吉良吉影はトレーナーとして静かに暮らしたい   作:ボンゴレパスタ

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決戦前夜ー宝塚記念

 

 

 

 

 

 

「…ということは、うちのチームメイトが同時に襲われたってことか…?」

 

 

 

 

事件があった翌日、チームシリウスの面々から報告を受けた班目トレーナーは、一通りの話を受けたあとにため息をつく様に口を開いた。

 

 

 

 

「―――どうやらそのようですわ…私とチケットさんがタキオンさんに、ゴールドシップさんがナカヤマフェスタさんにーーそしてブライアンさんがスーパークリークさんに」

 

 

 

 

「実際にチケットやフラッシュとそのトレーナー、姉貴にも被害が出ている…内々で生徒会の方でも調査が行われるそうだが…タキオンたちも被害者だ…私の方から彼女らに疑いの目が向かないようにしておくよ」

 

 

 

「まぁ生徒会の方で調べたとしても、犯人はわからないだろうな…シンボリルドルフといっても能力者ではない以上、どうしようもないだろう…」

 

 

 

トレーナーが途方に暮れたように頭をかくと、マックイーンは覚悟を決めたように口を開いたのだった。

 

 

 

「――やはりあの男ですわ…川尻トレーナーの仕業に違いありません」

 

 

 

「だけど、マックちゃん。あいつは今関西にいるんだぜ~?どうやってあいつらを能力者にしたっていうんだよ?」

 

 

 

「――もしかしたら川尻トレーナーには協力者がいるかもしれませんわ…」

 

 

 

「この学園の中に!?そんな仲間がいるってこと…?」

 

 

 

「―――いや、それはないだろう…あの手の男に恐らく仲間というものはいない。そこから自身のことがバレるってこともあり得るからな…それにこの学園にいる人だったら、多少なりともウマ娘を襲うことに多少抵抗があるはずだ…」

 

 

 

――シリウスは先代トレーナーから受け継いだ、マックイーンと二人で始め、メンバーに恵まれた大切なチームだ。

 

 

 

だからこそ、そんな大切なチームだからこそ…そんなチームメイトが傷つけられているからこそ

 

 

 

 

――川尻トレーナーには、宝塚記念が終わったあとに色々聞かなければならない。

 

 

 

班目トレーナーは心の中で静かに決意の炎を燃やすのであった。

 

 

 

 

 

「なるほど…状況はわかった…また連絡する」

 

 

 

写真の親父からの一報を受け、吉良は苦々しくスマホを耳から離した。

 

 

 

―――親父も余計なことをしてくれたな

 

 

 

いずれにせよ、私の正体に気づくということは、私が川尻浩作ではなく吉良吉影であるということに気づくということはあり得ないが、マックイーンが私を疑っている以上私に対する疑いの目はますます強くなったというところか…

 

 

 

 

――宝塚記念。今はそれに集中しよう。動き出すのはそのあとだ…

 

 

 

 

スマホから目を離し、阪神レース場で着々と進む宝塚記念への準備に目を向ける。

 

 

 

天皇賞で1着という功績を残したライスは、宝塚記念のファン投票では1位となり、開催セレモニーに出席することになっていた。

 

 

 

そのリハーサルに今日は阪神レース場へと足を運び、ライスと共にその段取りを確認していたのだった。

 

 

 

「――お兄様?」

 

 

 

勝負服に身を包んだライスシャワーがやってくる。

 

 

 

「――心配ないよ…たづなさんから少し確認の電話をもらっただけさ」

 

 

 

吉良が笑顔でライスに向かって答えると、ライスの頬は少し赤らんだ。

 

 

 

すると数人のスタッフが吉良達のもとへやってきて言葉をかけた。

 

 

 

「すみませーん、花束贈呈の位置を確認したいのですが…」

 

 

 

「それが終わったらこっちお願いしますー」

 

 

 

