サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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遅くなってすみませんが、いよいよ体育祭本選です。さあ、気張っていきましょう!



第7話 相性最悪!? どうしよう……

 サポート科によるビンゴ大会もようやく終わり、いよいよ最終種目の時間がやってきた。それに伴って、騎馬戦を勝ち抜いた上位5チームの生徒が壇上前に集まっている。

 

 最終種目の内容は毎年異なるが、今年は1対1で戦い勝ち上がるトーメント方式。ここにいる18名の中から優勝が決まる。

 

 

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったら10分後に第1試合の開始となります。そして進出者が18名だから2組は1回戦、それ以外は2回戦目からの出場よ。つまりその2組は1試合分多く出る事になるけど、Plus Ultraの精神で乗り越えてね! それじゃあ1位のチームから順にくじを引いて頂戴!」

 

 

 ミッドナイトの説明も程々にくじ引きが行われた。その結果、先程までチーム同士だった相手と戦う事になり驚く生徒、侮れない相手故に警戒を強める生徒といった風に反応が分かれる。

 

 ちなみに発目の最初の対戦相手は飯田である。そんな彼女は今、その飯田に何やら話し掛けているがどうせ碌な事では無いので放っておく。

 

 

「俺の最初の対戦相手って君だよね? さっきの騎馬戦じゃ色々あったけど、最終種目では心機一転! お互い悔いの残らない試合にしよう! よろしくね!」

 

 

 そして、気になる彼の最初の対戦相手は今ちょうど話し掛けてきた人だ。名前は骨抜柔造、ヒーロー科B組の生徒である。騎馬戦では鉄哲チームの前騎馬を務めていた。

 

 骨抜が明るい笑顔で挨拶してきたので、彼もこちらこそよろしくと言葉を返す。お互い手を振って分かれると、そのまま自分達の席へ戻って行った。

 

 それから10分後、プレゼントマイクの興奮が会場に響き渡る。

 

 

『ヘイガイズ、アーユーレディ!? 色々やってきましたが、結局これだぜガチンコ勝負! 頼れるのは己のみ! 心技体に知恵知識、総動員して駆け上がれ!』

 

 

 ビンゴ大会の時よりも観客の声が一層大きくなり、ステージ中央に視線が集中するのが見て取れる。

 

 

『1回戦第1試合はこの2人! 優秀! 優秀なのに拭い切れないその地味さは何だ! ヒーロー科瀬呂範太!! (バーサス)、B組からの刺客! 綺麗なあれには棘があるってか? ヒーロー科塩崎茨!!』

 

 

 1回戦第1試合はヒーロー科のA組とB組による対戦。ミッドナイトの言う通り、この2人ともう1組が1試合分多く出場する必要があるため、優勝への道のりはその分難しくなる事請け合いだ。

 

 何より辛いのは、第1試合で勝った方はもう1つの1回戦が終わった後すぐに2回戦が始まるため、次の試合までの休憩時間が極端に短いという点である。ちなみに2回戦目の対戦相手は轟で確定している。噂によると轟はA組最強と謳われているそうなので、どちらが勝っても次の試合での勝率はかなり低いと思われる。それでも2人には是非とも頑張ってほしいと願うばかりだ。

 

 

『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする、あとは降参させても勝ちのガチンコ勝負だ! 怪我上等! こちとらリカバリーガールが待機してっから道徳倫理は一旦捨て置け! だが、命に関わるような害悪行為はクソだぜ! レッドカードで即行退場だ! 良いな!?』

 

 

 簡単なルール説明がされている間も期待の声はどんどん高まっており、カメラを向けるマスメディア達も今か今かと待ち焦がれている中、その時は遂に来た。

 

 

『そんじゃ早速始めようか! レディー……スタァァァァート!!』

 

 

 プレゼントマイクが放った開始の合図と共に、両者一斉に個性を発動させた。

 

 

 


 

 

 

 1回戦第1試合が始まってからしばらく時間が経った。

 

