全体を揺るがし、爆音と突風を巻き起こす激しいぶつかり合いに発展する。
戦いを見守る全ての人が固唾を飲む中、オールマイトが敵の虚を突き、顔面に渾身の一撃を食らわせ雌雄を決した。
瞬間、テレビ越しに聞こえる湧き上がる歓声。家で一緒に戦いを観ていた発目の両親も歓声を上げ、涙ぐみながらオールマイトが勝って良かったと喜んだ。
発目もオールマイトの身を案じていたのかほっと胸を撫で下ろし、彼も心の中でオールマイトに労いの言葉を送った。
だが、戦いに勝利した代償はあまりに大きかった。
オールマイトの弱体化が世間に知れ渡り、そしてオールマイト自身も体力の限界で戦える体ではなくなってしまったのだ。
神野区で起きた大事件。あの日を境に、オールマイトはヒーロー業からの引退を表明、全世界に激震が走った。
以上が数日前に起こった事件のあらましである。
そして今……。
「おのれ悪辣な敵め! オールマイトさんが引退したからと言って、この街で好き勝手出来るわけではないぞ! お前達の悪行はこの俺『スノウマン』が止めてやる!」
「へっ、それはどうかな? 俺達を止めるなんて100年早いんだよー!」
「抜かせ! そう言ってられる余裕も今のう──」
「隙あり! 俺様の最強個性を食らえ!」
「なっ!? い、いつの間に背後へ……!」
「ばーか、油断してるからそうなるんだ! 俺の個性『迷彩』で周囲の風景と同化して移動したんだよ! 後はこいつの個性『手刀』で背中を切ればお終いよ!」
「おら今の内だ、飛び掛かれ!」
平和の象徴として何十年も日本で活躍し、犯罪の抑止力になるほどの存在となっていたオールマイト。その引退の影響は全国に波及しており、現在街の至る箇所で敵が徒党を組んで現れ、ヒーローと日々交戦を繰り広げている。
今も彼と発目が見ている前で、駆け付けたヒーローが銀行強盗を働いた敵に不意を突かれて倒れ込み、4人から滅多刺しにされている。
それを見ていた周囲の人が恐怖に青褪めた顔で一斉に逃げ惑う中、発目が上着の裾をくいくいと引っ張った。
「どうします? 恐らく他のヒーローがすぐ来るはずなので大丈夫だとは思いますが……」
すぐにヒーローが来るのであれば大丈夫だろう。滅多刺しにされているヒーローには気の毒だが、ヒーロー以外の者は戦う事が許されていないのでどうする事も出来ない。
よってここは、病院への近道を諦めて大人しく遠回りする迂回ルートを通って行くしかない。下手に首を突っ込んで騒動を大きくするのも面倒臭いし、そもそも興味がない。
彼は終始冷めた目で4人組の敵を見ながら、別の道を迂回して行こうと言った。それを聞いて、倒れ伏したヒーローを見る発目の表情が一瞬悲しげなものになったが、すぐいつも通りの表情に戻った。
……流石の発目もショッキングな光景を目の当たりにして、胸を痛めているのだろうか。
そんな疑問を抱いていると、ヒーローを瀕死の重傷に追い込んだ4人が突如こちらに接近して来た。
「おい、こいつ痛め付けるのも良いがそろそろずらかるぞ! 他のヒーローがやって来る!」
「金は持ったな? 走れ走れ!」
「邪魔する奴はぶち殺す!」
「ひゃっはー! 最高の気分だ……ん?」
強盗達が逃げた先はよりにもよって、今まさに別の道から病院へ行こうとしていた2人のいる方向。それに気付いたお互いの目が合った。
瞬間、向かって来た敵が個性を発動して襲い掛かる。
だが……。
「邪魔だつってんだろ! どけやこの──ぽぇ」
「ガキ共が! 切り刻んで──ぷぎっ」
「死ね! ゴミカス野郎が──ぺぎょ」
「俺様の最強個性を食ら──ぴぎゅ」
たった今強盗を働き逃げようとした4人の敵は、彼の一撃で全員もれなく蹴飛ばされ、情けない声を出しながら建物の壁にめり込み気絶した。
隣でその様子を見ていた発目が溜め息を吐き、気絶した4人に呆れた目を向ける。
「……オールマイトのヒーロー引退で、これから先もあんな輩に絡まれるとかキリがないですよ。何とかならないものですかねぇ」
