サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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本気を出したらどのくらい強いのかと発目に聞かれ、期待に応えるべくノリノリで気を全力開放する主人公。
雄英どころか地球そのものが割とピンチになっているこの状況、世界各地でどのような影響を齎すのだろうか……。

※ぼっち・ざ・ろっくとチェンソーマンずっと見てて全然書いてませんでした。1ヶ月空いて申し訳ない……。


第29話 面会希望者

 現在、雄英高校はかつてない規模の危機に直面していた。

 

 

「いやああああ! ぎゃああああああ!」

 

「うわっ、うわああああっ! 地面割れてる! 揺れてる!」

 

「どうにかして寮に入り……って危なっ!? 窓ガラス割れて落ちてきたんだけど!?」

 

「か、風強すぎぃぃぃぃ! どっかに捕まってないと飛ばされちゃう……!」

 

「あっ、木が! 木があり得ないくらい曲がってる! これ折れないよね!? 折れたら確実に吹っ飛ばされるんだけど!?」

 

「というか空めっちゃ暗くなってない!? 雷の音もヤバいんだけど!?」

 

 

 突如始まった地面の大きな揺れを皮切りに、大気は震え、建物の窓ガラスは割れ、空には巨大な雷雲が発生し、突風が木々を激しく揺らす。

 

 1分にも満たない短い時間の内に、一瞬にして地獄絵図と化した雄英校内。この未曾有の大災害に、1年H組の寮では阿鼻叫喚の巷と化していた。

 

 それどころか、既に校内の至る箇所で数えきれないほどの被害が出ており、その勢いは留まる所を知らない。これには流石のクラスメイト達も冷静さを保つのは無理だった。

 

 それは当然、その場にいたヒーロー科の緑谷達も同様である。

 

 

「あわわわわわ……! う、麗日さん、飯田君、そっちは大丈夫!?」

 

「こっちは大丈夫! それよりもデク君、これの揺れってひょっとして……」

 

「本物の地震じゃないのは間違いないと思う。ただの地震にしては明らかに災害の規模が大き過ぎる」

 

「つまりはこれが彼の本気で、この未曾有の大災害はそれによって発生した弊害というわけ……おっと! 危ない、危うく割れた地面の間に落ちる所だった」

 

 

 荒れ狂う暴風に飛ばされまいと近くの大木にしがみ付き、割れる地面やガラスに気を付けながら、状況を分析して何とか冷静さを保とうとする。

 

 サポート科と違い、日々の訓練で緊急時に対する行動が早いヒーロー科。そこは訓練の成果が発揮出来ているのだが、それでもこの様な状況に陥るとは思っていなかった。

 

 それもそのはず。サポート科の彼が強いという事は身に染みて理解している緑谷達だが、3人のみならず殆どの人がオールマイトに近い実力を持つ同級生、という認識を持っていた。いくら強いとはいえ、オールマイトには流石に及ばないだろうと。

 

 だからこそ彼が本気を出す際、寮から離れた場所に移動すると言った時は、別にそこまで慎重になる必要は無いのに、なんて事を思って内心苦笑していた。

 

 そこから来る予想と現実の落差は、緑谷達に確かな衝撃を与えた。

 

 そしてその衝撃は、緑谷達のみに留まらない。

 

 

「────えっ、なにっ!? 何なの!?」

 

「じ、地震!? ヤバいよこの揺れ、皆どこかに掴まって! 早く!」

 

(揺れと共に感じる異常なまでの威圧感、連合のアジトで経験した常に背後を取られているかの様な緊張感……間違いねぇ、やつだ! 何故かは知らんが、とにかくあの金髪野郎が原因に違いねぇ!)

