サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
それではどうぞ。
予想外の最後に未だ混乱は続いていたが、騎馬戦が終わった事に変わりは無いのでとりあえず昼休憩を挟む事となった。
興奮と混乱で騒ぐ観客達。その一方で、教員専用の控室に集まった雄英の教師達は先程の騎馬戦の映像を確認していた。確認する箇所は勿論、騎馬戦終了間際の部分だ。
「皆さん、この部分をよく見て下さい。試合終了間際のこの部分です。発目明と一緒に騎馬を組んでいたもう1人のサポート科……残り1秒で見せた彼の動向を」
映像を確認しながら、彼の動向を目撃していた相澤は他の教師達にそう告げる。
カメラに映っていたのは、残り10秒で身に着けたサポートアイテムを全て外した後、残り1秒でその場から姿を消したと思ったら、いつの間にか1000万の鉢巻を握り締めていた彼の姿。
それを見たプレゼントマイクが疑問を口にする。
「なあイレイザー、これどうなってんだ? 最後の1秒でこいつが鉢巻を取り返したって事は分かったんだが……」
プレゼントマイクの言葉に、主審のミッドナイトが続けて言う。
「サポートアイテムを使ったとかじゃないのは見て分かるけど……ねえ、彼の個性って何?」
「ちょっと待ってください、今資料を……あったこれだ。えーと……彼の個性は『尻尾』。その名の通り、尻尾が生えているという個性です。資料にはそう書かれています」
相澤の答えを聞いて動揺が奔る中、プレゼントマイクが肩を竦める。
「おいおいイレイザー、冗談言ってんじゃねえぜ? 尻尾が生えているだけの奴が、たった1秒で緑谷から鉢巻を奪えるかって話だ。まさかとは思うが、個性登録を偽装しているとかじゃねえよなぁ?」
「でも尻尾が生えているのも事実。100%偽装しているとは言えないし、そもそも情報が少なすぎるわ。彼について何か知っている人はいるかしら?」
ちなみに彼の個性名が尻尾である理由だが、彼の両親が『とりあえず尻尾生えているから尻尾で登録しておこう』という適当な判断で個性登録したからであって、特に深い理由があるわけではない。
そんな事情など知る由もないミッドナイトの質問に、彼のクラスの担任であるパワーローダー先生が手を挙げる。
「担任として言わせてもらう。まず確実に言える事だが、あいつにはとんでもないパワーがある。以前工房であいつに背中を叩かれたんだが、あまりの衝撃に壁を突き抜けて隣の部屋まで吹っ飛ばされてな。正直死ぬかと思ったが、本人は軽いノリのつもりでやったらしい。軽く叩いただけでその威力だ、本気を出したらどうなるか見当も付かない」
パワーローダー先生が言った彼の情報を聞いて、周りがシンと静かになる。全員が信じられないといった目をしていた。
そんな静寂を相澤が破る。
「……騎馬戦で見せたあの超高速移動。超スローで再生して、辛うじて影が一瞬だけ見えるほどの意味不明な速度です。彼のパワーがどれほどの物かは分かりません。ただ、1秒足らずで数十mも離れた緑谷から鉢巻を奪って戻った所を見るに、少なくともスピードはオールマイト並みである事に間違いないでしょう」
「オールマイト並みのスピードか……確かにな」
「僕なんてスロー再生でも全く見えませんでしたよ……」
雄英のプロヒーローであるブラドキングと13号が納得した顔でそう呟く。
「……なあ、とりあえずこの話は一旦置いといて、今は最終種目のトーナメント戦をどうするか決めようぜ。1位の発目チームが2人だから、最終種目に進む人数もトーナメントの組合せも予定とはズレちまっているんだぞ?」
と、ここでプレゼントマイクが話の流れを変えて最終種目の話題を切り出した。
予定では上位4チームの計16名が最終種目に進むはずだったが、発目達が1位になった事で2人分の空きが出来てしまっているのだ。
「確かにそれもそうね……イレイザーはどうする? このまま14人で決勝やっちゃう?」
「そこは先輩の好きなようにすればいいと思いますよ。今年の主審は先輩なんですから細かい調整は任せます。ただ、予定より人数が増減しても2人くらいならそんなに問題は無いかと……俺個人の意見ですが」