確かにそれはそう。相手が強いのであれば話は別だが、今みたいな事がこれからも繰り返し起こるのは流石に勘弁してほしいところだ。鬱陶しくて仕方がない。
オールマイトがヒーローを引退したので、次のNo.1ヒーローは繰り上がりでエンデヴァーになる。轟焦凍や荼毘の件があるが、何とか乗り越えて頑張ってもらいたい。もちろん他のトップヒーロー達も同様に。
「で、どうします? この人達、このまま放置するのは不味いのでは? 応援に来たヒーローと警察に事の経緯を説明しないといけませんし……」
面倒臭いから早く行こう。それに殻木が研究室で待っている。これ以上待たせては申し訳ない。
そう言って居残ろうとする発目の背中を無理やり押して、現場を後にする。発目がかなり不安そうな表情をしているが、ヒーローらしき気の持ち主が複数こちらへ向かっているので問題はないだろう。
混乱渦巻く状況になりつつある世の中で、自分達には関係ないと他人事のように考える彼は、たった今倒した敵を放置して別の道から蛇腔病院へ向かうのだった。
──その数分後、応援に駆け付けたヒーロー達が現場の有り様を見て、その不可解な状況に首を傾げた。
「おい、スノウマンが倒れてるぞ! かなり酷い出血だ! 傷も多いし深い! 救急車急いで! 早く!」
「敵は複数人と聞いたが……傷跡から見るに、恐らく不意打ちを食らってやられた感じだな。まだ近くにいるかもしれん、手分けして探そう!」
「おーい皆、こっち来てくれ! 人がマンションの壁にめり込んでるぞ!」
「本当だ、4人とも見事に壁にめり込んでるな。全員気絶してるが……敵にやられた一般人か?」
「いや、よく見ろ。こいつら全員武装してるし、持ってる鞄の中身は大量の札束だ。多分、この4人が強盗を働いた敵だよ」
「えっ、それじゃあ誰がこの4人を倒したんだ? 通りすがりのヒーロー……じゃあないな。ひょっとして一般人か? 襲われそうだったから反撃した的な?」
「かもな。まあ何にせよ、こいつらも病院に連れて行くぞ。目を覚ましたら事情聴取して、誰にやられたのか聞けば良い。目撃者もいるからすぐに分かる事だろう」
「とりあえず事件当時の状況を目撃者に聞いて回るか。手分けして行こう」
こうして現場に駆け付けたヒーロー達の協力により、騒ぎの鎮静化や目撃者からの事情聴取などが行われ、事件の後処理はスムーズに進んだ。
敵に滅多刺しにされたヒーローも何とか一命を取り留め、奪われた金も無事全額回収する事に成功し、その結果に皆が安堵する。
だが1つだけ問題があった。4人の敵を倒した相手が誰なのかが分かっていない事である。
病院で目を覚ました敵は、当たり所が悪かったのか倒される直前の記憶がすっぽり抜けていて全く情報を得られず。
現場にいた人達も、敵が逃走する際に個性で無差別に攻撃しようとしていた事もあって、全員現場から避難していたという。つまり誰も敵が倒される瞬間を目撃していなかったのだ。
街中で起きた強盗事件で、周囲の注目を集めていたにも拘わらず、まさかの目撃者ゼロという信じられない調査結果に、誰もが目を剥いて驚いた。
その後も敵を倒した謎の人の調査が1週間ほど進められるが、事件が既に解決している事や得られる情報がどれも曖昧だった事もあって、結局分からず仕舞いのまま調査は打ち切りとなった。
それから更に時は経ち、神野事件から2週間が過ぎた頃。
現在、発目の実家には微妙な空気が漂っていた。
「「「「………………」」」」
彼と発目、そして発目の両親が並んでソファーに座り、テーブルを挟んだ向かい側に担任のパワーローダー先生が1人用のソファーに腰掛けている。
色々な書類を持ち込んできたパワーローダー先生は、向い側に座る4人、特に彼と発目の2人を神妙な面持ちで注視しており、幾度となく深呼吸を繰り返しては溜め息を吐いている。
そうして両者沈黙の状態が続く事数分、パワーローダー先生がようやく口を開いた。
