サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
塚内警部とオールマイトに連れられやって来たタルタロス。日本が世界に誇る最大級の特殊刑務所であるこの要塞は、1度収容されると脱出は不可能と言われるほど堅牢な作りをしている。
長い橋を渡り巨大な門を潜ると、噂に恥じない不気味な要塞が待ち構えていた。
なるほど、確かにこれは脱出不可能と言われるだけの事はある。まだほんの一部しか見ていない彼だが、そのような感想を抱いた。
「本日面会を希望されていたオールマイト様と塚内様ですね。急遽来られたそちらの方もこちらで手続きを済ませておきますので、向こうの3番ゲートからお入りください。職員の者が案内致します」
話は既に通っていた様で、特に何か足止めされるわけでもなくすんなりとタルタロスの内部に入った。
中は刑務所らしく随分と殺風景な造りをしており、至る箇所にマシンガンと合体した厳つい監視カメラが設置されている。
すれ違う職員達の目も鋭く、まだ残暑の残る時期だというのに分厚いコートを着用している。そして当然の如く銃火器を携帯していた。
こうしてタルタロスがどのような施設か理解しつつ、職員に案内されながら分厚い金属製の扉を何度も潜り抜ける事30分。
長い長いエレベーターに乗ってタルタロスの最下層に降りた3人は、遂に面会室の目前まで辿り着いた。
「それじゃあ、僕は隣の部屋で君達の会話を聞き届けるからこれで。オールマイト、くれぐれも冷静に頼むよ」
「ああ分かってる。生徒が一緒なんだ、みっともない姿は見せられんさ」
と、ここで塚内警部はオールマイトと別れて隣の部屋へ入って行った。案内していた職員も同様に隣の部屋へ行ったので、ここから先はオールマイトと彼の2人だけで進む事になる。
「準備は良いかい、少年? 大丈夫、怖がるような事は決して……いや、君に対してその心配はいらないかな? それじゃあ……入るよ」
意を決してオールマイトが先に部屋へ入る。
その後に続いて彼も面会室に入ると、まず目に付いたのは中央が分厚いガラス板で仕切られた真っ白い殺風景な部屋。
そしてガラスの向こう側に、全身をあらゆる拘束具で縛られ椅子に固定され、人口呼吸器を装着している目と鼻の無い男がいた。
男は目の無い顔をこちらに向けるや否や、何が面白いのか口元を歪ませケタケタと笑った。
「おいおい、これはまた珍しいお客さんじゃあないか。良いのかいオールマイト、この時期にこんな所に来ちゃって? そろそろ後期が始まるだろうから、君は教育に専念するものだと思っていたんだが……今更僕に何を求める?」
「……ケジメを付けるだけさ、オール・フォー・ワン」
「ふーん、そうか……それはそうと、今日は急に呼び出しちゃってすまないね。君とどうしてもお話がしたくてさ」
オールマイトの返答を興味なさげに流した男────オール・フォー・ワンは彼に顔を向けると、オールマイトの時と違って心底嬉しそうに笑う。
対して、雁字搦めに拘束された姿を見て窮屈そうだと思っていた彼は、改めてオール・フォー・ワンに向き直ると丁寧にお辞儀をして自己紹介を行った。
「ああ、初めまして。今日はよろしくね」
とても優しい声で、柔和な態度を見せるオール・フォー・ワンだった。
一方その頃、国立多古場競技場。
この日、雄英高校ヒーロー科1年A組はヒーローの仮免許を取得するために、県を跨いだ試験場に足を運んでいた。
試験会場には全国津々浦々のヒーロー科の生徒達が集っており、各々緊張した面持ちで待機している。それはA組の面々も例外ではなく、合格出来るのかどうか不安に駆られる者もちらほらいた。
そんな中、雄英の生徒だからと試験前にも関わらず交流を図る強かな生徒もいた。
「それじゃあ行くぞ! せーのっ! プルス……」
「ウルトラァ!!」
「うわびっくりしたぁ!?」