ミッドナイトに意見を求められた相澤が自身の考えを述べると、それを聞いたミッドナイトが顎に手を当てて考える。
結論が出たのはその数秒後だった。
「それじゃあもう2人増やして18人での決勝戦にしましょう。14人だけだと何か物足りないし、だったらもう1チーム分増やした方が良いと思わない?」
ミッドナイトが出した結論に反論する者はいなかったので、騎馬戦の上位5チームによる決勝戦を行う事が決定した。
こうして話が一通り済んだところで一先ず解散となったが、ここでプロヒーローのセメントスが今までずっと思っていた疑問を口にする。
「あの、ずっと気になっていたんですが……オールマイト、どこに行っちゃったんですか?」
セメントス含めた何人かの教師がずっと思っていた疑問。1年生のクラスを担当する教師の殆どが集まる中、オールマイトだけがどこにもいなかったのだ。
そんな疑問に答えたのはパワーローダー先生だった。
「ああ、オールマイトなら所用で来れないってさっき連絡が来たよ。なんでも決勝前にあるレクリエーションで準備する事があるらしくてな。しかも何故か、俺のクラスの問題児2人が関わっているとか何とか……」
一言一言話す度にどんどん顔色が悪くなっていくパワーローダー先生を見て、相澤は微妙な顔をしながらも尋ねる。
「問題児2人……多分あの2人でしょうけど、何するか知らないんですか? 出来れば詳しい内容を教えて欲しいんですが……」
「知ってたらとっくの昔に教えてるよ。まったく、あいつら担任の俺にも教えないで何をするつもりなんだ? 頼むからこれ以上ヤバい事はしないでくれよ……!」
担任でさえ何をするか把握出来ていない状況に、相澤の表情は暗くなる一方だった。
一方その頃、騎馬戦を終えた彼と発目は食堂で昼食を取っていた。これまで彼はお弁当を持参していたが、今日に限っては用意する時間が無かったので食堂を利用するのは今回が初めてだったりする。だからというべきか、クックヒーローのランチラッシュが作る料理の味は一流シェフに匹敵する美味しさで感動という他なかった。
そして、騎馬戦が始まった頃からヒーロー科を含めた全ての科からどことなく注目を集めていた2人。そんな2人は今、食堂で更なる注目を集めている。
「……ねえ飯田君。あれ、どうなってるか分かる……?」
「麗日君、俺にそんな事聞かれても困るんだが……。こちらが知りたいくらいなんだが、本当にどうなっているんだ?」
A組の中でも特に仲が良いと言われている
「……なあ嘘だろ。あんなに食べて体型が全く変わってないとか、そんなのあり?」
「耳郎ちゃん落ち着いて? 顔が凄い事になってるから……体型変わんないとかズルい」
「葉隠ちゃんも落ち着いて。個性の性質上、ああなのかもしれないじゃない」
「それでもズルいものはズルい! 私だって何も気にせず美味しい物いっぱい食べたい! 太らない体になりたい! こっちは毎日必死でダイエット頑張ってるのに不公平だ!」
羨望と嫉妬の眼差しで彼に注視する耳郎と葉隠に、蛙吹が必死に宥めて落ち着かせようとする。
他にも多くの生徒が彼と発目が座っている席に注目していた。もっと言えば、発目の隣で信じられない数の料理を食べ続けている彼の事を。
「いやー、前々からよく食べる方だとは分かってましたが、改めて見ると本当に規格外ですね。胃袋どうなってるんですか?」
デザートのエクレアを頬張りながら感心した声でそう呟く発目に彼は、これでもまだまだ胃袋に余裕がある事を告げる。
「それだけ食べてまだ余裕があるとかおかしいですよ。もうかれこれ40人分は食べてると思いますが? それに見て下さいよあれ、ランチラッシュ先生が涙目になってますよ」
そう言って発目が指差した先には、前代未聞の事態に薄ら涙を浮かべながら厨房を慌ただしく駆け回るランチラッシュの姿があった。先生には強く生きて欲しいと願うばかりである。
涙目のランチラッシュを一切気に掛ける事無く食べるペースを落とさない無慈悲な彼を見て、周りの生徒達が彼の畜生っぷりにドン引きする。
それからも彼は思いのままに食べ続け、結局食べる手を止めたのは30分後の事だった。
「……食いやがった。あいつ、あんだけあった飯を全部食いやがった。マジで信じられねえぜ!」