 結果から言うと、最初の試合はB組の塩崎が勝利した。瀬呂も塩崎も相手を拘束させる事に長けた個性であるが故に、どちらが先に行動不能に出来るかの勝負だった。だが、塩崎の出すツルは切り離し可能なうえに攻撃と防御を同時に出来る強みがあった。そして何より、大量のツルの放出による圧倒的な物量に頼った攻撃が勝敗を分けた。

 

 結果、塩崎の攻撃を捌き切れずに拘束されてしまった瀬呂が降参を認めた事で第1試合が終了した。

 

 続く第2試合、もう1つの1回戦はA組の麗日とB組の泡瀬の対戦だった。これもまたA組とB組による試合だったが、この戦いはすぐに勝敗が決した。というのも、泡瀬の個性はどんな物でも分子レベルで溶接可能で生物も例外ではない強力な個性だが、触れた物を無重力にする麗日の前では少し相性が悪かったのだ。

 

 勿論、泡瀬も麗日の両腕同士を溶接して自由に動かせないようにしていた。しかし溶接するために近付きすぎたのが仇となり、溶接と同時に麗日に体を触れられ無重力状態にされてしまう。故にそのまま麗日に体当たりされ、場外まで飛ばされたところで地面に落とされ場外負けとなった。

 

 こうしてあっという間に1回戦が終了し、3試合目からいよいよ2回戦に突入した。正直言って最初の2試合は前夜祭のようなもので、むしろトーナメントはここからが本番といえる。

 

 そして今、2回戦第1試合となる轟と塩崎の対戦が始まった。だが、その結果はあまりに一方的且つ瞬間的なものだった。

 

 

「ハァー、ハァー……か、体が動かない……!」

 

「すまねえ、イラついててつい……やりすぎた」

 

 

 試合開始と同時に塩崎が大量のツルを放出して轟を拘束したまでは良かったものの、その直後に轟が大氷壁を展開した事であっさり形勢逆転。全身を凍り付けにされた塩崎と、ツルを凍らせて叩き割り拘束から自由の身となった轟という構図が出来上がった。

 

 

「塩崎さん……動ける?」

 

「む、無理です……悔しいですが降参します」

 

「塩崎さん降参! 轟君、3回戦進出!」

 

 

 ほぼ一瞬で決まった勝敗に、会場からは塩崎に対するドンマイコールが湧き上がる。その様子に観客席から見ていた瀬呂は、もし自分が轟と戦っていたらという想像に顔を青くさせる。そんな中、氷を溶かすために左手から炎を出す轟の顔が妙に歪んで見えたのは気のせいだろうか。考えても仕方がないので次の試合に集中する。

 

 

『続いての試合はこちら! 障害物競走、騎馬戦に続き今度も皆をあっと驚かせてみせるか!? ヒーロー科緑谷出久!! (バーサス)、騎馬戦じゃまさかの大活躍! 普通科心操人使!!』

 

 

 続く第2試合の出場者は緑谷と心操。騎馬戦で一緒だったチーム同士での対戦だ。同じチームだったので当然互いの手の内は知られている。情報というアドバンテージがない状況で、いかに相手を出し抜けるかが勝負の鍵となるだろう。

 

 発目の隣の席で彼がそんな事を思っている中、ステージ上で心操と向かい合う緑谷は微妙な面持ちをしていた。先程まで1位を取るために協力して騎馬戦を勝ち抜いた相手と、今度は敵として争い合う。他者を思いやる優しい心を持つ緑谷にとって、手を取り合った相手をすぐに蹴落とすような行為は心の奥底では受け入れ難いものだった。

 

 しかし彼もヒーロー科。強く思う将来があるからこそ、皆の期待に応えたいからこそ、ここで負ける気は微塵もなかった。つい先程まで仲間だった相手にも拳を振るって勝つ不退転の覚悟も持っている。

 

 そして何より、ステージに出る前にオールマイトから言われた『怖い時、不安な時こそ笑っちまって臨むんだ』という言葉を胸に、気を取り直して今度は真剣な表情で心操を見遣った。

