地球は狙われている……
文化も価値観も概念も、何もかも異なる地球外の存在は、地球という小さな星のあらゆるものに、人間と異なる価値を見出す。それがどれだけ狂った考えであっても、地球人類は強大な力にひれ伏すしかない。
だが、人間たちも指を咥えて見ているだけではなかった。
アブダクションやUFO事件がまことしやかに囁かれたちょうど同時期、魔術を扱う秘密組織「ワイズマン」は宇宙にも目を向け始め、地球外から飛来する存在を監視した。
現在、地球にもごくわずかに宇宙人が存在するが、彼らはワイズマンの許可を得てこの星で静かに暮らしている。
ワイズマンの組織的な武力は凄まじく、宇宙人も手痛い反撃を喰らうのが目に見えているなかで地球を狙おうというものはこの約70年の間、存在しなかった。
世界でもワイズマン関係者を除いたほぼすべての人間が、宇宙人の実在を知らない。
しかし、この世界に「絶対」はない。
2023年、2月。
ワイズマン本部は、別の事件によって大打撃を受けた。
これにより、宇宙からの脅威に対抗する余力を失くしてしまった。
これを好機と見た存在が、不運にも既に地球にやってきていた……
暗黒生物「ガミネ」。
地球のなかでも魔力の高い女子高生に接触し、ワイズマン本部へ潜入。計画では内側からワイズマンの機能を停止させ、"本体"にその活動を引き継ぐ予定だった。
実際には、全く別の外的要因によってワイズマンは壊滅。
ガミネは、混乱のなかで組織を脱出し、自身……わずかな細胞の一部にすぎないそれを、宇宙空間に漂う巨大な本体のもとへと戻した。
意識が統合され、地球の状況を把握した巨大宇宙生物。
それは、今まで宇宙を監視していた存在の居なくなった脆弱な大気圏を抜け、地表へと降下していった。
「巨大不明物体が地表に落下。巨大な眼球と可食部を確認。生命体の模様」
「体色は黒。体内は灰色。体長は……40m」
そう報告する自衛隊員の声色は興奮と畏怖で震えている。
それもそうだ。人類が幸運にも、今まで全く出会ったことの無い存在。それが今、日本の山中に鎮座しているのだから。
「巨大不明生物、移動を開始!」
首都・東京では報告を受け取った政府の人間たちが、中継映像に意識を戻す。
巨大な黒い餅型の生命体は、人家の少ない山中を木々をなぎ倒しながら進んでいく。
その侵攻から知性は読み取れない。
いや、正確には、人間とは思考体系が根本から異なっている。その巨大生物が対話を試みようとしないとき、人間は彼の表情から何の情報も入手することが出来ないだろう。
「巨大生物の目的は何だ!?」
「隊長! 見てください、巨大生物の体表面が!」
漆黒の球体は、その下半分から徐々に緑色へと変化し始めた。それだけではない。巨大生物の周囲にも変化が訪れている!
「なんだ……? 周りの木々が!」
まるで巨大生物に吸い取られていくかのように、周囲の木々がモノクロになっていく。
「枯れさせているのではなく、色を奪っているのか?」
色とは、我々が視覚で捉えている以上の情報を、そして価値を持っている。
宇宙の星間での取り決めにより、宇宙人が他の生命体や星から色を奪うことは禁じられている。だが、星間協定を結んでいないような辺境にある未開の星なら話は別だ。
もともと"色"の含有量の少ない生命体であるガミネは、この地球から色を奪いに来たのだ!
「巨大生物の形状が変化!」
緑に染まったその体表からは鎖や木、さらに四本の腕が生えてきた。
「なんなんだ、あの怪物は……」
地球上の生命体には到底理解しがたい、あまりにかけ離れた存在。それを前に、矮小な人間はただ畏怖し、見上げることしかできない。
一方、山中に一人の女性の姿が。
その女性は、黒い袴姿で佇む。その視線は、今まさに地球から色を搾り取らんとする巨大生物を見据えていた。
「……鶴千代。まさか、あなたの体を再び借りることになるとは思いませんでした」
そう彼女は独り言つ。それは、誰へ向けた言葉だろうか。
彼女は、その髪に刺したかんざし……四本中三本は黒く汚れている……その中から、まだ綺麗な白い一本を取り、空に掲げた。
(これが最後の一回。でも、1200年前から覚悟は決めている。私は、この星を守る、ただそれだけ)
かんざしが黄金に光り、その光は彼女の体をも包む。
「隊長! 山中の別の地点から、強大な電磁波が発生しています!」
「上空の偵察隊が光を観測!」
「今度は何なんだ!」
ガミネはその侵攻を止め、巨大な一つ目を見開く。
閃光とともに、黄金の生命体がその巨体をあらわにする。
それはガミネにも劣らない、50m級の巨大な狐。
その尾は九本……伝説に名高い、九尾の狐だ!!