「ありゃもう大食漢ってレベルじゃねえぞ。自分の体積より食べてなかったか?」
「正直、あそこまで行くと驚きを通り越して凄えとしか言いようがねえや」
終始全員の注目を集め続けた彼の食いっぷりに切島、瀬呂、上鳴の3人が感嘆の声を上げる。周りの皆も似た様な感想を抱いていた。
そんな中、ようやく食べ終わった彼と発目は飲み物を片手に話し合う。
「やっと食べ終えた事ですし早く行きましょう。そろそろ準備しないとレクリエーションに間に合いませんし」
発目の言う通り、2人は午後から始まるレクリエーションでとある事をしようと計画しているため、今すぐ準備に取り掛からないといけない。これは会場を賑わせるためのサプライズイベントなので、担任のパワーローダー先生にも詳しい内容は伝えていない。ただし協力者は3人いる。
1人は根津校長先生。体育祭が始まる1週間前、サプライズイベントを行っても良いか根津校長に直談判したところ、面白そうだからとあっさり了承してくれた。しかも細かい予定の調整もしてくれたので校長先生には感謝しかない。他の先生に詳しい内容が一切知られていないのは校長の存在が大きい。
2人目はリカバリーガール。雄英高校内では校長先生並みに発言権のある先生なので、協力してもらうに越した事はなかった。普段は厳しい先生というイメージがあり反対されるかと思いきや、意外にも乗り気だった事には驚いたが。
こうして雄英の二大巨頭を味方にした事で多少の無理も押し通せるようになった。そして残る1人は……。
「さあ急ぎましょう、今回のイベントはかなり大掛かりなんですから。食事に時間を費やした分、準備する時間を切り詰めないといけないんですよ?」
発目が空になったコップを片付けて、彼の手を引いて食堂を出ていく。様子を見ていた皆が暖かい眼差しを向ける中、危うくこけそうになりながらも発目の後に付いて行く彼だった。
休憩も終わって午後の部。会場内は相変わらず大勢の観客で賑わっており、これから始まるレクリエーションにも歓声が轟く。
そんな中、プレゼントマイクが声を張り上げる。
『最終種目の前に予選落ちの皆へ朗報だ! これはあくまで体育祭なので、ちゃんと全員参加のレクリエーションも用意してんのさ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んだし、午後からも一層盛り上がっていこうぜぇー! ……と言いたいところだが、1つ言わせてくれ……どうしたA組!?』
『何やってんだあいつら……?』
プレゼントマイクのツッコミと相澤の疑問の声が会場内に響き渡る。
それもそのはず、現在ステージにはチアリーダーの恰好をしたA組の女子が立ち並んでいるのだ。露出の多い煽情的な衣装を前に男子達がそわそわしている。それとは対照的にA組の女子は全員死んだ目をしていた。
その内の何人かが大声で猛抗議。聞く限り、どうやら同じクラスの男子数名に騙されたらしい。しかも担任の名前まで出して欺いたとの事。ヒーロー科としてそれで良いのかと彼は思った。彼も人の事を言える立場では無いが。
『まあ良いか! せっかくの体育祭なんだし、今日くらい羽目外してどんちゃん騒ぎといこうじゃねーか!』
『いや、流石に羽目を外したら駄目だろ』
『というわけで、皆楽しく競い合えよ! レクリエーションスタートだぁー!!』
『だから無視すんなって』
それからしばらくは楽しく平穏にレクリエーションが進んでいった。借り物競争、玉転がし、クラス対抗リレー、チアリーダーによる応援合戦など実に様々な競技が執り行われ、会場の皆も相応の盛り上がりをみせる。
そうしてほとんどの競技が終わり、最終種目の時間が目前まで迫ったところでプレゼントマイクが再び声を上げる。
『いよいよレクリエーションも大詰め、ラストの項目だ! これが終われば30分の休憩を挟んで最終種目となるぜ! そんなわけでレクリエーション最後の項目は……これだぁー!!』
その声に呼応して、巨大スクリーンに『ビンゴ大会』という文字が表示される。
『えっ、ビンゴ大会? ……あー、実を言うと俺も詳しい事はよく知らなくてよ。なんでもサポート科によるサプライズイベントだとかで、実際に何をするかまでは教えてくれなくてさ……』
