サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

8 / 38
第8話です。本選の続き、まだまだ行きます!


第8話 ちょっと試してみる

 雄英体育祭1年ステージ最終種目、1対1で戦い勝ち抜くトーメント。その2回戦第3試合の様子は全国に中継されていた。

 

 現在、会場にいる観客のみならず、お茶の間で観戦していた視聴者のほとんどがテレビに釘付けとなっている。その異様なまでの注目は第3試合に出場し、つい先程ヒーロー科の骨抜に圧勝した彼が原因だ。

 

 サポート科であるにも関わらず、第1種目及び第2種目は2位と1位。決して悪くないどころかむしろ大活躍とも言える輝かしい成績の割に、発目と比べてどこか印象の薄い生徒。そんな風に思われていた。

 

 だがどうだろうか? そんな生徒が今、サポートアイテムを使う事無くヒーロー科の生徒と互角の戦いを繰り広げたかと思いきや、突如攻撃に移ったと認識した時には既に勝負を決めていた。一瞬で相手を瀕死に追い込み、その後ろにいる観客達まで巻き添えで吹き飛ばして。

 

 余りに現実離れした光景にほとんどの人が状況を呑み込めない。止まった時が動き出したのは、相澤がミッドナイトに声を掛けてからだった。

 

 

『……おいミッドナイト、今すぐ骨抜を婆さんの所まで運べ! 早くしないとヤバい事になるぞ!』

 

「……はっ!? た、確かにそれもそうね! 救護ロボは大至急、彼をリカバリーガールの部屋まで搬送を!」

 

 

 救護ロボによって骨抜が搬送され、その後ミッドナイトの勝利宣言が行われる。

 

 これにて第3試合が終わったのでさっさとステージを後にする彼の背中越しにプレゼントマイクの驚愕する声が響き渡る。

 

 

『……は、はああああああー!? な、何なんだ今のは!? 一体何が起こったんだ!? えっと、骨抜が気付いたら吹き飛ばされてて、観客も巻き添えで何人か吹き飛んでて、壁にはめり込んだ跡が出来てて……もう訳が分かんねえよ! つーかあいつ、拘束されてたのにあっさり抜け出しやがった! どんなパワーしてんだ!?』

 

 

 一般客もヒーローも同様に、動揺し騒めく声が徐々に伝播する。そんな声も彼は全く気にする事無く自分の席に戻る。そんな中、様子を見ていたパワーローダー先生は頭を抱えて溜め息を吐き、オールマイトは驚きつつも彼の行動を分析していた。

 

 

「……今の攻撃見えましたか、オールマイト?」

 

「ああ、ちゃんと見えていたよ。だが今ので彼のスピードは間違いなく脳無よりも上だという事が分かった。それに右手を前に突き出しただけであの風圧。パワーも相当なものだ。まさか一緒にビンゴダンスを踊ったあの子にあれ程の力があったとは……」

 

「脳無って確か、オールマイト相手に真正面から張り合えた敵だって聞いたような……。あいつがそれを上回るスペックとか、想定を超え過ぎててちょっと信じられない」

 

 

 オールマイトに尋ねたパワーローダー先生が、返答を聞いて更に頭を抱えて深い深い溜め息を何度も吐く隣で、オールマイトは内心冷や汗を掻いていた。

 

 

(パワーローダーにはああ言ったが、正直言って私でも目で追うのがやっとだった。動きが見えたのは本当だが、少しだけ見栄を張っちゃったな。それに……)

 

 

 オールマイトが彼について色々と考察している一方で、放送席にいたこの男もオールマイトと同じ事を考えていた。

 

 

(あいつはまだまだ本気じゃない……)

 

 

 次の試合への準備が進められる様子を眺めながら、相澤はそんな事を考えていた。

 

 

(骨抜に攻撃した直後、あいつは()()()()()()()()()とでも言いたげな顔をしていた。仮にさっきの攻撃が全力だとしたらあんな顔にはならない。それに試合開始から終盤まで、息切れどころか汗一つ掻いてる様子もなかった。これまでの動きから考えるに、恐らく奴の戦闘力は経験抜きで語るならオールマイト並み……いや、それ以上の可能性もあるな)

 

 

 彼の底知れぬ実力に早くも勘付いたオールマイトと相澤の2人だったが、まだ決定的な証拠が出揃ったわけではないので、この考察はしばらく心の中に留めておこうと考える。

 