 

 

『2人とも準備は良いな!? そんじゃ始めるぜ! レディー……スタァァァァート!!』

 

 

 プレゼントマイクの開始の合図と同時に緑谷は身構えた。洗脳の個性がどういうものか理解しているため、心操の一挙手一投足に細心の注意を払う必要があった。もし何かの拍子に返事をしてしまったら、その時点で負けはほぼ確定。油断など出来るわけがない。だから全力を持って心操に勝つ。

 

 そう思っている時だった。

 

 

「その目……明らかに警戒しているな。まあそれもそうか。俺の問いかけに答えたらその時点で負けだもんな。その対応も仕方がない。そして俺は、洗脳が通じなかったらただの一般人だ。だから……」

 

 

 油断なく身構える緑谷とは対照的に、心操は未だその場に立ち尽くしたまま言った。

 

 

「……俺は、ここでは()()()使()()()()。勿論強く思う将来があるから負けられないって気持ちはある。でも個性ばかりに頼った戦い方じゃ駄目だ。騎馬戦を通じてそれが良く分かった。壁を乗り越えてこそのヒーロー……だからこそ、()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが俺の将来への第一歩だと思ったからな」

 

「……ッ!?」

 

 

 心操の言葉に緑谷が戸惑いを見せる中、心操も拳を固めて身構える。

 

 

「さあ、来いよ緑谷。個性を使わずともお前に勝ってやるよ」

 

 

 そう言って少しだけ笑みを浮かべる心操とは対照的に、緑谷の心中は驚きと不満の感情で一杯だった。

 

 皆、全力で戦って勝ち進む。将来のためにも、持てる力を余す事無く使って頂点を取りに行く。そう思っていた矢先に目の前の相手から言われた個性封印宣言は、緑谷の心に確かな衝撃を与えた。

 

 個性を使わず勝ってみせる? それが自分の将来への第一歩だと思ったから? 理屈は分かるが心が納得出来ない。出来るわけがない。確かに個性に頼った戦い方だけでは駄目なのは分かるが、少なくともそれは今じゃない。ここまで来た以上、相手が誰であろうと全力で立ち向かってきてほしかった。

 

 だからこそ、咄嗟に叫んでしまった。

 

 

「そ、そんなの納得出来るわけ……!」

 

 

 だが、緑谷の口からそれ以上言葉が出てくる事は無かった。代わりに構えを解いた心操が言葉の続きを述べる。

 

 

「……そう、納得出来るわけないよな。相手に舐めプ宣言されたら誰だって良い気はしない。俺だってそう思う。特に緑谷、お前はそういうのに意外と敏感なんだろ? 騎馬戦の時のお前を見て確信した。だからそこを突かせてもらった。完全に騙し討ちとなったわけだが……悪いね、これが今の俺に出来る全力だ」

 

 

 完全に立ち止まった緑谷を前に訥々と語った心操は早速命令を下す。

 

 

「『振り向いてそのまま場外まで歩け』……さあ、俺のために負けてくれ」

 

 

 命令通りに場外の方向へ歩み始めた緑谷を見て、会場からは動揺の声が広がる。

 

 

『おおっと、命令通り場外まで歩みを止めようとしないぞー!? これ見ると心操の個性って超エグいな! 緑谷が文字通り手も足も出せていない!』

 

『個性の種がバレていながらも、相手の心の隙を突いた言動で返事をさせた心操の作戦は実に合理的。緑谷ももう少し警戒が強ければどうにかなったもんだが……』

 

 

 プレゼントマイクと相澤が心操の実力に感嘆している中、様子を見ていたオールマイトは内心焦り、緑谷も現状をどうにかしようと頭の中で必死に藻掻いていた。

 

 

(駄目だ! 体が勝手に! 1度食らって分かってたはずなのに、反射的に答えてしまうなんて! 馬鹿か僕は! ちくしょう止まれ! 止まれって! 折角ここまで来たのに、こんなあっけなく……!)

