チルドレンズ   作:晩舞龍

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第三章
仮面サンダー乙 第零話「サンダーチェンジ」


 十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。SF作家アーサー・C・クラークの言葉だ。

 この地球で見つかる、様々なオーパーツ。

 科学で説明のつかないそれは、魔術の産物か、はたまた優れた古代科学文明の失われた技術か……。

 それとも。

 

 

 

 2023年2月

 

「さあ皆さん! こちらです!」

 大英博物館のフロアにガイドの声が響き渡る。それにつられて、動物の群れのようにぞろぞろと学生たちが続く。

「ロゼッタストーンにミイラ! 生で見られるなんて感動だなあ」

「おいおい、はしゃぎすぎてケガするなよ」

 修学旅行中ずっとテンションの高い様子の友人・マイケルをディーボーイ・デイライトはたしなめる。とはいうものの、彼も興奮していないと言えばウソになる。

 ここ、大英博物館はイギリスのロンドンにある世界最大の博物館だ。古代エジプト、メソポタミア、ギリシア、ローマ、果ては日本まで。世界中のあらゆる文化がコレクションされている。

 一生に何度目にするかどうかという貴重なアイテムを前にして、デイライトもその目を輝かせていた。

 

 デイライトとマイケルはアメリカ・ニューヨークのティーンエイジャーだ。

 デイライトは親の血筋の影響で日本人的な顔立ちと黒髪が特徴的だ。その見た目から苦労も多かったが、同じように移民系の血を持つマイケルとは仲良くなった。この修学旅行でも、いつものように二人でつるんでいる。

 

 高校生とはいえ、まだまだはしゃぎたい年頃だ。自由行動の時間となると蜘蛛の子を散らすように、学生たちは別々の方向へ足を運ぶ。

 

 デイライトとマイケルは、デイライトの興味もあって日本のコーナーに足を踏み入れた。

「日本、行ったことあるの?」

「実は行ったことない。ひいばあちゃんの代だからなぁ」

「そうかー。俺なんか、ひいばあちゃんの顔も名前もわかんねぇや」

 そんなことを話しながら、平安時代の陶器、戦国時代の甲冑、そして着物などを眺めて回る。

 

「おい、そこの、日本人」

 突然、デイライトは誰かに呼ばれて振り返った。

「だ、誰ですか?」

 しかし、そこには誰もいない。近くにいたマイケルに尋ねる。

「誰か、僕のこと呼んでなかったか?」

「はぁ? 誰もいないぜ?」

「だよなあ」

 

 首をかしげる。ふと、近くにあった展示品に目が行く。

 平安時代に作られた仮面のようだ。

 アルファベットのZのような、奇妙な文様が刻まれている。

「……」

 

 

 目を覚ますと、デイライトは博物館ではなく、真っ白い部屋のような場所にいた。

「見えてるか?」

 目の前には、先ほど見た展示物の仮面が、なんと宙を浮いている! しかも、目と口が仮面に浮かび上がりデイライトに向けて話しかけてくる! 

「くっ……!? ここはどこだ、あんたは……?」

「ここは、俺の中でもあり、お前の中でもある。おいおい説明してやる」

 仮面が深呼吸し、言葉を継ぐ。

「そして、俺は三駄乙、人間だ」

 

「人間? どう見ても、仮面だけど」

「俺が展示されてるのを見ただろう。俺は、平安時代に鬼を封じるために作られた仮面……そして、その中に入った人間でもある」

「どういうこと?」

「平安時代、陰陽師という集団が、今でいう呪術や魔術のようなもので鬼という怪異と戦っていた。そんな中、武者に変わる戦闘用決戦兵器として、二桁という術者のひとりにより陰陽道の力を持った仮面が作られた」

「仮面……」

「しかし、これは完全ではなかった。暴走し、術者の肉体を変化させてしまう副作用があったのだ。そこで、陰陽師自らが暴走を抑えることになった」

「それが、あんたってわけか」

「そうだ。三駄乙という陰陽師の精神がこの仮面に入ることによって、鬼を殲滅する最強の力が生まれた」

 仮面は流暢に自身の生い立ちを話しながら、この謎の空間をふわふわと浮いている。

 

