世紀末転生ダービー伝説はちみー味 作:それがダメなら走っていこう
ハチミツのごとき夢と希望で彩られ甘い。
挫折と敗北の涙、顔をしかめる酸っぱさもまた青春であろう。
青春は甘酸っぱいイチゴのように。
だがトレーナーは努々忘れること無かれ。
ハチミツはドロドロとしてべたつくもの。
その甘さの影にひっそりと粘性が寄り添う。
その名を何と呼ぶべきか。
【走れアヤベ】
「どうしてこんなことになってしまったの……」
カビが生えてしまったお布団を前にして
瞳に涙を潤ませて悲しみに暮れるウマ娘が一人。
お布団はガビガビである、フワフワは望むべくもない。
そして拳を固く握りしめ怒りに震わせた。
アドマイヤベガは激怒した。
必ず、かのトレセン学園にはびこる
邪智暴虐の■■を除かなければならぬと決意した。
アヤベには恋愛がわからぬ。
アヤベは、ストイックかつフワフワにこだわるウマ娘である。
夭逝した内気な妹と二人で一つ。
彼女に輝く一等星を捧げるために頑張りつつ
星を見て、羊のぬいぐるみと遊んで暮らして来た。
けれども■■に対しては、人一倍に敏感であった。
フワフワお布団の仇を取るために彼女は駆けだした。
side:イチゴ味なトレーナーたち。
サウザーと沖野のバカども二人は
サトノ家の令嬢がトレーナーを募集していたので
トライアルに参加する。
タッパーを山ほど持って。
沖野は金欠だし
サウザーは暇だったのだ。
既に担当のいる彼らの真の目的はスカウトではない。
面接会場でふるまわれるタダ飯である。
無論知識を問うペーパーテストもあったのだが
よっしゃ終わったと沖野が素早く一番最初に席を立つ。
サウザーは鉛筆を転がして
トレーナー試験問題のマークシートを
適当に埋めて沖野の次に席を立つ。
とっととバイキングを用意された面接会場に移動する。
スカウト対象のサトノダイヤモンドそっちのけで
他のトレーナーには顰蹙を盛大に買うも一切気にせず
サウザーと沖野は会場のバイキングを堪能する。
「フハハハ!美味いなこの料理は!」
「ああ、こういう時に栄養をつけておかなきゃな!」
「しかし解せんな、トレーナーはそれなりの高給取りなのに
……わざわざこんなみみっちいマネをせんでも……」
「一回お金に困ってると零したらマックイーンから
ブラックカードを押し付けられそうになってな……
生徒に金借りるのは流石に格好付かないだろう?」
「そういう問題かー?」
沖野、ブラックカードを貸されるとは。
なんだかよくわからんが不味い気がするぞ。
いくらトレーナーと生徒とはいえ
金の貸し借りなどそのように気軽にするものか?
そこはかとなく不安になるな……
「まあここに来たのも半分マックイーンへの義理立てみたいなもんだしな……
このパーティはメジロ家もお金出してるらしいし
何時も世話になっているからご飯くらいはって……」
……沖野はいつも通りフリーダムにふるまっている。
呼ばれたからとこれ幸いにタッパーを持ってくるあたりフリーダムが過ぎる。
件の令嬢サトノダイヤモンドは
スカウトのトレーナーたちや財界人に囲まれている。
大勢の人だかりが出来ていてとても近寄れない。
マックイーンやキタサンブラックの姿も見えたが
彼らのあしらいに追われている。
時折沖野以外のトレーナーや財界人にゴミのような目で見られた。
フハハ、鳳の志など雲雀にはわかるまい!
そんなことよりローストビーフだ。
「フハハ、触れられもせぬ高嶺の花など手に余ろう。
それはそうと彼女の走りはどうだ?俺には執念が足りんとみるが」
「そうだな、俺も同意見だ、情熱もそうだが
模擬レースの時はずいぶん走りづらそうにしてたな……
トモを触れば筋肉の付き方もわかるんだが」
財界人の衆人環視の中セクハラしたら一発でアウトだ。
社会的な死が見える。
「おいやめろ、流石にこの会場だと擁護できん!