 

 

 何をどう思っても歩みが止まらない。場外まであと数歩となったところで、背を向けている緑谷に向かって心操が静かに語る。

 

 

「騎馬戦の時、お前が俺の個性を恐れずに必要としてくれた事、結構嬉しかったんだぜ? ずっと怖がられてきたからさ、あんな風に言われたのは初めてだったんだ。だから少しだけ、ほんの少しだけ、自分の個性の見方が変わったよ。終わる前にこれだけは言いたかったんだ……それじゃあな」

 

 

 せめて決着が付くまではこの目でしっかり見届けよう。そう思い真っ直ぐな瞳で緑谷の背中を見つめる心操。そして会場にいる誰もが心操の勝利を確信する。

 

 だが、この勝負の行方は意外な形で収まる事となる。

 

 

(皆、託してくれたのに! オールマイトも応援してくれてるのに! こんなところで終わっ……ッ!?)

 

 

 あまりにも唐突だった。未だに頭の中で抵抗を試みていた緑谷の目の前に、複数の人影の様なものが現れたのだ。突如として現れたそれらに緑谷は驚きを隠せない。

 

 一体何なんだこれは? そんな事を思っていると、今度は指先に力が伝わっていく感覚を認識した。これまた唐突な事で、更に動揺が加速する。

 

 そして、場外まであと1歩のところで指先を中心に爆風が巻き起こり、個性が暴発した反動で緑谷は正気に戻り立ち止まった。

 

 

「……は?」

 

 

 突如起こった事態に心操が呆気にとられて固まる中、洗脳から解放された緑谷はゆっくり振り向くと、そのまま心操に向かって全力で駆け出し……!

 

 

 


 

 

 

『さあ、続いての試合はこの2人! 雄英体育祭じゃ結構レアなヒーロー科とサポート科の試合だぜ! この試合、どう考えてもヒーロー科の方が勝つ! ……って言いたいところだが、今回に限っちゃどうなるか分からないぞ!』

 

 

 いよいよ彼と骨抜の対戦となった。

 

 緑谷と心操の試合は、緑谷が洗脳の個性を強引に解いた後すぐに終わった。全力で駆け出した緑谷が抵抗する心操などお構いなしに押し続け、最後は見事な一本背負いで場外まで投げ飛ばした事で勝負が付いたのだ。

 

 あとちょっとで勝てる試合だったが故に、負けた心操はとても悔しそうな表情をしていた。だがそれと同時に、何かが吹っ切れた様な晴れやかな表情にも見えたのは気のせいだろうか。ステージで骨抜と向かい合っている彼は、試合直前にも拘わらずそんな事を思っていた。

 

 2人の名前を高らかに紹介するプレゼントマイクの声を聞き流しながらも彼の思考は止まらない。現在、彼の頭の中は緑谷出久の事で一杯だ。なぜなら緑谷は他の人と比べてかなり特殊だからである。

 

 何が特殊かと聞かれれば、『気』と即答するだろう。『気』とは、人間1人1人の体の奥底に眠る秘められたエネルギーの様なもの。個性とは違った全く別のエネルギーだ。個性の有無に拘わらず誰でも等しく持っているので、気をコントロール出来るようになれば空を飛んだり力の増強が出来たり気功術を使えたりと、実に様々な活躍が出来て非常に汎用性が高い。

 

 そんな気というエネルギーだが、1人1人が持つ気の性質は全く違うという特徴がある。どんなに近しい間柄でも、それこそ血の繋がった家族が相手だとしても気の性質はある程度違ってくる。赤の他人の気など以ての外だ。

 

 だが、緑谷だけはその法則に当てはまらない。どういうわけか、緑谷からは赤の他人とも言える全く別の気を複数感じ取れるのだ。いや、正確にはオールマイトも緑谷と同じ様な感じなのだが、どちらかというと緑谷の方がより顕著にそれが現れている。

 

 というよりも、緑谷からオールマイトの気まで感じ取れるのは一体どういう事なのか? それも似ているなどというレベルではなく、全く同じ性質の気を。まるで某究極の人造人間のようで、どうしても緑谷の方に注目が寄ってしまう。

