チルドレンズ   作:晩舞龍

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エイプリルフール特別番外編その1


番外編
ヤケクソうさ子’


 西暦2019年1月22日、三重県山中に飛翔体が落下。

 目撃者はいない。魔術組織「ワイズマン」によって隠匿されたからだ。前日よりアニマル星から、誤ってこの星に超時間ロケットが落下するとの連絡を受けていた。こうして、秘密裏に一人の宇宙人が入星した。

 

 地球から遥か遠く離れた銀河であるアニマル星から、地球にやってくるには何光年もの経過が必要だ。しかし、超時間ロケットは時間を跳躍するテクノロジーで銀河間の「短時間での移動」を可能にしている。

 

 物事には失敗や例外が付き物だ。誤って地球に飛ばされてしまったこのロケットもその一つ。何らかの要因で失敗してしまったのだろう。だが、いちいち失敗などに対し補填していてはキリがない。やってきた宇宙人は、この辺境の星に取り残されることになった。

 

(何もない星だ。山ばかり)

 

「ワイズマン」によって地球人としての戸籍と住所を手に入れた。わたしの名前は「福原舞子」というようだ。母星にいたころには「焼糞うさ子」と呼ばれていたので、慣れないものだ。アニマル星人は個人の特徴にあった動物の名を冠すことがほとんどで、そういった意味でも動物の名前を持たない名前というのには違和感があった。

 

 この星に転送されてきたのは、ロケットの不具合が原因だ。もともと孤児で、母星での居場所がなかったわたしは、未完成のロケットの実験に協力した。行先は別の星であったはずだが、もう忘れた。実験は失敗したが、もともと帰りの燃料はなかった。生存できる環境の星に落ちることができただけでも幸運だ。

 ロケットの残骸は「ワイズマン」の連中が戸籍や住所と引き換えに持って行った。研究に使うようだがわたしには関係ないことだ。

「ワイズマン」はわたしに仕事も斡旋していった。

 母星で成人年齢の10歳を超えていたわたしは、他に頼れるつても無いのでそこで働くことにした。

 そんなわたしに待っていたのは、強制労働という名の地獄だった。

 

「なぁにさらしとんじゃぁ!!!! ボケナスッ!!」

(ぐえっ)

 工場での勤務は過酷を極めた。

 地球の常識も知らない宇宙人が働けるのだ。そんな場所の治安などたかが知れている。

 朝から晩まで野菜の加工。

 休みも休憩も雀の涙。

 知らない星の知識。滞る仕事。殴られる頬、腹部、傷つく身体。

 

 罪は無能な部下に押し付けましょう。これが社会だ。

 

 

 地球人のことが嫌いになってきた。でも、それは本当は違う。孤児のわたしを助けてくれなかった母星となんの差があろうか。

 わたしは他人が、そして他人で構成された社会が苦手だったのだ。

 

「お前なあ、これくらい常識やぞ!」

「お前も一応社会人なんやぞ、そんくらい知っとけ!」

 殴られる頬、腹部、傷つく身体。

 

 罪は無能な部下に押し付けましょう。これが社会だ。

 

「上の名前出せばいいと思ってんのか!?」

「これだからガキはよぉ!」

「ちったあ自分で考えろよ!」

 

 今日も忙しい。

 嘘だ。

 忙しいフリだけ。進まない仕事。殴られる頬、腹部、傷つく身体。

 

 タリウム。

 

 果物ナイフ

 

 罪は上司に押し付けましょう。これが社会だ。

 

 

 

 

 

 上司が死んだ。

「やっぱり、あの人がやったんじゃ……」

「でも、証拠はないみたいだし……」

「昨日、警察が来てたけどねえ」

 仕事は休みになった。

 犯人はまだ見つかっていない。

 ボロアパートで一人、カップ麺をすする。一人で生きていく覚悟はできていた。でも、ひたすら罵倒され、暴力を振るわれ、先の見えない生活を送る覚悟は……できていなかった。

(地球人って、強い種族なんだなぁ)

 暖かい麺とスープが滾った肉体をさらに熱くほとばしらせる。

 

 血は染みついた。でも、感触はもう残っていない。それよりも、爽快感と開放感が強く胸に刻み込まれた。

「悪い人を殺すことは、こんなにも……」

 ふと、鏡を見た。目つきは険しく、クマもひどい。でもそんなところは気にならなかった。

 第二の耳……アニマル星人の弱点でもある器官。いつもは帽子で隠しているそこが、桃色から黄色に変色していた。

(これじゃウサギじゃなくてキツネみたいだ。ヤケクソきつ子、なんてね)

 キツネは雑食だ。でも、肉食性が強い。いつまでも捕食されるウサギのままではいられない。

 

 暇を持て余し近くを散歩する。他人の目など気にならない。

 近所を散策していると、神社があった。

 工場とアパートを往復するだけのわたしはそんなことも知らなかったのか。

 

 神社の境内には誰もいない。さびれているが、住職などはいないのだろうか。

 足元に違和感を感じて目をやると、ちくわに似たかたちの生き物が二三匹、うろついている。しかし、わたしが来たのを知ると、一目散に逃げて行ってしまう。

 その姿がまるであの時の上司のようだった。

(とって喰ったりなんかしないんだけどなぁ)

 動物は嗅覚が鋭い。あれらも、わたしにこびりついた血の匂い、命の匂いをかぎ取ったのだろうか。

 

「警察です、福原舞子さんですね? 少々、お話ししたいことが」

 

 こんなこともあろうかと、神社の近くにあった集会所の納屋から……

 持ってきておいてよかった。

 チェーンソーが駆動し、血を欲さんとその刃を回転させる。

 敵は一人、油断している。対して、こちらは……すでに、経験がある。手慣れている。仕事も、後処理も。

 

 

 西暦2019年から活動を行い、各地を転々と移動し逃亡を続けている連続殺人犯は、西暦2022年のいまでも逮捕に及んでいない。

 警察は、全国指名手配を行い、厳戒態勢で潜伏先の操作などを行っているが、犠牲者は増えるばかりだ。

 だが、宇宙人の犯罪ということで、「ワイズマン」も動き出している。捕縛されるのも時間の問題だろう……




補足(元ネタ)
ヤケクソきつ子……pixiv第44回より
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