世紀末転生ダービー伝説はちみー味   作:それがダメなら走っていこう

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前半はイチゴ味。
今回後半はちょっとだけシリアスというかホラー。


蒲公英喰いの不死鳥の憂鬱、今にも落ちてきそうな空の下で。

side:イチゴ味聖帝

 

「依頼っ!中央にはトレーナーの手が足りんのだ!」

 

理事長にスカウトと担当するウマ娘を

増やしてほしいと依頼されてしまった。

 

「正直な話はちみーのガキだけでも手を焼いているのだが……」

 

そうは言ったものの結局のところ押し切られてしまった。

雇われの身である以上逆らえない。

 

そんな時であった。

 

大人しく優しそうで、お淑やか。

しかも『鳳凰の気』を纏ったウマ娘に会ったのは。

 

コクオウの方も気になってはいたが……

あやつはラオウ以外を主とすまい。

声をかけるだけ無駄であろう。

 

「あの……トウカイテイオーのトレーナーさんですよね?」

 

「フハハハ!まだ新米トレーナーだがな!

いかにもオレがサウザーだ! 娘、名は?」

 

「失礼しました、グラスワンダーと申します」

 

彼女はたおやかに一礼する。

誰から見ても文句のつけようがない大和撫子だった。

 

「はしたないと思われてしまわないと良いのですが……

トウカイテイオーさんとのトレーニングを拝見させてもらいまして……

強度の高いトレーニングに感服いたしまして

私が強くなるにはこの方ならあるいはと……

よろしければ、私をスカウトしていただけないでしょうか」

 

「ほう……フハハハ! 見る目があるな小娘!

いやグラスワンダーだったか。礼儀正しいのも好印象だ」

 

手に負えないクソガキははちみーのガキで十分だ。

この娘は手のかからなさそうな、お淑やかそうだし……

 

「本当ですか? 恥ずかしながら私……

優しくお淑やかすぎて

闘争心に欠ける、それではレースで勝てないと

なかなかトレーナーさんが見つからなくて」

 

「ふむ、中央のトレーナーは優秀だが

いささかなよなよしたものが多いからな。

例外もいるが、沖野や黒沼は忙しそうだし南坂も手いっぱいだろう」

 

「はい……そういった有名チームを率いる

実績をすでに挙げたトレーナーさんとは都合がつかず……

育成方針の齟齬と、相性もあります。

それだったらいっそのこと新人さんの方が……」

 

「自由にやらせてもらえそう、か。なかなか強かよな!

フハハ!良かろう!!

退かぬ、媚びぬ、顧みぬ!

鳳凰の気、見事引き出して見せよう!」

 

「うふふ、退かぬ、媚びぬ、顧みぬ……

私も、不退転という言葉が好きなんですよ

座右の銘です、私たち、気があいそうですね

ハードなトレーニングだろうが耐え忍んで見せますから……」

 

「うむ、これからよろしくグラスワンダー!

聖帝サウザーのチームにようこそだ!」

 

グラスワンダーは丁寧に書き込まれた申請書類をわたしてきた。

彼女ならチームに入れても問題はないだろう。

グラスは笑顔で去って行った……

 

それから数日後――

 

「あ、あの、サウザーTさんデスか!?」

 

マスクをつけたウマ娘が急に話しかけてきた。

 

「なんだ?スカウトなら今は受け付けてないぞ」

 

「違いマース!グラスのルームメイトのエルコンドルパサーっていいまーす!」

 

彼女は本来は明るい性格なのだろうが……

何かにおびえたような……

 

「ルームメイトか、それで何の用だ?」

 

「グラスから逆にチームに入れてくれって言われたのは本当デスか?」

 

「ああ本当だぞ、はちみーのクソガキ……

いやトウカイテイオーも担当しているから忙しいが……

まあ何とかなるだろう、帝王に逃走はないのだー!フハハ!」

 

エルコンドルパサーの顔はどんどん青ざめていった。

 

「トウカイテイオーさん?

なんだかよくわかんないデスけど

猛烈に悪い予感がしてきたデース」

 

「まともな神経があったら絶対やらない

狂気の組み合わせの気がしマース!!