 その一方で、自分の席に戻った時にクラスメイトのみならず他のクラスや観客達の視線まで彼に集中していたが、プレゼントマイクのアナウンスでその集中も霧散する。

 

 

『……えー、かなり衝撃的なラストだったけど、時間が時間なのでそろそろ次の試合に行ってみようか! 次の試合はこの2人だぁー!! ……って、あれ?』

 

 

 アナウンスと同時にステージに上がったのは、第4試合に出場する予定の発目だ。対戦相手はヒーロー科A組の飯田。聞けばクラス委員長を務めているとか。

 

 その飯田だが、先程の試合程では無いが会場内に動揺が奔った。というのも、飯田がヒーロー科であるにも関わらずサポートアイテムを全身に装着していたからである。それも発目が開発した物を。

 

 ミッドナイトが理由を尋ねると、こちらにも聞こえる非常にハキハキとした声で飯田は語った。

 

 曰く、ここまで来た以上対等な立場なので、お互いサポートアイテムを持った上でフェアな戦いをしようと発目に提案された事。サポート科でありながら惜しげもなくアイテムを渡し、出来るだけ対等であろうと行動する彼女のスポーツマンシップに心打たれた事。そして、そんな発目の気概を無下に扱うのは、彼女に対する侮辱に他ならないと考えた事。だから自身もサポートアイテムを身に着けたという。

 

 どうなるかと思ったが、力強い声で熱弁する飯田の姿が琴線に触れたのか、ミッドナイトが顔を赤らめながらOKのサインを出した。

 

 だが彼は知っている。飯田と向き合う発目の目。あれは欲望に濁りきった目をしている。もうこの時点で試合のオチが読めた。そしてこうも思った。自分も発目のようにすれば良かったと。

 

 

『んー……まあOKも出たって事で始めようか! それじゃあ第4試合、スタートしてくれぇー!!』

 

 

 開始の合図を聞いて飯田が真っ直ぐ飛び出す。サポートアイテムで強化されているのか、騎馬戦の時よりも動きが軽やかに見える。

 

 そんな飯田を前に、小型マイクを身に着けた発目の笑みが一気に深くなる。

 

 

『素晴らしい加速じゃないですか、飯田君!!』

 

 

 スピーカーも内蔵されているようで、発目の声が会場全体に響き渡る。突然の奇行に飯田が首を傾げるがお構いなしだ。

 

 

『普段よりも足が軽く上がりませんか!? それもそのはず! そのレッグパーツが着用者の動きをフォローしているのです!』

 

 

 テレビショッピングのようなノリで自身のベイビー達の解説を始める発目に、ようやく飯田にサポートアイテムを渡した意図を察した相澤とプレゼントマイクが一言。

 

 

『売り込み根性逞しいなおい……』

 

『今年のサポート科って皆あんな感じなの? 変わり種多すぎない? 魔境かな?』

 

 

 クラスメイトが勢いよく首を横に振り、席に着いてる彼とステージにいる発目を交互に指差す。変人は2人だけで、俺達は違うから同類扱いしないでくれという意図を全力で周りにアピールする。

 

 その後、ベイビー解説付きの鬼ごっこは10分もの間繰り広げられた。飯田は悉く発目の良い様に振り回されては遊ばれ、その光景はまるで猫に玩具代わりに弄ばれるネズミの様だった。

 

 そして、全てのアイテムの説明を終えた発目は実に満足気な笑みを浮かべ、自ら場外に出て負けた。

 

 

「騙したなああああー! 嫌いだ君ぃぃぃぃー!」

 

 

 悔しさを存分に孕んだ飯田の叫びが聞こえてくるも、肝心の発目はどこ吹く風といった感じで全く気にしてなどいなかった。飯田には強く生きて欲しいと願うばかりである。

 

 そしてこれにより、次の彼の対戦相手が飯田で確定した。発目が1度騙してアイテム解説に付き合わせたので、もう同じ手は通用しないだろう。どころか彼の目的に協力してくれるかどうかも怪しくなってきた。一応提案はするつもりだが、あまり期待は出来ないだろう。

 

 ……こんな調子で、果たして目的を無事に達成する事は出来るのだろうか? 彼の心に一抹の不安が過った。

 

 

 


 

 

 