 

 しかし忘れてはいけない。これからは彼は骨抜と戦わなければいけないのだ。本来なら試合直前でそんな悠長な事を考えてる暇はない。その証拠に、彼が考え事をして茫としているとプレゼントマイクの声が鮮烈に聞こえてきた。

 

 

『じゃあ始めるぜ! レディー……スタァァァァート!!』

 

 

 開始の合図だけがやけに響いて届いたので、彼は一旦考える事を止めて向かい合う骨抜を見遣る。

 

 頬が痩けているためぱっと見ひょろひょろとしてそうな雰囲気を醸し出しているが、よく見ると腕も胴体も太くがっちりとした肉付きで、かなり鍛えられている事が分かる。実際、骨抜の気は他のヒーロー科と比べても上位に位置するほど大きい。

 

 聞いた話ではヒーロー科の数少ない推薦入学者だというが、その情報の信憑性はほぼ100%とみて良いだろう。

 

 

「……来ないのかい? 騎馬戦の時を鑑みて、君なら絶対に何かを仕掛けてくると思って警戒してたんだけど。……もしかして何か企んでるとか?」

 

 

 開始の合図から微動だにしない彼に痺れを切らしたのか、骨抜が彼に話しかけてきた。なぜ攻撃してこないのかと思っていたが、どうやら動きを警戒して様子見に徹していたらしい。

 

 そして隠すつもりも無かったので彼は質問に答えた。自分はサポート科なので、当然発目と同様にアイテムを作って持ってきている事。だからこの場を借りて皆にそれらをアピールしたいという事。そのため今は戦うのを止めて、是非ともアピールに協力してほしい事。優勝する事が目的ではないので、アピールが終われば自ら場外に出て勝ちを譲るつもりでいる事など、簡潔に纏めて説明した。

 

 忘れてはいけないのは、彼がここまで勝ち進んだのはあくまでホイポイカプセルシリーズをここにいる全員にアピールして強烈なインパクトを与える事であって、体育祭で優勝する事が目的ではない。正直言って、目的を果たせれば優勝など彼にとっては無価値に等しい。

 

 繰り返し言うが彼はサポート科だ。最初からヒーロー科とは体育祭に参加する目的も掛ける熱量も違う。よって、彼としては今言った提案に骨抜が素直に乗ってくれるのが最も効率的でありがたいのだ。

 

 もし骨抜が彼の提案に乗れば、彼はアイテムを皆にアピール出来て幸せ、骨抜も無駄に体力を消耗する事無く次に試合に進めて幸せ、誰も困らないハッピーな結果が待っている。だからこそ、この提案には乗るだろうと彼は思っていた。

 

 だが、そんな彼の淡い期待は瞬く間に砕かれる事となる。

 

 

「なるほどね、そういう事だったのか。という事は騎馬戦での大立ち回りも、自分達の作ったアイテムをアピールするためだったってわけだね? で、今俺が君のアイテムのアピールに協力すれば、俺に勝ちを譲るって言ってるわけか」

 

 

 いつまで経っても戦いを始めようとしない2人に観客達の戸惑いがどんどん大きくなる中、彼の説明を聞いた骨抜は、腕を組み納得した表情でうんうんと頷いた。

 

 しかし、骨抜はひとしきり頷き目を開けると、突然しゃがみ込んで両手を地面に付けて言った。

 

 

「でも断るよ! どうしてもアピールしたいなら俺に勝って次の試合でやってくれ!」

 

 

 その言葉と同時、骨抜いる場所も含めたステージ全体の地面が底なし沼の様にドロドロになって沈下する。当然、彼も足元を取られ徐々に地面の中へ沈み始めた。

 

 

『おおーっと!? 今まで戦うそぶりも見せずにずっと話し込んでた両者だったが、ここに来て骨抜が仕掛けた! さっきの会話で一体何があったんだ!?』

 

 

 突如として始まった攻撃に実況の高ぶった声が響き渡る。観客もようやく始まった戦いにボルテージが一気に上昇する。

 

