サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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 4話目投稿してから評価数・UA共に急増して驚いてます。ありがとうございます。
 最初、オリ主サイドではなく原作キャラサイドから話が始まります。横線引いて話を一旦区切る所まではそっちサイドです。個人的にどうしても書きたかったんです。……完全に我が儘ですね、はい。
 まあ何はともあれどうぞ。


第5話 混乱と策略の終盤戦

『残り時間2分となった! さあ、果たして1000万ポイントは誰に頭を垂れるのか!!』

 

 

 プレゼントマイクの実況を聞きながら、緑谷チームのリーダーである緑谷出久は考える。

 

 

(時間はあと2分。それまでに轟君やかっちゃん達のチームよりも先に1000万ポイントを取らないと……! でも、迂闊に近付いたら反撃されてしまうし、個性もどんな物か情報がない。だからこそ、僕達のチームが1位になるためには……!)

 

 

 周りを警戒しながらもどう立ち回っていくか、必死に頭をフル回転させる。

 

 

「残り時間ももう少ない。でも、焦らず時間ギリギリまで僕達3人で粘るんだ。1000万を取るまでは、決して()()()()()()2()()()()()()()()()()立ち回るんだ!」

 

 

 額に自分の鉢巻と峰田チームから取った鉢巻を巻いた緑谷は、作られた騎馬の上でチームメンバーにそう告げる。

 

 

「やるよ! 麗日さん、常闇君!」

 

「うん!」

 

「ああ」

 

『アイヨ!』

 

 

 そして、緑谷は彼に声をかける。

 

 

()()()!」

 

「……ああ」

 

 

 4人目のメンバーである心操人使も、絶対に取ってやるという気概を見せながら言葉を返した。

 

 

 

 

 事の発端は、見るからにお人好しそうな人の集まりを見つけた事だ。警戒心のけの字もない緑谷と麗日に、若干の警戒はあるものの普通に接してくれる常闇の3人を見た心操は、彼らを利用しようと近付いた。

 

 

「そこにいる3人。……そう、お前らの事だよ。ちょっと良いか?」

 

「えっ? あっ、はい……」

 

「私達に何か……」

 

「用でもあるのか……」

 

 

 瞬間、3人の動きが止まった。彼の個性『洗脳』を食らってしまった証拠である。後は適当に指示を出して扱き使い、利用するだけ利用して騎馬戦を乗り切れば良い。

 

 そう思っていた時だった。

 

 

「よしお前ら、騎馬になって俺を上に乗せ……」

 

『オイ、ドーシタフミカゲ?』

 

 

 知性を持った常闇の個性、『黒影(ダークシャドウ)』が現れて常闇本人の頭を叩いた。

 

 不味いと思い、再び洗脳しようと試みる心操だったが既に遅かった。

 

 

「ハッ! か、体が動く……緑谷、麗日!」

 

 

 叩かれた衝撃で洗脳を解いた常闇は、すかさず緑谷と麗日の体を力強く揺さぶる。すると、ピクリとも動かなかった2人も息を吹き返したかの様に声を上げる。

 

 

「あっ! び、びっくりしたー!」

 

「返事をしたら急に靄がかかったみたいに動けんくなった! ねえ、今のってもしかして……」

 

「間違いなくこいつの個性だろうな。状況から考えるに、恐らく返事をさせる事で相手を支配下に置ける個性……差し詰め『洗脳』といった所か。2人とも、返事はするな!」

 

「えっ……?」

 

「洗脳って、それ……」

 

 

 洗脳を解かれたどころか、洗脳の種までバレてしまった心操の内心は穏やかでは無かった。これでもう1度洗脳するのが難しくなったからだ。仮に出来たとしても、また先程のように一瞬で洗脳を解かれてしまう。

 

 もうこの3人を洗脳して自分の駒にするのは無理だ。急いで別のチームに当たるべきだ。そう結論を出した心操は、サッと踵を返してその場から離れようとする。

 

 

「……あっ、ちょっと待って!」

 

 

 だが離れようとした途端、緑谷が彼の肩を掴んで引き留めた。なぜ止めたのか疑問に感じた心操だったが、恐らく洗脳してきた自分に文句を言おうとしてるに違いないと考えた。

 

 一瞬迷ったが、いきなり洗脳された上に利用されかけたら、そりゃあ文句の1つも言いたくなるよなと思い、素直に歩みを止めて再び振り向く。

 

 

「あっ、えっと……何て名前……」

 

「……心操人使だ」

 

 