「お疲れ様です! いやー、実に良いアピールが出来ました! 私はもう大満足ですよ本当に! 飯田君を唆して利用した甲斐がありました!」

 

 

 席に戻って来て早々碌でもない事を口にする発目だが、とりあえず体育祭を終えた彼女の健闘を称えて労う。

 

 

「ああ、あなたも初戦突破おめでとうございます。といっても、そんなに嬉しくは無いと思いますが。まあ、どこかで挽回出来れば結果オーライですからね! まだチャンスはありますよ!」

 

 

 今まで一緒に濃い日常を送ってきただけの事はあり、彼の気持ちなど発目には全てお見通し。体育祭で優勝する気など更々無い彼らにとって、勝ち進めば進むだけ事態が面倒臭くなっていくのだ。

 

 着々と勝ち上がる者が決まっていくステージを眺めながら、発目が彼の試合の事について話し始めた。

 

 

「それにしても先程の試合は凄かったですねえ。B組のあの人を壁に叩き付けて瀕死に追い込むとは、あなたも中々とんでもない事しますよね。あれじゃあ絶対B組の人達に恨まれてますよ。わざとですか?」

 

 

 そんなわけがない。わざとでやるにしてもあれは流石にやり過ぎだろう。まさかあそこまで吹っ飛ぶとは思わなかったのだ。

 

 

「だったら別の方法で勝てば良かったんじゃないですか? ほら、例えば拘束するなり引っ張り上げるなりして場外まで飛んで落とすとか。それくらいなら流石に出来るでしょうに、他の方法を取らずにわざわざ攻撃したから、何か理由あっての事なのかと……」

 

 

 彼はスッと視線を逸らした。口が裂けても言えやしない。もっと安全な方法があった事を度忘れしていた事に。しかも今の発目の言葉で気付いたのだから余計に言えない。

 

 だが先程も言ったように彼の気持ちなど発目には全てお見通し。急に黙りこくった彼を見て、彼が今何を思っているか一発で見抜いた。その上で言った。

 

 

「……こんな事言うのもなんですが、あなたってひょっとしなくてもかなり阿呆ですよね? 何というか、その……変な所で大ポカやらかす傾向ありますよね?」

 

 

 図星過ぎて何も言い返せないとはこれ如何に。このままでは埒が明かない。こういう場合は無理やり話題を変えるに限る。

 

 そう思った彼は、冷や汗タラタラ状態を隠す事無く強引に別の話題へすり替える。骨抜を吹っ飛ばしたのは本当に吃驚で、そもそも力の加減が思っていたより難しかったのだと。

 

 話題を変えようとするあからさまな態度にジト目を送る発目だったが、結局何も言わず、すり替えた話に付き合ってあげる事に。

 

 

「あー、まあ確かにパワーローダー先生を誤って吹っ飛ばした事もありましたもんね。普段の学校生活でも結構意識している節はありますし、何となく分かる気がします。……あれっ、でもそしたら変ですね。そこまで力の調整が難しくても日常生活をほぼ問題無く送れているなら、先程の試合もある程度調整出来たはずでは?」

 

 

 その疑問も最もだろう。だが考えてもみてほしい。例え日常生活を問題無く送れていたとしても、人に攻撃した経験を一切持たない人が、一発で完璧に力を調整して攻撃する事が出来るだろうか。パワーローダー先生を吹っ飛ばした時は攻撃しようと思ってやったわけではないので正直何とも言えない。

 

 もちろん彼自身の計算では調整は完璧だった。日常生活を送る際に出来ている力加減を念頭に置き、相手の戦闘力をしっかりと見極め細心の注意を払って攻撃したつもりだ。だが結果はあの有り様だった。

 

 その事を発目に話すと、彼女は顎に手を当ててしばらく考え込み、今の説明で何か分かったのかポンと手を打った。

 

 

「疑問に思った事があるのでちょっと質問良いですか? さっき計算では完璧だったと言いましたね? でも人に攻撃した経験はないとも。……本当に今まで何かに攻撃した経験は無いんですか?」

 

 

 人以外ならいくらでもある。いつもの修行ではレーザー等の攻撃をしてくる滞空ロボを使っている。重力室の仕様に耐えるため頑強な作りになっているのが特徴的だ。だから非常に壊し甲斐があり、ぶっ壊すと達成感が湧くので重宝している。これまで壊した回数は数知れず。