「……えー、お久しぶりです発目夫妻、担任のパワーローダーです。本日は雄英高校がこの夏から全寮制に変更した事について、そのご案内とご説明をするべくそちらのご自宅にお伺いしました。
つきましては早速、明さんの寮生活について詳しい資料を渡そうと思うのですが、その前に1つだけこちらからの質問良いですか? ……どうして私の生徒がもう1人、ここにいらっしゃるのでしょうか?」
「「「………………」」」
質問に誰も答えない。否、答えられない。
この空気の中では、流石の彼も思う所があるのか口を開こうとしない。むしろパワーローダー先生の視線から意図的に目を逸らし、素知らぬ振りをしている。
だがこのままでは話が進まないので、観念した彼は大人しく発目の実家に居候している経緯を説明した。
「……マジか、マジかお前。いやまあ、治療液の共同開発の話はリカバリーガールから粗方聞いているから、お前が京都にいる理由は理解出来る。一応雄英としては、2週間前の事件もあるから夏休み中の外出は控えてほしいし、そうするよう全校生徒に伝えたんだけどな?
でもまさか、ねえ……いくら仲が良いとはいえ異性の、それも年頃の女の子の家に毎日寝泊まりってお前……。まあホテルに外泊とかじゃなくて、友達の実家に泊まっているだけまだマシ……なのか? 一応聞くけどさ、間違いとかは起こってないよな?」
少なくともパワーローダー先生が心配しているような事にはなっていないので大丈夫だ。
確かに夏休み初日から発目の実家で毎晩寝泊まりしているが、特段これといった出来事はない。家族と一緒にご飯を食べて、発目と同じベッドに入って眠りに就く。色々と危ないと思うかもしれないが、実際はそうでもないのだ。
「おう、そうか……もうそこまで深い関係になっていたとはな。先生驚いたよ、驚きすぎてツッコむ気力も無くなったよ。どうやらご両親も公認しているっぽいし、だったらもう俺から言う事は何もない。
お前は経済力もあるし社会的責任を負う能力も……まあそれなりにある。そこまで備わっていれば、余程の事が無い限り大丈夫だろう。男としてちゃんと責任を取って、発目を幸せにしてやるんだぞ? 分かったな?」
駄目だ全然分かっていない。やはりとんでもない勘違いをしている。百聞は一見に如かずとはまさにこの事か。
納得した様子で頷くパワーローダー先生を見て、1人の説明だけで先生の勘違いを正すのは難しいと判断した彼は、隣に座る発目に助太刀を求めた。
「安心してくださいパワーローダー先生! 先生が心配しているような事には決してならないので! この人には毎晩優しくしてもらってますから、私も安心して身を委ねられるというものです!」
「そうかそうか、それを聞いて安心した……何となくだけど、子を持つ親の気持ちを理解出来た気がするなぁ」
……ここから誤解を解くのはもう無理な気がする。下手に弁明すればするほど、徐々に外堀が埋められていく感じだ。
発目の両親は先程からずっとニコニコと良い笑顔を浮かべて何も言わない。パワーローダー先生は感極まったのか若干涙目になっている。
ふと隣に目をやると、誤解を招く発言をした発目が不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。その表情で、先程はわざと先生を勘違いさせる発言をしたのだと察した。明らかにこちらの反応を楽しんでいる。完全にしてやられた。
やはり発目は発目だったと、心の中でそう思った彼は今一度この状況をどうしようかと暫し考え……開き直る事にした。
経緯はどうあれ、周りの人がここまで喜び涙ぐむ中で、1人だけずっと否定し続けているのが何だか馬鹿らしくなってきたのだ。思考を放棄したとも言う。
「あれ、急に笑顔になってどうしたんですか? さっきまで真顔だったじゃないですか! 一体どうし……えっ? 何故に私の肩を掴んで……わわっ!? ちょっ、いきなり抱き寄せてくるとかびっくりしま……あの、ひょっとして怒ってます? 先生の誤解を招く説明をした事、根に持ってます?