 名前を聞かれた心操は、どうして自分の名前を聞いてくるのかと思いながらも、数瞬の時を経て自身の名前を教える。

 

 すると突然、緑谷が彼の肩を力強く掴んで言った。

 

 

「心操君、僕達とチームを組んでほしい!」

 

「……えっ?」

 

 

 緑谷の口から出てきた言葉は、彼が予想だにしていなかったものだった。

 

 洗脳されて文句を言われこそすれど、自分達を利用しようとしてきた人に対してチームを組んで欲しいと言う理由が分からなかった。

 

 だが、そんな疑問が彼の口から出てくる前に、緑谷は続けてこう言った。

 

 

「心操君がいればこの騎馬戦で1位になれる! 君の力が必要なんだ!」

 

 

 心操は自身の個性に対してあまり良い感情を抱いていない。齢4歳の時から持つ洗脳の個性のせいで、周囲の人からは『敵みたい』と言われ続け、日々偏見の目で見られる人生を送ってきたからだ。

 

 だから、いつか彼が洗脳の個性に対する想いを改める時が来るとすれば、その切っ掛けは目の前にいる度を越したお人好し(緑谷出久)と出会った事だろう。

 

 

 

 

 こうして心操は、緑谷チームの最後のメンバーとして騎馬戦に挑む事となった。途中、峰田チームに奇襲されるというアクシデントがあったものの、洗脳の個性を使って峰田達の動きを止めた事で、危機を脱した上に鉢巻まで取る事に成功している。

 

 残るは発目チームが持つ1000万ポイントの鉢巻を奪取するだけだ。上空で爆豪、轟、鉄哲の3チームの猛攻を捌き続ける発目達を見ながら、緑谷は鉢巻を奪える瞬間を虎視眈々と狙うのだった。

 

 

 


 

 

 

『残り時間あと1分と30秒だ! まだ1度も鉢巻を奪われていない発目チームだが、ヒーロー科の絶え間ない猛攻をたった2人で凌ぎ続けるなんて想像以上だ! 凄い、凄すぎる! これマジで逃げ切れるんじゃね!? なあイレイザー!!』

 

『爆豪達の攻撃も悪くはない。だが、やはりあの高さで滞空し続けている奴らが相手だとどうしても決定打に欠けるな。空中だと踏ん張りが利かないから、その分攻撃も弱まってしまう。対する向こうは安定した飛行で回避と防御に徹している。サポートアイテム頼りだから肉体的疲労も爆豪達ほどじゃない。だから余計に鉢巻を奪いにくい』

 

 

 相澤の言う通り、3チームとも鉢巻を奪おうとあの手この手で攻め続けているが、空中に留まり続ける発目チームから未だに1000万ポイントを奪えずにいた。滞空というアドバンテージが想像以上に大きい事を示している。

 

 これを可能にしているサポートアイテムは全て発目の自作だ。ホイポイカプセルシリーズを作った彼も大概だが、圧倒的な数のサポートアイテムを短期間で作成して使いこなす発目も同様におかしい。

 

 そして、この2人組の堅い守りに攻めあぐねている事実に、各チームのメンバーの表情は険しくなる一方だ。

 

 

「クソッ、モブの癖に調子乗りやがって……!」

 

「おい、どうする爆豪!? あいつら思っていた以上に素早い動きするから追いかけるのも一苦労だぜ。瀬呂のテープも悉く避けるしよ。それにお前の攻撃もさっきから……!」

 

「黙れ切島ぶっ殺すぞ! テメ―に言われなくとも、次は絶対取ってやる!」

 

 

 ある者は肥大化する怒りの感情を原動力に、獰猛な肉食獣の様な目で相手を睨み付け。

 

 

「最大出力の氷で一気に拘束して……いや、駄目だ。そんな規模で放ったら騎馬の3人が巻き添えを食らってしまう。……飯田、何か作戦はねえか?」

 

「すまない轟君。俺も今考えているんだが、あんな上空に留まられると俺では何も出来ない。せめてジャンプして届く高さまで2人が降りてくれたらチャンスはあるんだが……」

 

 

 ある者はどうやって鉢巻を奪うか頭を悩ませ。

 

 

「クッソー、舐めやがって……! よし塩崎、俺を奴らの所まで投げ飛ばせ! こうなったら俺が直接分捕りに行ってやる!」

 

「無茶言わないでください鉄哲さん! あなたを抱えてあの高さまで投げ飛ばすのは相当厳しいですよ! 仮にあそこまで投げ飛ばせたとしても、身動きが取れない空中では相手の思う壺です!」

