吉良吉影はトレーナーとして静かに暮らしたい 作:ボンゴレパスタ
「――それで、どうするんだ?いつものように、ポーカーで勝負するか?」
ゴルシは机の向こうに座り、こちらを窺うウマ娘――ナカヤマフェスタを見据え、いつものような余裕を繕いながら言い放った。
「ポーカー?確かにそれも良いが、それはさっきのやつとやっちまったからな…どうだ、これで勝負しようじゃあないか」
フェスタは机の上に丼のようなお椀を置き、その中に3つのサイコロを振り下ろしたのだった。
「…チンチロリンか」
「――勝負は三回。その間に一回でもアタシに勝てたら、ぶっ倒れたトレーナーを元に戻してやるよ。今なら多分何の後遺症もなく元に戻るはずだ」
「…アタシは何を賭ければいいんだ?」
「…簡単だ。負けたらテメーにはトレセン学園をやめてもらう…テメーは超が付くほどの問題児だーーいなくなったって困る奴なんかいねーだろ?」
――アタシには選択肢なんてない。こいつとの勝負を降りることはできないし、それをしてしまうことはフラッシュのトレーナーの死を意味していた。
ゴルシは覚悟を決めると、口を開いた。
「――その勝負、吞んでやる」
――1回目。ゴールドシップは3度賽を振ったが、当然役が揃うことはなかった。
3度目の賽を振り終わった後、フェスタはゴルシを見据えながら口を開いた。
「勝負において一番大事なことを教えてやるーーそれは飢えだ。勝利に対する欲求は、勝利の女神を振り向かせる一番の手段なんだよ…」
お椀の中のサイコロを取り、お椀の中へ振り下ろす。すると目は「3.3.6」を示したのだった。
「――ほらな?勝利への梯子は、アタシに向かって伸びてるみたいだぜ、ゴールドシップ?」
彼女の言う通り、2回目の勝負もフェスタの役が揃ったことで、彼女の勝利で2回戦は幕を閉じたのだった。
――2度の圧倒的勝利を収め、残る最後の1回。フェスタの勝利は目前に迫っていた。
正気の彼女であれば決してしないが、すでに勝利という美酒に酔い、目の前の敗北者をあざ笑っていた。
――正に絶頂にいる彼女は、ゴルシに嘲り、そして口を開いた。
「――おいおい。生ぬるいな~、ゴールドシップ。あと一回負ければ、アンタは学校を去ることになるんだぜ…真剣にやれよな~」
――被捕食者を前にした、勝利を確信したそのセリフ。
ゴールドシップはその姿勢を崩すことなく、おもむろに口を開いた。
「――確かにマジになんなきゃならないみたいだな…一つ提案なんだが、賭けるものを増やすことはできるのか?」
「…おいおいおい。別にアタシは構わねーが、一回賭けたら能力があるから取消はできないからな?」
――気でも狂ったかこいつ?ただでさえもうあとがないのに、賭けるものを増やす?…いいだろう。全部奪いつくしてやる。その顔に絶望の表情にして、アタシの前に跪かせてやるよ。
「なら好都合だ…アタシはこの勝負に「ウマ娘としての走る能力」を賭けさせてもらう」
――ナカヤマフェスタの顔が歪む
――ウマ娘としての禁じ手。ウマ娘という生物上、その根幹をなすものであり、生きる意義ともいえる「走る能力」。
その能力を賭け金としてベッドするということは、ウマ娘にとっては自身の生命を賭けることに等しい。
「――ふざけんな!!テメー、この勝負に負けたら、死ぬつもりってことかよ!」
荒々しく声を上げ、フェスタが椅子から立ち上がる。その顔には最早、余裕なんてものはまったく感じられない。
「――アタシはこれだけの代物を賭けたんだ。お前にもそれなりのものーー同じもの。「走る能力」を賭けてもらうからな」
「―――なっ」
「――おいおい。いつものスカした顔はどうしたんだ?勝負するだろう?」
「~~~~~っ」
――ゴルシは双六を手に取ると、卓上のお椀に振り落とす。
「――飢えが勝利をもたらす最大の要素って言ってたよな?」
