・ヤケクソうさ子3
・藤野財団
2022年12月
山科ひびや。徳島県出身、14歳、女。
好きなものはプラモデルと怪談。
憧れるのは、正義の味方。
家にはいつも自分一人だった。誰もいない寂しい空間で、彼女は自己をテレビの中のヒーローに投影した。
無辜の人々のために自身の命と人生を犠牲にして戦うヒーロー。
家族の温もりを知らなかった彼女は、自分こそ……失うもののない自分こそヒーローにふさわしいと思っていた。
でも、そんな彼女にも失うものはあった。
不幸な事故だった。中学校に通う道は滅多に人の通らない山道。通学路とはいえ、ほかに学生はほとんどいない。
だから発見が遅れた。
ひき逃げだ。彼女が見つかったのは1時間後。登校していないことを訝しんだ担任が、家に連絡がつかないため直接向かう途中だった。
血まみれで倒れていたひびやは、病院に搬送され一命をとりとめたが、親が病室を訪れることはなかった。
ひびやの両親は離婚してはいなかった。離婚は世間体が悪い。しかし、家族の記憶が残る家にいるのは苦痛だったのか、二人とも必要最小限にしか自宅には帰らなかった。
無論、ひびやのことも遠ざけた。
そんな孤独な少女は、だからこそ、甘い誘いに乗ってしまった。
ある日病室に、スーツを着た女性がやって来た。
ひびやとは面識のない人物だ。黒スーツ、赤いネクタイ。特徴的なのは、頭に黒いハットをかぶっているところか。
「やあ、こんにちは」
女性はお見舞いにと、バナナがたっぷり入った籠を置く。
「あなたは誰?」
「私は由井河あきら。由井河先生って呼んでね」
「先生? 学校の先生なの?」
「う~ん、ちょっと違う。私はそう、機械の先生だよ」
「機械の? もしかして、私の体を?」
「そう! ひびやちゃん。君の体を治すための機械を作るようにこの病院に頼まれてね。いまはどんな具合だい?」
ひびやは由井河に自分の状況を説明した……といっても、由井河は事前にカルテでその内容を把握していたが、やはり本人の主観的な情報も必要だ。
ひびやは、腕や足の損傷がひどく、右目は失明。頭も打っており、記憶に混濁が見られた。
後日。由井河の指示で、ひびやは徳島の病院から、三重の藤野総合病院という大病院へ移された。
「地下にも病室があるの?」
「そうだよ。地下の通路を通って、別の施設に行くんだ」
由井河はそう言って、ひびやの乗ったストレッチャーを押す。
そして、ひびやは由井河の治療により、機械を――
記憶が――
――
――私は――
2023年1月
山科ひびやは改造人間である。改造の影響によるオレンジの頭髪に、失った右目を補う眼帯型センサ。白いマフラーがたなびき、全身にアーマーを纏う。そして、右腕には月牙型アタッチメント。
「私は藤野財団に改造された正義の改造人間だ!! 脳を改造される前に脱走し、悪の宇宙人を倒す! それが私の使命だ!」
それが使命だと思っていた。
「貴様は私の仲間の改造人間を惨たらしく殺して……でも、その改造人間は悪で……!?」
"敵"を倒す自分は正義だと信じていた。
「あなたは"脳を改造されてない"って記憶を埋め込まれてるんじゃないの」
「何ッ!? そんなこと……ない、と思う……」
自分の記憶を疑い始めた。
2023年2月
ヤケクソうさ子との戦闘の後、ポー藤野とコマンダーグリーン(仮)には帰るように指示を出した。
彼らは何者なのか、なぜ自分の指示を聞くのか、自分の記憶を探ったが分からなかった。
目的を失い、そして自分は帰る場所も思い出せないと悟った。
自分は藤野財団に改造され、脱走し、宇宙人を倒す使命がある。それ以外のことは何も思い出せなかった。
「私は……いったい何者なんだ?」
彼女の心の中に、沸々と沸き立つものがあった。強い欲求。それは、使命ではなく望み。
"自分の記憶を取り戻したい"
その手掛かりは、自分のわずかな残された記憶……「藤野財団」にこそある。
ひびやの足は、彼女の欲求に従い、動き出した。
三重県の山奥にある大病院・藤野総合病院。その近くに、鉄柵で覆われた広大な私有地がある。
入り口はどこにも見当たらない。その柵の前まで、ひびやはやってきていた。
自分の握りこぶしを、高く頭上に掲げる。
「熱着!」
彼女の着ていた私服が量子状態を経て、強固なアーマーとなる!
胸にはエネルギー残量を示すエスプレンザー、右腕は腕型のアタッチメントが収納され、三日月型の刃が出現する!