 

「んなもんやってみなきゃ分かんねえよ! とにかく、どうにかして1000万ポイントを……」

 

 

 またある者は、もはや作戦と呼べるかどうか疑わしい方法で無理やり1000万ポイントの鉢巻を奪おうとしていた。だが、いくら考えてもいくら取りに行こうと動いても、のらりくらりと躱され逃げられてしまうのみ。

 

 そんなヒーロー科の生徒にとってもどかしい状況を作り出した元凶の2人組は、全員を見下ろす形でとても良い笑顔をしていた。

 

 

「良いですねえ良いですねえ! 私のドッ可愛いベイビー達が大活躍して会場中の注目を独り占めしてますよ! ……あっそうだ、今度はこっちから仕掛けてみませんか! 今まではただ逃げて守っての繰り返しでしたし、最後くらい目に物見せてやりましょう!」

 

 

 そんな中、乗りに乗っている発目がこちらから攻撃しようと言ってきた。今まで散々狙われ続けた鬱憤を発散するにはちょうど良いのだろう。

 

 だが珍しい事に、この提案に彼はあまり乗り気ではなかった。以前にも言ったが彼はサイヤ人であり、その力は過剰すぎると言えるほどにまで成長している。力加減はある程度可能だが、何かの弾みでちょっとでも力み過ぎてしまったら相手の大怪我待ったなしだ。

 

 よって、いざ攻撃するとなると人一倍気を使わないといけない。彼だけではなく周りのためにも、出来る事なら攻撃はしない方が良い。

 

 攻撃せずにこのまま待機で良いのでは? そう提案したが、発目が首を横に振って否定する。

 

 

「それでは困ります。試作機21号の性能を確かめるためにも、ここで使っておきたいんです」

 

 

 言いながら発目が背中から取り出した物は、一体どこにそんな物しまっていたんだと聞きたくなるような大きさの砲門だった。詰まる所、ロケットランチャーである。

 

 恐らく殺傷力は極限まで抑えられているだろうが、これを食らってヒーロー科の人達が無事で入られる保証は皆無に等しい。むしろトラウマを植え付けるかもしれないレベルの代物である可能性が高い。発目ならやりかねない。

 

 そんな事を思っていた時だった。

 

 

「別にあなたも一緒に攻撃してくれと言ってるわけではありません。ただ試作機21号を使える位置までの移動を手伝って欲しいだけです。あなたがどれほどの力を持っているかは計りかねますが、パワーローダー先生を軽く吹っ飛ばした時の事を考えると、力を使う事に乗り気でないその気持ちも分かります。無理強いをさせる気はありませんよ」

 

 

 発目の口から出てきた言葉に彼は驚いた。

 

 あの発目が。初対面の彼に向かって利用させてくださいとあけすけに言い放ち、他人への迷惑など1ミリも考えていないあの発目が、いきなり気を遣った言葉をかけたのだ。これで驚かない方が無理がある。

 

 だからこそ、意外な一面を見せてくれた彼女の期待に応えるためにも、最後に一発だけ大きな花火をぶつけてやろうという気になった。それに彼自身、試作機21号がどれほどの物か見てみたいという欲があった。何だかんだ言って、彼と発目は似た者同士なのだ。

 

 

『おーっと、急にどうした発目チーム!? 残り時間あと僅かって時に、急に高度を下げて距離を詰めてきた……って、デカッ!? えっ、どこにそんなもん隠し持ってたの? というか、あれってもしかしなくてロケランだよね? まさか使う気か? 最後の最後であれを使う気なのかぁー!?』

 

 

 プレゼントマイクの驚く声を聞きながら、彼は徐々に高度を下げて皆との距離を詰めていく。その間、発目はいつでも撃てるようにロケランを肩に抱え、砲門を皆がいるステージの中央に向ける。それを見て殆どの人が動揺するが関係ない。

 

 

「うふふふふ……! では行きますよ! 皆さんちゃんと避けて下さいね! 3、2……!」

 

 

 だがロケランを撃つ直前、下の方から爆発音が響いてきた。それに加え、心なしか周囲の気温も段々と低くなっている。

 

 咄嗟に音がした方に顔を向けると、そこには殺意的な目で迫りくる爆豪と巨大な氷塊を生成してぶつけようとする轟の姿があった。更に爆豪の後ろからはどうやってここまで飛んできたのか、全身を鋼鉄に変化させた鉄哲が飛んでくる姿も見える。

 