 

 

 必殺技の開発に専念している1年A組の生徒達が、突如始まった揺れと轟音に戦慄し狼狽える。

 

 その中でただ1人、爆豪だけはこの揺れの原因に即座に当たりを付けていた。

 

 

「────な、なんだいこの揺れは!?」

 

「これは……地震? いや、地震にしては……はっ! リカバリーガール、今はとにかく身を守らないと! 私の事は良いのでお先に机の下に隠れて……」

 

「そう言うあんたの方こそ、もう少し自分の体を労りなさい! 私の事は私で何とか出来るよ!」

 

 

 1年A組の全員にアドバイスして回り、神野事件で負った怪我の治療で保健室を訪れていたオールマイトと、触診していたリカバリーガール。

 

 保健室にいる2人も、突然の揺れに驚きつつもすぐに気持ちを切り替えて冷静に対処する。その対応の早さは生徒達の比ではない。

 

 

「────根津校長! これは一体……!?」

 

「わ、分からない……ただ物凄い規模の揺れだよこれは。皆、揺れが収まり次第手分けして校内を回るんだ! 生徒達の安全確保を最優先に!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 職員室内でも謎の大揺れに困惑していた。

 

 幸いにも全員がプロヒーローという事もあり、対応の早さは目を見張るものがあったが、それでも動揺は隠し切れない。

 

 雄英高校の校舎は頑丈な作りになっているため、揺れに耐え切れず校舎が倒壊する事態にならないのが不幸中の幸いだろうか。

 

 

「────あれ、揺れてる? 気のせいかな? 今微かに感じたよう…………なっ!?」

 

「ホ、ホークス! 地震や! しかもこの揺れかなり大きか……!」

 

(それだけじゃない! 今確かに感じた、気が付けば命を握られているかの様な、背筋が凍る感覚! 他の皆は感じていないのか? ……何だ、一体何が起こっているんだ!?)

 

 

 九州の事務所内で、その日の活動の報告書を作成していたホークスやサイドキック達も、突然の大揺れに困惑する。

 

 街では道行く人々がパニック状態に陥っており、パトロール中のヒーローが必死に声を掛けながら、市民の心を落ち着かせようと尽力する。

 

 そうしてヒーロー含む大勢の人々が大きな揺れに慄く中、ホークスだけは原因不明の悪寒を感じ取り戦慄していた。

 

 

「────うおおおおおおおおおっ!? 何じゃこの揺れはーっ!? えっ、地震!?」

 

「わ、わわっ、わわわっ!? と、弔君、これかなり大きな地震ですよ!? これってかなりヤバくないですか!?」

 

「スピナー、トガ、2人とも落ち着け。今回の相手はヒーローじゃなく自然。こういう時こそ冷静に動ける奴が自然災害では生き残って────痛ってぇぇぇぇ!?」

 

「だ、大丈夫ですか死柄木弔!? 今コップが勢い良く後頭部に落ちましたが……その、お怪我はありませんか?」

 

「く、黒霧お前……これ見て大丈夫な様に見えるかってんだ! くっそ痛ぇな畜生……!」

 

「しっかし急に地震とはなぁ……確かに地震は多い国だけどよぉ、こんな大きな揺れは生まれて初めてだぜ」

 

「マスキュラーも筋繊維でガードしてるからって、随分呑気だな……今そんな事言ってる場合じゃないだろうに」

 

「揺れが来るなり自分だけビー玉の中に閉じ籠ろうとした奴に言われたくはないな」

 

 

 日本国内、某所。

 

 とある山地の奥に位置する小さな建物の中に潜伏している敵連合のメンバーもまた、突如起こった巨大地震に慌てふためいていた。

 

 連合の何人かは全国各地に散らばってこの場にはいないが、それでも死柄木達と似たような反応をしていた事をここに明記しておく。

 

 

「────ななな何じゃ!? い、いきなり地震じゃと!? これはいかんぞ、何としてでもあの子の血だけは死守せねば!