デスソースどころか

サン〇ールとドメ〇トを知らずに混ぜてマース……」

 

「どういうことだ、話が全く見えないのだが?」

 

「……最初は大人しい優しそうな子だと思って

近づいたんデース。

そんなふうに考えていた時期がアタシにもありました……

それで、チームの書類は出したんデースか?」

 

「ああ。グラスワンダーをチームに入れることは

既に理事長やたづなさんにも……」

 

エルコンドルパサーは一粒の涙をこぼすと

十字を切って両手を合わせた。

死にゆくものへと捧げる憐憫の顔と祈りであった。

 

 

「ああ、終わったデース……アーメン……

サウザーTのオールバックの金髪が

なんだかタンポポに見えてきたデース」

 

エルコンドルパサーは天を仰ぐ。

 

「人を急に死んだ者として扱うな!!」

 

「昼間なのにビッグディッパーとその脇に蒼い星が見えるデース!!」

 

Big Dipper = 英語で北斗七星である。

 

「その星は死兆星、見えちゃいかん奴だぞ!?」

 

「チームに入れるなと警告しに来たんですが

時すでに遅しデース! ろっ骨をへし折られるくらいならまだマシでーす!

死にたくなければ立ち回りに気を付けて距離を取るんデース!!

怒らせてもいけないし、距離を詰めすぎてもdeathデース!」

 

「退かぬ、媚びぬ、顧みぬ!

というかなんであんな大人しそうなウマ娘を

世紀末拳王のように恐れねばならんのだ……」

 

「本当のグラスを知らないからそんな呑気なことが言えるんデース!」

 

『一部のトレーナーの間ではグラスワンダーが』

『スカウトを受けないのは闘争心が欠けているから』

『穏やかで優しい彼女の性格は、レース向きでは無いのだ!』

「デスって!なーはっは!」

 

大爆笑した後、エルコンドルパサーは真顔になった。

 

「うわあ!急に落ち着くな!」

 

「いや~知らないって言うのはすごいことデスね!」

「だってグラス、本当は――」

 

「エル」

 

いつの間にか、グラスワンダーがエルコンドルパサーの後ろにいた。

 

「そんなにおしゃべりする元気があるなら

私とトレーニングしましょう?

ストレッチなんかどうでしょう――

柔らかくして、あげますよ」

 

「ヒイイ――!?」

 

「あ、サウザーさん、エルは借りていきますね。

この子はお調子者で適当なことしか言いませんから……

騙されちゃだめですよ、いいですね?」

 

「アッハイ」

 

そうとしか言えなかった。

 

死兆星が見えていたという

あのプロレスラーのような恰好のエルというウマ娘……

命は大丈夫なのであろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:グラスワンダー

 

この笑顔、清楚な身のこなし

どうでしょう、言った通り完璧でしょう、エル。

 

だが、グラスワンダーの心の中には炎で彩られた

不死鳥が住み着いていた。

身体の中では炎の不死鳥 猛々しきウマソウルがわめいていた。

 

学園に夢と希望をもってやってきた沢山のウマ娘たち。

 

この無抵抗で、鈍重な――

春の風に揺れるタンポポのような優しいウマ娘達を――

 

ターフの上でレースで、誉を食いつくしたのなら

焼き尽くしたのなら、踏みつぶしたのなら

差して撫で切りにしたのなら――

どんな気持ちになるか想像できる?グラス?

いっそ爆発したい!

 

ねえいいでしょうグラス、やっちゃおう、やっちゃおうよ。

 

(黙りなさい、私の不死鳥(ほんしょう)

己のうちに湧き上がってきた鬼気と戦意に慄く。

 

フワフワな羽毛ベッドにくるまれているよりも

慣れないものは反吐を吐き戻す

地獄のトレーニングに包まれている方がぐっすり眠れた。

 

急に手が小刻みに震えだす、

この分では笑顔も不自然にひきつっているだろう。

 

笑みの形に細められた目も

その奥の目の輝き(ハイライト)はとうの昔に出走済みだ。

 

 

(――『面頬』(えがお)を締めなおさないといけませんね)

 

鏡の前で自然に笑えるよう、人差し指で修正する。

 

目尻を揉み解して鬼気を隠す。

 

誰がどう見ても清楚な大和撫子。

 

女には女の戦場がある。

トレセン学園はキラキラのお嬢様学校に見せかけた

アイドルとしての、アスリートとしての。

誉と勲を求めて修羅の庭。

 

笑顔の兜と面頬、礼節と清楚の鎧。

 

鎧兜も身に着けず戦場に出る愚か者はいないでしょう?

