吉良吉影はトレーナーとして静かに暮らしたい   作:ボンゴレパスタ

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アナタヲ・オイカケテ2

空間の亀裂を抜けた先の見覚えのある景色に、吉良は思わず呟いた。

 

 

「ここは、競技場…?」

 

 

ウマ娘たちが日頃の成果を見せるため、自身に打ち勝つため、自分や大切な人、応援する人の想いを乗せて走る競技場ーー吉良とライスが突然の出来事に戸惑っていると、後ろから不意に声が聞こえた

 

 

 

「あなた達、でしたか…」

 

 

 

声がする方に振り向くと、そこには黒い長髪の少女が佇んでいた。彼女の姿を認めると、ライスは驚きの声を上げた。

 

 

「カ、カフェさん!?」

 

 

カフェ…そういえば、彼女の友達にマンハッタンカフェというやつがいたような…彼女は割と有名人…もっとも、それは決して良い意味ではなく、ひとりで壁に向かって話したり、誰もいない場所に向かって喋りかけたりする姿が目撃されており、「不気味」なやつという認識だったが…

 

 

吉良はまっすぐ彼女を見据えると、言葉に堅さを持たせたまま話しかけた。

 

 

「マンハッタンカフェ君…だったかな?君が今回の悪夢騒ぎの犯人って事でいいのかな?」

 

 

吉良が彼女を見据え質問すると、カフェは小さく頷いた。

 

 

「その節に関しては本当に申し訳なく思っています、ですがこれには訳があるんです…」

 

 

「訳だって?」

 

 

 

「幼い頃から、私の側にはいつも「あの子」の存在がいました。私を走る世界に導いてくれた存在……元々、他者に危害を加えるような子じゃなかったんです……それが数ヶ月前から…それこそ、ライスさんのデビュー戦前後ぐらいから急に、人が変わったように走ることへの執着を見せ始めて…夢の中で一度あの子とレースをしましたが、全く歯が立ちませんでした…

 

 

 

……なんだって?つまり、彼女の言う「あの子」の豹変には、何か引き金があったということになる。考えられる可能性としては…

 

 

…私ということか

 

 

時期としても、私がトレセン学園にやってきた時期と一致するじゃあないか…

 

 

 

「私には夢を人に見せる能力があります…幼い頃から、時々自分がみたい夢を自分で見る程度の使い方しかしませんでしたが、彼女が私にも干渉を始めて、人々に悪夢を見せるようになったんです…悪夢を乗り越えた精神力の強いウマ娘を選ぶために…そのウマ娘と勝負するために…」

 

 

元来、ウマ娘は皆「勝ちたい」という執念の強い生き物だと聞いたことがある。即ち、それほど思いが強いと言える。そんな彼女らがスタンド能力を持っているとしたら…?スタンド能力の強さ、成長性は持ち主の精神力に由来する以上、その可能性はとてつもないものを秘めていると言っても過言ではないだろう。

 

 

 

ーそして、私がトレセン学園にやってきたこと。「スタンド使いとスタンド使いはいずれ惹かれ合う」という言葉にある通り、図らずも私の来訪が、スタンド使いである彼女の成長に作用するきっかけを引き起こしてしまう一因になってしまったのだろう。

 

 

 

「ーーそれで悪夢から次のステージ、つまり君の言うあの子とのレースにライスが選ばれたってわけか…」

 

 

 

「…ライス、走る。カフェさんのためにも、お兄さまのためにも」

 

 

昔の彼女であれば逃げ出すであろうこの局面。恐れながらも人の為に動こうとするライスシャワーも、少しは精神的に成長したというところだろうか。

 

 

 

「だが、ライスが走る相手の「あの子」?とやらはどこにいるんだ?幽霊的なものだったら私たちには見えないじゃあないか」

 

 

「…その点に関しては問題ありません」

 

 

そう言うや否やカフェの周りに何か異質なオーラが集まっていく。そしてカフェの中に入り込んでいったかと思うと、口を開いた。

 

 

「…コレデ、ハシレル」

 

 

 

…先程の彼女とは全く別人のオーラを纏ったマンハッタンカフェが口を開く。恐らく「あの子」が彼女の身体を間借りしてる、ということなのだろう。

 