「……勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ、イナサ」
例えば、雄英と肩を並べる難関校、士傑高校の生徒。
「おお、雄英生! 本物じゃん!」
「凄いよ凄いよ! テレビで観た人ばっかり! 私サイン貰っちゃおっかなー!」
「やあ初めまして! 俺は真堂! 今年の雄英はトラブル続きで大変だったけど、君達はこうしてヒーローを志し続けているんだね! 素晴らしいよ!」
例えば、相澤の知人のヒーローが受け持つ傑物学園高校2年2組の生徒。
雄英体育祭で全国放送されて以来すっかり有名人になっていた事実を、他校の生徒達との交流を通じて緑谷達は改めて認識した。
そして、雄英体育祭をしっかり観ていた者達だからこそ、会話の中でこのような疑問もあった。
「それはそうと、試験に来たのは君達だけなのかい? 僕はてっきり、サポート科のあの子も来るんじゃないかと思ってたんだけど……ほら、体育祭であんなに活躍してたしさ。あのホークスの事務所にも職場体験で来ていたみたいだし、てっきりヒーローになる道を選んだんだなって。……あれ、ひょっとして違う感じ?」
考えてみれば当然の話。
コスチューム改良などで定期的に関わりがある緑谷達と違い、基本的に体育祭までの情報しかない他校の生徒はサポート科の彼の事情など知りもしない。
そのため、ヒーロー科が主役の体育祭で大活躍した生徒がまさかヒーローになる気が無く、今もサポート科としてアイテム開発に勤しんでいるとは普通考えない。『体育祭という場であれだけ注目を集めたのだから、どこかでヒーローになる道へ進路を変更したに違いない』という考えに至るのは仕方のない事だった。
「はい、そうですよ。彼は今でもサポート科で、今日ここには来てません。この前話を聞いたら、今後もヒーロー科に行く気はないって言ってましたし」
「へぇ、そうなんだ。俺としてはなんか惜しい気もするけど、まあ生き方は人それぞれだよね。力があるからって、必ずしもヒーローになるってわけでもないし。
……おっと、もうそろそろ時間だ。それじゃあ話はここまでにして、今日は合格目指して精一杯頑張ろう! 雄英の君達と一緒に競い合えるなんて光栄だからね!」
((((え、笑顔が眩しい……!))))
こうしてA組の面々が他校の生徒と色々な話題で盛り上がる中、会話を聞いていた爆豪は終始険しい表情をしていた。
神野事件の前夜に起こった敵連合のアジトでの出来事を思い出し、連合メンバーと談笑する彼の姿を思い出し、そして神野事件で痩せ細ったオールマイトの姿を目にした瞬間を思い出し、更に不機嫌になっていく。
「チッ、クソが……」
試験前に嫌な事を思い出したと、ご機嫌斜めの爆豪は早足で会場に入って行った。
対個性最高警備特殊拘置所、通称タルタロス。
現代において『個性社会の闇』とまで言われるこの収容施設は現在、創設以来最高レベルの厳戒態勢が敷かれていた。
真夏の猛暑を過ぎ、秋の訪れを感じさせる心地よい風が吹く晴天の日。平穏な日々を象徴するかの様な天候も、今はどういうわけかタルタロスを中心に雷雲が広がっており、蒼い空を灰色に染め上げている。
このように各所で緊張が奔っている中、世界で最も危険な場所であるタルタロスの地下最深部の面会室では────。
「アハハハハ! 良いねぇ君、本当に面白い! 最高だよ!」
「……え、何なのこれ?」
どんちゃん騒ぎの様な雰囲気になっていた。
まるで旧知の仲の如く楽し気に談笑する彼とオール・フォー・ワン。そしてガラス窓の向こう側にいるオール・フォー・ワンと、彼の隣に座っているオールマイトのテンションの落差。
目の前に広がるこの異様な光景に、隣の部屋で会話を聴いている塚内達はただただ唖然としていた。
何故このような事態になっているのか。その原因は今2人が話している内容にあった。
