「あああっ!!」
背中には嫌な汗。とんでもなく嫌な夢を見た。
なんでも、わたしが殺人犯になって、魔術師に追いかけられてしまうという夢だ。
わたしは思わず、アニマル星人特有の第二の耳を鏡で確認する。よかった、黄色じゃない。
わたしの耳は、ピンク色。名前と同じ、ウサギを彷彿とさせる、させる……
鏡に映っていたのは、黄色い耳の目つきの鋭い、ヤケクソきつ子では無かった。それは良かった。
でも、ピンクの耳のヤケクソうさ子でもなかった。
「な、なにこれ……」
人参を彷彿とさせる、オレンジの耳。その形状も、動物の馬を思わせるものに変形している。
「どういうことーっ!?」
隣から「うるさいぞ!」と苦情が来たのは言うまでもない。
アニマル星人の一派は、動物の遺伝子を体に取り入れることで強くなり、支配権を広げてきた。うさ子だけでなく、アニマル星ではすべての人間が何かしらの動物のDNAを持っており、何らかの形で外見にもその特徴が発現する。
そして、なんの動物の遺伝子情報を持つかは性別とほぼ同等程度の重要な要素で、すぐに分かるように名前に動物の要素を入れるというのは法律ほどの効力をもった常識であった。
うさ子も、孤児院の職員にうさ子という名前を付けられたからには、出生時の検査でウサギの遺伝子を持っていたということなのだろうが……
「もしかして、ミックス?」
両親が同じ動物の遺伝子を持っているとは限らない。片親はウサギで、もう片方はウマだった可能性がある。さらに、祖父母の代にはキツネ……
いやいや、と首を振る。
キツネになったのはただの夢だ。確かに仕事はきついが、暴力なんて振るわれたこと無いし、最近は地球の常識も仕事の知識も頭に入ってきているので、手際も良くなった。
「予知夢……なんかじゃないよね、現に夢とは違うことが起こってる。ウマの耳」
そう、馬だ。一つ思い当たることがある。仕事の手際が良くなったことで、野菜のうち大きさの違いで取り扱えない規格外野菜を多く分けてもらえるようになったのだ。人参を食べまくったことで、馬の遺伝子が発現したのだろうか?
うさ子の周りにアニマル星人はいない。そのため、すべて想像に過ぎないが。
「雰囲気変わった?」
と言われることはあったが、仕事や日常生活に困ることはない。
神社に行ってみたが、デーモンや馬ちくわもいつも通りだ。
と、そこで新たな考えに至る。
「馬ちくわ……」
四足歩行の謎の生物、馬ちくわ。こいつらがうさ子の体に何か影響を与えた?
「まさかね」
結局そのあと、自分の変化について考える余裕はなくなってしまった。というのも、謎の組織が送り込む改造人間たちと戦わなくてはならなくなったのだ。
巨大なプラナリア、鬼、生命の縫合者……
すでに10体もの改造人間やその仲間たちを撃破してきた。
馬の能力が覚醒したことで、驚異的なキックを放てるようになったことは、自分の身を守るのに役に立った。
(わたしが先に改造人間を倒したのがまずかったかな。でも、人間を守るためには仕方なかった)
すでに、自身のことを馬のDNAを持つアニマル星人……ヤケクソうま子だと受け入れている。
もともと、地球でたった一人のアニマル星人だ。今更少し変わったところで、周りから浮いているのには変わりはないし、そのことをからかってくれるほど仲の良い友人もいない。
それでもいい。人間を守りながら、改造人間と戦いながら、この辺境の星でひっそりと生きていくぶんには問題ない。
でも、時々さみしくなる。
「……!!」
背中には嫌な汗。すこし嫌な夢を見た。
なんでも、わたしが改造人間のひとりと友達になって、一緒に悪の改造人間と戦うという夢だ。
わたしは思わず、アニマル星人特有の第二の耳を鏡で確認する。わたしは、もうピンク色じゃない。
わたしの耳は、オレンジ色。名前と同じ、ウマを彷彿とさせる、させる……
ヤケクソうま子。
補足(元ネタ)
ヤケクソうま子……pixiv第44回より