世紀末転生ダービー伝説はちみー味 作:それがダメなら走っていこう
「はぁ……はぁ……はぁ……あとちょっと……」
ピラミッド聖碑を担いでの石段昇降トレーニングで
トウカイテイオーはヘロヘロになっていた。
「フフフ……どうした小娘、そこで力尽きても人質に情けは掛けんぞ~」
そういいながら、サウザーは左手にテイオーの私物、はちみーのボトルを構える。
右手には七味唐辛子の瓶をちらつかせている。
「やめろよぉ子供か!!ボクのはちみーを人質にとるなんて卑怯だぞぉ!!」
「ククク……いえ~い」
「かっちーん」
トウカイテイオーは石段を登り切ると、おもむろに聖碑を置いた。
そしてサウザーに駆け寄ると……
「ほぁたぁっ!!」
「ぐはっ!!」
ローキックである、無論彼女なりに暴力ではなく
ツッコミの範疇で済むよう加減はしている。
ゴールドシップ先輩が沖野トレーナーにジョークでやるドロップキックレベルだ。
拷問スレスレトレーニングに加え、子供っぽい煽りに対してこれくらいは許されるだろう。
ローキックをかましたうえではちみーを奪い返した。
「フハハハ!!効かぬ!!誰も俺を倒すことは出来ぬのだー!!」
「ぴええ、ピンピンシテルヨー!! ちょっと手加減しすぎたー!?」
ウマ娘に蹴られた割に怪我どころか意外と元気そうだった。
※このサウザートレーナーは冗談ではなく特殊な訓練を受けています。
「フハハハ、フゥー、フゥー……」
サウザーは蹴られた場所を押さえてプルプル小鹿のように震えた。
「だからと言って、痛くないわけでは、ない!!
……加減されてこれか……只の小娘の蹴りが……
こんなのが増殖したら人類が駆逐されてしまうぞ……」
威勢のいいのは最初だけで、サウザーの最後の方のセリフはつぶやきに消えた。
「強がりかっ!!モーナンナノサコノトレーナー! ワケワカンナイヨー!」
「フッ、愚かな、こんな事はどうということも無い!!」
「オレは物心つく前から親のぬくもりを知らず」
「修行とサバイバルの毎日を送ってきたのだ!」
「お前たちが恋にスポーツにスクールライフをエンジョイしている頃!」
「俺は血反吐を吐きながら倒れ」
「お前たちが学校帰りにファストフードやスイーツで雑談に華を咲かせていた頃!」
「俺はお師さんとカチカチのパンをかじっていたのだ!!」
「その時のことを思えばこの程度の痛み、蚊に刺されたほどにも感じぬわぁ!」
「ごめんトレーナー、ボクなんだか涙が止まらないんだ……」
情けないやら哀れになるやら。
「はぁ……ボク何でこんな子供っぽい人をトレーナーにしたんだろ……」
トウカイテイオーは天を仰いだ。
ライブ時スペシャルウィーク張りの見事な棒立ちであった。
トウカイテイオーは、サウザーに会う前の日々を思い返していた……
「僕は……僕は……僕は、シンボリルドルフさんみたいな強くてかっこいいウマ娘になります!」
夢と、憧れを詰め込んだ子供。
痛みを知らない子供、哀しいことなんか何にも知らない
才能を鼻にかけたクソガキだった。
トレーナーのこともその時は
ただ、自分で出来るけどめんどうな出走登録や書類とかを肩代わりさせる
アシスタントか アプリか道具か――
夢を叶えるために必要なものに過ぎなかった。
ダメだったら取り替えればいいや、その程度のものだった。
(そりゃー たまにトレーナーにお熱を上げる娘もいるけどさぁ……)
(キミたちトレセン、しかも中央に来て何しに来てるわけ?)
(トレセンは婚活会場じゃないんだよ)
(レースで一位になってウィニングライブでセンターで踊るためじゃないの?)