 昨日とんでもない真実が判明したばかりだというのに、こんな所で貴重なサンプルを失うわけには……!」

 

 

 京都府蛇腔市、蛇腔総合病院。その病院の地下に秘密裏に存在する謎の施設。

 

 病院の理事長である殻木ことドクターはその地下施設内で、大きな揺れに動揺しつつも最近手に入れたばかりのサンプルを全力で死守していた。

 

 頑丈なジュラルミンケースの中に少量の血が入ったビーカーを保管し、それを更に頑丈な金庫へ移し丁重に収納する。

 

 その徹底した丁寧な扱いには、これだけは絶対に失わないというドクターの執念めいたものが感じ取れた。

 

 

「────なっ!? こ、これは一体!?」

 

「……今やって来た謎の威圧感、一瞬ゾクッとしたな。何かあったのか?」

 

「あっちの方角の遠い位置から来たように感じたが……この方角は日本か? いやでもまさか、仮に日本で何かあったとしても、ここから向こうまで10000km以上は余裕で離れてるしな。流石に無いか、なあスター?」

 

「……さあ、今は何とも。でももし日本で何かとんでもない事が起こって、その影響がここまで来たのなら、私達はこれを無視する事は出来ない。何たって(マスター)の身に危険が無いか心配だ」

 

「つい最近ヒーローを引退したってニュースでやってたしな。あれには心底驚いちゃったよ」

 

「それな!」

 

 

 大海を越え、日本から遠く離れた陸地にある大国。

 

 その国のとある軍事施設内でも、幾人かは日本からやって来た正体不明の気配を敏感に察知し、警戒心を強めていた。

 

 日本で今何が起こっているのか。事態をまだ把握出来ていない彼らが数分後、海を越えて押し寄せて来た揺れに戦慄したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 ────こうして、彼が本気で気を解放した事により、僅か数分の間で雄英どころか世界中が文字通り震撼していた。

 

 揺れる地盤、震える大気、響く轟音、吹き荒れる暴風、辺りを暗く染める雷雲、波立つ海面。

 

 この世の地獄、世界の終わり。そう表現するのが相応しいまでに阿鼻叫喚と化した地球でただ1人、発目はその様子を遠目から呆然と眺めていた。

 

 彼が降り立ったであろう市街地の試験場はもはや街の面影すら無く、綺麗さっぱり更地と化している。周辺の山々は土砂崩れを起こした事で山の原型を失い、道路は上空から降って来た稲妻により真っ黒な焦げ跡と抉られた跡が目立つ。

 

 発目にだけこっそり気のバリアを張るという彼の気遣いにより、他の人と違い発目だけは周辺の景色が崩れていく様子を落ち着いて観察する事が出来ていたのだが、それ故に受けた衝撃は大きかった。

 

 そうして彼が全力で気を解放して数分、ようやく揺れが収まり雷雲も晴れた頃には世界が荒れていた。

 

 それを見て発目が一言。

 

 

「……あっ、これヤバいやつですね、はい」

 

 

 思考停止した。

 

 

 


 

 

 

 翌日、正午を少し過ぎた頃。

 

 

『昨日の午後4時半頃に発生した巨大地震ですが、この地震による揺れは全国各地で非常に強い震度を観測しており、各地で様々な被害が報告されています。

 特に震源地のすぐ近くだった雄英高校では、数々の施設の窓が割れたり一部建物が倒壊したりなど、他の地域よりも甚大な被害を受けています。そして地震による影響がアメリカにまで及んでいた事も先程判明しており────』

 

『先月末の敵連合による襲撃と今月初めに起きた神野事件を重く受け止めた雄英は、2日前から急遽全寮制に変更してより強固に生徒達を守る体制を整えていました。

 しかし、新たなスタートを切った矢先に今回の地震。悪意なき災害とは言え多大な被害を被った雄英に、早くも世間では懸念の声が広がっています。更には────』

 

『不幸中の幸いと言っては何ですが、今のところ死者が1人もいないのがせめてもの救いでしょうか。負傷者は多数いるものの、それ以上の人的被害がゼロなのは奇跡的と言えるかもしれません。

 しかし地震による被害はやはり大きく、この混乱に乗じて更に敵の活性化が進むだろうという声もあります。これもオールマイトがヒーローを引退した事による影響が出ているのでしょうか? そう思っても仕方がないと言えるまでに────』