 3人とも先程までの読み合いなど無かったかのような勢いでこちらに向かってくる。普通ならどうしようもない状況だが、これまでずっと逃げ続けてきた発目達にとって3人の攻撃を回避するのは朝飯前だ。

 

 

「余裕かましてんじゃねえぞモブ共がぁ!!」

 

「ここまで虚仮にされて黙ってられるかよ……!」

 

「正々堂々と勝負しろやコノヤローッ!!」

 

 

 始めに、今いる場所から素早く轟の近くへ飛んで行く。もちろん捕まらないように不規則な軌道を描きながら。これでただ真っすぐ飛んでくるだけの鉄哲は何も出来ない。まずは1人目。

 

 

「さあ爆豪さん、こっちですよ! また返り討ちにしてやりますから!」

 

「舐めんなクソがああああー!」

 

 

 次に爆豪を煽って怒りを誘う。怒った相手ほど視野が狭くなり、その分集中力も低下する。つまり周囲への警戒が薄くなるのだ。

 

 だがこれまでの経験で、爆豪は例え怒っても冷静に物事を判断出来る事が判明している。だからこそ、爆豪が攻撃してくるギリギリまで引き付けて、ここぞというタイミングで発目が頭に取り付けた照明のスイッチを入れる。

 

 

「うぐっ……! もう慣れてんだよ!」

 

「いいえ、作戦通りです!」

 

 

 照明によって視界を塞がれる爆豪だが、既に1度経験しているため発目の位置を感覚で掴んでいる。このままでは爆破の攻撃をモロに食らってしまうだろう。

 

 ただ、忘れてはいけない存在がすぐ近くにいる事を爆豪は忘れていた。

 

 

「ガッ!? しまった、半分野郎の氷が……!」

 

 

 そう、視界を遮られたせいで近くにいる轟からの氷結攻撃の対処に遅れてしまったのだ。この氷結、元々は発目達に向けて放たれたものだが、その攻撃を逆に2人に利用されてしまった形となる。

 

 こうして攻撃の軌道上に入ってしまった爆豪は、氷に激突した衝撃で一瞬身動きが取れなくなる。その隙を発目は見逃さない。

 

 

「掛かりましたね! 駄目押しにもう1撃どうぞ!」

 

「ああああああクソがああああー!!」

 

 

 本日2度目となる捕縛ネットに引っ掛かった事で、今日一番の怒声を上げながら落下していく爆豪。数分前と全く同じ光景だった。これで2人目。

 

 これで残るは轟のチームのみ。ここまで来れば、後はこの4人を煮るなり焼くなり好きにするだけだ。

 

 

「これで残るは轟さん、あなたのチームだけですね。このまま大人しく降参するなら見逃してやっても良いですよ」

 

 

 追いかけられていたのは発目の方なのに、いつの間にか立場が逆転していた。

 

 発目の挑発的な言葉に一瞬歯を食い縛る轟だったが、ここで闇雲に攻撃しても自分達の首を絞めるだけだと考えを改め、努めて冷静であろうとする。

 

 

「……随分余裕だな。そんなに俺達が大した事なかったのか?」

 

「いえいえ、そんな事はありませんよ。私も正直言って、彼と騎馬を組んでいなければとっくの昔に鉢巻を奪われていました。いくら私のベイビーでも、流石に1人ではどうしようもありませんからね。他の誰でもない、彼のおかげでこうして逃げ切れているんです」

 

 

 そう言うと発目は、一緒に騎馬を組んでくれた彼の方に視線を向ける。

 

 

「なるほど、確かにそれもそうだな。だけど今の感じ……まるでそいつの方が、実力は俺達よりも上だと言っている様に聞こえたんだが?」

 

「……と仰ってますが、実際どうなんです?」

 

 

 どう? と聞かれても、別に嘘を吐くつもりも無かったので、彼は轟の質問に正直に答える。実力は自分の方が随分上だと思う、と。

 

 彼の返答を信じるか否かは聞いた相手次第だが、どう受け取られようとも彼にとってはどうでも良い事だ。しかし当然とも言うべきか、その返答は轟にとって聞き捨てならないものだった。いや、轟だけではなく他の3人にとっても聞き捨てならなかった。

 

 

「……俺達相手に大きく出たな。そんなに実力あるなら見せてもらおうじゃねえか……!」

 

 

 話はこれで終わりだとでも言うかのように、いきなり轟チームが戦闘態勢に入った。

 

 返答の内容を間違えてしまったと心の中で省みながら、彼も攻撃に備えて素早く身構える。

 

