吉良吉影はトレーナーとして静かに暮らしたい 作:ボンゴレパスタ
「―――時は動き出す」
スタープラチナの機関銃の掃射のような重厚な攻撃をうけ、空中に向かって吉良の身体は吹っ飛んで行くーー最早痛みなど感じない。その段階などとうに過ぎていた。
スタープラチナの攻撃の衝撃と共に吉良の意識も吹き飛びかけていたが、すんでのところで意識を勝負の場に踏みとどまらせたのだった。
――――私は、帰らなくてはならない
彼女の元へ。私が唯一心許した彼女の元へ。
そのためだったら腕の一つや二つ。そんな端た金、喜んで差し出してやる。
吉良は文字通り死力を尽くしてキラークイーンを発現させる--その姿は身体の節々が折れ曲がり、ひしゃげ、そしてヒビと傷まみれであり、およそ以前のような力強さなど微塵も感じられなかった。
――それでも吉良は決してあきらめなかった。
ほんの少しだけでいい。ほんの少しだけ、キラークイーンを動かすことができれば。
「―――――キラー……クイーン……」
キラークイーンがその手を僅かに傾けるーーーすると吉良の身体は柔道の選手が受け身を取るかのように身体の右側を少し引き、右腕を思い切り自身の背中に向かって引っ張るのだった。
―――これでいい
果たしてこれが成功するのかはわからない…だが私は彼女の元に帰るために全てを差し出した。そして、これが最後の局面だ。泣こうが喚こうがこれで全て決するのだ。
――吉良の身体が地面に崩れ落ちる。
正確には、自身の右腕を体の下敷きにして。
「―――やりました!間に合いましたわ!」
マックイーンは歓声を上げたーーしかしそれがーーー掴んだと思われた勝利にあげた、つかの間の勝利を宣言するためのその言葉が、マックイーンの最期の言葉となった。
地面に打ち捨てられた紙屑のように吉良の身体が横向きに転がっていくーー死角になっていた吉良の右手がマックイーンたちの視界に飛び込んでくるーー吉良の自重によって下敷きになったその右手は、見るに堪えない方向に折れ曲がっていた。しかしその右手は辛うじて握りこまれており、親指はスイッチの点火ボタンに触れていたのだった。
「―――押してやった…スイッチを。もう身体は動かせない……だから地面に…落ちる力を利用させてもらったよ……」
「―――そしてバイツァ・ダストは作動する」
その瞬間粉々になった吉良の右手から火花が飛び散り、爆発が広がっていくーーその爆発は全てを包み込み、吉良のことも飲み込んでいった。
―――トレセン学園で起こった前代未聞のウマ娘、及びトレーナー集団失踪事件
宝塚記念の前後の短い期間に2名のトレーナー、そして数多くのウマ娘が忽然と姿を消した本件ーー特に夏休み合宿期間の中でその数は凄まじく、メジロマックイーンをはじめとしたチーム「シリウス」の全員が姿を消したことについては、その異常性も相まって物議を巻き起こしたのはいうまでもないーーーしかしながら、それぞれのメンバーやトレーナーが失踪した日時や場所にズレが生じていることから、その捜査は難航を極めている。
その男はいつものルーチンワークの一環である朝のテレビを鑑賞しながら、煩雑なゴシップを聞きながすように身支度を整えると、髑髏の柄があしらわれたネクタイに、上質なスーツをまとい学園に向かっていく。
―――今日もいい天気だね
美しい彼女を胸ポケットに忍ばせながら、吉良は道を歩いていく。
――君の手を見た時、絶対に彼女にしようと決めていたんだ。
仗助どもに追い詰められたことは癪だったが、救急隊員である彼女との出会いの機会を設けてくれたことだけは感謝しなければならない。
職場であるトレセン学園に着いた吉良だったが、学園の様子は正に異質という他なほどの雰囲気に包まれていたーー大切な友人や先輩、後輩が突然と姿を消し、パタンと消息がなくなっている。一部では「神隠し」などと呼ばれており、明日は我が身と考えて転学したウマ娘もいるくらいであった。
―――私の眼鏡に適わなければ、「神隠し」に遭うなんてことはないのにな
私を追うものがいなくなった以上、これからは思い切り羽を伸ばすことができそうだ。
はれて逃亡生活が終わった吉良は、杜王町以来の本当の自由を謳歌していた。
吉良が校門を潜り、進もうとすると最愛のウマ娘に声を掛けられたのだった。
「――お兄様」
――自由の身になった吉良は、本来トレセン学園に残る必要などない。
それでも吉良は、川尻浩作として…トレセン学園のトレーナーとしてもう少しトレーナーを続けることを決めた。
―――それもこれも、すべては君のためだ。
生まれてこの方、自分以外のためにしか行動をしてこなかった吉良にとって、それは初めて経験だった。メジロマックイーンらに追い詰められ、承太郎に時を止められて攻撃を受けた時、恐らく以前の私であれば自身の敗北を認めていただろう
ーーしかし、私は諦めなかった。彼女の元に帰りたいと強く願い、既に振られていた賽の目に待ったをかける覚悟ができたのだ。そんなことは恐らくないだろうがいずれは君が私を必要としない時がくるかもしれない…その時まで私は喜んで今の「平穏」を守り続けようじゃあないか…
吉良は杜王町にいた頃よりも少しだけ範囲が広がった自身の「平穏な生活」に居心地の良さを感じながら、その生活を謳歌していた。
吉良は声の聞こえた方角に振り向くと、温かな笑みで彼女のことを出迎えた。
「―――おはよう、ライス」
罪深き罪人は、最後に自身の在り所を見つけたーー吉良とライスは仲睦まじくターフに足を運んでいき、段々と小さくなっていく…二人はやがて校舎を通り過ぎて右折し、その姿は見えなくなった。
こんにちは、ボンゴレパスタです。
分岐エンドになります。
本当は本ルートの前に書くつもりだったのですが、これを入れてしまうと最終回に伝えたかったことが薄れたり、テンポが乱れてしまうことを考慮してカットしていました。
皆さんはどちらのエンドがお好きでしょうか?
ちなみに本シリーズの第二作を書き始めようと思っています。流石にジョジョキャラを増やすのは難儀するので、またトレセン学園の中で話を展開させようと思ってます