サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
とはいえ、死穢八斎會編どうしようかなと考えた時、どう考えても主人公とオーバーホールが戦う未来が見えなかったので、4章はその分短くなると踏んでいます。話数とか、1話辺りの文章量とか。
今回、過去一短いです。
第31話 まるでボウリングのように
2学期が始まった。
雄英高校に入学してから今日まで、多くの人と出会い、濃密な日々を過ごしてきたが、新たな季節の幕開けは驚くほど静かで平穏だった。
まず、根津校長の恐ろしくどうでも良いのにあり得ないほど長い話を聞き、その後は教室に戻って軽い挨拶をしてから通常授業に入った。
休み明けという事もあり、夏休みが終わった喪失感から抜け出せていない生徒が多い中、対照的にとても上機嫌だった彼は授業中も終始元気良く発表し、ニコニコと笑顔を絶やさなかった。
これには教師達も不気味に思い、かなりの戸惑いを見せていたとかいなかったとか。
そんなこんなで平穏無事な1日を過ごした彼は、いつも通り開発工房でアイテム開発に勤しんでいた。
「……ふう、これでようやく全パーツの組み立てが終わりましたか。後は問題なく動作するか、細かくチェックしながらプログラムを調整するだけですね。
……ところで、そっちは今何を作っているんですか? ぱっと見じゃ良く分からないんですけど……錠剤?」
作業を一段階終えた発目が後ろを振り向き、彼が開発している
否、開発というよりは調合していると表現した方が正しいそれは、発目がぼそりと呟いた通り、錠剤のような見た目をしていた。
いつもとは明らかに作る物の分野が違うため、疑問を抱いた発目が思わず尋ねるのは至極当然の事だった。
「……ああ、やっぱり錠剤だったんですね、それ。というか、よくそこまでジャンルの違う物を作れましたね。殻木先生に色々と教えてもらった賜物ですか? 私も今度試してみるのも良いかもしれません。
……で、結局何の錠剤ですか?」
よくぞ聞いてくれた。
彼はそう言って、たった今出来上がったばかりの錠剤を手に取ると、自慢げな顔で発目に見せびらかし、説明した。
前提として、これは自分専用のサポートアイテムである事。こんなのあったら便利だなと想像し、思い付きで開発した事。結果として満足のいく出来映えになった事。
アイテム名は『食べる空気』
読んで字の如く、空気を錠剤という形で固形にした物である。これを一粒飲むだけで、生命活動に必要な量の空気が体内を循環し、最大で1時間は空気のない場所でも生きていられるという代物だ。
錠剤を1粒飲めば1時間、2粒で2時間、5粒飲めば5時間も活動し続けられる。
この世界の技術力を持ってすれば、意外とこういう物は簡単に作れるのだ。
「へぇ、そんな大層な物だったんですね。あと、意外と簡単とか言ってますけど、あなた自身の技術力があってこそだと思いますよ? それと同じ物を作れる人って結構限られるかと」
細かい事はどうだって良い。要は空気のない場所でも活動が可能になったというのが重要だ。
つまり、水中はもちろんの事、宇宙空間でも長時間の活動が可能になったという事を意味する。
元来、サイヤ人は宇宙空間での長時間活動が出来ない。それは偏に、宇宙には空気がないから。
だが裏を返せば、真空の課題さえクリアしてしまえば宇宙空間でも活動出来るという事であり、後はサイヤ人が持つ強靭な肉体でどうにでもなる。
そこで作ったのが今回の錠剤なのだ。思い付きで作ったにしては十分過ぎる性能だろう。
「でもそれって使う機会あるんですか? 自分専用とか言ってますけど、そもそもヒーローでも何でもないでしょう?