 そんな中、いきなり始まった先制攻撃に驚きを隠せない彼が骨抜に尋ねた。なんで提案を断ったのか? と。

 

 

「……さっきの騎馬戦、俺達のチームは君達に完封された。始めはサポート科2人だけのチームだからすぐに取れると思ってたんだ。でも実際はそんな事無くて、君達に手も足も出せずに終わってしまった。正直凄く悔しかったんだ。最後まで君達に触れる事すら叶わずに終わって、甘く見ていた自分に情けないとも思った。だから……」

 

 

 骨抜は段々と語気を強めながら地面を急速に柔らかくして潜り、そして地面から顔だけ出して彼を見る。

 

 

「……今度は最初から本気で戦うよ。もうサポート科だからって油断しない、全力で君に挑ませてもらう! 悪いけど、そっちが自分の都合を通すつもりなら、こっちも自分の都合を通させてもらうから!」

 

 

 地面に半分沈みかけた彼を拘束しようと、骨抜が柔化した地面を操り波を発生させる。その勢いはステージ全体に広がり、地面なのに何故か波音を立てて進んでいく。

 

 これには流石の彼も不味いと感じ取り、舞空術で一気に地面から抜け出し脱出。寸での所で難を逃れた。

 

 サポートアイテム無しでいきなり飛んだ彼に、骨抜も周りの皆も驚きを隠せない。

 

 

『と、飛んだー!? というかあいつ空()飛べたの? じゃあ何で騎馬戦でサポートアイテム使ってたんだって話だが……まあ今は良いや! とにかくこれは面白くなってきたぞー!!』

 

『骨抜の個性の事を考えると、空を飛べる相手は骨抜にとって相性最悪。ここからどう奴を攻略していくのか見物だな』

 

 

 空中で留まる彼の姿に実況も観客達も大興奮の最中、骨抜は地中に潜った状態のまま彼を見上げる。

 

 

「まさか飛べるとは……それが君の個性ってわけかい? はたまた個性の応用で空を飛んでいるのか……いずれにしろ倒すのは至難の業だね」

 

 

 そう言いつつも柔らかくした地面を波立たせ、的確に彼のいる位置まで攻撃を届かせる骨抜の技量と力は如何なものか。騎馬戦でそのような技を見た覚えはない。

 

 

「そりゃそうでしょ。こんな大技、騎馬戦でやったら仲間まで巻き添えにしてしまうから使うに使えないよ! だからこの技は1対1の今だからこそ真価を発揮するんだ!」

 

『おおーっ!! 骨抜、柔らかくした地面を波立たせて立て続けに攻撃してる! しかも波の高さがどんどん上昇してまるで巨大津波の様だ!』

 

『これが空を飛ぶ相手に対する骨抜の答えってわけか。しかも即座にあの行動を取れるって事は、こうなる事も予め想定していたんだろう』

 

 

 ……骨抜も会場にいる皆も大興奮しているが、対照的に彼は内心焦っていた。サポートアイテムが一切使えないという事態に。

 

 骨抜が地面を柔らかくしたせいで、ホイポイカプセルを投げ込んだとしてもすぐに沈んで使い物にならないのだ。これでは皆にアピールするどころではない。

 

 しかも不運な事に、彼はカプセルシリーズ以外のアイテムを一切持ち込んでいない。いや、実際はカプセル作りに時間を掛けすぎたせいで他に用意する暇が無かったというのが正解だ。まさかここに来てカプセルを作った事が裏目に出るとは彼自身も予想外の出来事で、どうしようかと対応に頭を悩ませる。

 

 本当なら骨抜の協力を得てアイテムのアピールに専念するはずだった。だが、その思惑は骨抜自身の拒否によって破綻してしまった。結果、迫り来る地面の波を避け続けるという構図が出来上がっている。

 

 こうなってしまってはもうどうしようもない。骨抜の言う通り、勝って次の試合でアイテムのアピールをするしか方法はないだろう。今はそれしか思い浮かばない。

 