お前の巻き添えになりたくない!行くぞ沖野!」
慌ててタッパーと沖野を引きずって会場を後にする。
「ああっ、引きずるなサウザー!先に帰るってマックイーンに連絡しとかないと……」
「あっ、そこの二人ちょっと待って……」
サトノ家の令嬢が何か言っていたような気がしたが
彼女はあっという間に話しかけてくるトレーナーと財界人の人波にのまれた。
結局、トライアルで合格者は出なかったと聞いた。
まあ鉛筆ころがしとタッパー野郎では当然だな、フハハ!!
【理事長と秘書は辛いよ】
やよい理事長とたづなさんは理事長室で頭を抱えていた。
トレセン学園の深刻なトレーナー不足。
これは詳細を省くがトレーナーはよく離職する。
ドイツでケーキ屋さんをやるハメになったトレーナー。
両親紹介RTA記録保持者による
ドイツ仕込みの電撃戦ブリッツクリーク事件。
自分の作るラーメンに髪を混入させたくない――
ラーメンに人一倍こだわりを持っていただけの
スキンヘッドのとあるトレーナーが
あるウマ娘にアイルランド爵位を授けられた上で
アイルランドに連行されることが内定した
スタイリッシュ国際問題事件。
なお、二人のトレーナーもウマ娘も
うまぴょい容疑を否認している。
やよいとたづなにとっては思い出したくもない悪夢である。
「苦悶っ!アイルランド政府筋との折衝はぽんぽん痛かった!!」
「一度スキャンダルが起こると揉み消しが大変すぎて……」
「炎上っ!ファンも協賛企業も激怒待ったなし!!」
「ええ……ですから……ちょっとくらい……
問題を引き起こしかねない下心アリアリなトレーナーたちは
財布を無情破産拳で分からせてもいいですよね?」
「……勧告っ!トレーナーの財布を爆発四散させるのはほどほどにな!
URAや学園への寄付という体裁は崩すなよ!」
「ええ、もういいでしょう、ここまでです、とちゃんと警告してますし」
博打で胴元以外勝てる道理もない。
ウィーンタヅナァパーフェクト……である。
「不安っ! ……いやトレセンの経理は順調だが……
それじゃなくて男性トレーナーはこれ以上やらかさんでくれよ……」
「ウマ娘の方が掛かってしまっているかもしれません」
【南坂と黒沼と北原】
南坂と北原と黒沼がトレセンの休憩場で駄弁っている。
「ブルボンの家庭訪問に行ったのだが……
彼女の父が元トレーナーということには驚かされたな……
幼いブルボンを彼女の夢のため厳しく鍛えたと語られたよ。
だがくれぐれも気を付けるように念を押されてしまったが……」
いかついその筋の者と見まごう
黒沼トレーナーが怪訝そうな顔をしていた。
「へえ……まあ、年頃の娘さんを持つと不安なんだろう。
近づいた男には誰だってそういうだろうさ
俺もわざわざ笠松からオグリの夢を応援しに来たんだ……
俺はトレーナーとしては三流だが、気分は嫁入りを待つ父親ってところだな。
卒業したら泣いちゃうかもしれない」
ハンチング帽が特徴的な北原穣トレーナーが
模範的に答えた。
「ははは、違いない……南坂はどうだ?」
「カノープスはレースでは勝てていませんが
ライブ活動やバンド活動の方は極めて順調ですね……
そちらの成果は上々ですが……」
イケメンホストのようなちょっと頼りない
南坂トレーナーが曖昧な笑みを浮かべつつ応える
「無音拳や諜報活動、マネジメントは得意なんですが……
トレーナーとしては商業だけではなく
どうしてもレースで勝たせてあげたいのですがね……」
呑気にコーヒーを飲みながら談笑する三人の男。
その会話を優れた聴力で聞いていた娘がいた。
「なんなのだこれは……どうすればいいのだ……
危機感が全く足りないのだ……想定がゲロアマなのだ……
女の子の情念を舐め腐っているのだ……危なすぎるのだ……」
トレセンの現実に宇宙の真理を瞳に宿すシンコウウインディ。
「彼らはファザコンの気があるウマ娘に厳しい父性を見せつけたり
地方から中央まで二人三脚で応援したり……
