サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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誤って壊理ちゃんを蹴っ飛ばし、ボウリングの様にオーバーホールまで気絶させてしまった主人公。
思考停止した主人公が次に取った行動は……!


第32話 効かない

「……はっ!? 俺は一体、何を……いや、それよりもここはどこだ……?」

 

 

 無事に起きたようで何より。だが、傷は既に癒えているとはいえ治ったばかりなので、もうしばらく安静にしておいた方が良いだろう。

 

 そう言って彼は、ベッドで横になっている男のために、切り分けたリンゴを載せた皿を近くのテーブルに置いた。

 

 しかし、男の方は彼の事など眼中に無いようで、必死に辺りをキョロキョロと見回している。

 

 

「壊理……壊理はどこだ!?」

 

 

 開口一番、男は『壊理』という名を連呼しながらベッドから出ようと布団を押しのけた。

 

 恐らく、路地裏の角で誤って蹴飛ばしてしまったあの少女の名前を呼んでいるのだろう。そしてこの慌てぶりからして、あの少女は娘か、それに近しい間柄なのだと推測出来る。

 

 よほど大事に思っているのだろう。これはすぐに伝えなければ。

 

 

「おいお前、壊理をどこへやった!? それとここはどこだ? 答えろ!」

 

 

 ここは自宅で、今いる部屋はその内の一室。

 

 あなたの娘は無事なので安心してほしい。怪我の程度がちょっと酷かったので一時はかなり焦ったが、早急に治療を施したおかげで今は何とかなっている。

 

 ちょっと酷かったといっても、右腕の骨折と右肩の脱臼、加えてほとんどの肋骨が複雑骨折していたのだが。それと頭蓋骨にも少しヒビが入っていた。

 

 今は隣の部屋のベッドで寝かせているので、起きるまでは安静にさせておいた方が良い。怪我をさせた立場で言うのもあれだが。

 

 彼は苦笑しながらも男の質問に1つ1つ答えた。

 

 そして、彼の返答を聞いた男は最初の動揺など何処へやら、徐々に落ち着きを取り戻していった。

 

 

「……そうか。ここはお前の家で、壊理は隣の部屋で寝ているのか。なるほど、それは良かった」

 

 

 すっかり落ち着き払った相手に、彼は心の中でほっと胸を撫で下ろす。

 

 もっと長時間糾弾され、殴られてもしょうがないと思っていたので、予想以上に早く冷静さを取り戻してくれたのは好都合だったのだ。

 

 だが、この時彼は理解していなかった。男が冷静だったのは、決して壊理という娘が無事だったからでは無い事に。

 

 

「そういう事なら尚更────」

 

 

 男が冷静だったのは……。

 

 

「掃除する手間が省ける」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ったからだ。

 

 

「じゃあな、クソガ……キ…………はっ?」

 

 

 だが、男の方も理解していなかった。目の前にいる相手が人外の化け物(サイヤ人)だという事を。

 

 ずっと身に付けていた手袋を脱ぎ取り、素手で彼の腕に触れて個性を発動したところまでは良かった。男の個性は触れた対象の分解と修復が可能という、とても稀有で強力な代物。

 

 人に向ければ、相手の肉体を分解して殺したり、そこから修復して怪我や病気を治したりと、幅広い使い道が存在するほど。

 

 戦闘になれば、並のヒーローどころかトップヒーローでも対処が難しい力。触れたら終わり、それが男の個性である。

 

 しかし、今回の相手は一味違った。

 

 

(一体どういう事だ!? このガキ、何故死なない!? 間違いなく個性は発動していて、こいつはバラバラの死体になっている……はずなのに!)

 

 

 個性が効かなかったのだ。一切、全く、全然。

 

 予想とは全く違う光景に、男は暫しの間呆然としていた。だが、キョトンとした顔で首を傾げる彼を見て、再び正気を取り戻し、慌てて手袋をはめ直す。

 

 そして、急にどうしたのだろうと先程の行動に疑問を抱く彼に笑顔を見せた。

 

 

「いやぁ、すみません。知らない場所で娘も見当たらなかったから、ちょっと動揺しちゃいまして。仮にも君が誘拐犯とか、そういう類の敵かもしれないと思うと急に不安になってしまって、つい……」

 

 

 色々とボロを出し過ぎた後でこの言い分は流石に無理があるか、と思いつつも、何とか平静を装って相手の様子を伺う。

 