すみません、出来心で軽はずみな発言したのは謝るので、そろそろ離してくれるとありがたいというか、家族にこれを見られるのはちょっと恥ずかしいというか……あの、聞いてます? あのー……」
焦り出した発目が何か言っているが無視。これくらいの
そして、皆に見られているという羞恥心に耐え切れなくなった発目が、頭を下げて謝るのは5分後の事だった──。
パワーローダー先生が発目の実家にやって来た日から更に4日後。
蛇腔総合病院の研究室内にて。
「……では、行きますよ?」
緊張した面持ちの発目が発した声に、彼と殻木の2人がゴクリと喉を鳴らして頷く。
2人の合図を確認した発目は手にした試験管を傾け、その中に入っていた翡翠色の液体を実験用のマウスにそっと数滴垂らした。
実験用のマウスの皮膚には切り傷が入っており、僅かに血が滲み出ている状態。
そんなマウスの傷口近くに垂らされた液体が、傷口に触れた瞬間──。
「……お、おおおおおおー!」
「こ、これは想像以上じゃわい!」
発目と殻木が感嘆の声を上げる。彼も2人と同様、目を見開いて驚嘆した。
液体に触れた傷口は、まるでビデオテープの逆再生の如くみるみる内に引いて行き、数分程度で傷口は塞がれほぼ完治したのだ。
いくら自分達で開発を進めてきたとはいえ、この光景を目の当たりにして驚かずにはいられない。
「いやあ、遂にここまで来ましたねぇ! やっと完成の兆しが見えてきたかと思います!」
「いかにも、発目君の言う通りじゃ! ようやく万能治療液の実現が現実味を帯びてきたわい! 取りあえず、マウスを使った軽い怪我の治癒には成功したのう」
そう、夏休みの課題であるメディカルマシーン実現に最も必要な存在、万能治療液の開発がいよいよ現実の物となり始めたのだ。
最終的には、四肢欠損や内臓破裂等の生死に直接関わるレベルの大怪我も完治出来るようにするのが理想。現段階ではまだそのレベルに至っていないが、それでも軽い傷程度ならごく短時間での完治を可能にするほどだ。
研究開発の開始からそれなりの日々を過ごしたが、ここに来てやっと大いなる目標に近付く事が出来たと言えよう。
実験用のマウスは傷が浅かったとはいえ、信じられない速度で治っていく光景を目にした彼は、そう思いながらいきなり左腕の袖を捲り上げた。
「えっ、急に腕を捲ってどうしたのですか? まさかとは思いますけど……」
「今使った開発途中の治療液を、今度は君自身の肉体で試すつもりなのか? いやまあ、確かに気になるが……」
その通り、勿論である。
最終的に人に使っていく物なので、人の肉体に効果がないと意味がないのだ。マウスでは成功したが、果たして今の段階で人体にどの程度の影響を及ぼすのか。
興味は尽きない。どうしても気になる彼は、手に持ったメスを気で強化して切れ味を格段に上げると、左腕に薄皮一枚程度の軽い切り傷を入れた。
「「あっ!?」」
発目と殻木が声を上げるも時すでに遅し。
メスによって入れられた傷口から、じんわりと彼の血が滲み出てくる。2人は心配そうに彼を見やるが、当の本人にはこの程度の傷など何ともないので心配は要らない。
とはいえ、垂れ落ちた血が床やテーブルに散らばると後々の掃除が面倒になるのは必至。彼は近くの棚から空のビーカーを取り出すと、そこに垂れた血が溜まるようテーブルに設置した。
そして治療液の入った試験管を取り出すと、ほんの数滴だけ傷口に垂らし経過を観察する。
すると、治療液を垂らして数分で傷口が塞がり始めた。
「お、おお……! 傷がどんどん塞がって……どうやら人体にも問題無いようですね」
「ふう、久々に肝を冷やしたわい。全く、いきなり自分で自分の体に傷を付けるとは。少しは躊躇というもんを覚えたらどうじゃ?」