戸惑いを見せる観客達に困った顔で説明するプレゼントマイクの態度は、根津校長の働きかけによる効果がしっかりと表れている証拠でもある。
『まあ何はともあれ、サポート科によるビンゴ大会の始まりだ! それではサポート科の諸君、やっちゃってくれ!』
遂にこの時が来た。アイテム作りと並行して、体育祭が始まる1週間前から発目と共に準備してきたサプライズイベントの始まりが。
彼と発目は満を持して入場門を出てステージに上がった。その傍らには大仰な機械類が輸送用ロボットによって運ばれており、メカメカしい存在感を放っている。
観客からの戸惑いの声が上がっては静かになっていく中、ステージ中央に立った発目がマイクを持って言った。
『皆さん、長らくお待たせしました! ただいまより我々サポート科によるビンゴ大会の始まりです! 早速ですが、今回のビンゴ大会について詳しい説明を行いたいと思います!』
今回、彼と発目が企画したビンゴ大会の詳細はこうだ。
まず、彼らが持ってきた機械から巨大なホログラムが投影され、そこに巨大なQRコードが映し出されるので、それを各自のスマホで読み取る事。
次に、QRコードを読み取ったら今回のために2人で作成したビンゴ大会専用のホームページに飛ぶので、そこで必要項目を書き込んでアカウントの登録をする事。
登録が済んだ人にはそれぞれ違ったビンゴカードが画面に表示されるので、後はビンゴ大会でカードにある数字が発表されたら画面をタップして、ビンゴになるまで空いてる数字を埋めていく事。
もちろん、画面に誤って触れようが不正にタップしようが問題無いように工夫はしてある。そして、参加者は今この会場に来ている人達に限定されている。お茶の間で観ている人は対象外だ。
『……とまあ、ビンゴ大会の詳しいルール説明はこれで以上となります。ここまでで何か質問はありますか?』
特に声を上げる者もいなかったので質問者無しと断定し、更に続けて言う。
『では今から3分後にビンゴ大会を始めましょう。さあ皆さん、登録をお早めに! ……と言いたいところですが、会場の皆さんのテンションがあまり高くありませんね? そんなに乗り気では無いのでしょうか?』
会場の盛り上がりが先程までと比べて明らかに下がったのは言うまでもない。何が悲しくて体育祭でビンゴ大会をやるのかとツッコミたいし、そもそもビンゴになったところで大して意味もないだろう。そんな目をした人が大半だ。
確実に白けた空気となってしまったが、2人にとってこの状況は想定内。だからこそ、根津校長、リカバリーガールに続き、3人目の協力者の力が必要なのだ。
『まあ、多分こうなるだろうとは予想していましたよ……。だから、こんな事もあろうかと思い、このビンゴ大会を盛り上げるためのサプライズゲストを呼んでいます! では早速来てもらいましょう、サプライズゲストはこの方です! どうぞ!』
発目が掛け声と共に片手を上げてサインを出すと、会場のスピーカーから声が聞こえてきた。
『HAHAHAHAHAー!! どうした皆、やけに辛気臭い顔しちゃってさ! そんな顔してないで、もっと楽しんで盛り上がろうぜ!!』
「えっ? この声って……」
「しかもこの笑い方にこの口調……」
「も、もしかして……!」
突如スピーカーから聞こえてきた声に、会場にいる誰もが驚き騒がしくなる。なぜならその声は、日本に住む者なら1度は必ず聞いた事のある声だからだ。それほどまでに圧倒的な支持率を誇る人気絶頂のヒーロー。
そう、2人と手を組んでいるもう1人の協力者とは……。
『私がぁー……サプライズゲストとしてビンゴ大会に来た!!』
「「「「オールマイトォォォォー!!」」」」
サプライズゲストのオールマイトがコスチュームを着た状態で空から降ってきた。瞬間、No.1ヒーローの登場に会場内の興奮が最高潮に達する。あちこちから響く鳴りやまない拍手と歓声がオールマイトの人気を裏付けしていると言える。
会場の盛り上がりが回復したところで発目が再びマイクを手に取った。
『では改めて紹介しましょう! 本日のサプライズゲスト、オールマイト先生です!!』
『HAHAHA! 皆、今日は楽しめているかなー?』