 しかし、そんな男の不安は杞憂に終わったのか、説明を聞いた彼は納得した顔で頷き、そういう事ならリンゴでも食べて落ち着きましょうと、リンゴを載せた皿を差し出した。

 

 

「本当にすみません、せっかく介抱してくれたのに攻撃的な態度を取ってしまって……。それじゃあお言葉に甘えて、リンゴ頂きますね」

 

 

 差し出されたリンゴを受け取ると、1口齧って飲み込む。

 

 ちなみに、男が着けていたペストマスクは治療の際に取り外されており、その素顔が露わになっている。

 

 端正な顔付きで、思慮深く知性の高さを感じさせる雰囲気を纏っている。言葉使いもとても丁寧なので、彼は思わず感心していた。

 

 その数分後、皿に盛られたリンゴを殆んど食べ終えたところで、彼は壊理が寝ている部屋へ男を案内した。

 

 その際、名前も聞いた。

 

 

「名前? ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はオー……治崎廻です。気軽に治崎と呼んで頂いて結構ですよ」

 

 

 ここで初めて男の名前が治崎だという事を彼は知る。その後、彼も治崎に自己紹介をしつつ隣室に入った。

 

 

「へえ、かなり広い部屋ですね。それで壊理は……ああ、いたいた。どうやら大人しく寝ているようですね」

 

 

 部屋に入ると、広々とした部屋の中にクイーンサイズのベッドが1つ。そこにスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てて転がっている壊理がいた。

 

 壊理には出会った当初に着ていたボロボロの服ではなく、客人用として家に置いてあった高級素材使用のネグリジェを着せている。

 

 誰が見ても可愛らしいと言える容姿と相まって、寝ているその姿は正しく、童話に出てくるお姫様のようだった。

 

 そして、彼が誤って蹴飛ばした事で負わせた怪我はすっかり治っており、骨折、脱臼した肩、頭蓋骨のヒビ等はもう見られない。

 

 ついでに、手足に痕として残っていた夥しい数の切創も治しておいた。まだ目を凝らせば薄らと痕が見える状態だが、包帯を巻かなくても良い程度には引いている。

 

 

「ふむ……あなたが負わせてしまったという怪我は見られませんし……おお、手足の傷もすっかり治っている。凄いですね、どうやって?」

 

 

 良くぞ聞いてくれた。

 

 そう言って彼は、仰々しい仕草で自慢げに説明した。

 

 今、同級生と知り合いの病院の先生の3人で、どんな怪我でも治せる魔法の様な治療液を開発中である事。

 

 それの開発がかなり進んでいて、もうすぐ完成品が出来そうな状況にある事。そして、その治療液の一部が実家に保管されており、近々性能テストを行うつもりだったので、これ幸いと思い壊理に使ってみた事。

 

 しれっと小さな女の子を使って勝手に臨床試験を行うという外道行為を実行しているが、安全性に関しては既に彼の体で確認済み。実際、壊理の身体には何の支障もなく、むしろ怪我をする前よりも健康的な肉体に変化している。

 

 結果的に好転しているので治崎も特に言う事は無く、むしろ頭を下げて礼を言うほどだった。

 

 

「何から何まで本当にありがとうございます。娘は最近、家にある色んな物を勝手に持ち出しては危ない事をして遊ぶもので……。

 遊び盛りだからと最初は見守る程度だったんですが、気付けば徐々にエスカレートしていて、それであのような酷い傷をたくさん負ってしまって……。娘には普段からきつく言っているんですが、全然言う事を聞いてくれないから困ります」

 

 

 治崎の話を聞きながら、彼は小さかった頃の記憶を懐かしく思い振り返った。

 

 彼も壊理くらいの年頃はまだ弱く、重力室でハード過ぎる修行を毎日続けては月一のペースで複雑骨折や出血といった怪我を繰り返し、時には死にかけた。サイヤ人故に回復が非常に早かったから良かったものの、常人ならば既に死んでいる。

 

 だから危ない事をして酷い怪我を負う壊理の気持ちは理解出来るし、それを心配する親の気持ちも良く分かる。

 

 ただ、子供への躾は大事だと思うが、何事にも限度というものがあるから程々に。

 

 彼の注意に、治崎は「ええ、ちゃんと分かっていますとも」といってにこやかに笑う。

 

 と、その時だった。

 

 

「……ん、ここは……?」

 

 