 

 

「なるほど……それじゃあ調整が上手くいくわけないですね。ロボットはただ壊すだけでどうにかなりますが、人が相手だとそうはいきません。そこはあなたも分かっていると思いますが、今まで頑丈なロボットを壊し続けてきたせいで、無意識の内に対象が耐えられる限度を超えた攻撃をする()が付いたのではないでしょうか? いくら頭では理解していても、付いてしまった癖があると必ずどこかで狂いますし。それでも骨抜さんが生きているのは最早奇跡と言うしか……どうです、私の考えは?」

 

 

 なるほど、一理ある。というかその説は1番有力かもしれない。それなら調整に失敗してしまった理由にも納得出来る上に、事実なら今後はその癖を直していけば骨抜の二の舞を演じる人がいなくなる。

 

 

「原因が癖だと確定したわけではありませんよ。あくまで私の憶測に過ぎません。まあ、仮に癖が原因だったとして、それを矯正するにはやはり生きている人に攻撃して経験を積むのが一番手っ取り早いんですけどね。……で、どうするんですか?」

 

 

 どうするもこうするも無い。体育祭はまだ終わっていないのだ。今後このような事が起こらないとも限らないと分かったし、ちょうど良い機会だから上手く調整出来るまでちょっと試してみよう。幸い骨抜への攻撃で大体の要領は得た。今日で完璧に出来るとは思えないが、骨抜の時よりは幾分かマシになるだろう。彼はそう決心した。もちろん当初の目的を果たした後でだが。

 

 こうして体育祭に参加する意義が1つ増えた彼は、次の対戦相手の飯田にどう対処していこうか考えるのだった。

 

 

 


 

 

 

 発目としばらく雑談している内に試合はどんどん進み、たった今2回戦の全てが終了した。

 

 現在ステージでは個性の使用限界を迎えて倒れ込んだ麗日を、爆豪が突っ立ったまま呆然と見下ろしている。この試合も中々に壮絶なもので、序盤から女性相手に容赦ない爆破を食らわせる爆豪に観客から大ブーイングが巻き起こった。

 

 その時は相澤の一喝ですぐに収まったが、麗日が爆破で破壊されたステージの破片を大量に浮かしているのに気付いていなかった事には驚いた。ブーイングしていた観客の多くが現役ヒーローだったが、そんな狭い視野で果たして大丈夫なのかと少し不安になってしまう。ヒーローにはもう少し頑張ってもらいたいものである。

 

 そんなこんなで試合は進み、途中まで良い感じに麗日の作戦が決まったかと思われたが、最後に爆豪がその策を正面からねじ伏せた時点で勝敗は決した。その後は体力も策も尽きた麗日が倒れて試合終了。爆豪の勝利となって今に至る。

 

 救護ロボに運ばれていく麗日の背中をただ静かに見据えながら、爆豪は何か思うところがあるのか少ししんみりした顔付きでステージを去って行った。

 

 

『ああ麗日……うん、爆豪2回戦突破。これにて2回戦終了、15分休憩挟んだら次行きます……はあ』

 

『私情凄えなおい。やるならちゃんとやれ』

 

 

 これにて2回戦の全てが終了、次から3回戦に突入する。

 

 現在トーナメントに残っているのは8人。この時点でB組は全員敗退しており、内7人がヒーロー科A組で、残る1人はサポート科の彼だけとなっている。正直言って場違い感が凄まじい事この上ないが。

 

 

『さあ、気を取り直して3回戦目! 最初の試合はこの2人だぁー!!』

 

 

 あっという間に15分間の休憩が終わり、そして今から始まる3回戦目の第1試合はヒーロー科A組の轟と緑谷の対決だ。片や現役ヒーローの息子で半冷半燃という強個性を持つA組最強格、片や超パワーを使える代わりに体を壊す個性を持ち、不思議な気をその身に宿す変わった人。

 

 お互いに何やら思うところがあるのか、向かい合っている2人の表情はどこか険しい。ステージに上がる前に何かあったのだろうか。

 

 そんな疑問がプレゼントマイクの甲高いアナウンスによって掻き消される。

 

 

『今回の体育祭で大活躍の2人! 一体どんな試合になるのか気になるよなぁー!? てな感じで始めようぜ! 2人とも準備は良いな? そんじゃあ行くぜ!』

 

