吉良吉影はトレーナーとして静かに暮らしたい 作:ボンゴレパスタ
「川尻トレーナーが…?確かに何者なんだろうな…マンハッタンカフェがこの間の悪夢騒ぎの元凶だったとして、それを解決したのがあの人だったってことか?」
放課後、突然2人きりで話がしたいとマックイーンに呼び出され、衝撃的な話を聞かされたトレーナー…班目洋一は、自身の担当ウマ娘の言葉を聞きながら、顎に手を当て、表情を曇らせた。
「おそらく、そういうことでしょう…」
「でも、どうやって…?マックイーンの話の限りじゃ、カフェも能力者なんだよな…能力の中でどうやって…」
メジロマックイーンはトレーナーの問いに振り返った。
「もしかしたら…ひょっとしたら川尻トレーナーも能力者なのではないでしょうか…?」
「…だとしても、仮にそうだったとしても騒ぎを解決したんだから何の問題もないんじゃあないか?」
「…それはそうなのですが、トレーナーが以前おっしゃっていたM県支部のころからの豹変と言い、何か引っかかりますわね…」
――二人の会話を物陰から聞いていた写真の親父は、二人に気づかれないように物陰から飛び出ると、必死の形相で矢を握りしめた。
「吉影にメジロマックイーンのことを尾行するように言われ付いてきたが…吉影のことを追う野郎ども…今はまだ吉影が何者か気づくはずはないが、また杜王町の時ようにスタンド使いを増やし、やつらに差し向ける必要があるかもしれん…」
写真の親父は一休みしようと木の上に休むと、後ろから鳴き声が聞こえた。
「こ、こいつは…猫!?」
吉影がトレセン学園に赴任した際、あのチビの理事長にあいさつしたときに吉影に威嚇しておったやつか…
猫は理事長の元を離れ、よく学園内をふらついていた。
偶然登った木の上で、遊び道具を見つけた猫はその足で写真の親父を突っつき始めた。
「は、離れんか!このくそ猫…」
すると写真の親父が押された拍子なのだろうか、それとも矢の意思なのだろうか。
写真の中から矢が飛び出ると、猫の首に深々と突き刺さった。
フシャ――!
潰れたような声を上げて猫は木から滑り落ちていった。
「なんだと!儂は矢に触れておらんのに!」
騒ぎになって誰かに気づかれると厄介だ、写真の親父は木の側から誰にも気づかれないように去っていった。
吉良が仕事を終え学園内にある自身の社宅に向かおうとしていると、学園の片隅で理事長とたづながある一点を見つめて立っているのを見かけた。
「…いかがされました?」
吉良が二人に声をかけると、理事長は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらこちらを振り返った。
「傷心…私の猫が…私の猫が…」
言葉にならないほど涙を流す理事長の隣で、辛そうな顔を滲ませながらたづなは口を開いた。
「理事長の猫が、先ほどここで倒れているのが見つかりまして…私達が来た時にはもう…」
二人の視線の先に目を向けると、そこには猫が地面に血の池を作りながら力なく倒れているのが目に入った。
「…首についた傷が致命傷だったようですね…誤って木から落ちた時に枝に刺さってしまったのでしょうか…」
「そんな…そんな…」
「…お二人は辛いでしょうから、私がこの猫を一目のつかないところへ埋葬しておきます」
吉良は猫を持ち上げると、一目のつかない校舎裏に埋葬した。
「――あの首の傷、枝に刺さったということしておいたが、恐らくあの傷は…」
――あとで親父に聞いておくか
「しかし、君には結局のところスタンドの才能はないということだったのかな…」
煩雑に掘った穴に使い古した靴下をゴミ箱に捨てるように猫を放り込むと、土を上に被せ吉良はその場を後にした。
――翌日、誰からも忘れ去られたような校舎の裏でその植物のような何かは目を覚ました。
――自分は一体何をしているのか
いつものようにストレッチしようと身体を引き延ばすと、自身の身体の異常に気が付いた。
あれ、なんか俺の体…おかしくないか?
俺の自慢のふさふさな毛が無い。自慢の爪も、食べるときに少し邪魔だがチャーミングな髭も尻尾もない。
どうして?どうして?
頭の中で疑問はつきない。すると頭上でハエが飛んでくるのが見えた。
いつものように捕まえようとしても、ジャンプすることができない。
――え?
自身の足元をみると、足がないことに気が付いた。地面に埋まってしまっている。
――腹も減ってきているというのに、これじゃあ動けないじゃあないか!
いつもであれば、飼主であるチビが飯をくれるというのにどうすればいいのか。
すると、5メートルほど頭上に小鳥が舞っているのが見える。
「―――腹が減った。死にたくない」
飢えという生物として最ものっぴきならない事情が押し寄せた時、その身体から何か発射されたのが感じた。
「――!今俺の体から何かでた!?」
その物体は頭上に向かって飛んで行き、小鳥に当たったかと思うと、その小鳥は風船を針で突いたかのように破裂し、植物の目の前に落ちていった。
――彼は本能でこの能力の使い方を理解した。
目の前の馳走にかぶりつくと、自身が生まれ変わった最初の食事を楽しんだ。
――案外この姿も、能力も悪くないかもしれない
すると頭上から、不意に声が聞こえてきた。
「――こいつ、スタンド使いか」
吉良は注意深く植物を観察しながら考えた。
「昨日の猫にスタンド能力の才能があったということか。親父に事情を聞いて、一応確認に来たが…まさかな」
「そして…今小鳥を攻撃した能力…見づらかったが、僅かに球体のような輪郭が見えたぞ。――私の見立てが正しければこいつの能力は」
「…空気を操る能力といったところか」
「そして問題なのは…こいつが敵なのかどうかということだ」
植物――猫草は目の前の男に恐怖した。
本能で生きてきた自身にとって、本能は生存の上で最も重要なレーダーとなる。
――こいつ、初めて会った時からやばいと思ってたんだ
こいつが学園にやってきて、飼主とあった時も、こいつは隠しているつもりだろうが、その殺気を感じた。
――人間は感じないだろうが、こいつはやばい。
多分、人を殺したことがあるーーそれも一人二人なんてもんじゃない。
ーー怖い、怖い、怖い…
吉良の身体から湧き出る殺気を感知した猫草は、その身体を懸命に捻じらせて腹部を吉良に見せた。
目の前で懸命に体をよじらせようとしている猫草を見て、吉良はほくそ笑んだ。
「こいつーー服従しようというのか。この吉良吉影に」
ならばいいだろう。この能力、私にとって何か助けになるかもしれない。
吉良は植木鉢に猫草を移し替えると、その場を立ち去った。
「仲良くやろうじゃあないか、君」