吉良吉影はトレーナーとして静かに暮らしたい   作:ボンゴレパスタ

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先頭の景色3

 

 

 

 

「ーーサイレンススズカ、何があったのか!?

 

 

 

最終コーナーを間近に控えた大槻を越えた先。

 

 

 

左脚の痛みに気づいた時はもう遅かった。

ターフに脚を取られ、地面に叩きつけられる…

 

 

 

 

ずっとあの時の夢を見続けている。

 

 

 

 

ーーまた走れるようになりたい。また先頭の景色を見たい。

 

 

 

 

…ただそれだけなのに

 

 

 

 

「誰か…助けて…」

 

 

 

 

暗闇の中で少女はただ一人、涙を流し続けていた。

 

 

 

 

 

病室のドアを開けたマックイーンは、奥に位置しているベッドに目を向けた。

 

 

 

 

ーー栗毛の長髪の少女がまるでそこで時が止まったように、静かに目を閉じて眠っていた。

 

 

 

 

「ーースズカさん、ライスさん。今助けて差し上げますわ」

 

 

 

 

 

 

 

そう言ったはいいものの、どうすれば彼女の能力を止められるのか…彼女の意識が戻れば能力は止まるはずだが、現代の医療でも目覚めぬ彼女を起こすにはどうすれば…

 

 

 

 

 

打つ手がなく頭を抱えていると、不意に後ろから声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「…どうやら、間に合ったようですね」

 

 

 

 

 

後ろを振り向くと、そこにはマンハッタンカフェが立っていた。

 

 

 

 

「カ、カフェさん!?」

 

 

 

 

「…ライスさんとスズカさんを助けるために今は急ぎましょう」

 

 

 

マックイーンを尻目に、カフェはベッドまでズンズンと進むと、眠るスズカの体にそっと触れた。

 

 

 

 

「ーースズカさんが目を覚さなければあの追跡者は止まらないようですわ…私たちにはどうしようも…」

 

 

 

 

「ーー私の能力があればできるかも知れません。そう思ってここまで足を運びました…マックイーンさんはここにあの追跡者が入ってこないように扉を押さえていてください…私はあの姿を見ることができるので、自分の姿を認識した私と、一度見たマックイーンさんを襲ってくるはずです…私がスズカさんを起こすまでの時間を稼いでください」

 

 

 

 

 

 

そう言うや否や閉じた扉から大きな衝撃音が聞こえるーーどうやら本当に追跡者が追ってきたようだ

 

 

 

 

「急いでください!」

 

 

 

 

今にもぶち破れそうなドアを必死に抑えながら、マックイーンは懸命に消耗した身体に鞭を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェがスズカの夢の中に入ると、あたりは灯ひとつない夜のように暗闇に覆われていた。

 

 

 

 

 

ーー夢の様子はその人の精神状態から作用される

 

 

 

 

 

スズカの気配を探りながら進むと、スズカは暗闇の中で佇んでいた。たった1人で立ち尽くす少女の表情を窺い知ることはできなかった。こちらが一歩近づくと、スズカはゆっくりとこちらを振り返って口を開いた。

 

 

 

 

「ーーカフェさん?」

 

 

 

 

 

「…こんにちはスズカさん。あなたのことを助けに来ました」

 

 

 

 

 

「…助ける?」

 

 

 

 

 

 

「あなたは今苦しんでいる…暗闇の中でもがき苦しんでいます…元の世界に帰りましょう」

 

 

 

 

 

そう言って彼女に近づこうとすると、スズカは叫び声を上げた

 

 

 

 

 

「来ないで!」

 

 

 

 

 

「…スズカさん」

 

 

 

 

 

「ーー目覚めたとして、意味なんてないわ

私の足は目が覚めたらレース後の足…怪我してる現実に戻ってしまう…それならいっそあの時レースの時に…」

 

 

 

 

「…それ以上言ってはいけません」

 

 

 

 

 

友人であるマンハッタンカフェの聞いたことがない声にスズカは顔を上げる。その顔はいつになく真剣であった。

 

 

 

 

「…生きていれば挫折、後悔、そして苦しみ。いろんなことが付き纏います。…ですが前を向かなければいけません。…立ち止まってもいい、でも歩みを諦めることはしてはいけません…」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「…苦しむことも、そこから立ち直れるのも生きている私達だからできることなんです…私も時々思います…ずっと夢の中にいられたらいいのにって…でも夢は夢だからいいんです。醒めない夢なんてありません…」

 

 

 

 

 

徐々にスズカの硬く閉ざされた心が開いていく。

 

 

 

 

 

「それに、辛い時は私がいます。…あなたのために動いてくれたマックイーンさんやライスさんがいます…あなたのことを助けたいんです」

 

 

 

 

「…カフェさん」

 

 

 

 

 

ーー真っ暗な世界に、朝日が差し込んでいく

 

 

 

 

彼女の心が、魂が前を向こうとしていた。

絶望という闇の中で、彼女は現実に向き合おうとしていた。

 

 

 

 

ーー明けない夜はない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーサイレンススズカが目覚めたことで追跡者は消滅し、栄養は持ち主の元へと返された。

 

 

 

スズカは少しずつではあるがリハビリを懸命にこなし、早くターフに戻ることができるように努力している。

 

 

 

 

ーーしかしながら寮の門限時間後の外出によりライスやマックイーン、ゴルシとそのトレーナーは寮長やたづなさんから大目玉を喰らうこととなった。

 

 

 

 

ーー数日後、マックイーンは事件以降気になっていたことをライスに質問を投げかけていた。

 

 

 

 

「ーーそういえばライスさん、どうして能力と言うのかしら?それを持っていないのにカフェさんの能力をご存知でしたの?」

 

 

 

 

「それは前にカフェさんが能力で出した夢の中でライスが苦しんでた時にお兄様に助けてもらっ…」

 

 

 

 

そこまで言いかけた時だった。

 

 

 

 

「ライス」

 

 

 

 

短くも、2人の会話を遮る声。マックイーンが振り向くと、そこには川尻トレーナーがこちらを観察するように立っていた。

 

 

 

 

「ライス、こっちに来なさい」

 

 

 

 

そう言うと、ライスシャワーは飼い慣らされた忠犬のように、意思を持たぬロボットのように川尻トレーナーの元に駆け出して行った。

 

 

 

 

「先程までライスさんが言いかけていたこと…カフェさんの夢を見せる能力が本当である以上、ライスさんが言ったことは本当ですわ….つまり川尻トレーナーは夢の中でどうやってライスさんを助けたんでしょうか…?」

 

 

 

 

「…川尻トレーナー、一体何者ですの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーライスが余計なことを言いそうになっていたから声をかけたが…ライスにはこのことは言いふらさないように強く言っておくとするか…」

 

 

 

「マックイーンめ…あいつの勘が働かなければいいが…ウマ娘を消すことは得策ではないが、もしも私のことに万が一にでも気付こうものなら」

 

 

 

「…殺さなければならない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェニー

 

 

 

破壊力-Bスピード-A射程距離-A持続力-C精密動作性-E

成長性-A

 

 

 

能力者:サイレンススズカ

 

 

 

動物の馬の姿をしたスタンド。

自身の姿を認識した者をどこまでも追跡するが、半端自動操縦のようなものなので、スズカ自身が視認できない範囲の行動は制御することはできず、その際は対象を追うことしかできない。

 

 

 

 

天皇賞で起きた故障の怪我を治すため、意識不明だった彼女が無意識下で発動した。

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