 

「せっかちさんですね。そんなに慌てなくても……」

 

 

 発目も同様に、下げていたロケランをいつでも撃てるように素早く肩に抱える。

 

 と、その時だった。

 

 

「皆、今だ! 常闇君!」

 

「よし、やれ黒影!」

 

『アイヨ!』

 

「わっ、いきなりですか!」

 

「なっ!? 緑谷だと!?」

 

 

 突如発目達の横から緑谷チームがやってきた。あまりに突然すぎて両チームとも対応が遅れてしまう中、麗日の個性で軽くなった緑谷が常闇の黒影に投げ飛ばされ、猛スピードで発目に向かって飛んでいく。

 

 だが、どちらも驚いたのは一瞬だけですぐに迎撃態勢を整えて待ち構える。このままではせっかく奇襲を仕掛けてきた緑谷も成す術なく叩き落とされてしまうだけだ。

 

 ただしそれは、緑谷だけの力だった場合に限る。

 

 

「そのサポートアイテム、逃げるために使ってばかりで全然大した事ないな! あんたらもそう思わないか!」

 

 

 緑谷チームの1人、心操が大声で発目自慢のベイビー達を馬鹿にしてきた。明らかな挑発だというのはすぐに分かったので彼は無視したが、ベイビー達を馬鹿にされた発目本人に無視という選択肢はあり得なかった。

 

 

「なっ!? 今言ってはならない事を……!」

 

 

 だからこそ、心操の洗脳にあっさりと掛かって動きを止めた。いきなり完全停止した発目を見て、こればかりは彼も動揺を隠せない。何度も呼びかけるも返事が返って来る様子はなく、虚な目をしたまま立ち尽くすだけだった。

 

 その一方で、目の前で突然動きを止めた発目を見て、困惑しながらも鉢巻を奪い取る絶好の機会だと判断した轟は、急いで2人を拘束するため巨大な氷を出そうとする。

 

 

「ヒーロー科のトップがその様とか、情けないと思わないか? ええ、轟さんよぉ!」

 

 

 だが、氷結で拘束しようとする轟を見て危機を感じ取った心操が、今度は轟を洗脳しようと咄嗟に大声で煽る。それも名指しで。

 

 

「何だとてめぇ……!」

 

 

 挑発には無視が一番なのだが、この時鉢巻を取る事に必死で焦りが生じて苛ついていた轟は、反射的に返答して心操の洗脳にまんまと引っ掛かってしまった。結果、轟も糸が切れたマリオネットの様に停止した。

 

 動かなくなった轟に異変を感じ取った騎馬の3人が何度も呼びかけるも、轟からの返事はない。

 

 

「止まった! 成功した! 『発目明、鉢巻を外して緑谷に投げろ』!!」

 

 

 2つのチームが止まっている間に、心操が発目に命令を下す。すると、発目は抵抗する事無く自身の鉢巻を外して、目の前まで近付いた緑谷に投げ付けた。心操の命令に従って行動する発目に、騎馬である彼の動揺が更に大きくなる。

 

 

「取った……取ったああああああー!!」

 

 

 その隙に緑谷が飛んできた鉢巻を掴み取ると、常闇が黒影を伸ばして即座に回収。急いでその場から離れて行った。

 

 これら一連の動きを全て見ていたプレゼントマイクは、驚きの余り大声で叫ぶ。

 

 

『お、おおおおおおー!! やった! 遂にやりやがった! 緑谷チーム、発目チームから1000万ポイントを奪い取ったああああー!! この土壇場で誰も成し得なかった偉業を緑谷チームがやり遂げたああああー!!』

 

『マジかよ、やるなあいつ』

 

 

 解説の相澤もこればかりは珍しく手放しで緑谷を褒め称える。観客席から観ていたオールマイトに至っては、思わず立ち上がって盛大な拍手を送っている。

 

 その興奮は観客達も同様。まさかまさかの展開に、会場中から大歓声が沸き起こった。空気が振動してステージもビリビリと震える。

 

 その間に洗脳の効果が切れたのか、どこかスッキリしない表情のままようやく発目が動き出した。

 

 

「はあ、やられました……。まさか人を操る個性持ちがいたなんて思いもよらなかったです。あれだけ暴れておいて、最後の最後で油断してしまいました。今回ばかりは本当にすみません……」

 

 

 珍しく落ち込んで謝る発目に、これも結果だから気にしなくて良いと彼は言葉を返す。

 

 