「日本に古来より伝わる、伝説の獣……まさかこの現代に実際に見ることになろうとは」
その場に集結した自衛隊員たちは一人残らず息を呑んだ。
ガミネと黄金の狐が対峙する。侵攻を妨害されたガミネがその体から無数の"端末"たる小型ガミネを出現させ、仕向ける!
しかし、狐は目から水色に光る線……レーザーとしか言えない破壊光線ですべてを打ち落とす!
「なんて威力だ……!」
焼きつくされたのはガミネ端末だけではない。空気までもが切り裂かれ、真空になった空間を埋めようと突風が巻き起こる。
だが。
そんな狐の技の破壊力を見ても全く臆さずに、ガミネは突き進んでくる。やむなく光線を放つ狐。
「まさか……!」
人間たちの悪い想像は当たった。
ガミネは、光線の"色"を吸収し始めた!
途端に威力を落とし、霧散する光線。一方、ガミネの体は水色に発光し始め、溢れんばかりのエネルギーが迸っている。
「まずい! 全員、退避退避ィ!!」
退却する人間たちをかばうように、狐がその九尾を広げる。
そこに、ガミネの必殺光線放出!
狐も再び光線を放ち、対抗する! 両者の攻撃は相殺され、衝撃波が山を揺らす。
「もう止しなさい」
これまでガミネの侵攻を止めようとしていた狐が、先ほどの工房で疲れたのを見計らい、対話を試みる。それは思念波によるもので、周りの人間たちには聞こえていない。
その高度な力に驚くことなく、ガミネは応答する。
「我らは昔、別宇宙の存在によって色を奪われた……我が色を得ることは正当な権利である」
「しかし、無抵抗で無知なる存在から奪うことはないでしょう……それではあなたのような存在が生まれるだけです」
「では我にこのままでいろというのか」
それは、地球の生命体にとっては理解できない概念。だが、この宇宙生命体には耐えがたき屈辱であり、他者を蹴落としてでも追い求めるものであった。
「わかりました。では、私の色を使いなさい」
「なんと。貴殿はそれで良いのか」
「私に残された命の灯はあとわずか。この星の人間を守り続けることが叶わないのは残念ですが、どうせ消えるなら最後に貴方とこの星を救います」
そういうと、狐はその体から発される黄金の光をすべて、ガミネに照射する。
ガミネはその体に吸収していた色をすべて返し、そして黄金色を得た。
金色に光り輝く巨大な球体。
もはやモノクロテレビに映る存在の如く、色を失った九尾の狐。狐の姿が、やがて消えていく。
「ありがとう。貴殿の存在と恩は忘れない」
ガミネはそう誰に言うともなくつぶやき、突如飛翔。空の彼方、宇宙空間へと消えていった。
「鶴千代。1200年もの間、その遺体を借りていたことを謝ります。そして、ありがとう。いま、その体を世界に帰します」
平安の時代、人間が対抗策を身に着けるまで伝説の鬼や魔物から守護してきた超常存在・九尾の狐。だが、その力は強大にして制御が難しく、あの世との境界線を裂きかねない。皆の安全のためには、九尾の狐とこの世をつなぎとめる楔が必要だった。
民草を守り、志半ばで倒れた女性・万亀鶴千代。彼女の体を借り、九尾はこれまで三回人間たちを助けてきた。
その力もこれで最後。楔としての鶴千代の力は、死体であるがゆえに限界を迎えていた。
九尾はついに、この世界に別れを告げ、黄泉路へと赴く……
はずだった。
数日後……
「巨大な猫のような生物が、都市部を蹂躙して進んでいきます!」
この世界から消滅したはずの狐は、今その力を一人の青年に預けていた。
「なんで俺みたいな顔のいい男があんな姿に変身しなきゃなんねぇんだよ!」
「やかましい。ああ……このような人間と一体化した数日前の私を殴りたい……」
「へいへい、じゃあ行くぞ」
その青年の懐から取り出したるは……あの時の白とは違う、赤いかんざし!
赤と水色の発光が青年を包み込む!
「頭が高い! 控えおろう! ヤァヤァ我こそは、日本一顔のいい男・那須藤高!!」
青年の体が白く変化し、狐のような、女体のような、はたまた異星人のような異質な存在へ!
身長60mの巨体が都心に出現し、巨大猫型生物を見下ろす。
かつて、九尾の狐となり日本を守ってきた超常存在は、現代の青年と融合し、新たな姿と人類を守る力を得た。
その名は、イナリマン。
新登場マシーナリーチルドレン
万亀鶴千代
那須藤高(イナリマン)
補足(元ネタ)
小宇宙猫(Cosmo-Cat)第壱号機フォーモ…「大宇宙猫のmemeどれに関する記録(小宇宙猫ほもも)」より