吉良吉影はトレーナーとして静かに暮らしたい 作:ボンゴレパスタ
M県S市杜王町ーー東方仗助と虹村億泰、そして広瀬康一は、いつものようにオーソンの前で屯していたが、その顔はどこか浮かない様子だった。
「ーー吉良吉影、まだ見つからないの?」
「あぁ、あれから数ヶ月、まだ尻尾すら出さないらしい…承太郎さんはもう他所に居場所を変えたことも視野に入れて捜索してるらしいぜ…」
「でもよ〜、それなら今でもたまに俺らに襲いかかってるスタンド使いたちはどう説明すんだよ、仗助?ここに吉良が居るから、俺らを消したがってるんじゃねーの?」
3人が頭を悩ませていると話題を振り払うかのように、康一は向かいの電気屋にディスプレイされているテレビに映り込む映像の話題に切り替えた。
「あ、ウマ娘たちの話題がテレビでやってるよ、仗助くん、億泰くん!」
「あー、クラスの奴らも話題にしてたな、確かこの間東京優駿ってやつがあったんだろ?」
「トウキョウユウシュン…?んだそれ?」
「億泰くんたら…東京優駿っていうのはウマ娘たちのクラシック級に行われる三冠路線の内の一つのレースだよ!」
「確か一着になったのはミホノブルボンとかいうやつだったよな…次の菊花賞を取ったら三冠ウマ娘になれるんだろ?」
「メディアにも引っ張りだこで、今注目のウマ娘!って感じなんだよ!…ただ」
「ただ?」
「僕としては、2着だった子に可能性を感じたんだ!それこそ菊花賞あたりですごいこと起きるかもよーー
―――――てめーはもう逃げられないってことだよな~、吉良吉影!
自身の血がこびりついている体を見下ろし、前方にいる忌々しい東方仗助や空条承太郎たちをにらみつける。
――もうやつらに対抗する手段もない
「てめーの裁きは地獄の閻魔様にみてもらうんだな~!!」
――東方仗助のスタンド能力、クレイジーDの拳が迫ってくる
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
拳が吉良の顔面をとらえる直前、玉のような汗を全身に浮かべながら吉良はベッドから飛び起きた。
――なんて最悪な夢だ。熟睡もくそもないじゃあないか。
ベッドからずり落ちるように起きると、夜明け前の空を忌々し気に睨んだ。
「――おはよう、ライス」
「おはよう。お兄様」
デビュー戦以降、ライスシャワーは私のことをお兄様と呼ぶようになった。
どうやらライスの好きな絵本に出てくる登場人物になぞらえてそう呼んでいるらしい。
私も彼女との心の距離が縮まったと思わせるために、彼女のことを「ライス」と呼び捨てで呼ぶことにした。初めてそう呼んだ時の彼女の嬉しそうな顔を見れば、思惑は外れていなかったようだ。
「――ところでライス、昨日はよく眠れなかったのかい?」
「ふぇ?どうしてわかったの?」
「目の下のクマがすごいぞーーちゃんと眠ることもトレーニングの一環だ」
「実は怖い夢みちゃったの…」
「怖い夢…?」
「…お兄様と離れ離れになる夢。お兄様が急にどこかに行っちゃう夢…すごく怖かった」
ライスシャワーも悪夢を見たのか…そういえばこの間の職員会議で、トレセン学園で生活する人々が悪夢にうなされる、という報告が多く上がっていたな…寝不足でトレーニングに身が入らないウマ娘が増えているらしいーー当時は私もくだらない偶然だと思っていたが…
実際の当事者となった吉良は一つの可能性に行き着いた。
「…まさか、私のほかにもいるのか、この学園にも…」
目元にクマを携えて、力なく私の腕をつかむライスシャワーを見下ろす。
――先日の日本ダービーを二着で収め、秋の菊花賞に向けてこれから調整が必要なライスシャワーにとっても、悪夢騒ぎが続くのは悪影響だ。
仮にスタンド使いだったとして、その目的はなんだ?