「「「「おおおおおおおおー!!」」」」
オールマイトが呼びかけると、それに反応して観客から大歓声が返ってくる。凄まじい反響っぷりである。
『オールマイトだってぇー!? あの2人、いきなりビンゴ大会を始めたかと思ったらオールマイトと手を組んでたとかマジかよ! 超ウケる! でも俺はこういうの好きだぜ、気に入った!!』
『本当に何やってんだあの人は……』
実況と解説のアナウンスを聞き流しつつ、彼はオールマイトの横に静かに立った。彼の行動に観客が騒めく中、オールマイトが両手を高く掲げて声高に言った。
『さあ皆、準備は良いかな? 楽しい楽しいビンゴ大会の始まりだぁー!!』
今回、このビンゴ大会を開催した目的は2つある。
1つ目は保険。最終種目までに大してアピール出来なかった時の対策として、レクリエーションで何かしらのアクションを起こせば、本選ではサポートアイテムにも注目が集まるだろうと考えたのだ。
これが理由の2割。もう1つは……。
『……ん? なんだこの音楽は? やけにポップな曲だが一体どこから……』
『あの2人が持ってきた機械に付いてるスピーカーからだな。というか、あいつもオールマイトも急にどうしたんだ? いきなり変な踊り始めて』
発目がビンゴ大会で使う装置に取り付けていたスピーカーから大音量で音楽を流し出す。会場内の動揺が更に加速し、前に出て並ぶ彼とオールマイトに衆目の視線が集まる中、2人は音楽に合わせて急に踊り出した。
そして軽快なリズムを刻みながら響く伴奏に、楽し気な歌い声が流れ出す。
ビンゴ! ビンゴ! ビンゴ! 楽しいビンゴ!
今日は楽しい体育祭! 皆もやろうよ楽しいビンゴ! 楽しいビンゴ!
最後に、曲の終わりと同時に勢いよく掛け声を発して決めポーズを取る。彼とオールマイトによる楽しいビンゴダンスが完璧に決まった証拠である。
そしてこれこそがビンゴ大会を開いたもう1つの理由。理由の8割を占める大本命とも言えるもの。
それは『オールマイトにビンゴダンスを躍らせる』事だ。
切っ掛けはとても些細なものだ。アイテム作りに精を出していたある日、彼はふと思ったのだ。体育祭でオールマイトにビンゴダンスやらせたら面白いんじゃね? と。ドラゴンボール超でベジータが躍ったあの伝説のビンゴダンスを。
特に理由なんて無い。実際にビンゴダンスをさせた所で意味があるわけでもない。正直言って、彼の身勝手で我が儘な自己満足にすぎない。それでも彼はどうしてもオールマイトにビンゴダンスをやらせたかった。
だからこそ、彼はこのレクリエーションの時間を狙った。オールマイトのビンゴダンスを見たいがために、発目と協力してビンゴ大会開催に必要な物を準備したり、校長先生らに頼んで予定を調整してもらったり、オールマイトに直接会ってビンゴダンスを踊ってほしいと懇願したり、放課後は一緒にダンスの練習をしたりなど、実に様々な行動を1週間に渡り取ってきた。
1つ目の理由なんて彼にとっては建前に過ぎない。本当の理由はビンゴダンスにあるのだから。
そう、オールマイトにビンゴダンスをやらせたいという何の意味もない事を実現させるためだけに、彼は身の回りにあるもの全てを利用したのだ。
以前にも言ったが彼も発目と同様、自分の好きな事のためなら他人を無理やりにでも引っ掻き回す性格を有しているからこそ出来た行動である。ヒーロー科の生徒だったら絶対に出来ない真似だ。
こうして彼は無事に自身の目的を完遂出来たわけだが、果たしてビンゴダンスを見た皆の反応は……。
「「「「…………」」」」
会場内に気まずい沈黙が満ち、生ぬるい風が吹いた。
『……ダサッ! なんかもう、本当にダサいとしか言えねえよ! 2人共なにキメ顔でそんなポーズ取ってるの!? 流石の俺もここまで最高にダサい踊りは初めて見たよ!!』
プレゼントマイクが吠えた。一緒に見ていた観客達も勢いよく首を縦に振っている。緑谷だけはキラキラした目でオールマイトを見ているが。
今日のために原曲の歌詞を体育祭バージョンに変えて作ったのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。周りの皆の微妙な反応にオールマイトが困った顔で彼を見る。