 

 アナウンスを聞いて2人が一気に臨戦態勢に入った。もう先程の様な表情は見られない。

 

 

『レディー……スタァァァァート!!』

 

 

 本大会の中でも特に注目の対決が今始まった。

 

 

 


 

 

 

 試合開始から10分後。

 

 

「……み、緑谷君場外。轟君の勝利!」

 

 

 シンと静まった会場内に、ステージ中央で半裸になっている轟と、場外の壁にもたれ掛かったまま気絶しているボロボロの緑谷という構図が出来上がっていた。そして先程の麗日と同じ様に救護ロボに運ばれていく緑谷を、轟はジッと見つめたまま動かない。

 

 ステージは至る所が破損しており、焼け焦げた跡や深く抉られた箇所が特に目立つ。それに加えて観客が座る席にもステージの細かい破片が点在し、2人の戦闘の凄まじさを物語っている。

 

 

「……み、緑谷の奴、煽るだけ煽っといて負けちまったよ」

 

「策があったわけでもなくただ挑発しただけ? 轟に勝ちたかったのか負けたかったのか……」

 

「何にせよ恐ろしいパワーだぜあれは。使う度に怪我をしなければ完璧だったんだが……惜しいな」

 

「気迫は買う」

 

「騎馬戦までは面白い奴だと思ったんだがなあ」

 

 

 試合が終わり、会場のあちこちから緑谷への評価の声が飛んでくる。そんなヒーロー達の談義に耳を傾けつつ、彼は先程の試合を頭の中で振り返る。

 

 緑谷と轟の試合は開始からしばらくまでは轟が押していた。轟が塩崎戦で見せた圧倒的な質量の氷を立て続けに生成し、それを緑谷が指を弾く事で生まれる風圧と衝撃波で相殺していた。だが、個性を使う度に超パワーから来る反動で体がボロボロになる緑谷では、強力な攻撃を連続して放てる轟相手では分が悪かった。

 

 結果、全ての指を使い果たすどころか焦りからか左腕まで使ってしまったため、攻撃手段を失いあっさり轟に負けてしまった……そう思われた。しかし戦いはそこで終わらなかった。

 

 指は全て使えなくなった。左腕も重傷で使えない。ならどうやって戦いを続けたか? 答えは簡単、何と既に使って壊れた指をもう1度弾いて応戦し始めたのだ。いくらリカバーリーガールの治癒で治るからとはいえ、自ら更なる激痛に飛び込もうとする緑谷には驚かされたもので、その精神力は凄まじいものだったと言える。

 

 その直後、観客にも聞こえる声量で轟に向かって叫んだ『全力で掛かって来い』という言葉。それを皮切りに轟の動きが鈍くなり、劣勢だった緑谷が徐々に押し始めた。轟の体が微かに震えていたので、恐らく氷結の過剰使用による身体機能の低下が原因だろうが、緑谷が放った言葉にも多少の影響を受けていると思われる。

 

 そんな中でも緑谷は何かを言い続け、それに呼応して轟の表情も段々と憎悪を孕んだものへと変化していった。何を言ってるかまでは正確に聞き取れなかったが、先程の発言と轟の表情から鑑みるに緑谷が煽っているのではないかとの見解が観客達の間で出る。そして、このまま消耗戦に突入するかと思われた矢先だった。

 

『君の力じゃないか』

 

 もう1度聞こえる大きさの声量で緑谷がそう叫んだ直後、轟が左側から炎を出した。緑谷に散々煽られて頭にきたのか、はたまたもっと別の理由があるのか。今まで何故か戦闘で使わなかった炎を突然使った事に疑問を抱いたが、考えても仕方がないので試合の続きに集中した。

 

 とはいえ、その後の試合展開はスムーズだった。轟に攻撃しようと懐まで跳んで近付いた緑谷に対して、轟が炎と氷を同時に出して反撃。それまで散々冷やされた空気が炎の熱で一気に膨張した事で、観客も吹っ飛びかける程の大爆発が巻き起こった。

 

 少しして爆発の余波も収まり、後に残ったのは場外の壁にもたれ掛かる緑谷と半裸状態の轟の2人だけだった。ステージの破片が至る所に散らばっているのも、最後の大爆発が原因である。

 