「確かにそうなんだよ。放った脳無をアジト周辺に留まらせないで、どこかのタイミングで散開させて避難所に行かせて、そこでパニックを起こすように命令しておけばねぇ……。
そうすればヒーローも戦場から離れざるを得ないし、その分オールマイトへの援護を遅らせる事が出来るから、予断を許さないあの状況ではかなり効果的だったと思うんだよね。でも聞いてよ、あの時は……」
脳無、ヒーロー、援護、オールマイト。
これらの単語と、会話の相手がオール・フォー・ワンという事もあり、以前起きた神野事件について話しているという事が分かる。
だが、2人はただ神野事件の事について雑談しているわけではない。
「アハハ、本当に楽しいねぇ。君と『神野の戦いでどうすればオールマイトを倒せたか』について語り合うのは。あの時は結局負けちゃったから今更考えても仕方がないってのはそうだけど、想像するのは自由だからね。
君が提案した『脳無パニック大作戦』も、よりオールマイトを追い詰めるには十分な効果を齎すだろう。あの時エンデヴァー達の邪魔が無ければ、もしかしたらオールマイトを殺せたかもしれないし」
あの日、あの夜起きた神野の悲劇の最中、どうすればオールマイトを倒す事が出来たのか。つまりオールマイトの殺害方法を熱く語り合っていた。オールマイト本人の目の前で。
誰もが予想出来なかったこの状況に、会話を聴いている塚内らはおろか、オールマイトですら理解が追い付いていない。怒ったり会話を止めたり出来ず完全に固まっている。
面会を始めて数分の内は、オールマイトとオール・フォー・ワンが煽り煽られの会話をしており、しばらくの間は緊迫した空気が流れていた。
オール・フォー・ワンが敵になった理由が悪の魔王に憧れたからというシンプルな動機だったり、オールマイトが絶対に死柄木弔には殺されないと鬼気迫る表情で言い返したりと、もっと詳しい事情を知りたくなるような会話内容で、これには隣に座っていた彼も黙って傾聴していた。
そして大人同士の会話が一段落したところで、今度はオール・フォー・ワンと彼との面会に自然と移行した。
もしも未来ある生徒がオール・フォー・ワンの言葉に感化されてしまったらと、この時のオールマイトはいざとなったら体を張ってでも会話を止めようと警戒していた。
しかし、面会が始まって彼が最初に放った「神野での戦い、テレビで観てました。凄かったですね!」の第一声で、これまでの緊迫した空気が一気にひっくり返る事に。
これにはオール・フォー・ワンも一瞬戸惑ったが、やはり面白い子だと気を取り直してすぐに対応。状況の整理が追い付かないオールマイトを放置して、2人だけでどんどん話が盛り上がっていき、今に至る。
「いやぁ、笑った笑った。オールマイトの前でオールマイトの殺し方を語る……実に爽快だよ。気が合う者同士の会話はやっぱり楽しいね。
……どうしたオールマイト? 何か言いたげな顔をしてるけど、具合でも悪いのかい?」
「き、貴様、よくもそんな白々しい顔で……! 本当に人をイラつかせるのが上手い奴だな」
「おいおい、そんな急に褒められても! 君に潰された顔だけど、案外表情は伝わるものなんだねぇ」
「褒めてない! ふざけるな貴様!」
暗い表情のオールマイトをこれ見よがしに煽って苛立たせるオール・フォー・ワン。先程までの緊迫した雰囲気は一体どこへやら、今のオールマイトに覇気は感じられなかった。
「ぐっ……まあ良い、貴様は後だ。それよりも少年、これは私からの忠告だが、やはりこの男とは言葉を交わさない方が良い。下手に関わると碌な事にならない。というか今の会話で確信した。
さっきの話は聞かなかった事にするから、面会はこの辺で終わりにして雄英に帰ろう。さあ……」
嫌だ、超断る。
彼は拒絶の意を示した。
今は楽しく雑談している最中なので、人の会話に割り込んで無理やり終わらせないでほしい。