それに、錠剤を飲んでちゃんと機能するかをどうやって確かめるんです? 今からプールにでも行きますか?」
確かにヒーローでもない以上、使う機会が来ないのは間違いない。何せ、これは思い付きで衝動的に作ったのだから。
性能テストに関しては確かめる方法が幾つかある。しかし、プールに潜るのは悪くないが、今から使用許可を貰いに職員室へ向かうのは面倒くさい。それに面白味もない。
だから、もう1つの方法で性能テストをしようと思う。
プールのように使用許可など取る必要がなく、そもそも個性の使用制限という
彼は出来たばかりの錠剤を徐に1粒摘んで呑み込むと、工房の窓を開けて縁に立った。
「あ、やっぱり今からプールで泳ぐつもりでしたか? 既に1粒飲んでますし、今から確かめに行くので……何で急に窓を?」
職員室に向かわず、今にも飛び降りそうな姿勢を見て首を傾げる発目。
そんな彼女に、彼は「行ってくる」と一言だけ口にして────窓から身を乗り出し、遥か上空へ一気に飛び上がった。
「あー……なるほど、その方法でしたか。確かにそっちの方が分かりやすいですもんね。まあ何にせよ、お気を付けて」
上空へ飛び上がった彼の後ろ姿を見て、全てを理解した発目。相変わらずだと思いつつ、軽く手を振って見送った。
その一方で、彼も見送る発目を遠目に見やると、極超音速を遥かに上回る速度で上昇し、あっという間に地球の大気圏と宇宙空間との境目に辿り着いた。
周囲は澄み切った青から無明の闇へと変化しており、空気もほとんど存在していない、地獄の一歩手前のような環境。
常人であれば即死は免れない場所で、彼はその更に先の地獄へと容易く足を踏み入れた。
────無音の世界。
闇が全身を包み込み、大気は完全に周囲から消え失せた。
文字通り何もない。どこまでも広がり続け、平穏から掛け離れた静かで残酷な空間は、不用意に侵入した
だが、今回の侵入者に限っては……。
《はい、何でしょう? あっ、ひょっとしてもう宇宙空間に入った感じですか? ……なるほど、どうやら上手くいったっぽいですね。それなら良かったです。……ええ、では!》
宇宙空間内でも平然と活動を続け、雄英にいる発目とテレパシーで連絡を取り合っていた。
そして錠剤の効果が無事に出た事をすぐに報告した彼は、せっかく宇宙に来たので別の惑星でも見に行ってみようと考え、更に速度を上げて飛んで行く。
────まずは地球の衛星、月。
地球から40万kmも離れていないこの衛星は、暇潰しがてらに寄る場所としては些か物足りない。
というのも、宇宙には大気がないので空気抵抗がない。邪魔する物がない分、思っていたよりも早く着いたのだ。
ただ、少々スピードを出し過ぎて、月面着陸の際にちょっとしたクレーターを作ってしまった。おかげで服が汚れてしまったので、帰って念入りに洗濯しなければならなくなった。
それはそれとして月面である。
人類が唯一足を踏み入れた地球以外の天体で、未だにここへ辿り着くのは難しい。そんな場所へ軽々と行く着く事が出来た。
錠剤の効果がしっかり出ている証拠で、その点は素直に良かったと思っている。ただ、岩石以外に何もないので、すぐに飽きてしまった。次の星へ向かう事に。
────続いて向かったのは赤い惑星、火星。
太陽から4番目に近い位置を公転する惑星。太陽系の中でも2番目に小さい惑星で、地球と似た所も多々あるこの天体は、僅かながらも薄い大気に覆われている。
とはいえ、ほとんどが二酸化炭素かつ大気圧も極端に低いため、常人では呼吸すら出来ずに即死してしまう。平均気温も氷点下60度を下回るため、気温の面でも生存出来る環境ではない。
そんな惑星に降り立った彼は、赤色に染まった広大な大地をさっと眺めると、観光がてら火星で最も標高の高い山へ向かった。
その途中、どこかの国が飛ばしたであろう火星探査機を見つけたので、カメラの前に立ち、笑顔でピースサインしてその場を離れる。
これを偶然見つけた暁には、きっとびっくり仰天して腰を抜かすに違いない。
────3番目は太陽系最大の惑星、木星。