 

 

 現在、どのテレビ局でも昨日の夕方に発生した謎の巨大地震の話題で持ち切りだった。

 

 日本全国で揺れが確認された今回の地震は、過去の地震と比較しても非常に大きな規模であり、その影響は太平洋を越えてアメリカにまで及んでいたという。特に震源地のすぐ近くが雄英高校だった事もあり、世間的にもその注目度は凄まじいものである。

 

 一部では、これもオールマイトがヒーローを引退した後の不穏な社会を指し示しているに違いないというオカルトめいた話が盛り上がっている。だが、少なくとも今回の地震による被害が今後更に社会を混乱に導く要因になる可能性は高く、非論理的なこの話もあながち間違いとも言い切れない。

 

 そんな歴史的な大地震となった昨日の出来事だが、これがまさか人為的に引き起こされたものであるとは、流石の世間もマスコミも知らない。

 

 そして今、急ピッチで修繕作業が行われている雄英高校の校長室では、根津校長を筆頭に雄英の教師陣が一堂に会しており、テーブルを挟んだその正面に生徒が1人座っていた。

 

 今回の地震の原因、地震そのものを引き起こした張本人である。

 

 

「……さて、君に来てもらったのは昨日の地震の事でなんだけど……何か言う事はあるかな?」

 

 

 落ち着いた様子で話を切り出した根津校長に、彼は席を立つと腰を直角に曲げて深々と頭を下げた。

 

 申し訳ございませんでした、という謝罪の言葉が異様に静かな室内に響き渡り、それを耳にした教師達の目付きが鋭くなる。

 

 そして数十秒間の沈黙の後、根津校長が再び口を開いた。

 

 

「……頭を上げて。とりあえず、君からの謝罪の言葉はちゃんと受け取ったよ。どうしてここに呼ばれたのか自覚はあるみたいだから、このまま話を続けるね。

 まずは確認だけど、昨日の大地震は君が原因で起きたもので間違いないかい?」

 

 

 校長の問い掛けに彼はゆっくりと首を縦に振った。

 

 昨日の夕方、発目に本気を見せてと懇願された彼は今の実力を見せるべく、雄英の敷地内で全力で気を開放した。

 

 超サイヤ人に変身してもなお上昇し続ける戦闘力。その膨大過ぎる気の圧力に地球が耐え切れなくなった結果、地震という天変地異で世界中に影響を及ぼしてしまったのだ。

 

 これが昨日起こった事の全貌であり、たったの数分で雄英は壊滅的な被害を負った。

 

 彼はこれらの事を詳細に説明した。

 

 

「……なるほど、そういう事だったんだね。うん、よく分かったよ」

 

 

 説明を聞いて校長は二度三度頷きながら、他の教師達と何か意思疎通をしているかの如く目を合わせる。

 

 一体教師陣が何をどう思っているのかは分からない。だが少なくとも、こちらに対する警戒心はグッと高まったに違いない。彼はそう思った。

 

 事実、教師達も彼の底知れない力を身を以て理解し、内心ではかなり肝を冷やしていた。たった1人で世界中に影響を及ぼす程の大地震を引き起こした桁外れの力を。

 

 あの体のどこにそれ程のエネルギーが秘められているのか、どうやってそれ程の力を手に入れたのか。とても信じられない事で、出来る事なら信じたくなかったし夢であって欲しかった。しかし、現実は非情である。

 

 もはや教師達の心に、彼に対する怒りの感情は残っていなかった。あまりにも次元が違い過ぎる力を前にして、一周回って冷静になっていた。

 

 あのオールマイトよりも強いという事は薄々勘付いていたが、百戦錬磨の教師達でもここまで想定を遥かに超える強さとは夢にも思わなかったのだ。

 

 だからこそ、一旦話し合う必要があった。

 

 

「……ちょっと、こちら側で色々と話し合いたい事があるから、今日の所はここまでにして君は寮に戻ってくれ。今後の君の処分とか、そういう込み入った話はまた後日という事で」