下半身にはベルトやブーツが装着され、そして首から一筋の白いマフラーが伸びる!
改造人間山科ひびやの戦闘形態だ!
鉄柵をいとも容易く叩き折り、わずかな記憶をもとに藤野財団の本拠地を探す。
「たぶん、この建物だ……」
私有地の中にぽつんと建つ、研究施設のようななにか。看板も入り口もないが、森に紛れるその緑の壁を突進で破壊し、ひびやは中へと進んでいく。
ビーッビーーッ!
警報が鳴り、ひびやの前に二つの影が立ちはだかる。
「お前ら……」
それは以前、どこからともなく現れひびやに協力した、二機のロボット。
山吹色の巨身、ポー藤野!
緑の制御不能マシーン、コマンダーグリーン(仮)!
「オーファン」
電子音とともに、コマンダーの目が怪しく発光! 次いで、その長い腕と足を伸ばし、ひびやの体を抑え込もうと迫る!
しかし、ひびやも負けてはいない。右腕の刃でコマンダーの腕を受け止め、右目の眼帯に取り付けられたセンサが弱点を見つけ出す!
「そこだぁっ!!」
頭部のアンテナを左手の手刀で狙う!
次の瞬間、ドンと背中に激しい衝撃! ひびやの背中を、ポー藤野のパンチが鈍く抉る!
「なにっ!?」
ポー藤野、その下半身がない!
いや、正確には分離している! そして、上半身だけが宙に浮かび、攻撃を加えてきたのだ!
「そんなのありかよっ!」
ひびやはコマンダーの手を振り払って体勢を立て直す。ふと、気付くと左手が無意識にベルトに触れていた。
「私の体が、戦い方を知ってる……?」
ベルトのバックル部分には、五つのメーターのようなものがあり、それが触れたことにより光を放ち始める!
「うおっ! なにこれ!」
同時に、右手のアタッチメントに熱が発生し、煙を立て始める!
「よくわからないけど……これなら!!」
「オーファン!」
突撃してきたコマンダーの腕を、足を! 熱の刃によって溶かしながら切断!
「ヒーティング・ブレイド!!」
そのまま腕を振り放つと、四肢を切断されたコマンダーはアンテナを折るまでもなく機能停止!!
まずいと判断したのか、ポー藤野が体から煙を排出し始めた。
「こんどは何……?」
ポー藤野の山吹色の体が、どんどん冷気を纏い水色に変化する!
「ノート・モード」
機械音声がそう鳴り響く。どうやら、ひびやの熱の刃に対応した冷却モードのようだ。
「だったら!!」
ひびやはバックルにさらにもう一度触れる! 右手の刃が凍り付く!
「これじゃダメ、もう一回!」
再びタッチ! すると、刃が電気を放ち始めた!
「これなら……行けそう!」
ポー藤野から溢れ出す冷気を避けながら、スライディングで足元を潜り抜ける。
「喰らえ! ライトニング・ブレイド!!」
首元に電撃の刃を叩きつける!
内部の機械が煙をあげてショートし、ポー藤野、沈黙!
「なんとか……倒した……」
見回すと、ひびやが入ってきたのは薄暗い廊下だったようだ。遠くにはいくつか部屋があり、そちらへ向かってみる途中に、地下への階段も見つけた。
「地下……」
自分が何者かによって、地下へと運ばれる様子がフラッシュバックした。
「よし……」
両頬をパシンと叩き、地下の階段を下りていく。
地下には、一人の男がいた。体格はがっしりしており、40代ほどに見える。
「お前は……?」
「私か。私は藤野邦童。この施設の……この企業の創設者だ」
男は2mほどの機械に乗り込んでいた。ここはロボットの開発を行う部屋のようだ。
「お前が、私の記憶を奪ったのか」
「人聞きが悪いことをいうなぁ。君は事故の段階ですでに脳を損傷していた。確かに改造の影響もあるが……君にとってはつらい記憶だ。思い出さない方が良かろう」
「でも……その結果私には何も残っていない! 私は記憶を取り戻したい!」
邦童はニヤリと笑う。
「な、なんだよ……」
「そんなに記憶を戻したいか? なら教えてやろう」
「お前に過去の記憶なんて無いんだよ」
「え?」
「お前は改造の途中で死んだ。過去の記憶が無いのは当たり前。死人に機械の力で鞭打つアンデッドのお前にはなぁ!!」
(私が、もう死んでいる?)
「そん、な」
「ここにDr.由井河の設計図がある。これによれば、人工知能が死体を宇宙人殲滅兵器へと変えるハズだったんだがなぁ……」
「わたし、は……」
「私に歯向かう改造人間は用済みだ……ここで私直々に始末する」
邦童の乗っていた機械のハッチが閉じる。そこでひびやは気付く。この緑色の機械は、ロボットだ!
