世紀末転生ダービー伝説はちみー味 作:それがダメなら走っていこう
今回はちょっとシリアス回。
悪夢を見た気がする。
「よせテイオー!やめるんだあああああ!!」
雨が降りしきるレース場。
『無敗』の『三冠ウマ娘』を求める大歓声の前に
南斗鳳凰拳伝承者の絶叫はかき消された。
奇跡的に届いてほしい弟子には届いたけれど
伝わらなかった。
「ごめんねトレーナー、ボク、はちみーのクソガキだから」
「奥義はまだ未完成なのだぞ!!」
「――約束は守れない」
上がり3ハロン、600m。
北斗の伝承者でギリギリ反応できる30秒の魔法。
彼女はそれを領域と一緒に発動した。
南斗究極奥義「
ああ、鳳凰の雛が飛ぶ。
地平線の果てを目指して。
天空を舞う羽と化したその体を
北斗の伝承者ならぬ者には
誰一人として捕まえることは出来ない。
ビヨンド・ザ・ホライズン。
地平まで駆けて行きそうな真っ赤な勝負服の背中に
確かに観客たちは黄金の翼を見たのだ。
無敗の三冠を決めるゴールを通り抜けて――
「……勝った……完璧にボクの勝ち……」
魔法は解けた。
うんめいが おいついたおとがする。
音を立てて砕ける。
鳳凰の翼のもげる音は三度響いた。
バランスが崩れ、金色の闘気は失せる。
小柄な体が二度、三度と芝生の上を跳ねて
ラチにぶつかってようやく止まった。
現実、追いついた運命と向き合う時間である。
観客の割れんばかりの歓声は悲鳴と困惑に変わった。
「――どけい下郎ども!」
サウザーが困惑する観客をかき分け、ラチを飛び越えて走る。
「ふふっ 鳳凰の夢は叶った、かな……
泣かないでよトレーナー、ボク……勝ったんだから……
手を……握ってよ……」
「テイオー……オレは、オレはこんなことのために……
修行を付けたかったわけではないのだ!!
オレに、オレに二度も……あんな思いを……」
「神よ!これが南斗の伝承者の宿命だとでもいうのか!
うおおおおおおおおおおお!!!」
――――目覚めた時、そこはレース場ではなかった。
コンクリートの壁、粗末なパイプベッド。
見覚えのある洗面台と鏡、大した私物も無いトレーナー室。
「ハァーッ……ハァーッ!! 夢だと……!!」
生々しすぎる悪夢であった。
紫のタンクトップとジーンズは嫌な汗でぐっしょりだ。
トラウマを直撃するようなひどい悪夢。
握った手からぬくもりが失せていく感覚は
二度と味わいたくない物であった。
「嫌な夢だ――お師さんとはちみーのクソガキの
配役を入れ替えたような……」
原因はわかっている。
夢は、現実で起きたことの記憶の再配置。
お師さんのことは今でもトラウマだ。
それが、二度目の生の生活の記憶と混じってこんな夢を見せたのだろう。
他意は、ないはずだ。
師につづいて弟子まで失うのが南斗の宿命だとでもいうのか!
オレはいい、情を捨て覇道を歩んだ罪と業は深かろう。
地獄でシュウ達に八つ裂きにされても文句を言えぬ立場だ。
だがお師さんもはちみーのガキもそこまでされる謂れは無かろう。
南斗に関わったものの定めだとするのなら神を許せそうもない。
三人の女神がものすごい勢いで首を振った気がした。
いかんな……いろいろと尾を引きずっているのか疲れているのか。
……今日もトレーナーとして
はちみーのクソガキと実はとても恐ろしかったナギナタのガキに
修行をつけてやらねば……これを夢のお告げにはしない。
「……ひっでえ顔してるぞ、大丈夫かサウザー」
平常を装ったつもりがこの沖野という男にはバレていた。
「……ふっ……ハハ……いろいろと詳しい理由は聞かんでもらおうか」
「笑い声に力がねえって。ちょうどいい機会だ
終わったら飲みに行くぞ。
トレーナー同士親交を深めるのもアリだろ」
「ふ、ふん……その気遣い、うけとってやらんでもない」
……男同士で飲みに行くのに憧れてたとか
そういうわけじゃないんだからな!!