 

 

 それから数回の質疑応答の後、校長に促されるまま彼は寮に戻って行った。

 

 

 

 

 ────彼が退室した後の校長室では、残った教師陣が意見を交わし合っていた。

 

 

「先程、ヒーロー公安委員会にも事情を説明したよ」

 

「……どうでしたか?」

 

「今回の出来事は絶対に世間に漏れ出ないよう、何が何でも情報を秘匿しろとの要請が来たよ。とりあえず、事情を把握している生徒達には箝口令を敷いておいた。

 公安の方でも、事実が明るみに出ないように徹底した情報統制を行うみたいだ」

 

 

 重苦しい雰囲気の中、校長から伝達された公安からの回答に教師達の表情が一層暗いものとなる。

 

 シンと静まり返った室内で全員が頭を悩ませていると、隣に座る相澤が溜め息を吐きながらも口を開いた。

 

 

「……まあ、今回は事情が事情だけに、そうなるのも仕方がないですよ」

 

「……珍しいわね。イレイザーがそんな事言うなんて。こういうの絶対反論すると思ってたわ」

 

「そりゃいつもならそうしてますよ。この前の体育祭の件で、公安のやり方は合理性に欠けると思っていましたから。

 でも仮に事実を公表したらそれこそ日本、いや、世界中で収拾の付かない混乱が巻き起こります。たった1人の人間が数分足らずで世界を崩壊寸前に追い込んだなんて、そんなの誰が予想出来ます? 事実が明るみに出れば、間違いなく世界中で彼を巡っての争奪戦が勃発するでしょうね。ヒーローと敵、その区別関係なく」

 

「「「「……………………」」」」

 

 

 淡々と、努めて冷静に、事実を公表した場合に起こり得る事態を語る相澤の言葉に、それは違うと反論する者は誰もいなかった。

 

 想像を絶する巨大過ぎる力は、周りから冷淡とまで揶揄されるほど冷静沈着なヒーローの意見すら、いとも簡単に捻じ曲げたのだ。

 

 そして、事実を公表せずに情報を徹底して秘匿するという事は、つまり今回の騒動における元凶の彼は何のお咎めも無し、というよりも不可能に近いという事を意味している。

 

 いつどこで情報が漏れ出るか分からない現代において、下手に厳正な処罰を下しては情報漏洩のリスクを高めるだけ。敢えて何もしない事で真実を隠す方法を雄英と公安は選択した。

 

 そもそもの話、仮に厳正な処罰を下した所で元凶には何の効果もない事は言うまでもないだろう。

 

 

 


 

 

 

 結局、何のお咎めもなくいつも通りの学校生活を送るようにパワーローダー先生から言われた、その数日後。

 

 夏休み最終日となった今日。ヒーロー科1年のA組・B組は雄英高校にいない。

 

 ここ数日は幾人ものヒーロー科が工房を訪れていたのでいつもよりずっと騒がしかったのだが、今日は閑散としていて手も空いている。

 

 それもそのはず、本日はヒーロー仮免許試験の当日。そのため、どちらの組も全国のヒーロー科の生徒達が集まる受験会場に赴いている。

 

 通常のカリキュラムなら仮免許を取得するのは2年生になってから。しかし、今年に入ってから幾度にも及ぶ敵連合との接触を許すという失態を犯した雄英は、少しでも早く生徒達に自ら防衛出来る術を持たせるため、カリキュラムを前倒しして試験を受けさせていた。

 

 夏休み中に行った圧縮訓練もそのための準備であり、コスチューム改良や必殺技の開発もそれに繋がるものである。

 

 試験自体は難しく、仮とはいえ合格率は例年5割を下回る。それでも合格したら晴れてセミプロ、緊急時に限り自身の判断で個性の使用が許可されるようになるので、ヒーローを目指す者なら誰しもが通る道であり、越えるべき壁となる。

 