勝てないチームを商業的に成功させてアイドルとして輝かせたり……
そんなことをすれば彼女たちがどう思うのかなんて
まったくわかってないのだ!こわいのだ!」
「なんてことだ、マヤ分かっちゃった……
マヤ人生の墓場行きの死人の会話をきいちゃってる……
もう助からないゾ♡」
割と鬼畜としか言いようのない辛辣な発言を
コケティッシュな笑顔で言うマヤノトップガン。
「マヤノの発言がめちゃくちゃ酷過ぎて笑うしかないのだ……」
「マヤちん北原さんと黒沼さんが手遅れなのはわかったけど
カノープスもヤバいの?」
「ちょっと様子を見たことがあったけど一番ヤバいかもしれんのだ。
あそこはぱっと見では絶対わからんのだ」
side:ハチミツ味なウマ娘たち。
「オペレーション:うまぴょいをシミュレーション中。
――エラー。再試行」
ミホノブルボンはハイライトの消えた瞳で演算を続ける。
「エラー「スキャンダル」プランを破棄。
……「イメ損」プランを破棄。
……「温泉旅行」――失敗、再試行再試行再試行再試行再試行――」
「在学中のオペレーション達成は困難。
タイムスパンをシニアとその以降まで延長、再計算、再試行。
成功率が100%になるまで演算を続けます。
マスターも言っていました、精神は肉体を超越すると……」
「ぶ、ブルボンさん……?」
ライスシャワーが不安げにブルボンに声をかけた。
「失礼、課題曲と課題ダンスについて考えていました。
ロボットダンスなら上手く踊れるのですが」
「か、課題ダンスだよね?」
「――ええ、課題ダンスですよ。
オペレーションの演算中なので失礼します」
オペレーションうまぴょいのシミュレーションを
延々と演算し続けるミホノブルボン。
その異様な様子にライスシャワーは慄いていた。
「ブルボンさん……
なんだかレース中の鬼気が出ててこわい!
あっ、オグリさんにタマちゃん……ちょっと……」
ライスシャワーは談笑する
タマモクロスとオグリキャップに近づこうとした。
そして止めた。
「キタハラを食べるごほん、すまないタマ言い間違えた。
キタハラ『と』食べにいくだ。
食べ歩きをする予定なんだが?」
「ちょいちょいちょい一瞬目がマジやなかったかオグリ?
その言い間違いはアカン!!」
不穏な言い間違いをする葦毛の怪物。
だがタマモクロスは気づいていた。
キタハラトレーナーと距離感の近いウマ娘たちに
レース中の形相シングレ顔で威圧するオグリキャップを見たことがある。
「そんなことを言うタマだって
隙あらばトレーナーにファミパンを決めるつもりじゃないか?」
タマモクロスは明後日の方向に視線を彷徨わせた。
「何のことやらウチにはわからへんなあ(すっとぼけ)
お前も家族やなーんてやろうなんて
これっぽっちも思ってへんでー?
いやー、貯金を切り崩してウチの奨学金を払ってくれたトレーナーには
頭上がらへんなー、金の貸し借りなんか家族以外やったらアカンからなー
これはもう家族になってもらうしかないやろー」
「ふふっ、そうか、そういうことにしておこう」
「あはは、せやでー?」
オグリキャップとタマモクロスは仲良く笑いあった。
「誰かー!!だれかたすけてー!こわいの!
湿度が大変なことになってる!
お兄さまー!お兄さまー!」
ライスシャワー、血の叫び。
「ん。なんや、バイクのエンジン音がするで……?」
怪訝な顔をするタマモクロス。
「フハハハハ!そこまでだ!」
「だ、誰!……お兄……さま……じゃなくて全然知らない人だ……」
突然現れたサウザーに困惑するウマ娘たち。
「正直状況は1ミリもわからんが……
アドマイヤベガというウマ娘が困っていてな!
なんでも学園の風紀を守り除湿したいということでな……」
サウザーのバイクの影から
二人のウマ娘がぬっとあらわれた。
ガラガラを手にしたママ王、スーパークリーク。
「あらあら~タマちゃん、暴力はよくないでちゅよ~
それにうまぴょいは早いです!
