吉良吉影はトレーナーとして静かに暮らしたい 作:ボンゴレパスタ
生徒会の業務が滞りなく終わり、チームメイトであるマックイーンのもとに向かうため、ナリタブライアンは廊下を足早に歩いていたのだった。
――先ほどマックイーンからの電話が届き、彼女の話を聞いたブライアンは先ほど聞いた話を冷静に考えていた。
マックイーンやゴールドシップ、ウイニングチケットが能力者によって襲われてしまったらしいーー犯人はどうやらナカヤマフェスタとアグネスタキオンだったようだが、その二人が当初から能力者だったわけではなく、何者かによって首を何かで刺されたことによって能力に目覚めたそうだ。どうやら能力者になったウマ娘は3人いるらしく、フェスタとタキオンを除いてもあと一人がこのトレセン学園のどこかにいるということになる…
マックイーンは川尻トレーナーが怪しいと言っていたが、彼は早朝から関西へ出張に行っているはずだ…とてもじゃあないがそんなことをする時間はない。だとすれば一体誰が、何の目的でこんなことをしたのだろうか…
情報を詳しく聞くため、また最後の能力者を急いで特定するため、マックイーンの元に急いでいたブライアンだったが、そんな彼女に声をかける人物がいたのだった。
「――ブライアン」
彼女に声をかけたウマ娘―――特徴的な葦毛の癖っ毛に、眼鏡をかけた彼女、理性という言葉を体現させたような彼女の姿を認めると、ブライアンは少しため息をついた。
「…姉貴」
―――彼女の名前はビワハヤヒデ。ナリタブライアンの実の姉であり、チームシリウスのメンバーの一人であるウイニングチケットとナリタタイシンの二人とクラシック路線を賑わせたBNWの一人として、その脅威的な連対率と、理論に基づいた徹底的なロジカルな走りは彼女をスターウマ娘として押し上げていたのだった。
「こうして話すのは久しぶりだな…ブライアン。野菜はちゃんと食べているか?」
「――姉貴。悪いが今話している時間はない」
その眼鏡の奥の目がわずかに下に向いたのに気づいたブライアンだったが、マックイーンたちとの要件が急迫性を有する以上、ここで長話をするわけにはいかない。
ハヤヒデに対して申し訳ないという気持ちはあったが、ここは急いで断りの言葉を続け、すぐに彼女らのもとに向かわなければならない
「―――すまない姉貴、今は本当に急ぎの…」
彼女の方へ振り向きながら言葉を続けるブライアンだったが、そこにハヤヒデの姿はなかった。
「―――姉貴?」
彼女はどこにもいないーーー正確には彼女がいた場所に、1回り2回りも小さい少女がそこにいた。
ブライアンは大きく目を見開き、目の前の幼児を真っすぐと見つめる
――この子、見覚えがある…昔の記憶…昔、私が幼稚園に入った時の写真と言って姉貴が見せてきた…
「――――まさか」
――ありえない…だが間違いない。目の前にいるこの少女。特徴的な癖っ毛に、赤縁の眼鏡…
「あ、姉貴…?」
ーー決してありえない非現実的な目の前の光景
唐突な出来事に戸惑っていると、目の前の少女ーー幼いハヤヒデはしたっ足らずな様子で口を開いた。
「――おねーちゃん、だぁれ…?」
――どうやら姉貴は私のことを妹だとは認識していないようだ…記憶も昔の当時の頃に戻っているらしい。
目の前に広がるあまりにもショッキングな光景にブライアン自身戸惑いながら、自身とハヤヒデに降りかかった状況を何とか冷静に分析していた。
マックイーンから受けた電話を思い出し、ブライアンは一つの可能性にたどり着いたのだった。
――まさか、能力者による影響か…?
だとすれば、アグネスタキオンが言っていたという、何者かに刺されて生まれたという合計3人の能力者のうち1人が襲ってきたということだろうか…
必死に考えを巡らせていたブライアンだったが、その考えは唐突に声を掛けられたことによって中断されることになった。
「あ~~~!ここにいたんですね、私のかわいこちゃんたちは」
夕暮れ時となり、凡そ半ハロン先の暗がりからゆっくりとこちらに歩み寄ってくるウマ娘―――鹿毛のロングヘア―、学生服にエプロンを身に着け片手に赤ちゃんをあやすときに用いるガラガラを手にし、オグリキャップやイナリワンたちと共に三強の一角を成したスターウマ娘…彼女はトレセン学園でも有名人であった。
「スーパークリーク…?」
「今かわいこちゃんになったのは、ハヤヒデさんだったんですね~。すぐにブライアンさんも一緒に、いい子いい子してあげますからね~」
――どうやら話が見えてきたようだ。能力者になったことによる能力の暴走…今朝能力者となった最後のウマ娘とは、どうやらスーパークリークのようだ…
「――すぐにあなたもかわいこちゃんにしてあげますからね!」
その途端、クリークの足元から光線のような光がこちらに向かって伸びてくる。まるで意思を有した生物のようにこちらに向かってくる光に危機感を覚えたブライアンは、間一髪のところで幼いハヤヒデを抱えて横に跳ぶことによって間一髪で接触を防ぐことができたのだった。
「あら惜しい~もう少しでいい子いい子できたっていうのに~」
どうやらクリークが繰り出した光線に当たると、姉貴のように幼児化してしまうらしいーーそうとわかればその光に触れることはできない。
「タイシンさんに続いて、ハヤヒデさんもいい子ちゃんになったのに~ブライアンさんもそうなってしまえば楽なのに~」
ーークリークの同室のタイシンはどうやらクリークの毒牙にかかってしまったようだ…差し詰めクリークが能力を発言させた理由は、他人を甘やかしたいといったところか…バカげているといえばそうだが、能力を発言させるにはその意思が深く関わるという…ブライアンはある程度能力の推察を立て、その理由もある程度予想はついたが、現状彼女の能力の暴走を止める手立てがないため、この場で彼女と向き合うのは得策ではないようだ。
ブライアンは幼いハヤヒデを抱きかかえたまま、クリークとは逆方向へと走り出したーー少しでも彼女と距離を取るために、少しでも彼女を止めるための時間を稼ぐために。
階段を駆け上がり、すぐに扉が開いていた教室の中に入る。
「おねーちゃん…?」
ブライアンの腕の中からハヤヒデは不安そうにこちらの顔を覗き込んできたのだった。
――私は…ナリタブライアンというウマ娘は、生まれてから今まで妹と呼べるような存在に頼られたことがないーー幼い時は姉貴がお節介を焼いていたし、(それは今もだが)今は基本的は一人でなんでもできる…だが、姉貴とはいえこんな小さな子が不安を抱いているとき、その不安を解すことなんて私にできるのだろうか…?
何とか彼女に自身の不安に悟られることがないように、慣れない笑顔をなんとか取り繕いながら、ブライアンは彼女に語り掛けた。
「い、今…かくれんぼをしているんだ…さっきお姉さんがいただろう…?あのお姉さんが鬼で、私たちが逃げる番なんだ…鬼に見つからないように、声を出さないことってできるか…?」
ブライアンが必死に取り繕った提案に、ハヤヒデは小さく頷いたのだった。
その反応を確認すると、急いでブライアンは身を隠すために行動を起こすのだった。