吉良吉影はトレーナーとして静かに暮らしたい   作:ボンゴレパスタ

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受け継ぐ者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先代のシリウスのトレーナーとオグリキャップが有馬記念で引退し、マックイーンと二人きりなったその日。

 

 

 

 

「――とうとう二人きりになっちまったな」

 

 

 

 

「――えぇ、トレーナーさんはまだ少し頼りないですので、私がお力添えしますわ」

 

 

 

 

「――アハハ…これは手厳しいな」

 

 

 

 

 

「――トレーナーさん。改めて、よろしくお願いいたしますわ」

 

 

 

 

最初は二人きりで始まった新生チームシリウス。

段々とメンバーが集まり、今では個性的なメンバーが揃う大所帯のチームとなった。

 

 

 

「トレーナー!今から山籠もりして、修行しようぜ!」

 

 

 

「…トレーナー。次のレースはなんだ…渇きを癒すレースに出たい」

 

 

 

「トレーナーさん!!目指せダービー!!」

 

 

「…トレーナーさんーー」

 

 

 

俺はなんて幸せ者なんだーーこのチームでトレーナーをやって、彼女たちの成長を間近で見守ることができる。

 

 

 

この日常がずっと続けばいいのに

 

 

 

 

シリウスの面々の前で、班目は心の中でそうささやかな願いを抱くのだったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の中で、二人の人間が相対しているーーー吉良はまるで子供の冗談を優しく諫める父親のような笑顔を浮かべ、班目に声をかけた。

 

 

 

「えーと、班目トレーナー?一体どうしたんですか?…私が人殺し…?」

 

 

 

両手を広げながら近づく吉良に対して、鬼のような表情を浮かべた班目は、鋭い声をかけたのだった。

 

 

 

「そこで止まれ!」

 

 

 

吉良は班目が取り出した物体を目にとめると、彼の指示通りに歩みを止めるのだった。

 

 

 

 

――彼はその手に銃を握っていた。

黒く、鈍く光を放つその存在は、真っすぐ吉良の方に銃口を向けていた。

 

 

 

「…班目トレーナー。悪い冗談はやめてください。そんなおもちゃをむけて…」

 

 

 

吉良がそう言い終わらない内に吉良が持っていた、洗っている途中の皿が大きな音を立てて割れるーー班目は重々しく、淡々と吉良に語り掛けた。

 

 

 

 

「これは改造したエアガンだ…今見てもらって威力は分かると思うが、当たれば勿論致命傷になる…わかったら席に座ってもらおう」

 

 

 

 

吉良が言われた通りに席に座ると、班目は距離を保ったまま口を開いたのだった。

 

 

 

 

「――M県に出張に行った甲斐が行方不明になっている。あいつは行方不明になる直前、俺に動画でメッセージを送っていた。あいつが首を矢で刺されたこと、それによって発現した能力のせいでもう死ぬこと…」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「――お前がM県からやってきたことで、日本ダービー直後の悪夢騒ぎ、菊花賞の後に起きたウマ娘が襲われた事件……それぞれ起こしてしまったのはマンハッタンカフェとサイレンススズカだったが、二人の能力が暴走した原因はお前にあるんじゃあないか?」

 

 

 

 

「それに、同日に起きたシリウスの面々が襲われた事件…それぞれ犯人はその日の朝に甲斐のように首を何かで刺されたと言っている…その日からお前は関西に出張に行っているが、お前のほかに協力者がいるんだろ!?」

 

 

 

 

 

 

「――あなたの言っていることはよくわかりませんが、私が人殺しだという並べ立てた言葉ですが…いづれも辻褄があっているだけの状況証拠であって、確かな証拠にはなりませんよね…?それに矢とか能力とか、一体何を言っているんですか?」

 

 

 

――吉良が静かに言い返すと、班目は深くため息をついた。

 

 

 

 

 

…川尻がこう言ってくることは想像がついていた。

 

 

 

班目はもう引き返せぬところまで来ていた。違法である銃の改造まで行い、同僚である川尻に向けているーーそして川尻に対して、銃の引き金を引く覚悟を既に班目は持っていた。