……こうも盛大に滑るとは思わなかったが、とりあえず予定通りビンゴ大会を続けよう。彼の言葉でようやく止まった時が動き出す。
『それでは気を取り直して、ビンゴ大会を始めましょう! 皆さん、準備は良いですね?』
発目が司会進行、彼がそのサポート、オールマイトがゲストとして皆に愛嬌を振りまく。3人による見事な連携でビンゴ大会が始まった。
勿論ビンゴした人に渡す景品はちゃんと用意してある。全部で3等まであり、3等が期間限定のオールマイトグッズ一式、2等がオールマイトの直筆サイン色紙、1等がオールマイトの生声が録音されたスピーカー付き等身大オールマイトパネルである。ちなみにパネルは折り畳み収納が出来るように作ってある。
1等から3等までオールマイトに関連する景品だったが、会場は予想以上の盛り上がりを見せた。特に緑谷が、クラスメイトもビビる程の
そして……。
『残る景品はあと1つ! 1等の等身大オールマイトパネルのみ! さあ、いち早くビンゴして1等を手にするのは誰になるのか! というわけで最後のルーレットスタート!!』
2等と3等の景品が無くなり1等だけが最後に残った現在、発目が次の数字を決めるべく電子版のルーレットを回す。
会場にいるほとんどの人がスマホを握り締め固唾を飲んで見守る中、いよいよ最後となるであろう数字がモニターに映し出された。
『ルーレットで出た次の数字は……9番! 9番です! さあ、ここでビンゴになった人は……』
「やったああああああおらああああああー!!」
「うるせー黙れクソデク!!」
『おおっと、あちらからとても大きな叫び声が! どうやら1人はいるみたいですね! さあさあ、他にもビンゴになったという方は今すぐステージへお越しください!』
数分後、発目達の前へやってきたのはスマホを握り締めて喜びのオーラを全身から放っている緑谷と、ポケットに手を突っ込みイライラした顔で緑谷を睨み付ける爆豪の2人だけだった。
『ビンゴになった方は2人だけのようなので、1等の景品はあなた方の物です! ……と言いたいところですが、1等の景品は当然1つしかありません。こうなった場合は仕方がないので、どちらか1人は諦めてオールマイトの直筆サイン色紙で我慢してもらいましょうか』
発目が放った無慈悲な言葉に、緑谷と爆豪が互いに向き合って睨み合う。
「おいデク、てめえ俺に譲れやコラ」
「……悪いけど、こればっかりはかっちゃんにも譲れないよ。それに僕の方が先にここへ来たんだ。景品は僕が貰うよ」
「ああ!? んだとコラ! それなら俺の方が先にリーチになってたから、俺が景品を貰うのが筋ってもんだろ!」
「それは違うよ! リーチになった順番なんてビンゴしたら関係ないじゃないか!」
「先に来た方が貰うとか抜かしてた奴には言われたかねーよ!」
「それでも僕はオールマイトの等身大パネルが欲しいんだ!」
「だったら勝負だデク! どっちが景品を手に入れるかここで勝負しろ! そんで俺の方が強え事も同時に証明してやる! 2度は負けねえ!」
「望むところだ、かっちゃん……!」
景品のために
『いやー、お互い譲れない物のために死力を尽くして戦う……青春ですねぇ! 火事と喧嘩は江戸の華と言いますが、まさに今の状況がそれですね! 体育
『発目少女!? 呑気な事言ってる場合じゃないからね!? 緑谷少年と爆豪少年も、ここで暴れるのは良くないから!』
発目とオールマイトの漫才じみた会話がマイクを通して観客の耳に届き、あたふたするオールマイトの姿も相まって会場が爆笑の渦に包まれる。
その後、1等の景品の譲渡相手は簡単なくじ引きで決める事となり、見事緑谷が当たりのくじを引いて狂喜乱舞する結果となった。その様相は傍目から見てヤバかったとだけ言っておこう。
こうして無事にビンゴ大会の全てが終了し、予想以上の大盛り上がりを見せたところでプレゼントマイクが言った。
『これにてレクリエーションの全てが終了した! さあ、30分間の休憩を挟めばいよいよ最終種目の始まりだぁー!!』
オールマイトにビンゴダンスやらせたかった……ただそれだけです。面白そうだよなぁと思ってつい……すみません。
次回からいよいよ最終種目スタートです。