(ボク達はさぁ、ウマ娘たちの頂点を獲りに来てる)
(レースに関係ないことなんてやってる暇あるわけないじゃん)
トウカイテイオーは孤独だった。
彼女は両親に愛されて居なかったわけではないが
ここはトレセン、勝つためのアスリート養成施設。
そしてスターウマ娘を生み出すための興業の場である。
少し考えればわかるだろう、良家の息女の良血で実家が太く
ルックスもスタイルも良く、学業の成績も、レースのタイムも良く、そしてダンスも上手い……
引く手は数多 外部やファン、教師やトレーナーの受けはよくても
凡百の同期にとって端的に言って鼻持ちならない。
例外的に仲のいいマックイーンなどが居るが
基本的に同じく良家の息女のライバルで強力な競争相手でもある。
彼女は浮いていた。
ある意味幼児的な、あるいは良家の子女にありがちなわがまま娘。
ただし、良血が、教育が、持って生まれた物がつまらない嫉妬を阻む。
スクールカーストの上位の意味で。
孤立こそしないが――真に心は開けない。交友は浅く広くなりがちだ。
シンボリルドルフ会長――憧れではあるが多忙で彼女にばかり構ってもいられない。
同時に超えるべき壁である。
マックイーン……野球とスイーツ大好きで付き合うに楽しい愉快なお嬢様であるが……
同時にメジロの貴顕でもあり
レースの一位とライブでのファンを取り合う間柄だ。
私事では友人、アスリートやアイドルとしては競争相手だ。
外面がある、不仲説などマスコミに格好のネタを提供する気もないし
ファンを減らす愚を犯す気も無いので
おくびにも出しはしないが――愛憎入り混じる一語では言い表せぬ複雑な関係。
同じような境遇への同類意識、家に縛られることへの憐憫
アスリートやアイドルとしての嫉妬と――境遇に耐える優雅さへの個人的な尊敬。
そもそもに女の子、良家の子女の社会が簡単なわけもない。
水面下マウント合戦を包み隠しつつ――
表向きはさわやかなライバル、私事では友人――そういう「見せれる」関係を前面に押し出す。
(――そう考えるのはボクだけかもしれないと思うと憂鬱になる)
(マックイーンのあれ、どこまでが計算でどこまでが地なんだろ)
(わざわざ聞くのも野暮だし――ボクは知りたくない)
(っと、いけない、ライバルについて考えると考え過ぎちゃう……)
(今のサウザートレーナーにあったのは、カイチョーとの模擬レースで負けた後だっけ……)
会長に負けたのが悔しくて、無理なトレーニングを繰り返していた時だっけ。
「どいてよ まだボクのトレーナーでもなんでもないくせに!」
「未熟者め……俺の過去を見ているようで見ておれん」
サウザーは怖く厳しい顔をしていた。
今まで見た大人の中で一番怖かったかもしれない。
「な、なんだよぉ。怖い顔しないでよぉ……」
「14の頃、俺はお師さんと石灯篭を手刀で切り裂く技を磨いていた時があった……」
(えっ、待って今のわずかな会話でツッコミどころ満載なんだけど!?)
「……その時中途半端な拳で手を痛めたことがある、
思い切りが足りず、気合が足りず技の型が悪く、
求められたスピードと威力が足りず……」
「衝撃を100%壊す対象に伝えねば反動が手首や拳に返る……
今のお前は俺と同じ失敗をしていたからな、見ていられなくなった、それだけだ」
血の気が引いた。
「う、嘘だよね、ボクの足が壊れるっていうの?」
「いいか、お前の脚が壊れていないのは天賦の才……
天性のバネがあったからその程度の軽く痛めたので済んでいるだけだ。
無理な我流に走って、才をドブに捨てたいのなら止めぬ」
(はっきり言ってムッとした、そこまでいう!?)
「どっからどうみても新人トレーナーにしか見えないけどさ!!
そこまで大口叩くならボクのトレーナーになってボクを速くして見せてよ!!」
「フハハハハ!よかろう!!オレの名はサウザー!」
「小娘、名は!?」
「トウカイテイオー、多分ちょっとの間だろうけどよろしくね」
そうしてボクはサウザーをトレーナーにしてやっていくことになったんだけど。
何なのこの人!初めて会った時のことが嘘みたいにガキンチョ過ぎるでしょ!?
いや……トレーニングには真剣だけど超スパルタだし……早まったかなあ。
確かにタイムが短縮できてる以上、変えるのも……
「フハハハハ!今日の修業はここまでだ!!」
「つ、疲れたぁ……ってちょっとなにすんのさぁ!」
サウザーTは厚手のタオルを取り出すと
ボクの顔やら髪やらについた泥と汗を荒っぽく落としていく。
「セクハラだよぉ!!」
「フハハハハ!!バ鹿者そのような愛など要らぬわ!
汗に濡れたままだと風邪をひくぞ!
未熟な小娘は黙って世話されているがいい!!」
「自分で出来るっての! ボクは犬猫じゃなーい!!」
――予想以上に大きな手のぬくもり……
「――っ僕が欲しいのは無敗の三冠、愛なんかいるもんか!!」
一瞬浮かんだ気の迷いを振り捨てる。
ついついサウザートレーナーにローキックを入れてしまう。
「ぐはっ、ローキックはやめろ!! はちみーのクソガキめ……!!
執拗に脛を狙って蹴るんじゃない!!
……はぁ……お師さんのようにはいかぬなあ……!!」