 2人で雑談に興じていたところへ、話題の中心だった壊理がようやく目を覚ました。

 

 むくりと上体を起こし、目を擦って周囲を見回す。

 

 

「……お兄さん、誰な────ひっ!?」

 

 

 そして、最初に視界に映った彼の存在に疑問を持ち、続いてその隣に立つ治崎を見た瞬間、壊理は小さく短い悲鳴を上げた。

 

 目の焦点は合っておらず、僅かながらに肩を震わせ、布団の端をギュッと掴んで離さない。

 

 この怯えた様子に疑問を感じた彼は、治崎の方を振り返って尋ねた。

 

 

「ああ、それは多分、あなたと出会う前にきつく叱りつけたからだと思います。先程も言いましたけど、あまりにも言う事を聞かないものだから、あの時はつい力んでしまって。

 ……ええ、分かっています。娘がこんなにも怯えてしまったのは私の責任です。もう今後はこのような事が無いように気を付けますから」

 

 

 今ので若干治崎の言動が怪しくなってきたが、だからと言って、そこで深掘りするような性格を彼は持ち併せていない。

 

 他所の家庭事情に首を突っ込む気は更々無いのだ。発言の真偽がどうあれ、治崎が気を付けると言うのであれば、彼はそれに頷くだけ。

 

 何故なら彼は、ヒーローではなくサイヤ人だから。

 

 蹴飛ばしてしまった負い目から出来る限りの治療は施したが、基本的にそれ以上の事はしない。たとえ壊理が目の前で怯えていようとも、それを気に掛ける優しさが彼女に向けられる事はない。

 

 彼が気に掛ける相手は、極一部の限られた人達のみ。

 

 

「では、娘も無事に目を覚ました事ですし、私達はこれで失礼します。今日はありがとうございました。……ほら壊理、早く家に帰るぞ」

 

 

 治崎は改めて礼を言うと、未だに肩を震わす壊理の下へ歩み寄り、その手を掴んだ。

 

 そのまま壊理を引き連れて帰る……かと思われたが、当の本人はその場から立とうとも動こうともしない。

 

 どころか、近くにいた彼にしがみ付くと、涙目になりながらか細い声で一言。

 

 

「お願い……行かないで……」

 

 

 悲痛な叫びだった。なけなしの勇気を振り絞って出した、助けを求める声だった。

 

 もしもこの叫びを聞いた相手がヒーローか、はたまた普通の感性を持った人であれば流石に異常だと気付き、治崎を問い詰めるか警察などの公的機関に通報するかしていただろう。

 

 だが、非常に運の悪い事に壊理が助けを求めた相手は、壊理とは違うベクトルで過酷過ぎる幼少期を過ごし、生まれた時からイカれた感性を持つ戦闘民族(サイヤ人)

 

 壊理の心の叫びを聞いた彼は、『やはり父親の行き過ぎた躾がトラウマになっているのか。ちょっと面倒な事になったけど、どうしたら早く帰ってくれるだろうか』と、少々困ったなと思う程度だった。

 

 

「おい壊理、何をそんなに意固地になっているんだ? きつく叱り過ぎてしまった事は父さんも反省しているが、ここで彼に迷惑をかけるのは流石に良くない。

 ほら見てみろ、ちょっと戸惑っているじゃないか。家の中で我が儘を通すのはまだ良いにしても、他所様の家で同じ事をするのは感心しないぞ」

 

 

 治崎も困っているようで、何とかして壊理を宥めて連れて行こうとするが、それでも壊理は全く彼から離れようとしない。

 

 さてどうしようかと、2人してうんうん唸って考える。

 

 

(どうする……出来る事なら壊理を力尽くで引き剥がしてでも連れ帰りたいが、流石にそれをやったらこいつに怪しまれてしまうし、何よりリスクが高過ぎる。

 いつもなら俺の個性で相手を分解して、口封じも済ませているんだが……何故かは知らんがこのガキに俺の個性が一切通用しない。よって常套手段は無理、どうにか穏便に壊理を連れて行くしか……)

 

 

 穏やかな表情の裏で、内心かなり過激な発言を繰り返す治崎。

 

 目の前にいる彼があまりに不気味過ぎる存在である事も相まって、相当な苛立ちが募っていた。

 

 だが、ここで治崎は思い出す。

 

 

(いや待てよ? 確かにこいつに俺の個性は通用しなかったが、それを知っているのは俺だけで、壊理はその事をまだ知らない。つまり俺がこいつの命を脅かそうとする素振りを見せれば、壊理の性格上すぐに離れてくれるのでは……?