そう言って人差し指をばつ印のように交差させる彼にすっかり面食らったのか、オールマイトの動きが一瞬止まる。が、すぐに気を取り直し、彼の肩を掴んで真剣な表情で語り出す。
「確かに人の会話に文句を言うのは良くない。だがこの男だけは例外なんだ。奴の口車に乗せられて悲惨な末路を辿った者の数は計り知れない。それ程の相手だ。
いくら君といえど、この男と関わると想像も出来ないほど酷い目に遭うかもしれない。後悔するかもしれない。そうなってしまってはもう遅いんだ。だから……」
そうなるかもしれないし、ならないかもしれない。確かにオールマイトの忠告も一理あるが、まだ何も起きていないのにビクついて会話を止める理由にはならない。
オール・フォー・ワンがどう思っているかは知らないが、今はただ、この特殊だけど充実した出会いと時間に感謝して話を続けたい。
彼は再び拒絶の意を示した。
「……ふふっ、アハハッ、アハハハハッ!」
突如、オール・フォー・ワンが今日一番の笑い声を上げた。
口だけの顔で狂ったように大笑いするその姿に、オールマイトも隣室で聴いている塚内達も言いようもない緊張感と底知れない不気味さを覚えた。
「今日は本当に君を呼んできて良かったよ。何がとは言わないけど、おかげで良いもの見れたしね」
ひとしきり笑った後、オールマイトを見ながらニヤリと口角を上げるオール・フォー・ワン。
煽るような口調と態度にオールマイトの顔が凄まじい事になるが、どこ吹く風といった様子で2人の会話は続く。
「それにしてもこの間の地震は本当にヤバかったね。そっちも大変だったでしょ? 雄英は大丈夫なのかい?」
『外の情報は遮断して────』
何気ない感じで直近の出来事を聞かれた彼は、雄英も壊滅的な被害を負ったが今は無事復旧しているので問題ない事を伝える。
しかしこんな地下深くに居ても地震があった事を知っているとは、ひょっとしてタルタロスも相当大変な目に遭ったのではなかろうか? 堅牢なタルタロス全体が地震で揺れるなんて相当な事だと思う。
そんな彼の疑問に、オール・フォー・ワンはくつくつと笑みを浮かべて答えた。
『タルタロス内部での情報も遮断され────』
「ああごめん、ちょっと地震が起きた時の事を思い出してね。そうだよ、確かに大変な目に遭ったさ。ここの職員達が随分とまあ慌てていてね、タルタロスの警備システムが一瞬停止したんだって。まあ、すぐ復旧システムが作動して事無きを得たんだけど。
……どうやってその情報をだって? そりゃまあ、慌てふためく職員達の怒号が結構聞こえていたからね。多分僕以外にも、ここの囚人達はほとんど知ってるんじゃない?」
『おいこらお前ら! 無視してペラペラ喋んな!』
会話を傍聴していた職員の怒号が響き渡る。注意しても一切聞く耳を持たない態度にキレてしまったのだ。
これにはタルタロス側も黙っていない。面会における禁止行為を繰り返す2人を止めるべく、室内に仕掛けられたマシンガン付き監視カメラが一斉に銃口を向ける。
だが、2人とも命を握られている状況にも拘らず、その態度に変化は起こらない。殺伐とした室内で2人の間の空間だけ、未だにほんわかとした雰囲気が残っていた。
「ま、マズい! 巻き込まれ……あれっ? 撃ってこない……?」
そして、もう既に一斉射撃が行われても文句は言えない程にルールを破っているはずが、いつまで経っても2人に銃弾の雨が飛ぶ気配はない。
怒号が飛び交い、銃口を向けられようとも平然としている2人の圧倒的な余裕が、職員達の判断を惑わせていたのだ。
そんな中でも2人の会話は止まらない。
「ねえ、単刀直入に聞くんだけど……この前の地震はひょっとして、君が原因だったりしないかな? だって地震にしては揺れ方に違和感あったし、仮に人為的な何かが原因だとしたら、可能性があるのは君くらいだしね。
……あっ、やっぱりそう? なるほど、僕の推測通りだったわけか。それにしても君、そんな重要な事をここであっさり喋って良かったの? 大丈夫?