 結局緑谷が何をしたかったのかは最後まで分かりかねるが、試合後の轟の表情が試合前と比べて明らかに変わっていた。もしかすると勝負ではない別の何かのために、緑谷は轟にずっと叫んでいたのかもしれない。勘に過ぎないが。

 

 そうこうしている内に爆発で大破損したステージもようやく修復され、次の試合へ移る事に。

 

 次の試合もこれまた大注目。そう、飯田と彼の対決だ。特に飯田ではなく彼の方に観客の注目は偏っている。

 

 

『さあさあ、ステージも直ったし次の試合行くぜぇー!! まずこちらは……!』

 

 

 プレゼントマイクの放送を聞き流しながら、彼は飯田への対応をどうしようか考える。

 

 発目に言われた通り、拘束して場外まで飛んで行く方法が最も安全かつ確実な勝ち方だろう。前の試合では『勝利する=攻撃して決める』という固定概念があったので候補にすら無かったが、この試合は何も攻撃する事だけが勝つ手段ではない。今にして思えば、骨抜との試合より前に轟が塩崎を氷漬けにしていたのに、どうして同様の方法を取ろうと思わなかったのか不思議でならない。

 

 だがそれと同時に、自分の力をより上手にコントロールするためにちょっと試してみたいという気持ちもある。今のところ発目が唱えた『過剰な力を発揮する癖がある説』が最も有力だが、癖が本当に原因なのか定かではない。もっと別の原因なのかもしれない。しかしその説が合ってようがいまいが、日常生活を送る時には出来ているはずの力の調整が、戦いの時になると何故か上手くいかない事には変わりない。

 

 安全を考慮して拘束して摘み出すか、多少の危険を冒して力のコントロールに専念するか。しばらく考えた結果、後者の選択肢を取る事に決めた。人に向けて力を使っても問題ない機会は、これを逃せば来年以降に持ち越しとなるだろうという考えからだ。やはり今の内に試せるだけ試した方がお得だろう。その前にアイテムのアピールをしてからだが。

 

 当初の目的から果たそうと、彼はポケットに入れてるホイポイカプセルを取り出そうと手を突っ込む。その時プレゼントマイクの声が響いた。

 

 

『2人とも準備は出来たな? それじゃあ始めるぜ! 3回戦第2試合スタァァァァート!!』

 

 

 開始の合図を聞き流しながら、彼は使う予定のホイポイカプセルを選んでポケットから取り出す。だが彼は見ていなかった。

 

 

「先手必勝、トルクオーバー……!」

 

 

 カプセルを取り出すのに意識が向いていたせいで、クラウチングスタートの構えを取り攻撃態勢に入っていた飯田の姿を。これに関しては完全に彼の落ち度なのだが、飯田に意識が向いていなかったこの一瞬が勝敗を分けた。

 

 カプセルを取り終えた彼が片手を上げて友好的に接しようと前を向いた瞬間、飯田が今までに見ない程の超スピードで駆け出した。脹脛にあるマフラーからは蒼炎と大量の煙が噴出し、見るからに自身の奥の手を繰り出そうとしている様子だった。

 

 

「食らえ、レシプロバーストォォォォー!!」

 

 

 最大加速で駆け出し、最高速度で一気に勝負を決める。飯田の作戦は悪く無かった。

 

 2回戦目で見た彼の実力。サポート科であるにも拘わらず、ヒーロー科推薦組の骨抜をあっさりと瀕死に追い込んだ圧倒的とも言える(パワー)移動速度(スピード)は、飯田の警戒心を最大限に高める要因となっていた。

 

 ほんの少しでも反撃の隙を見せたら負けるのは自分の方だ。直感でそう理解していたが故に、飯田は反撃の余地も許さぬ勢いで先制攻撃を仕掛ける作戦に出た。いくら奴の力が桁外れでも、自身が隠し持つ技で急所を突けば徒では済まないだろうと考えたのだ。

 

 そして幸運にも、開始の合図が出ているのに余所見していて自分に意識が向いていない。先制攻撃を仕掛けようと決めていた飯田にとって、彼が見せた隙はこれ以上ないくらい絶好の機会だった。

 

 だから、今まで誰にも見せていなかった隠し技である『レシプロバースト』を躊躇なく使った。これを使えば反動でエンストを起こし、しばらく身動きが取れなくなるというデメリットがある。動けなくなれば隙だらけとなり、敗北は決定的となる。