スタッフたちが様々なセレモニーの確認を取り、そのたびに私やライスが対応する。

 

 

 

吉良にとっては造作もないことだが、ライスは目まぐるしく飛び交う質問に、目を回してしまっていた。

 

 

 

「――少し、休憩しようか」

 

 

 

吉良が隣にいるライスに声をかけると、彼女は小さく首を横に振った。

 

 

 

 

「――ううん。大丈夫だよ。スタッフさんもお兄様も、ライスのために頑張ってくれてるから。皆を笑顔にできるなら、ライス頑張るから」

 

 

 

 

そう言うとライスは小走りでスタッフのもとへと向かっていたが、セレモニーのために取り付けられていた門が音を立ててライスのもとへと倒れていく光景が吉良の目に入った。

 

 

 

 

「―――ライス!」

 

 

 

彼女の元に走り出し、ライスをかばうように突き飛ばすと、誰にも気づかれないようにキラークイーンで彼女の身体をそっと支える。

 

 

 

 

「お兄様!!」

 

 

 

 

 

キラークイーンでガードしようにも今キラークイーンはライスのもとにやっており、しかもそんなことをしてしまえば周囲の人間が不審がるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 

 

一瞬判断が遅れた吉良は、倒れる門に頭を打ち意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

吉良が目を覚ますと、そこは病室でライスは隣で涙を流していた。

 

 

 

 

「――よかった!目覚められたんですね!今お医者さんを呼んできます!」

 

 

 

 

近くにスタッフはそう言うと病室を駆け出していき、ライスは震えるように口を開く。

 

 

 

 

「――お兄様がライスのせいで…」

 

 

 

――どうやらまたいらぬ心配をしているようだ…吉良はライスの頭をそっとなでると、口を開いた。

 

 

 

 

「自分を責めるな…ライスを守るのが、私の仕事だ。ライスにケガがないならよかったよ…」

 

 

 

 

――――病院での検査が終わり、異常がないとして吉良達が病院から出ると、スタッフは申し訳なさそうに口を開いたのだった。

 

 

 

「大変申し訳ありませんが、こうなってしまってはセレモニーはおろか、宝塚記念そのものが開催できない可能性が高いです…」

 

 

 

「…それは一体どういうことですか…?」

 

 

 

「今回の事故は万が一にありえなかったことというか、原因が全く分かっていないんです。事故を受けて、原因を究明するために場内を全て点検しなおすことになりまして…そんな状態なのにレース場をつかうことはできないということで…」

 

 

 

 

――どうやら私が気を失っていた間に大事になってしまっていたようだ。

 

 

 

 

 

隣にいるライスに目を向けると、まるでこの世の終わりかのように顔を真っ青に染め上げてこちらを見つめていた。

 

 

 

「――お、おにいさま…」

 

 

 

「――ライス、落ち着きなさい。今日は色々と疲れているだろう…?今日はホテルに戻って、ゆっくり考えよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころトレセン学園の生徒会室では、シンボリルドルフをはじめとした面々が顔をしかめてルドルフが座る室内の奥に坐する卓を囲んでいた。

 

 

 

 

 

「――先日の幾人かのウマ娘やトレーナーが襲われた事件、あれは一体何者の仕業なんだ?」

 

 

 

 

 

エアグルーヴが深刻そうに口を開くと、ルドルフは重々しく口を開いた。

 

 

 

「いずれも同日に起こった事件だそうだが、その事件の現場にはチームシリウスの面々が同席していたそうじゃあないか…「群疑満腹」、ブライアン…君は何か知っているんじゃあないか?」

 

 

 

 

 

凍てつくように突き刺さるルドルフの視線に、一瞬だがブライアンは本当のことを打ち明けてしまおうかと思った。この学園の長である彼女にとって、すべてのウマ娘の幸福を願う彼女にとって、今回の事件の犯人を許すことなど決してできないだろう。実行犯としてはアグネスタキオンらであることに間違いはないのだが、彼女らはただの被害者であり、そしてその背後に真犯人がいることは自明の理である。