 

 

 

 

――こいつは法によって裁くことなんてできない。

 

 

――例え自分が川尻を殺して罪に問われたとしても、トレセン学園を、マックイーンやゴルシたちシリウスのメンバーをこいつから守ることができるなら本望だ

 

 

 

班目は切り札となるカードを切るため、口を開いた。

 

 

「――女性の手。保存してなんのつもりなんだ…?それに猫のような植物も持ってるみたいだな…川尻トレーナー」

 

 

 

 

――マックイーンがその目で見たという川尻の裏の顔。

 

 

 

その言葉を聞いた吉良は、その席から立ちあがると徐に口を開いた。

 

 

 

 

「―――そうか。なら仕方ない」

 

 

 

 

 

すると何の躊躇いもなく吉良は班目に真っすぐと向かっていった。

 

 

 

 

班目は吉良に向かって銃の引き金を引いたが、発射された弾は吉良には当たらず手前で次々と弾き飛ばされていく

 

 

 

 

 

「―――なっ」

 

 

 

 

班目は再び狙いを定めようとしたが、直後に腹部に激痛が走る。

 

 

 

 

自身の身体を見下ろすと、腹部にぽっかりと穴が開いていた。

 

 

 

 

――どうやら眼には見えないが、何かに腹をぶち抜かれたようだーー目には見えない何かが引き抜かれると、班目は吐血しながら地面に崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

吉良は倒れこんでいる班目の前に立つと、髪を撫でつけながら彼に言葉を掛けた。

 

 

 

 

「――知ってしまったのなら仕方ない。君を始末させてもらうよ」

 

 

 

「…な…がはっ…」

 

 

 

「――もうまともに喋ることもできないみたいだが、いくつか確認したことがある。君は私の持っていた手首と猫草について言及したが、それは君自身が見たものじゃあないだろう?手首は自室から出したことがないからね…」

 

 

 

「――な、なんで…手首なんかを…」

 

 

 

 

顔に苦悶の表情を浮かべ、絶え絶えながらも言葉を続ける班目を無表情に見下ろすと、吉良は淡々と口を開いた。

 

 

 

 

「――趣味なんだ。持って生まれた趣味なんで前向きに行動しているだけさ」

 

 

 

 

 

――どうやらこの男。想像をはるかに上回る、ドス黒い怪物だったようだ。

 

 

 

 

人を殺すことが目的ではなく、ただの手段。自身の快楽の赴くままにまるで生活の中の一部かのように平気で人の命を奪う。

 

 

 

 

――それが表沙汰にならないのも、たった今自身の腹を貫いた能力のおかげなのだろう。

 

 

 

 

「――それでさっきの確認の質問なのだが、どうして手首のことを知っているんだい?」

 

 

 

 

「――そ、そんなことをして、良心は痛まないのか…?」

 

 

 

班目が吉良に対して質問を投げかけると吉良は様相を豹変させ、声を荒げたのだった。

 

 

 

 

「質問を質問で返すなぁーー!疑問文には疑問文で答えろと学校では教えているのか?今は私が質問しているんだ…」

 

 

 

その豹変ぶりに班目が口をつぐんでいると、それを見かねた吉良はため息をつき、言葉を続けた。

 

 

 

「――まぁいい。検討はついている。過去に一度、私はちょいとした用事で部屋のカギを掛けずに出かけたことがあったーーその時に部屋が少し荒らされていてね…てっきり猫草の仕業かと思っていたが、どうやらその時に部屋に入ったやつがいたようだな…」

 

 

 

「たづなに頼まれ、私に書類を届けようとしたやつーーあいつがどうやら見てしまったようだな。なら話は簡単だ…メジロマックイーンを始末する。それにお前がその話を知っているということは、他のやつらにも話してるかもな…そいつらも始末することにしよう」

 

 

 

 

吉良から発せられた非情な言葉に、班目の顔は蒼白した。

 

 

 

 

――この男ならやりかねない

 

 

 

 

班目は決意の表情を浮かべると、胸ポケットから薬品の入った瓶を取り出すと、地面にたたきつけたーー地面に触れて瓶が割れるとそこから白煙が発生し、部屋の中を満たしたのだった。