ママそんな子にタマちゃんを育てた覚えはありません!」
「ひいっ!クリーク!あんたに育てられた覚えは在らへんで!!
無理矢理なでちゅね遊びはええんか!?」
紫の瞳を怪しく煌めかせるのは暴君ライオン丸。
シンボリルドルフであった。
手にはなぜかレオタードとスケート靴を持っている。
「オグリ、お前もスケートに行かないか?
ふふっ スケートの助っとをしてくれないか?
スケートが出来るやつはスゲーッと思うし……
スキーっとするぞ……ふふふ……」
エアグルーヴのやる気はこれ以上下がらない。
「会長!?スケートはイメ損なんだが!?
いやだー! スケートは嫌だ! タスケテキタハラ!!」
オグリとタマモクロスは全力疾走で逃げだしていった。
そのあとをクリークとカイチョ―が追跡していった。
「ふうっ……とりあえず湿気は払えたかしら……
大丈夫?ライスシャワーさんだったかしら?」
「あなたはアドマイヤベガさん?
あの……みんなの雰囲気が怖くて……」
「お布団がね、ダメになっちゃったのよ
私のフワフワの羽毛布団……絶対に許さない……
学園に満ち満ちてる湿度が原因だわ……よどんだウマソウルめ……」
「は、はあ……」
「ああ、そこにいる金髪のサウザーTがね、
除湿と消毒に協力してくれるって……」
「あ、そうだアヤベさん!ブルボンさんの様子もおかしくて……!」
「ああ、そっちは心配ないわ、ミークが対処してるわ」
「えっ」
よく見ればいつの間にかハッピーミークがいる。
だが様子がおかしい。
彼女はもっと大人しく無口なウマ娘のはずだったのに。
紫のターバンを頭に巻き付け、
手には釘バットと思しきものを持っている。
「開けろ!うまぴょい警察だ!!
――だっちなことしたんですか?」
ハッピーミークがブルボンに詰め寄っている。
「だっちなこと考えているんですね?」
「――理解不能です!」
ブルボンもたじたじである。
「安心して、これはおもちゃの釘バットだから。
精密機械の故障は叩けば直る。
ヒャッハー!見てろ、二度とうまぴょいできねえようにしてやる!」
「――!?!?!?!?!?」
「ねええええええええ!?
ブルボンさんがめっちゃしばきまわされてるよ!?
恐いのは無くなったけどミークちゃんもあれはあれでおかしいよ!?」
ライスシャワー、魂の叫び。
サウザーTはお腹を押さえてうめいている。
「あのトレーナーさんはどうしたの!?
だいじょうぶですか!?」
「フハハ、大丈夫だ……紫のターバンのガキが
世紀末を再現する様をみるとぽんぽん痛くなってきただけだから……」
「それは大丈夫って言わないよ!」
「フワフワをとりもどすための些細な犠牲よ
立ちなさいサウザーT。
ミークもブルボンさんを斜め45度でドツいて修理し終わったわね。
これはまだ序の口、大物がまだ一杯残ってるわ」
「というかこの事件終わってないの!?
もうライスお腹いっぱいで頭が痛いの!!
アヤベさんももう何もかもがおかしいよ!」
「フワフワをとりもどすためなら私は何でもやるわよ」
「フハハ!!なんだかわからんがとにかくよし!
実を言うと俺も全くよくわかってなくて
ノリと勢いで行動しているのだ! アヤベに頼まれてこのままでは
他の男性トレーナーまで危ないと聞いてな!」
「私もよくわかってないけど……
このターバンと釘バットのおもちゃは元気が出る……ぶい」
「サウザーTのバイクの前で乾燥機を構えると私も妙にしっくりくるの……
そして叫びたくなるわ……」
アヤベさんはコホンと咳払いすると……叫んだ。
「湿気は消毒よ~!!」
布団乾燥機を振りかざすアドマイヤベガ。
「ヒャッハー!見てろ!
二度とうまぴょいできねえようにしてやる!」
紫のターバンを身に着け
釘バットを振りかざすはハッピーミーク。
「もうやだぁ……変な人ばっかり増える~!
やっぱりライスは不幸なんだぁ~!!!」
面白いかどうかはわからねえ……