テイオーとグラスのトレーニングを無難に終えた後
俺たちは沖野行きつけのバーに来ていた。
「コクオウって娘を成り行きでスピカで面倒を見ることになったが
幽霊部員というか、ほんと出走登録をするだけで信用されなくて……」
「いやそれでもましな方だと思うぞ」
「知り合いなのか?」
「前に少しな……ケンシロウという男かラオウという男以外は
主と絶対認めないだろう……出走登録するだけの仮のトレーナーに
選ばれるということは……どう勧誘したのか知りたいくらいだ」
「ああ……出走登録だけして自主練だけでもいいという
条件を飲めるのが俺だけだったってのもあるが……」
「極端な放任主義だな……生のままを活かせる
自由さがコクオウの琴線に触れたか」
うーむ、見れば見るほど雲のジュウザのようだ。
「知り合いみたいだから聞くけどコクオウの適性はどう見る?」
「奴は芝をお行儀よく走るより荒野を走らせたら敵はおらんだろうよ」
やはりラオウの愛馬黒王には荒野がよく似合う。
ラオウと相対したオレがそう思うのだ。
「やっぱりダート路線か……その方向で行くか……
そういえば、朝ひどい顔をしていたけどサウザーは何を悩んでる?」
「いやなんといういざ話すとなると急に勇気がなくなってきたというか……」
「もじもじするなよ意外とめんどくさいぞこの男!!
さっきまではハキハキしてたじゃないか。
酒の力借りてもいいから!な!」
「いや本当に話しにくいことなんだが……その、だな」
サウザーは何とか言葉を纏めようとする。
「お師さん……育ての親が、亡くなった時と同じシチュエーションで……
もし仮に、担当のウマ娘が……故障とかしたら……
親の死に目と弟子の故障がだぶる悪夢を、見たとしてだな……
例えば、例えばの話だ」
「――悪かった、そりゃマジで話しづらいわ。
親の死に目と被る形で
担当ウマ娘が故障する悪夢を見たか……俺もド凹みするわそれ」
そりゃ悪夢だ、間違いないわと沖野は同意した。
「フン……素面で言うには言いづらいだろう」
「飲んでるのがカルーアミルクじゃなかったら
もうちょっとカッコついたんだろうが……
お前いかつい顔に似合わず酒の好みはカワイイのな……」
「フハハ気楽な席の酒位好きなものを頼んで何が悪い!!
お前はバーボンとかカッコつけてさあー!」
沖野には気を使う必要性を感じないせいか
軽口をたたき合う位の同僚としての付き合いは出来ている。
お互い、ちょっと無理しておどけている感じは否めない。
「いいだろ別に……つうかそんな夢を見るっつーことは
割と無茶なトレーニングしてること気にしてるんじゃないか?
この際だから言っておくが……
俺から見ても足を壊さないか心配になるぞ」
沖野は真面目な顔になった。
だから真面目に答える。
「逆だ、あれは壊さないために骨と筋を鍛えているのだ」
拳法の概念でいう外功の概念をかいつまんで説明する。
沖野は思案顔だ。
「話は分かった、理屈なしにやってるわけじゃないってことを。
だけどさ……そこまで徹底的にする必要があるのか……?
ウマ娘が付いていけないときは考えないのか……」
「その時はそれまでよ」
「お前なあ……!」
「意志が折れた半端者が極みに到達出来はせんだろう。
最速と最強の違いは在れど、
アスリートと武道家も似たところがあるとは思うが?
才や意志、どちらかが足りなければ道を誤る前に
辞めさせるのも慈悲だろう」
「いや、確かにそういう側面がないわけじゃないが……
納得は……サウザーはそういうスタイルか……
そもそも大きな問題になっていない以上
育成方針に突っ込み過ぎるのも野暮な話じゃあるんだが」
「沖野よ、野暮を承知でオレも言わせてもらうがな。
トレセン学園の育成はガラスの靴を
履かせていることに気が付いているか?」
「どういうことだサウザー」
「決められた短いスパンのレースに出させるため……
速度のみを追い求めて歪なトレーニング……
外功も内功も練る時間が足りん。スポーツ医学と科学の限界よな。
どうしたって才があろうと故障は避けられんよ」
「そんなことは俺だってわかってる!