 とはいえ明日から始業式なので学校生活も再開し、忙しい日々に戻るのは確実なのだが、そんなの関係ないと言わんばかりに試験会場へ向かったヒーロー科には労いの言葉でも掛けてあげたくなる。

 

 ヒーロー科に対してそんな思いを抱きながら、今日もいつも通り発目とアイテム作りに勤しんでいた彼は、今工房にやって来た意外な人物に目を丸くしていた。

 

 

「Hey少年、今日も元気かい? こうして会うのは久しぶりだね。体育祭でダンスを披露した時以来かな?」

 

 

 ブカブカのヒーローコスチュームに身を包み、片手を上げて気さくに話し掛けてきたのは元No.1ヒーロー、平和の象徴であるオールマイト。

 

 神野事件での戦闘を機にヒーローを現役引退したばかりなので、今までずっと見ていた筋骨隆々の巨体からは想像も出来ないほど痩せ細った姿には未だに慣れていない。

 

 そんなオールマイトはヒーローを引退した現在、今後は雄英でヒーロー科の後進育成に専念すると報道で発表していた。それがどうして別の科であるサポート科の工房に入って来たのだろうか。てっきり仮免許試験を受ける生徒達の応援に行ったばかり思っていたので、彼は内心驚いていた。

 

 ひょっとしてこの前の地震騒動が何か関係しているのかもしれない。思い当たる節がそれしかない彼は、そのように推測してオールマイトに尋ねた。

 

 

「……えっ? ああいや、その事ではないんだ。いや、関係あると言えばあるかもしれないが、違うと言えば違うし……。というか、ここでその話は絶対にしないように言われてるだろ? 箝口令が敷かれてるの忘れたのかい?」

 

 

 おっといけない、そう言えばそうだった。つい口が滑ってしまった、次からは気を付けなくては。

 

 このように、彼にとっては地震を引き起こした事実が世間に知られようがいまいが興味も無いし、非難や糾弾程度で止まる性格ではない。故に自ら口を滑らしそうになっては先生に小さな声で注意されるというやり取りを数日の内に4回繰り返している。

 

 軽く注意されて咄嗟に片手で口を抑える姿に、オールマイトは何とも言えない微妙な表情になった。

 

 

「ま、まあ良いや。今はそれよりももっと厄介な事態に直面しててさ。それで、君には何としてでも来てもらいたいらしくてね。だから急な頼みで申し訳ないんだけど……ちょっと一緒に来てくれるかい?」

 

 

 急な頼みとは一体何だろうか? あのオールマイトが厄介な事態と言うくらいだから余程の事に違いない。それに『来てもらいたい』という言い方も気になる。それではまるで、誰かに頼まれて呼びに来たようではないか。

 

 多少気になったが、とはいえ面倒臭いので断ろうとした。今はアイテム開発の途中なので、そちらの方が優先順位が高い。たとえオールマイトからの要望でもその考えは変わらない……はずだった。

 

 

「行ってあげたらどうですか? オールマイト先生直々のお願いなんて普通ありませんし、何より私も話を聞いて何なのか気になっちゃいましたから!」

 

 

 話が聞こえていたのか、横から発目が会話に割って入ってそう言った。

 

 発目がそう言うのであれば仕方がない。オールマイト直々のお願い、快く受けようではないか。用件は何だったのか後でちゃんと伝えるために。

 

 彼はオールマイトの頼みを二つ返事で承諾した。

 

 

「……ちょっと複雑な心境だけど、受けてくれるって事で良いんだね? ありがとう、それじゃあ一緒に来てくれ。場所を変えよう」

 

 

 いってらっしゃいと言って手を振る発目に手を振り返し、工房を出たオールマイトの後をついて行く。

 

 しばらく校舎内を歩き回り、また校長室に行くのかと思いきや迷う事なく外に出て校舎裏の駐車場へ向かうオールマイトに、彼は一体どこへ行くのだろうと不思議でならなかった。

 

 分からないまま彼も駐車場へ向かうと、そこには一台の真っ黒な自動車の隣に佇むスーツ姿の壮年の男がいた。

 