 だが勝つにしてもどうすれば良いのか。正直言って勝つ事自体は難しくない。彼我の実力差は天と地の差どころではないのだ。骨抜の実力ではどう転んでも彼を倒す事は出来ない。しかしそれ故に、彼にとっても骨抜を倒す事は困難を極める。力が過剰なせいで、仮に殴った場合は良くて重傷、当たり所によっては最悪死亡させてしまう。

 

 ではどうすべきか? 背後に回って首元に手刀を食らわせ気絶させる……これは却下だ。もし何かの拍子に力加減を間違えたら首の骨が粉々に砕けてしまう。とても危なくて出来ない。

 

 気合い砲で触れずに場外まで吹き飛ばす……これも却下だ。勢い余って相手をミンチにしてしまう危険性がある。四肢欠損どころでは済まなくなる。流石にこの歳で前科持ちは避けたい。

 

 気功術を使って気絶させる……論外だ。骨抜の戦闘力では肉体が消滅してしまう。いや、消滅しない程度に威力を抑えれば良いのだが、それでも重傷は必至だろう。リカバリーガールの治癒で事足りるかどうか。

 

 色々悩んだ結果、実質打つ手なしという結論に至った。よって相手が個性の過剰使用で疲弊するまで待つという行動に移る。

 

 

『骨抜の猛攻を紙一重で避け続けているぞー! 騎馬戦で逃げ続けた実力は伊達じゃないってか!?』

 

『この均衡がいつまで持つかだが……』

 

 

 しかしそれも長くは続かない。いつまでも攻撃を避け続けるだけで何もしてこない彼に、とうとう痺れを切らした骨抜が言った。

 

 

「ねえ、いつまでそうやって避け続ける気なんだい! 何というかさ、絶対に手を抜いてるよね!? 騎馬戦であんな大立ち回りを演じた君がこのくらいで苦戦するとはとても思えないんだ! それに俺、騎馬戦で君と轟の会話が聞こえたんだ!」

 

 

 何度も大技を放ったせいで既に息を切らしているが、攻撃の手を止めずに続けて言う。

 

 

「君、轟よりも実力は上なんだってね!? 轟はさ、知っての通りヒーロー科の推薦入学者なんだ! それも1位通過の! そんな轟よりも上だって言うのなら、その実力見せて欲しいな! 多分俺が疲れ果てるまで待とうって魂胆なんだろうけど、そんな戦いはヒーロー科としてここいる以上どうしても納得できないんだ! だからさ……」

 

 

 そして力強く真っ直ぐな瞳で彼を見つめ、自身が今抱えている気持ちを声高に訴える。

 

 

「使ってきてよ、君の力! 皆本気でやっているんだ! 君だけがそうやって手を抜くなんて冗談じゃない! 全力で掛かってこいよ!!」

 

 

 ……体育祭の参加目的は、自身が作成したアイテムをアピールして全員にインパクトを残す事だ。その目的は今も変わらないし今後揺らぐ事も絶対にない。彼の中でそこだけは確かだ。

 

 だが骨抜の訴えを受けて、体育祭が始まる前から力の使用をずっと躊躇っていた彼の心にまたしても変化が起こった。騎馬戦の終盤で悲しみに暮れる発目を見た時とは別の僅かな変化が。

 

 

『おっと、急にどうしたんだあいつ? さっきまで縦横無尽に飛び回っていたのに、いきなり動きが止まったぞ? 何だ何だ、もしかして疲れちまったのか?』

 

(あいつ、本当に何をする気だ? 骨抜が何かを叫んでいたが、もしかしてそれで心境に何かしらの変化が起こったのか?)