 それに、こいつ自身も俺と壊理の関係性にあまり首を突っ込む気は無いようだし、そこまで気にしていない……いや、興味自体が無いのか? まあ何にせよ、1度試す価値はありそうだな)

 

 

 すぐに考えを改めた治崎は、ここで思考の渦から抜け出し外の世界に意識を向ける。

 

 そして未だに泣きそうな顔で彼にしがみ付く壊理を見やると、治崎は2人に背を向けて淡々と語り出した。

 

 

「参りましたね……娘がこうなってしまった以上はどうしようもありません。出来る事なら、あなたにあまり迷惑を掛けたくは無かったんですけど……仕方ありませんね。

 すみませんが、ちょっと壊理を抱っこしたままこちらに来てくれませんか? ここにずっといるのもあれですし、壊理の気が済むまで3人でちょっとした立ち話でも……」

 

「────────ッッ!!!!」

 

 

 その時、壊理の様子が明らかに変わった。

 

 治崎が2人に背を向けて語りながら手袋を外そうとした瞬間、壊理が血相を変えて彼から離れ、慌てるように治崎の下へ駆け寄ったのだ。

 

 これには彼もポカンと口を開けて眺めており、不思議そうに治崎と壊理の2人を見つめていた。

 

 

「……ん、何だ? もう駄々は済んだのか?」

 

「……うん」

 

「そうか。それじゃあ今度こそ家に帰るぞ壊理。もう周りを心配させるような行動は止めてくれ。良いな?

 ……すみません、最後までご迷惑をお掛けして。どうやら娘の我が儘も終わったようですし、そろそろ失礼します。では……」

 

 

 そう言って丁寧にお辞儀をしてから、治崎は壊理を引き連れて部屋を出て行こうとする。

 

 彼は彼で、先程の壊理の行動は意味不明だったが、結果的に事態が丸く収まるのであればそれで良いかと、深く考えるのを止めた。

 

 そして、広大な敷地を誇る実家の中で迷ってもいけないので、2人を玄関まで案内し、玄関先で手を振って見送る。

 

 その際、壊理がどこか絶望に染まりきった様な、希望が完全に断たれた様な、そんな暗い表情になっていたのがやけに記憶に残った。

 

 誤って蹴飛ばしてしまった出会いからお別れの最後まで、どこまでも異質で不思議な親子。それが、彼が最終的に2人に対して抱いた印象だった。

 

 こうして彼の、長い長い平穏な1日は終わりを迎えるのであった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────えっ? あれはひょっとして、調査対象の治崎!? どうしてこんな場所に……? それにあの女の子は一体……」

 

「……どうやら、また新たな情報を得たようだね。とりあえずサーに連絡して指示を仰ごう。それにしても、今あの2人が出てきた豪邸は誰の物なんだろうね? 八斎會の物とは考えにくいし……」

 

「それも後で調べて……えっ? 何で、彼があそこに……?」

 

「あれは……体育祭のVTRで見た事あるよ。今年1番注目を集めた、例のサポート科の人だよね。ひょっとしてあの豪邸、彼の家なんじゃないかな? どうしてそこから治崎が出てきたのかは謎だけど」

 

「とにかく、ナイトアイに連絡しないと……あっ、見逃さないように治崎を尾行しておいた方が……」

 

「駄目駄目! ここで下手に行動するのはリスクが高い! それに、俺達の任務はあくまで周辺地域のパトロール。実際に調査するのはサーとバブルガールの方なんだから、ね?」

 

「は、はい……分かりました……」

 

「うん、それじゃあ早速サーに連絡だ。……あ、もしもし? 俺ですサー、ルミリオンです。今ちょっとパトロールしていたら、偶然治崎の姿を目撃しちゃいまして!

 ……ええ、はい。それなんですが、俺達新たな情報を手に入れたかもしれません」

 

 

 




はい、これで主人公とオーバーホールが関わる時は二度とありません!
……と言いたいところですが、どうなるのでしょうか? 緑谷達から話を聞いたサー・ナイトアイが黙っていないと思うけど……。

というか今回の話、壊理ちゃんにとってはあまりにも絶望的過ぎて……。

壊理ちゃんに救いは……救いは無いのですか!?
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