 その男がオールマイトの存在に気付くと和やかに歩み寄り、その後ろにいた彼に一礼する。

 

 

「紹介するよ少年。彼は塚内君、警察の中で最も仲が良い、私の自慢の親友さ」

 

 

 胸を張って自慢気に男の紹介をするオールマイト。どうやらお世辞ではなく心の底から誇りに思っているのだろう、その表情は明るかった。

 

 そんなオールマイトの紹介を聞いて「おいおい、照れるじゃないかオールマイト」と笑顔で返す塚内という男もまた、オールマイトに相当の信頼を寄せているのだろうと彼は感じ取った。

 

 

「やあ、初めまして。君が例のサポート科の子かい? 君の噂は警察でも良く耳にしているよ。今日はよろしくね」

 

 

 柔和な笑みで挨拶する塚内。その差し出された手を掴み、固い握手を交わした彼も軽い自己紹介を行う。

 

 その後は塚内が運転する自動車に乗り、雄英高校を後にした。

 

 その道中、高速道路を経由してしばらく走った辺りで彼は2人に再度尋ねた。今回は一体何の用件なのか、一体どこへ向かっているのか、と。

 

 

「そうだね、そろそろ話しても良い頃合いだろう」

 

「ああ、もうすぐ目的地に着くからな。いや、今日は本当に急ですまなかった。いつもなら校内放送で呼べばもう少し落ち着いて行動出来たはずなんだが、今回はちょっと急過ぎてね……。そういうわけで、失礼ながら工房にお邪魔させてもらったわけなんだが……」

 

 

 今になってそういう謝罪は要らないので早く本題に移って欲しい。

 

 確かに、人目を気にしていたなら校内放送で呼べば良かったというのは間違いではない。だが、今更になってそんな細かい所を気にしても意味がない。

 

 時間が勿体無いからとオールマイトの謝罪を切り上げ話を急かす彼に、塚内が淡々と話し出した。

 

 

「今回君を呼んだのは面会のためだよ」

 

 

 面会? どういう事だろうか?

 

 

「今朝、これから向かう場所に居るとある者が、1度君と会って是非とも話をしたいと急に言い出したんだ。

 最初は僕もオールマイトも強く反対したし今も納得していないんだけど、面会の拒否は本人のみ可能って言われて全然聞き入れてくれなくってね。で、確認のために1度君を直接連れて来るよう言われたんだ」

 

 

 急に来て欲しいと頼まれたのはそのためだったのか。話を聞く限り、これから向かう先はどうやら手続きがかなり厳しい場所らしい。

 

 その呼び出し係にオールマイトが選ばれたのは、ひょっとしてオールマイトも今日そこへ行く予定だったのだろうか?

 

 

「ああ、そういう事さ。オールマイトが個人的にそいつと話したい事があって、それで今日面会に行く予定だったんだ。だから、どうせ行くなら今から君も一緒に来てもらった方が都合が良いと思ってね」

 

 

 なるほど、これで気になっていた事は大体把握した。

 

 ではそれらを踏まえて改めて聞こう。今から一体どこで、誰と面会するのかを。

 

 

「……今から向かうのは、重罪を犯した敵を収容する世界最大級の要塞タルタロス。そこで面会するのは、今月初めにあった神野事件でオールマイトが戦った『オール・フォー・ワン(AFO)』という名の敵だよ。

 ……ほら、見えてきた。あれがタルタロスだ」

 

 

 そう言われて塚内の視線の先を追うように前を向くと、長い長い橋を渡った先の海の向こう側に薄らと、それでいて異様な雰囲気を放つ不気味な要塞『タルタロス』が、その存在感を露わにしていた。

 

 

 




タルタロスにて原作のラスボスと主人公が遂に対面!?
そんな2人のやり取りを目の前で見るであろうオールマイトの表情が急激に曇っていく……!?


AFO「アハハハハ、良いねぇ君! 最高だよ!」

オールマイト「……ねえ、泣いても良い?」
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