「まあ、そうですよね! 過ぎた事を悔やんでも仕方ありません! 残念ながら次の本選には行けませんでしたが、多くのベイビーを使って暴れる事が出来たので良しとしましょう!」

 

 

 だが、そう言って笑う発目の表情はどこか無理をしている様で、いつものあっけらかんとした彼女とは遠くかけ離れていた。その様子に違和感を抱いた彼は発目に言った。

 

 本音を言ってくれ、と。彼の言葉に、発目は深い溜め息を吐くと正直に話した。

 

 

「……本当は、まだ終わりたくありません。紹介してないベイビー達がまだあるんです。だから次の本選にも出て、もっともっと私のベイビーを皆に見てもらいたいんです。それまでは終われません」

 

 

 今回、この騎馬戦でヒーロー科の生徒達を散々弄んできた発目だったが、それでも先程の失態は精神的にかなり堪えていたらしい。彼女にしては本当に珍しい事だ。

 

 それを理解した彼は分かったと一言だけ呟くと、突然身に着けていたサポートアイテムを外し始めた。その行動に発目は首を傾げる。

 

 

「急にどうしたんですか? まさか、今から鉢巻を取り返す気で……? そのお気持ちはありがたいですが、もう残り10秒しかありませんよ? それに確か、個性を使いたくなかったはずでは?」

 

 

 10秒どころか1秒もあれば十分だ。

 

 正直言って、下手に力を使うのは危ないからアイテム頼りで体育祭を乗り切る気だった。だが、その見通しはどうやら間違っていたらしい。アイテムだけで乗り切れるほど相手も甘くは無かったという事だ。

 

 そして何よりも、いつもの発目に戻ってほしいという気持ちがあった。いつまでも沈んだ彼女を見るのは、彼にとってもあまり気分の良い物ではない。だから今だけは、鉢巻を取り返す事にだけ力を使おうと決心した。

 

 攻撃をしなければそれでいい。ただし移動の際、誤って相手に当たって吹き飛ばさないように細心の注意を払う必要があるが。

 

 

『さあ、ここでカウントダウン行くぜぇー! 残り5秒前! 5、4……!』

 

 

 ベイビー達を素早く外し終えて発目に預け。

 

 

『……3、2!』

 

 

 他の皆に気付かれないように、静かに気を高めると。

 

 

『……1!』

 

 

 彼は、その場から姿を消した。

 

 

『ゼロォォォォーッ!! 波乱万丈の騎馬戦だったが、ド派手な戦いを制して1000万ポイントを獲得したのは、緑谷出久率いる緑谷チー……んっ? あれっ!? あれぇー!?』

 

 

 終了の合図が鳴り響き、プレゼントマイクが興奮冷めやらぬまま緑谷チームの勝利を伝えようとした。しかし、その声はモニターに映し出された順位表を見て徐々に小さくなり、そして障害物競走の時と同様に素っ頓狂な声を上げた。

 

 

『えっ、ちょっと待って嘘だろ!? 第1位、()()()()()? ……なんで? 発目のとこは緑谷チームに鉢巻奪われたじゃねーか! おい、どうなってんだよ一体! これ集計ミスってるぞ!』

 

 

 混乱するプレゼントマイクの実況を聞いて、緑谷チームのみならず他の皆にも動揺が奔る。

 

 

「えっ、そんな!? 確かにあの時、1000万の鉢巻を……あれっ? あれっ!? 鉢巻が無い! 1000万の鉢巻だけどこにもない!!」

 

「嘘やろデク君!?」

 

「何だと!? それは本当か緑谷!」

 

「おい、どういう事だよ!」

 

 

 会場にいる誰もが混乱する中、相澤だけは発目チームにいる彼の動向を目撃していた。

 

 

(あいつ……最後の1秒で緑谷から鉢巻を奪い取りやがった。本人でさえ奪われた事に気付かないスピードで移動して。一体何なんだあいつは……?)

 

 

 その視線の先には、奪い返した1000万の鉢巻を発目に手渡す彼の姿があった。

 

 

 




 前回の後書きで騎馬戦の話は途中までしか書かないって言ってたはずなのに、いつの間にか1話丸ごと使って書いてた……。しかもいつもより1500字くらい長いし。(でも本当はもっと長くて、これでも3000字は削って少なくした方だなんて口が裂けても言えない……! というか、発目ってあんなに落ち込むキャラじゃなかったような……まあ細かい事は良いか!)
 今後もこのような事が起こる可能性は高いですが、それでも読んで頂ければ嬉しいです。
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