 

 

 

 

「くっ…!キラークイーン!」

 

 

 

 

 

煙を払いのけるように吉良がキラークイーンを再び発動させたが、そこにいたはずの班目の姿は跡形もなく消えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辛うじて吉良の目をかいくぐった班目は、開いていた部屋の窓から外へ飛び出し、生垣に身を潜めていたのだった。

 

 

 

 

――もしもの時に用意していたタキオンの研究室からくすねた薬品が役に立ったようだ

 

 

 

 

「…人目の付くところに移動しなければ」

 

 

 

 

何度も激痛に意識を手放しそうになりながら、班目は音を立てないように何とか立ち上がり、一歩踏み出そうとした時、後ろから奇妙な音が聞こえてくる。

 

 

 

 

…一体何の音だ…?

 

 

 

 

自身の後ろから近づいてくる何かがこちらに向かってくる音。その音は何か重機や戦車のようなキャタピラ音に似ていて、班目が音のする方を振り向くと、地面には姿は見えないが、キャタピラ痕がこちらに近づいていたのだった。

 

 

 

 

――姿は見えないが、何かやばい

 

 

 

本能で危険を感じ取った班目は、反射的に腕で体をガードし一歩後ろに下がったが、途端に目の前で爆発が生じ、彼の身体をズタズタに引き裂いたのだったーー身体を吹っ飛ばされた班目は壁に身体を打ち付けられ、静かに地面に崩れ落ちた。

 

 

 

「確実に仕留められたと思ったが…どうやら爆発が浅かったようだな」

 

 

 

「う、ガハッ……」

 

 

「フン…腹に穴が開いている君が遠くに移動できないとは踏んでいたが、シアーハートアタックで追跡をして正解だったというところか…」

 

 

 

 

吉良は窓から身を乗り出すと、無機質な目で死にかけの班目を見下ろし、口を開いたのだった。

 

 

 

 

「――二度も同じ手を食らうわけにはいかない…君の手口は、既に見切っている」

 

 

 

 

――もはや班目の命は消えかかっていた。腹部の負傷に、今受けた爆発のケガ。

 

 

 

――こいつの能力は、爆弾を使う能力ってことか。

 

 

 

「…しかし、せっかく策を弄したというのにすべて無駄になったというところか…」

 

 

 

 

――全てが無駄になったわけじゃあない。俺が作った悪魔の目から逃れた数秒間は意味があった。

 

 

 

 

先ほどまで自分が隠れていた生垣の方に視線を向けるーーそして班目は最後の力を振り絞って銃を再び吉良に向けたーーしかし吉良はその笑みを崩すことなく口を開いたのだった。

 

 

 

「キラークイーンはすでに、その銃に触っている」

 

 

 

 

吉良が右手を握りこみ、親指を薬指の横腹に打ち付けるーーすると班目の銃を握っていた腕に亀裂が入り、砕けるガラスのように全身に広がっていく。

 

 

 

 

――甲斐すまない。仇、討てなかったよ…ふがいない俺をそっちで叱ってくれ

 

 

 

 

――あとはあいつらに任せることになっちまった…

 

 

 

班目の脳裏には、マックイーンをはじめとした大切なチームメイトの顔が浮かんでいく。

 

 

 

 

「トレーナーさん」

 

 

 

「トレーナー!」

 

 

 

「トレーナー」

 

 

 

 

「トレーナーさんっ!」

 

 

 

 

一人一人が俺の命よりも大切な担当ウマ娘たちだーー本当は彼女たちを守り切りたかった。

 

 

 

 

 

トレセン学園にこんな悪魔がいてはならない。ウマ娘たちが切磋琢磨する、そして夢を乗せて駆けるこの誇り高き神聖な場所に存在してはならない。

 

 

 

 

 

――気づいてくれ、俺のメッセージを

 

 

 

爆発が班目の身体を包み、広がっていくーーそして爆発が収まった後には、そこにいたはずの班目の身体は跡形もなく消失していたのだった。

 

 

 

 

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