「で、なんで僕を呼んだわけ? つながりが見えないんですけど」

「君にはやってもらいたいことがある。俺とともに日本に渡り、ある仮面を破壊してほしい」

「は? 意味わかんないし、なんで僕?」

「その仮面は、先ほど話した副作用のある仮面のひとつだ。二桁が試作品はすべて壊したはずなのだが……力を感じる。1000年経った今もまだ残っているのだろう」

「それは危険だ。破壊しに行ったら?」

「無理だ。俺は精神が入ったただの仮面……使用者がいないと現実世界では浮くことはおろか移動することすらままならない」

「そりゃ大変だ。でも、僕が手伝う義務なくない?」

「君は俺の遠い子孫のようだ。細いつながりを感じる。そして、俺の別の子孫がここを訪れる可能性は0に近い」

「僕にしかできない……か。でも、僕って忙しい学生だよ。なんかメリットなきゃ嫌だね」

 乙仮面は目をつむり考え出す。

 どうやら、デイライトの意見も尊重してくれるようだ。

 と、思ったのも束の間。

 

「君の体、少し借り受ける!」

 そう言って後ろ向きのまま、デイライトの顔に向かってきた! 

「うわっ! やめろ!」

 視界が仮面で塞がれる。

 

 

「デイライト? どうした?」

「ん?」

 気付くと、デイライトは博物館に戻っていた。乙仮面も展示されたままだ。

「白昼夢か……? それにしてはリアルすぎたけど……」

 

 

 三日後。

 修学旅行も終わり、アメリカへと帰ってきたデイライトは自室の鏡を見て、声を上げそうになった。

 鏡に映る自分の顔は、あの時博物館で見た「乙仮面」を被っていたのだ。

 思わず自分の頬を手でなでる。

 しかし、現実ではもちろん仮面など被っていない。

「どういうことだよ……」

「やっと俺に気付いたか、少年」

 乙仮面は鏡の中からデイライトの頭脳に話しかけてくる。まるで頭がおかしくなったかのような錯覚を受け、デイライトは尻もちをつく。

「君が俺に協力してくれなそうだったからな……本体には少しの力だけ残して、君の体に間借りさせてもらうことにした」

「焦った……ついに頭がイカレたかと思ったよ」

 デイライトはあきれた表情で乙仮面に問いかける。

「わかったよ、あんたの言うことを聞かなきゃいけないのは。で、どうすればいいわけ?」

「ありがとう少年!」

「僕はディーボーイ・デイライトな。あんたのことは……」

「好きに呼んでくれ」

「じゃあ、乙仮面。不服だけどよろしくな」

「まあそういうなって……デイライト。そうだお前、なんか好きなのあるだろ。物語」

 おもむろに、デイライトの足が意思に反して動き出す! 

「なになに!? どうなってるこれ!?」

「俺が体を借りてるだけだ! 落ち着け!」

 

 乙仮面の意思でデイライトの体が動かされ、部屋の本棚を探り出す。

「それ、僕が好きなヒーローものだ」

 その本を眺めた乙仮面が「ふむふむ」と、何かを思案している。

「以前、俺に対してこう言ったな。"メリット"がないと嫌だと」

「まあ……」

「お前に、そのメリットを与えよう。力と、超人としての姿だ」

 

 デイライトの目の前に、乙仮面が実体化する! 

「うおっ! 出てきた……」

「消耗が激しいからな。力を行使するときだけだ。今日は特別な」

 そういうと乙仮面はデイライトの顔に張り付く! 

「言え、雷撃転身と」

「なんかダサくね?」

「黙れ!」

「サンダーチェンジ!」

「おい!」

 バチバチッ!!! という激しい音とともに、衝撃と光がデイライトの体を包む! 

「うわあああああ!」

 

 シューっという煙とともに光や音が止む。

「なになに!? なんだこれ!」

 目を開け、鏡を見ると、そこには……

 顔には乙仮面。そして、体にはまるで日本の書道のように黒い文様が体を包んでいく! 

 全身が黒いミイラのような姿へと変化した! 

 

「どうだ、気に入ったか」

「うん……まあまあかな」

 などというものの、ヒーローという存在に内心憧れていないでもないデイライトの口角は、気持ち吊り上がっていたのだった。

 

 




初登場マシーナリーチルドレン
三駄乙

補足(元ネタ)
ディーボーイ・デイライト…動画第一話より
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