……へえ、知られようとも興味ないんだ。うん、やっぱり今日ここに呼んできて正解だったよ。君とのお話は本当に面白い」
「ちょっ、何しれっとバラしちゃってんのさ!? それは絶対口にしちゃいけないって何度も言ったじゃないか!」
「ちょっとオールマイト、少し静かにしてくれないかな? 煩いんだけど?」
「そっちこそ黙ってろオール・フォー・ワン!」
箝口令が敷かれていた情報をあっさりと認める彼に焦って詰め寄るオールマイトへ、オール・フォー・ワンが心底鬱陶しそうに溜め息を吐く。
再び両者の間に険呑な空気が漂う。
お互いツンデレでも照れ隠し的なアレでもなく、本当に分かり合えない犬猿の仲なのだと、2人を見て彼はそう思った。
と、そんな時だった。
『オールマイト、あと1分で面会終了です。時間が来たら退室してください』
「うっ、もうそんな時間か……分かった、奴に言いたい事はまだたくさんあるが、今度こそ雄英に帰ろう」
「待ってくれ、そりゃないだろう! ……はあ、分かったよ。今日は十分楽しめたし良いか」
無機質な声で、面会の残り時間を告げるアナウンス。これには言い争っていたオールマイト達も冷静さを取り戻して静かになる。
だが、一瞬にして静まり返った室内で、アナウンスを聞いた彼は静かに右手を挙げた。
「……えっ、急にどうした少年?」
驚いたオールマイトが尋ねるが、それを無視して彼は言った。
1時間延長で。
「「「「……………………」」」」
室内が更に静かになった。というよりも、空気が凍った。
誰もが予想だにしていない発言を二度やってのけた彼に、隣席のオールマイトも隣室の塚内達も、全員が眼球が零れ落ちんばかりに目を見開いて驚愕していた。
しかし、当の本人は何事も無かったかのように右手を下ろし、再びオール・フォー・ワンに向き合い、じゃあ話を続けましょうとにこやかに笑う。
「……ふ、ふふっ、ふふふふふっ、アハハハハッ! アハハハハハハハハッ!!」
抱腹絶倒。
正しくそう表現するのが相応しいほど、オール・フォー・ワンの笑い声がタルタロスの最深部内に響き渡る。
瞬間、凍った空気が解けて周囲も一斉に動き出した。
「何言ってるの少年!? ねえ、いきなり何言っちゃってるの!? 正気!? 延長!? 1時間延長って……ここカラオケじゃないんだけど!? 追加料金払えばOKとかじゃないんだけど!? ねえ、ねえってば!?」
『ふっざけんじゃねーぞクソガキがぁ! もう頭にきた! さっきから散々舐め腐った態度取りやがって! てめぇ大人舐めるのもいい加減にしろよああん!? 所長、こいつらはもうダメです! 2人纏めてシバき倒しましょう!』
『……この面会が終わったら、ちょっと僕の署まで同行してもらうか。オールマイト、彼から目を離さないようにね?』
「えっ? ど、どうしたの塚内君? 何だか声が怖いんだけど……ねえ、泣いても良いかな?」
まじカオス。
────その後、笑いに笑うオール・フォー・ワンを落ち着かせ、怒りに燃えるタルタロスの職員達と塚内警部を必死に宥め、涙目のオールマイトを励まして、どうにかして事無きを得た。
結局、30分だけ面会時間の延長を許され、オールマイトを除いた2人で大いに爆笑した。タルタロスが面会時間の延長という我が儘を受け入れたのは、今回が創設以来初との事。
何気に凄い事をしたなぁと、自身がやらかしたとんでもない奇行を呑気に振り返る彼は、面会が終わるとすぐにタルタロスを出て雄英に帰った。