地球とは比較にならない体積と質量を持つこの天体は、重力は地球の2倍以上、衛星の数も数十個と大規模だ。
太陽と同様に、常に致死量の放射線を発しており、近付けば人間なら即死、機械も耐性が無ければすぐに故障してしまう。それに加え、平均気温も氷点下100度を下回るため、近付く事すら危険な惑星と言える。
そして、木星には降り立つための地面が存在しない。ここへ辿り着いた彼は、木星を間近で回って観察した後、近くの衛星に寄ると時間ギリギリまで木星の雄大な景色を眺めた。
「────おお、びっくりした! 急に目の前に現れるとか心臓に悪過ぎますよー。気を付けてください。
……で、どうでしたか、宇宙旅行の感想は? 多分、色んな所を回ったと思うんですけど、是非とも感想聞かせてください」
木星を眺めている間に錠剤の効果が切れそうになったので、発目の気を探して瞬間移動し、一瞬で地球に帰還した。
思い付きで作った錠剤がしっかり機能して、それなりに宇宙旅行も楽しめた。そして、雄英でずっと待っていた発目のために、ちょっとしたお土産も持って帰って来た。
今回訪れた月、火星、木星の衛星、これら3つの天体からそれぞれ採取した岩石。それに加えて、木星の表面を構成する気体の成分を詰め込んだボトル。以上だ。
宇宙を専門的に研究する機関辺りが欲しがりそうな物だが、彼はそういった所へ売り渡す気は一切ない。全て発目に渡すつもりである。
「へぇぇ、これが月の岩石ですか。んで、こっちが火星で、もう1つが木星の衛星。それで、この厳ついフォルムをしたボトルの中に木星の気体が詰め込まれていると……。
うん、これは良い物をもらいました。わざわざ取ってきてくれてありがとうございます。これ、大事に保管しておきましょう。……あっ、一応パワーローダー先生に報告しますか?」
パワーローダー先生に報告するか否かは発目の自由にすれば良いとは思うが、個人的にどんな反応をするのか見てみたい気持ちがある。
何気ない会話の中でしれっと言ってみるのはどうだろうか。きっと面白いものが見れる。
「……あなたらしいですね。別に構いませんけど、偶には気遣ってくださいよ。先生の胃もそろそろストレスでヤバいと思うので」
それに関しては発目も人の事を言えないと思う。お互いに先生のストレスの原因筆頭だ。自覚はある。
ただ、発目の言う事も無視出来ないので、今後は程々にしておこう。出来る範囲で。
彼はにこりと微笑んだ。
後日、パワーローダー先生に伝えたところ、ショックのあまりその日はフリーズしたとかしていないとか。
それから数日後、サー・ナイトアイ事務所にて。
「本日の任務はパトロール兼監視。私とバブルガール、ミリオと緑谷の二手に分かれて行う」
オールマイトの元サイドキック、サー・ナイトアイが運営・管理するヒーロー事務所。そこには今日行う任務を伝えるナイトアイと、緊張した面持ちで傾聴する緑谷達がいた。
「監視?」
「そう、今ナイトアイ事務所は秘密の捜査中なんだよ」
「秘密の……どこの捜査ですか?」
「『死穢八斎會』という小さな指定敵団体だ」
インターン初日で内容をまだ把握していない緑谷の疑問に、バブルガールとナイトアイがそれぞれ答える。
そして、ナイトアイが1枚の写真を取り出しテーブルに置いた。写真に写っていたのは、不気味で厳ついデザインをしたペストマスクを身に付けた若い男だった。
「この写真に載っている『治崎』という男が、最近妙な動きを見せ始めた」
「指定敵団体……いわゆるヤクザと呼ばれる人達ですね。でもそういう人達って、結構大人しいイメージがあるんですけど……」
ヒーロー飽和社会と謳われるこのご時世、
世間が抱く
「まあ、過去に大解体されているからね。あまりピンと来ないのも仕方ないよ。
でも、この治崎って奴はそんな連中をどういうわけか集め始めている。最近だと、あの敵連合とも接触を図ったわ。意図も顛末も不明だけど」
「えっ、敵連合と……!?」
バブルガールの説明を聞いていた緑谷が驚愕に目を見開く。