 

 それでも飯田は構わなかった。生半可なスピードでは容易に避けられ、体力を余計に消耗してしまう可能性が高いためだ。そもそも出し惜しみをして勝てるような相手ではない。だからその一撃に全てを込めて、誰よりも(はや)く、(はや)く、(はや)く。

 

 そうして繰り出された脚蹴りは、重たく芯に響くような音を出して決まった。見事彼の首元に命中し、その勢いで彼は背中を大きく仰け反らせた。

 

 決まった、これは勝負ありだ。会場の誰もがそう思った。

 

 

『……き、決まったああああああ!! 先手必勝、飯田の蹴りが首元に命中! ていうかはっや! 速すぎるでしょ今の! 移動する瞬間全然見えなかったんだけど! そんな超加速あるなら予選の時から使っ……!』

 

 

 だが、観客の歓声やプレゼントマイクの声はそこで遮られた。

 

 

「……えっ? あっ、ああああああぐああああああああっ!!」

 

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一瞬、誰もが思考停止した。何故超スピードで蹴ったはずの飯田が脚を抱えて蹲り、蹴られたはずの彼が何事も無かったかの様に平然と突っ立っているのか。そして、何故蹴ったはずの飯田の右脚があらぬ方向に折れ曲がっているのかという事に。

 

 その理由に気付くまで全員が騒ぐのを止め、ただただ2人を交互に見ていた。蹲って激痛に叫ぶ飯田と、それを見てオロオロする彼の姿を。

 

 しばらくしてこの惨状を見かねたミッドナイトが飯田の元に駆け寄り、しゃがみ込んで飯田の右脚を確認する。その右脚は紅く腫れ上がり、逆くの字の方向に折れ曲がっていた。それも曲がっているのは関節部分ではなく、最も痛いと言われる向こう脛の部分。想像しただけで震え上がる痛さなのは間違いない。

 

 このまま試合を続けるのは無理だと判断したミッドナイトは、静かに片手を上げると声高に宣言した。

 

 

「飯田君、行動不能! よってこの試合、強制終了とします!」

 

 

 静まり返った会場内に、ミッドナイトが出した試合終了の合図が木霊する。それを聞いてようやく我に返った観客達が再び騒めき出す。

 

 そして、急いでリカバリーガールの元へ搬送されていく飯田を見送った彼は、騒がしくなった会場を背にしてステージを去った。

 

 過程こそ違うが、状況が骨抜の時とほぼ同じだった。それもアイテム紹介どころかちょっと試す事すら叶わず。

 

 本当にこの調子で大丈夫なのだろうか? 彼の不安は大きくなる一方だった。

 

 

 




飯田の作戦は悪くないと思います。ただ惜しむらくは彼、ひいてはサイヤ人の肉体強度を見誤っていた。これですね。他には素足晒して蹴った事も原因です。コスチュームを着ていたらあんな事にはなりませんでした。ズボンの裾を捲り上げないとマフラーがつっかえるとはいえ、流石に今回ばかりはどうしようもないです。初戦は発目に弄ばれ、2戦目は開始10秒程度で敗退。これって冷静に考えると滅茶苦茶不憫すぎる……。
それと紹介されなかった他の2回戦ですが、結果と勝因だけここに記載しておきます。

2回戦第5試合 上鳴 vs 芦戸
勝者……芦戸
勝因……開始早々上鳴の無差別放電を食らったものの、持ち前の高い身体能力のおかげか根性で何とか耐え抜き、阿呆になって抵抗する力を失った上鳴を場外に押し出した。酸性の液体は電気を通し易いため、敢えて酸を出さなかったのは英断と言えるだろう。

2回戦第6試合 常闇 vs 八百万
勝者……常闇
勝因……原作通り。黒影の猛攻に八百万は反撃する機会すら与えられず、そのまま場外まで押し出されてしまった。常闇強い。

2回戦第7試合 切島 vs 鉄哲
勝者……切島
勝因……根性で押し通した。お互いに策の欠片もない正面からの殴り合いだったが、それでは勝負が決まらなかった。最後は腕相撲で勝者を決める事となり、結果切島がギリギリの所で鉄哲を下した。これも原作通り。熱い男は気分が盛り上がるから良いね。

以上となります。これらも本文で書くと長くなり過ぎるのでカットしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。