「アタシは自分で最大の飢え、ピンチを作りだした。そうじゃねーと、勝利の神様はこっちに傾かね~よな~!」
――お椀の中のサイコロが回転を緩め、やがて止まる。そのお椀の中の3つの数字は、「4,5,6」を指し示していた。
「――な…シゴロ!?ふざけんな!―――ありえない!」
フェスタはこれでもかと目を見開き、卓上のサイコロを払いのける。
「―――次はお前の番だぜ、フェスタ」
「…ふざけんな。やってやる…やってやる!!」
フェスタは震える手で落ちたサイコロを握り、お椀の前に向き合うが、その様子はさながら死刑台に向かう死刑囚のような顔つきであった。
――1回目。当然役は揃わない。
―――やってやる、やってやる…アタシは博打打ちだ…勝負してやる…
頭ではそう思っていても、サイコロを握る手は汗ばみ、震えるばかりで一向に振ることはできない。
――負けたら走れなくなる、負けたら走れなくなる、負けたら死ぬ…
――2回目、またも役は揃わない。
ゴールドシップに勝つためにはあと一回でゾロ目かピンゾロを出すしかない…
彼女を勝負の場へ留まらせているのは、最早勝利への執念ではなかった。
――息が思うようにできない。恐怖が心を締め付け、視線を定めようと視界は揺れ動くばかりだ。
――目の前のフェスタの動揺ぶりをみながら、ゴルシは言葉を続けた。
「…お前はさっきまで、負けが続いていたアタシを見て絶好調だったーーだからこそ、さっきのアタシの覚悟、飢えを見た時の動揺はすごいだろ…立て直すことなんてできやしない…その時点で勝利の女神ってやつからは見放されちまっただろうな…もっとも、正気のお前だったら勝負師として立て直しもできたかもな」
フェスタは白目を剥き、泡を吹きながら後ろに向かって倒れていった。
――彼女の手に持ったサイコロは、彼女が意識を手放した拍子に転がっていき、ゴルシの前で止まった。
「――どちらにしても、お前は負ける運命だったようだな」
彼女の足元で転がるサイコロの数字は、「1.2.3」を示していたのだった。
――フラッシュのトレーナーが病院で何事もなかったかのように意識が目覚めたという電話を受けた後、正気に戻ったフェスタの口からでた衝撃的な話にゴルシは目を見開いた。
「――つまり、今朝何者かに首を刺されて、そこから能力に目覚めたってことか?」
――つまりその首を何かで刺されたことが能力を得る原因となったことは間違いないようだ。生まれ持ってその才能が発芽していたり、その片鱗をみせていたカフェやスズカとは違い、強制的にその能力を引き出されてしまったため、フェスタのような能力の暴走を引き起こしてしまったのだろう。
――何の目的で?
今朝のマックイーンの話を思い出したゴルシは川尻トレーナーのことを少し疑ったが、あの人は今朝から関西支部に数週間出張に行っているはずだ。彼であるはずがない。
ただ彼に繋がる誰かがアタシたちを消そうと動き始めたってこともあり得る。
実際、フェスタも先ほどの勝負でアタシの退学を引き合いに出していた。
――だとしたら、マックイーンたちが危ない。
急いでスマホを取り出すと、マックイーンに電話を掛けた。
「――おい!マックイーン、能力者だ!誰かが能力者を増やして、アタシたちを襲うように仕向けているかもしれねぇ!」
「…どうやらそのようですわね…ですが」
「…少し遅かったようですわ」
グリーディーソウル
能力者:ナカヤマフェスタ
破壊力E/スピードD/射程距離A/持続力A/精密動作性D/成長性A
「賭け事」を司るスタンド。賭けにおいて負けた人間が賭けていたものを取り立てる能力を持つ。その取り立ては絶対であり、負けてしまえばその取り立てから逃れることはできない。
しかしフェスタ自身も賭けが始まってしまえばこの拘束化に置かれ、負ければ彼女自身も能力の取り立てにあうことになるため、ある意味非常に中立的な能力ともいえる。