敵連合と言えば、まだ記憶に真新しい合宿襲撃事件を思い出す。あの事件が切っ掛けで緑谷を取り巻く環境がガラリと一変したからだ。
そんな苦々しい思い出があるために、緑谷は敵連合をかなり警戒している。だからこそ、ようやく事の重大さを実感しつつあった。
「ただ、奴が何か悪事を企んでいるという証拠を掴めない。そのために八斎會は黒に近いグレー、ギリギリで敵扱いが出来ない。
よって、我がナイトアイ事務所が狙うのは奴らの犯行証拠。くれぐれも向こうに気取られぬように。以上、解散」
「「「イエッサー!!」」」
ナイトアイの言葉に、緑谷、通形、バブルガールの3人は大きな声を出して意気込んだ。
一方その頃。
宇宙旅行の話を聞かされたパワーローダー先生が、ショックで固まった日から数日後。
本日は日曜日、雲一つない快晴で絶好の買い物日和である。
そんな日に彼は、雄英を出て少し離れた街中を散歩していた。
安全のため、基本的には休日も雄英の敷地内で過ごすのが原則だが、外出許可を貰えば買い物に出かけたり散歩に行ったりと、ある程度の自由が認められている。
彼は彼で、いつもなら発目と一緒に工房で爆発騒ぎを起こしていた。だが、先日の宇宙旅行の件でキレたパワーローダー先生から、
『お前、1週間工房の出入り禁止な。寮に建てたあの工房も駄目だから。それと反省文10枚も追加で書いてこい』
と、このような説教を喰らってしまったのだ。
これにより休日が暇になってしまったので、雄英を出て別の街へ行き、当てもなく街中をぶらぶらと歩き回っている。
そして現在、時刻はまだ昼を過ぎたばかりで、時間はまだまだたっぷりある。そろそろお腹も空いてきたので何か適当に食べて行こうかと、彼はそんな呑気な事を考えていた。
だが、偶然なのか故意なのか、呑気な思考を一瞬で消し飛ばす出来事が彼の下へ舞い込む事に。
「────ハア……ハア……痛あぐぁっ!?」
唐突だった。
どこの飲食店に入ろうかと悩んでいたら、いきなり路地裏から小さな女の子が飛び出し、ぶつかって来た。
お互いに周りを見ていなかったが故に起きた事故。少女の悲鳴を耳にして初めて、彼はぶつかった相手の存在を認知した。
だが、ここで忘れてはいけない。彼は人という枠組みから外れた戦闘民族、サイヤ人。
不慮の事故とはいえ、ただでさえ素の力がオールマイトを軽く超える者とぶつかって、小柄で力の弱い女の子が果たしてその場に転がる程度で済むだろうか?
「いぎゃああああああああああっ!?」
答えは否、少女はぶっ飛ばされた。
先程通って来た路地裏を逆戻りする形で、地面と水平に真っ直ぐ飛んで行く。
ぶつかった瞬間、僅かだが少女の体からミシリと不穏な音が聞こえたが、多分気のせいだろう。気のせいだと信じたい。
とはいえ、このまま飛ばされた少女を放っておくのも悪いと思った彼は、少女がどこかの建物にぶつかって悲惨な目に遭う前に、急いで先回りしようと一歩踏み出し……。
「……全く、どこへ行くつもりだ壊理? ほら、良い子だから戻って────ぶごはぁっ!?」
少女が飛んで行った先の曲がり角から、今度は厳ついペストマスクを装着した若い男が現れた。
そして案の定、猛スピードで飛んで来た少女の存在に気付く前に、お互いの額が嫌な音を立ててぶつかり合った。
その衝撃で2人ともその場に倒れ伏し、しばらく様子見するが、起き上がってくる気配が一向に見られない。
不思議に思った彼がそっと2人の顔を覗き込むと……どちらも白目を剥いて気絶していた。額から血を垂れ流して。
よく見ると、少女の額からは先端の鋭い角が生えており、男の額には若干凹んだ跡があった。恐らく、この角が原因で男の方もあっさりと気を失ったのだろう。
…………さて、どうしようか?
良く晴れた日曜日の午後、あまりにも突飛過ぎる事態を前に、彼の思考は停止した。
壊理ちゃんとかオーバーホールの個性はマジで強力だけど、主人公の戦闘力ならそれでも無効化出来るんじゃね?
……今ので壊理ちゃん死んでないかって? 大丈夫、(物語の都合上)ちゃんと生きてます。オーバーホールも無事です。