「本当ですよ。それに今回は何も起こらなかったから良かったものの、人体に対して強烈な拒絶反応を起こす欠陥とかが治療液にあった場合、大変な事になっていましたからね?」
成功してほっと安堵したのも束の間、すぐさま心配した2人に詰め寄られた。
確かに今の行動は下手したら大変な事になっていたが、それでも好奇心の方が勝ってしまったし、結果的に上手くいったので多めに見てほしい。
しかし2人の言い分も正しいので一概に否定は出来ない。肝に銘じておくとしよう。
「おっと、そうこうしている内にもうこんな時間か。研究に没頭すると時間の進みもやけに早く感じるのう。2人とも、そろそろ時間だから今日はもう帰りなさい。また明日……と言いたい所だが、明日から中々来れなくなるんじゃったか?」
「ええ、そうです。雄英が明日から本格的に全寮制に移行するので。まあ流石にあんな大事件が立て続けに起これば、雄英の決断も仕方ないとは思いますけどね」
──パワーローダー先生が発目の実家に訪問したあの日、全寮制について詳しい説明を受けた彼と発目は、せめて治療液が完成するまでは発目の実家に居残りさせてもらえないか頼み込んだ。
だが、今回ばかりは雄英も譲れなかったらしく、彼と発目の要望は聞き届けられず却下。寮生活は確実なものとなった。
しかし、今までの頑張りは先生も雄英も知っており、それに免じて土・日・祝日は特別に蛇腔総合病院に行って研究しても良いと言われた。
よって、これからは毎日ではなく週に1回のペースで病院へ行く事になる。正直、殻木には申し訳ないと思っている。
「いやいや、そんなに気にせんで良い。今回ばかりは仕方なかろうて。ほっほ!」
そう言ってもらえるとありがたい。殻木の度量の大きさに感謝だ。
それに、ここまで研究開発を進めてきたのだから、何としてでも完成まで持って行きたいのだ。研究をあっさり終わらせる事などあってはならない。
そんな事を思いながら荷支度を済ませた彼は、殻木に挨拶して発目と一緒に研究室を後にした。
明日からは雄英で新たな生活が始まるので、朝早く起きて発目と一緒に新幹線に乗る必要がある。その途中で彼の実家にも一回寄る予定だ。集合時間は午前中なので、かなり急いで行かないと間に合わないだろう──。
「────帰ったか。ふう、今日もワシにしては随分とまあ真面目な研究に没頭したのう。まあ、あの子達とやる研究は面白いし楽しいから文句はないが……それよりも、だ」
2人が帰り、ただ1人研究室に残った殻木。
普段の朗らかな雰囲気からは想像もつかないほど邪悪な笑みを浮かべ、テーブルに置かれた『ある物』に目を向けた。
「ふふ、まさか最後の最後でこんな素敵な置き土産をくれるとはな。彼には感謝してもしきれんわい」
殻木の視線の先にあるのはビーカー。何の変哲もないただのビーカーだ。
ただ1つ特徴を上げるとするなら、そのビーカーの底には血が溜まっているという点だろう。先程、治療液の性能を確かめるために自ら傷を付けて垂らした
殻木は思わずほくそ笑む。
「……神野の戦いでオールマイトに負け、先生が捕まった時はかなりショックを受けたものじゃ。だが、運はまだ我々に味方してくれている。その証拠に、彼の血が思わぬ形で手に入った!
オールマイトを軽く凌駕する身体能力、エンデヴァー以上の超火力、ホークスよりも素早く緻密な飛行性能、他にも数え上げたら切りがない! よし、この血は地下に持ち帰って早速研究じゃ!」
彼の血が入ったビーカーにしっかりと蓋をして台車に乗せると、間違っても落とさないよう慎重に運搬する。
しかし、慎重過ぎる行動とは裏腹に、殻木改めドクターの気分は非常に高揚していた。
「彼が本当はどんな
悲報:ヒロアカのラスボス、主人公と1度たりとも出会う事なくオールマイトに倒されタルタロスにぶち込まれる。