ハッチ上部には腕と頭部。それも、ポー藤野と形状が酷似している!
「Dr.由井河に作らせた最新兵器! コマンダーグリーン(仮)とポー藤野の長所を掛け合わせた新型ロボット・ドー藤野だぁ!!」
緑色の新型機体には、藤野邦童が搭乗するコクピットがDr.由井河によって新たに取り付けられている! さらに、その腕や足はコマンダーと同等かそれ以上の破壊力を持つ!
精神的に動揺しているひびやに、ドー藤野の剛腕が降り注ぐ!
「うわっ!!」
「喰らえ、これが不良品への鉄槌だァ!」
なんとか連続パンチから抜け出したひびやは刃に氷を纏わせ、ドー藤野の機体を凍らせようと攻撃を繰り出す!
「フロスト・ブレイド!」
機体の腕が壁ごと氷結する!
「抵抗するなぁ!」
氷によって固まった腕を引きはがそうともがく隙に、ひびやは撤退を決めた。
階段をのぼり、地上へ。しかし、これから自分が何を目的にしていけばいいのか。それをひびやは完全に見失っていた。
「うわ! びっくりした!! この前の改造人間!」
行く当てのないひびやがたどり着いたのは、以前対決した宇宙人・ヤケクソうさ子の家だった。
「なんだぁ?」
「どうしたの?」
隣の部屋から、ヤケクソうさ子によく似た存在が現れてひびやは面食らう。
「ああ、この二人は別世界のわたしで、訳あって隣に住むことになったんよー」
攻撃の意思がないと判断したのか、ヤケクソうさ子はひびやを快く家に上げてくれた。いまは不在だが、11子という改造人間と同居しているようで、そういった特異な存在には慣れっことのことだ。
「私は偽の記憶どころか、昔の記憶すら無かった……ただの機械だったんだ」
ひびやは自身のバックグラウンドについて話した。
「つまり、宇宙人を倒すという使命と、記憶を取り戻したいという夢があった。でも全部無くなっちゃったんだ」
うさ子は考える。
「でもさぁ、それってつまり、やりたくないことはやらなくていいし、これから何でもできるってことじゃん」
「どういうこと?」
「つまり、自由ってことだよ! 本当は宇宙人を倒したいなんて思ってないんでしょ? 自分の心に正直に生きようよ」
「自分の心……」
ひびやには記憶はない。死体と機械の継ぎはぎだ。でも、人工知能かもしれないが、心は確かにある。
その心は、なんと叫んでいるのか?
ひびやは自分の胸に問いかける。
―――失うもののない自分こそ―――
―――ヒーローにふさわしい―――
ふと、そんな言葉が頭に浮かんだ。それは妙にしっくり来た。
「ありがとう、ヤケクソうさ子。私は自分の心に従って生きてみるよ」
「いいっていいって。それより、ひびやは家ってあるん?」
「家ね……これから探すよ。その前に、やることがあるから」
「わたしも手伝おうか?」
「いや……これは私一人でカタをつけたいから」
「そっか。頑張って」
「熱着!」
心の赴くままに、走り出す。
「藤野邦童……!」
「帰って来たか、探す手間が省けた」
ドー藤野に搭乗し、ひびやに迫る邦童。しかし、ひびやの決意は固まった。
先ほどの彼女とは違う。
「ヒーティング、フロスト、ライトニング……」
その刃には、炎、氷、電気。
彼女の心に呼応するように、全ての力が解放される!
「トリニティ・ブレイド!」
ひびやを掴もうとする腕を、防御する腕を。コクピットを守るボディの装甲を。
そのすべてを打ち砕き、邦童の体を貫く。
「まてェ……貴様を作り上げたのは私ではなくDr.由井河で……」
そう言い訳する邦童の体を切り裂き、ひびやは言い放つ。
「私は正義の改造人間。そしてお前は……悪だ」
死体を改造させ、罪の無い宇宙人を襲わせる。盲目から解き放たれたひびやには、どちらが倒すべき存在か、そして自分が何をすべきかはわかっていた。さらに、自分の心が何を望んでいるかも。
山科ひびやは改造人間である。改造の影響によるオレンジの頭髪に、失った右目を補う眼帯型センサ。白いマフラーがたなびき、全身にアーマーを纏う。そして、右腕には月牙型アタッチメント。
(私は藤野財団に改造された正義の改造人間だ。 脳を改造され、悪の宇宙人を倒すことが私の使命だと思っていた。でも、今は違う)
(私の使命は、そして、夢は)
(ヒーロー。正義の味方。そう、私の心は叫んでいる)
新登場マシーナリーチルドレン
由井河あきら
補足(元ネタ)
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