 

 

 

 

――だがそのことを打ち明けてしまえば、能力のことをルドルフやエアグルーヴに話さなければならない。それはスズカやカフェが偶発的に起こしてしまった事件のことも、聡い彼女らのことなら勘づく可能性は大いにある。

 

 

 

 

また川尻トレーナーのことを彼女らに話してしまえば、一体どうなることか…犯人を決して許さないであろうルドルフやエアグルーヴがあの男にそのことを問い詰めることは自明の理であり、その場合に川尻トレーナーがどういう行動を取るかは全く予想ができない

 

 

 

 

ーーそれこそマックイーンが目撃し、予想していた通りに彼が人を殺すことにためらいがない能力者だったとしたら、二人の命を狙う可能性は非常に高い…

 

 

 

 

「――私は、私たちは何も知らない」

 

 

 

 

 

嘘をついたことを悟られないように、目をそらすことなく彼女の目を見つめ返す。

永遠とも感じるような冷え切った空気が室内に流れた後、ルドルフは口を開いた。

 

 

 

 

 

「――そうか。君の友人たちを疑ってしまって悪かった…引き続き調査を続けることにするよ…この話はいったん終わりにしよう」

 

 

 

 

エアグルーヴとブライアンが部屋から退出して間もなく、入れ替わるように一人の男が生徒会室に入っていった。

 

 

 

――彼の名前は甲斐俊。名前とは裏腹に非常に中性的な顔立ちをしており、身長も平均男性と比べても一回り小さいーーそんな彼だが、シンボリルドルフのトレーナーとして若くしてその手腕を発揮する前途有望な男である。現在は第一線を退いたルドルフだが、日ごろのトレーニングの指導は彼が行っており、時折レースに出場することもあった。

 

 

 

 

「――ルナ。今日も生徒会の業務、お疲れ様。随分深刻そうな顔をしているね…」

 

 

 

「――あぁ、トレーナー君…先日起きたウマ娘やトレーナーが襲われた事件についてだよ。犯人の手がかりが全くつかめなくてね…」

 

 

 

「あの事件か…僕に何か手伝えることはないかい?」

 

 

 

「ありがとう、トレーナー君…なら一つ頼まれごとをしてくれるかい?」

 

 

 

 

「いいよ、何をすればいい?」

 

 

 

「君はチームシリウスのトレーナー…班目トレーナーと同期で親しかっただろう?あの日の事件のそれぞれにはチームシリウスのメンバーが同席していた…犯人ではないだろうが、何か事情は知っているはずだ…それを彼から探ってほしい」

 

 

 

 

 

 

――ブライアンは嘘をついている。何の事情かは知れないが、彼女は、チームシリウスのメンバーはこの事件に関してきっと何か重大なことを知っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

ルドルフの依頼に甲斐トレーナーは承諾の意を示すために首を大きく縦に振った。

 

 

 

 

 

「――わかった。明日から出張だから、その前にあいつにそれとなく聞いてみるよ」

 

 

 

「――ありがとう、トレーナー君…それはそうと明日から出張なのかい?」

 

 

 

「そうなんだよーーM県支部に数日間ね。URA職員とのミーティング、漫画家さんの取材の対応に現地のトレーナーに技術指導をしたりと大忙しさ」

 

 

 

 

「――くれぐれも気を付けてくれ。帰ってきたら土産話を沢山聞かせてくれ…」

 

 

 

トレーナーが部屋から退出したのち、ルドルフは静かに立ち上がり窓の外に広がる眼下のトレセン学園の様子を見下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

――すべてのウマ娘のために。この事件の犯人にはそれ相応の償いを受けてもらわねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

ルドルフは決意の炎をその目に宿らせ、部屋を後にしたのだった。

 

 

 

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