 

 

「…確かに、それで勝負できるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー距離3000メートル、馬場良。

 

奇しくも秋に控えた菊花賞と同じだ。

 

 

あの子の横にたつライスシャワーは、その禍々しいオーラにあっという間に呑まれてしまいそうなほどちっぽけに感じるが、それでも彼女も日本ダービーをはじめとした様々なレースを潜り抜けてきたウマ娘ーーその足で、あの子に並び立つものとして立っていた。

 

 

 

ーーゲートが開き、2人が一斉に走り出す。

 

 

レース展開は、あの子の後ろにライスシャワーがぴったりと張り付いた状態。

 

 

予断を許さない、拮抗した状況に吉良も思わず息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

ーー前方にいるカフェさんから、すごい圧力を感じる。

 

いつものカフェさんの走りは後方で展開を伺って一気差し切る走り方のはずだ。走り方、息遣い、コース取りまで以前併走した時とはまるで違う。それこそ、別人のように…

 

 

ーー菊花賞に向けて、お兄さまが指導してくれた過酷なスタミナトレーニングのおかげか、ある程度冷静に、落ち着いて走ることができている。

 

 

最終コーナーに入り、まず最初にあの子がギアを入れ、それに続いてライスシャワーも加速に入る。

 

 

ーーあの子の驚異的な加速に必死に食らいつくも、ライスの顔には既に苦悶の表情が浮かび、その距離は徐々に広がりつつあった。

 

 

ーーライス、もう駄目…

 

結局、弱いライスのままで変わらないのかな…

そう心が折れかけた刹那、柵の向こうから大きな声が聞こえた。

 

 

「ライス!」

 

 

ーーお兄さまがゴールで待ってる。さっきはお兄さまに助けてもらったんだ。

 

 

 

ーー次はライスが頑張る番だ。

 

 

 

 

 

ーーなぜ自分でもそうしたのか分からない

ライスシャワーの懸命な走りに、吉良は声を上げずにはいられなかった。

 

 

「ライス!君なら勝てるぞ!ライス!」

 

 

声の限り彼女の名前を呼ぶ。

彼女に届くように、彼女の力になるように。

 

 

自分でも全く予想外の行動に吉良自身も驚きを隠せなかったが、これこそ夢の中の出来事として片付けておこう。

 

 

 

 

ーー声が届いたのか

瞬間、ライスシャワーの走りがまるで差し馬のような切れ味で上がっていく。

 

 

 

 

そして、ゴールにハナ差で先に着いたのは紛れもなくライスシャワーであった。

 

 

「ライス!」

 

 

柵を乗り越えて、ライスの元に走って向かうとレースの疲労か倒れ込みそうになるのをすんでのところで抱きとめた。

 

 

「…アリガトウ」

 

 

 

声のする方を振り向くと、あの子がどこか悲しそうな、そしてどこか嬉しそうな笑みで立ち尽くしていた。

 

 

そしてまたオーラが彼女の身体から抜け出たかと思うと、先程の彼女に戻ったようで、落ち着いた様子で口を開いた

 

 

「ライスさん、そしてそのトレーナーさん。あの子とのレース、ありがとうございます。あの子もとても満足したようです…」

 

 

「それは結構だが、もう二度とトレセン学園の生徒に悪夢を見せようとするんじゃあないぞ、と伝えておいてもらっていいかな?」

 

 

「…その点については大丈夫です。あの子も目的を達成した以上、悪夢を見せる必要性はなくなりますから…」

 

 

ーーあたりが急に明るくなっていく。

どうやら、夢から醒める時間のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、いつも通り見慣れた天井が吉良の目覚めを出迎えた。

 

 

ーーどうやら、元の世界に戻ってこれたようだ。

 

 

 

小鳥たちの囀りが、いつもと変わらぬ1日の始まりを告げていた。

 

 

 

ドリーム・ウォーカー

破壊力-D スピードD 射程距離-A 持続力-A 精密動作性-E

成長性-A

能力者 マンハッタンカフェ

 

他者に自由に夢を見せることができる

またカフェ自身が他者の夢の中に入り込み、精神的作用を引き起こすことができるが、彼女自身にその気がないため基本的には害のないスタンドである。

 

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