 

 

 避ける事を止めて急に空中で止まった彼に、見ている人全員の視線が注目する。それは骨抜自身も例外ではなかったが、すぐに気を取り直して地面の波を大量に押し付ける。

 

 地面の波は彼に迫るほど高さを増し、遂には空にいる彼を丸ごと覆えるものにまで成長する。当然、波は一切動かなくなった彼をそのまま飲み込み、瞬間骨抜が個性を解除した事でそのままの状態で固定された。

 

 固い地面に拘束されて姿が見えなくなった事で、見ていた全員が骨抜の勝利だと思った。しかし緑谷の時と同様、勝敗は最後までどうなるか分からない。

 

 その証拠に、拘束されて動けないはずの彼が固い地面を粉々に砕き割って這い出てきた。一瞬の出来事だった。

 

 

「なっ!? あの拘束をあんなに容易く……ッ!?」

 

 

 あっさりと拘束を破って出てきた彼に驚きを隠せない骨抜だったが、悠長に驚いている暇は無かった。

 

 なぜなら瞬きする間に彼が目の前まで迫って来ていたからだ。骨抜は彼の接近に直感で悟ったが、気付いた時には既に手遅れだった。これでもほんの一瞬の出来事だった。

 

 そして相手の目の前まで接近した彼は、空気を押し出す様なイメージで開いた右手を前に突き出した。骨抜の体までバラバラにならないように、細心の注意を払い必要最小限の力で。

 

 

「うぐっ……うわああああああああー!!」

 

 

 それでも勢いが強すぎたのか、突然の衝撃と爆風に骨抜はあっという間に場外まで吹き飛ばされ、勢い余って後方の壁に激突してめり込んだ。

 

 その上彼が繰り出した暴風は骨抜のみならず軌道上に座っていた観客達まで浮かせ、そのまま固い地面の上に叩き付けた。それによって数名怪我を負った者が現れたが命に別状はない。

 

 肝心の骨抜だが壁に勢いよく激突した事で完全に気を失い、どころか体の様々な部位から血を垂れ流しているため、傍目から見ても非常に危険な状態だと分かる。

 

 骨抜の言葉に感化されてつい一瞬だけ力を使った彼だったが、いくら手加減したとはいえ流石にこれはやり過ぎたと心の中で猛省する結果となった。後で骨抜には直々に謝っておこうと誓う。

 

 ここまで時間にしてほんの数秒。しかも彼が移動して攻撃するまでの瞬間は、オールマイトやエンデヴァーなどを除く会場にいる全員が認識すら出来ていなかった。そのトップヒーロー達も目で追うのがやっとだったが。

 

 気が付いたら彼が右手を前に突き出してて、骨抜が血だらけの状態で壁にめり込み、その後ろにいる観客達まで吹き飛ばされている。そんなカオスな状況が出来上がっていた。

 

 会場内がシンと静まる中、この状況にいち早く反応したのは相澤だった。

 

 

『……おいミッドナイト、今すぐ骨抜を婆さんの所まで運べ! 早くしないとヤバい事になるぞ!』

 

「……はっ!? た、確かにそれもそうね! 救護ロボは大至急、彼をリカバリーガールの部屋まで搬送を!」

 

 

 相澤の一言で止まった時が動き出し、駆け付けた救護ロボが骨抜を壁から救出して搬送する。

 

 それを見送った後、ミッドナイトの勝利宣言を背に彼は自分の席へ戻って行った。

 

 彼がステージから退出して次の試合が始まるまでの間、会場内の混乱が収まる事は無かった。

 

 

 




ホイポイカプセルシリーズをアピールしたくても使えないならどうしようもないですね。骨抜は尊い犠牲となったのです……南無。
この小説では体育祭最終種目に出場する人数が違うので、思い切って順番とか組み合わせを色々と変えました。その方が面白そうでもあったので。しかし原作と異なる分イメージが湧きにくいと思うので、どんなトーナメント表になっているのか資料を載せておきました。そちらの方をご覧いただければより深く理解できると思います。

【挿絵表示】


※2022/3/14現在をもって、第1話の内容を少し変更しました。以前は『超サイヤ人のまま日常生活を送れるようになった』と書いていましたが、この部分を物語の進行上削除しました。なので、主人公は超サイヤ人に『成れる』事は出来ますが、『慣れる』事は出来ていない状態となっています。以上です。
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