 

同室のエルコンドルパサーは布団を目深にかぶり

小刻みに震えている、怖い夢でもみたんでしょうか。

 

 

そんな私にも一つの悩みがあります。

それは、トレーナーが見つからない事。

 

スカウトを袖にし続けたのは訳がある。

優秀ではあるけれど誰もかれも線が細すぎる、軟弱。

土壇場で最後にモノを言うのは胆力、将器。

 

私は――

己の中の怪物を――不死鳥を殺しうる人にしか靡かない。

 

まるで戦と血に狂った古の軍バで狂戦士。

死狂いのもののふ。

自分でも制御不能寸前の闘争心。

勘のいいセイウンスカイや

付き合いの長い同室のエルコンドルパサーは

私の本性にとうに気が付いているでしょう。

 

 

全てがどうでもよくなるくらいに(レース)が好き。

私が恐れるのは一度も血潮を湧き立たせぬまま終わる事。

不死鳥は燃え尽きたい、燃え尽きて灰になりたい。

怪物に死を。

願わくば勝利と誉を、然らずんば死を。

 

私は――怖い。

こんな激情と異常に近い闘争心と

一生付き合っていける自信なんかない。

こんなのおかしいってわかってる。

偽りで塗り固めた鎧ごと殺してほしい。

 

エルから借りた

グルグル目の吸血鬼とナチスの残党が殺し合う漫画。

――少しだけ、死を渇望する気持ちはわかります。

まともな人間やウマ娘ではわかってはいけない感情。

 

私を形作るお気に入りの(キャラ)

優しいお淑やかなウマ娘という鳥籠は

不死鳥の炎で内側から溶けかかっている。

 

私はトレーナーに

戦国時代の武将や帝王覇王のような

不退転の将器と覇気、忠を捧げるに相応しさと

いつか私がどうにもならなくなったら殺してくれる冷酷さ。

男性としての、タンポポのような、太陽によく似たぬくもりという

真逆な、矛盾したものを求めている……

 

そんな都合の良い人などいるわけが――

 

そんな時でした。

石段トレーニングをしている二人を見かけたのは。

 

重い石を担いで石段を上るという。

ウマ娘の私から見ても拷問スレスレのハードトレーニング。

 

金髪にオールバックのトレーナーはそれを冷酷な目で見ています。

辛くて逃げだすようであれば

モノにならなければそれまで、そんなシビアな将の瞳。

体つきの方も相当鍛えているようで、風格があります。

 

 

ウマ娘の方――あれは確かトウカイテイオーさんでしたか?

才は在れど甘やかされた幼子そのものだったはずですが。

しかし彼女はへこたれることなく石段を登り切り――

金髪のトレーナーとド突き漫才を始めました。

 

金髪のトレーナーさんは険が取れて子供のように笑っています。

麗らかな蒼天に響き渡る、高らかな笑い声。

風に揺れるダンデライオンのように。

将の眼が嘘だったかのように、無邪気な子供のように――

 

私は只、自主トレーニングも忘れて、笑顔のまま見入っていました。

トレーナーが煽り、テイオーさんがじゃれて蹴り返す。

トレーニングが終わった後、トレーナーさんは

悪意も下心も無い、不器用な手つきで

テイオーさんの汗を拭っていました。

 

身体が冷えないように、確かな気遣い。

 

見ている私にも伝わるような大きな温もり――

 

テイオーさんは照れて、愛なんかいるもんかと

トレーナーさんを蹴っていましたが……

幼子には、あの価値はわかりませんか。

 

 

「ああ、何て勿体(もったい)ない――」

 

屈託なく笑いあう、嘘のない誠の主従――

私が夢に描いた理想の師弟。

気が付いたら唇を噛んでいました。

理想の将にて屈託なく笑うタンポポのような少年が同居しているのに。

全てを焼き尽くす炎とは違う、確かな温もりもあるのに。

 

不死鳥にて怪物は歓喜しました。

 

私は見つけた、見つけた、見つけた。

 

私を殺しうる武将を。

 

私は――見た物が真実なのか確かめなければなりません。

そのためには、まずは仕官しなければなりませんね。

 

「貴方はその気持ちをわかっていませんから――」

 

「帝王よ、卑怯とは言いませんよね?」

 

この時が……

不死鳥――鳳凰の形の闘気が聖帝に向けて差し向けられた時であった。

 

 

 

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