ウマ娘に夢を見せながらそれを興業に使ってる……
選手生命と引き換えに結果を求められる世界ってことは!
だからって……彼女たちに夢を見るなっていうのかよ!」
「そうは言わん、武術家も所詮最強という夢と覇に魅せられた大バカ者よ。
練習中の怪我も戦いの果ての死も承知でな……
武術の世界の師もわりとクソでな、お師さんはそうでもなかったが……
弟子に危険な技を使わせて師が回収とか聞かん話ではない
弟子を集めるだけ集めといて
見込みのない奴の拳を平気で封じたりな……」
これだから裏の北斗はクソだな!
やはり陽の拳である南斗が最高よ!
「まるでウマ娘を潰して栄光を得るトレーナーみたいな話だな……」
沖野はすごく嫌そうな顔をした。
「フン、胸糞の悪い話よ、南斗鳳凰拳は違うがな。
一子相伝の技で訓練中伝承が途中で途絶えるとかそっちの方が問題だ」
「――待てサウザー、お前の流派は……
ひょっとして、『選手生命にかかわる怪我』はしないのか?」
突き付けられた指は少し震えていた。
「当たり前だ!北斗のような無茶苦茶をするか!
そんなことをしたら伝承者候補がいくらあっても足りるか!
擦り傷切り傷は日常茶飯事だが
外功も内功も徹底的に鍛えるからな!
ただでさえ鳳凰拳は習得難度が高い、才あるものは最後まで育てねば」
戦いで命を落とすならともかく
達人として仕上がる前に壊してどうする。
「故障しない練習法とか夢なんだが!?
何で理事長が鳴り物入りでこいつを入れたか分かった気がするぞ……
ちょっとうちのスピカの動画を見てほしいんだけど……
サウザーの眼から見てヤバそうな娘とか居るか?」
そういって沖野はウマ娘の走っている動画を見せてくる。
「マックイーンという娘、炎症を起こしそうだな……
無理な減量と栄養バランスが悪そうだ、内功が足りん……
サイレンススズカは右足と左足のバランスが少しだけズレている」
「走り方が合わない、絶不調だとリギルから預かったんだが……」
かいつまんで事情を聴く。
「そりゃリギルの指導者として明確な穴は埋めたくなるだろうな……
だがスズカは不味いぞ、断己相殺拳の踏み込みに歩法と踏み込みが似てきている」
「聞くだにヤバそうだが続けてくれ」
「限界を超えた力を引き出し
自らの速度と闘気で己の体が壊れても構わない捨て身の技だ。
沖野の指導は我流とスポーツ医学が相まって
才は伸びる、間違いなく伸びるが……」
競技中の『死亡事故』という文字がチラつく。
「走るのをやめるか、勝利か命か」
「スズカはそれでも走るだろうな……
もしかしたらオハナさんも選手生命を重んじてあんな指導をしたのかも……」
沖野は顔を覆ってしまった。
「勝利を諦めろと残酷なことを言えるわけがない、か
技を使うまで、踏み込むまでは健康体なのだ、誰も止められん」
「サウザー、お前ならどう対策する?」
「スズカは体操と砂袋を蹴らせろ。
骨密度を上げる鍛錬をするしかあるまい。
本人が断己相殺の歩法をしたら気休めだが……
あとマックイーンは食事を管理しろ。
沖野……優しさと甘さ、自由と身勝手は違うぞ?」
「キックボクシングと新体操をやらせるべきか……?
ありがとなサウザー、今日はすごく参考になった」
それだけだ、あくまであとはお前の弟子とお前の問題だとぶん投げた。
「……サウザー、大事な話があるんだが」
「なに?なんだ沖野」
まだ大事な話があるのかと身構える。
「……思ってたより財布の中身が乏しくてさ……金ある?
スピカの面子のトレーニング道具とか揃えたら……」
「あっ、このやりとり既視感があるぞ!
お前本当に雲のジュウザのソウルはいってるんじゃねえの!?
飲みに誘っておいて金持ってないとかどういうことだ!!」
締まらない!!
この男、マジでウマ娘への熱意と才能以外はダメ男だ!!!
大きな流れは変えないけれどこの回は後で改稿するかも……