「おかえりなさい! やっと戻ってきましたか! では早速、何があったのか話してもらいましょうか!」
「ああ、すまない発目少女。その事なんだが、実は……」
ずっと帰りを待っていた発目は、工房に入るなり何があったのか次々と質問をぶつけてきた。だが、秘匿情報だからという理由でオールマイトと塚内警部に止められてしまい、教える事は出来なかった。
ええーそんなぁ、と残念がっていた発目には、何があったのか後でこっそりと教えよう。スマホでの通話も一時的に制限されてしまった今こそ、誰にも見せてこなかったテレパシーを使う時かもしれない。
こうして、怒涛の半日を過ごした彼は現在、クラスメイト達と共にたこ焼きパーティーを開いていた。
「あーあ、明日からとうとう2学期かぁ。夏休みも終わっちゃうのねぇ……」
「怒涛の夏休みだったよな。もう一生忘れられんわ」
「ねー。ヒーロー科が敵に襲撃されて、オールマイトがヒーロー引退して、その影響で寮生活する事になっちゃって……こんな経験あんまり出来ないよ」
「まあこうして一緒に生活するのは楽しいから、俺は全然アリだけどな」
「それ私も私も! 実家に帰っても田舎だからどうせ1人だし、皆といる方がワイワイ出来て良いや」
「確かに! もうそろそろ寮生活にも慣れてきた感じだし? 生活に余裕が出てくると、案外楽しく過ごせるもんなのねー」
皆、思い思いにたこ焼きを頬張りながら楽し気に雑談する。
その輪の中に彼も当然入り、発目と一緒にたこ焼きを頬張る。
先程まで裏社会の王と面会していたとは思えないお気楽っぷりで、もう既にタルタロスの職員達に怒られた事など記憶からすっぽりと抜け落ちていた。
そして、そんな緊迫した状況があった事など全く知らない発目は、相も変わらずいつもの調子で彼に接する。
「何だかんだで楽しかったですね、夏休み。まあ、ヒーロー科の皆さんはそうじゃないかもしれませんが、少なくとも私は大好きなベイビー開発がたくさん出来たの良しです。あなたもそうでしょう?
メディカルマシーンの治療液もかなり形になってきましたし、この調子なら1カ月もあれば完成するんじゃないですか? 後はまあ、試運転なり何なりして……それも終わったら、今度は何を作りましょうか?」
まだそこまでは決めていないが、少なくともすぐに出来そうにない物にするだろう。それまでの間は治療液の開発に集中だ。
結局夏休み中に研究開発を終わらせる事は出来なかったが、それでも研究は順調に進んでいるので概ね良しとしよう。
そう思っていると、トントンと肩を突いた発目が溌剌とした笑みで顔を見上げて言った。
「2学期も、一緒にドッ可愛いベイビー作りましょう! 頼りにしていますよ!」
……正直、この笑顔を見れただけでも一生忘れられない夏休みになったのではなかろうか?
熱々のたこ焼きをたくさん頬張る中、彼の心は不思議と感慨深い気持ちで満たされていくのであった────。
「────ここであの子の血を織り交ぜて……っと。よし、これで大体の治療は終わったな。
後は細胞が完全に定着するまで4カ月以上、様子を観ながら念入りに調整して…………うひひっ! 4カ月後が待ち遠しいのぉ!」
これにて第3章終わりです。
夏休みが終わり、時代も変わり、主人公と発目は今後どのような奇行を見せてくれるのか……乞うご期待。