まさかこの吉良吉影の正体を探る、ということはあり得ないだろうが無差別的に人に悪夢を見せるという行為の目的が全く見えない。
「いずれにせよ…避けては通れないということか」
写真の親父がかつて言っていた、「スタンド使いとスタンド使いはいずれひかれあう」という言葉を思い出しながら吉良は顔をしかめた。
――アナタヲオイカケテ…
――気づいたとき、吉良は茨の中にいた。
辺りを見渡すと、空が見えないほどの茨が辺りに群生していた。
――どうやらまたあの夢をみているようだ。
自身の置かれた状況を冷静に分析しつつ、吉良はここから移動しようとしたが辺りには茨がびっしりとおおわれており、とてもじゃあないが進むことはできない。
「仕方がないか…」
この夢を見せているスタンドは、何人にも同時に、異なった夢を見せている。
ということは、その行為自体だけでもかなりのパワーを消費することになり、一人一人の夢の中での状態を詳細に確認できるほどの精密さはおそらくないだろう。
――つまり、私の能力が明らかになることもないわけだ。
「キラークイーン!!」
吉良がそう叫ぶと、吉良の背中から禍々しいオーラが出たかと思うと、ロボットと猫を足して割る二したような、体の各部に髑髏の彫刻があしらわれた人型のスタンドが姿を現した。
そのスタンドの目からは、まるで生気を、感情を窺い知ることができない。
杜王町で15年もの間、表沙汰になることなく殺人行為を繰り返し、平気で他人になりすまして顔を変え、名前を変えて生活しているどす黒さを体現したかのようなそのスタンドは、吉良の元から離れると、少し先にあった茨を拳で振り払った。
キラークイーンで茨を振り払いながら先に進むと、どこかですすり泣く声が聞こえた。
音の出どころを探すと、茨で作られた繭のような中でライスシャワーがすすり泣いていた。
吉良が繭の中にいるライスシャワーに優しく声をかけると、ライスシャワーが顔を上げた。
「さぁ、ライス。ここから出よう」
――どうやらここはライスシャワーの夢の中だったようだ。
「どうしてお兄様がここにいるの?」
不安そうに見上げる彼女の顔に吉良が笑顔で語り掛ける。
「ライスのことを守るのが、私の仕事だからねーー」
そう言い切らないうちにライスシャワーが叫び声をあげた。
「お兄様!!危ない!」
そう聞くや否や彼女をかばいながら転がると、肩に鋭い痛みが走った。
攻撃を受けた方向を見ると、茨がうねりを上げながらこちらに向かっていた。
――どうやらこの悪夢野郎は、おとなしく帰してくれる気はないらしい。
「お兄様!大丈夫!?」
吉良の傷を見て涙を流しながら吉良を心配するライスシャワーとは対照的に、吉良の声はひどく落ち着いていた。
「ライス、危ないから私のそばから離れるんじゃあないぞ」
そう彼女に告げると、今にもこちらに届かんとする茨の攻撃を見据えた。
「さて…この吉良吉影がこの程度のことを予想していないとでも思ったか?ここらの茨の根、その出どころは一か所に集中していた…そこを破壊してしまえば」
そう言うや否や吉良はライスシャワーがいた繭に視線を向けた。繭は何十本もの茨を束にしたかのように太い茎に実るように付けられていた。
「キラークイーンはすでに繭に触っている。」
爆発から彼女を守るため、彼女に覆いかぶさると、すかさずスイッチを入れる。
その瞬間、けたたましい爆音とともに吉良達を襲おうとしていた茨もろとも、あたりを爆風で吹き飛ばした。
爆発が起き、残された場所にはしわがれた老婆のように黒ずみ、消し炭となった茨の残骸が散らばっていた。
吉良は袖についた煤を払い除けると、ライスシャワーに優しく語りかけた。
「大丈夫かい?ライス?」
「うん…これ、お兄様がやったの?」
「夢の中だからな…ライスのためだったらなんでもできるよ」
すると先ほど繭があった場所に、空間の亀裂のように穴が開いていた。
――どうやら穴の先にも空間が広がっているようだ。
「どうやら先に進むしかないようだな」
――アナタヲ、オイカケテ…