「宇宙から飛翔体有り! 落下予測地点は……ここです!」
矢季のPCを霧崎がのぞき込む。
「あとどれくらいだ」
「1分20秒で……」
「退避!」
急いで那須を連れ、建物の外へと退避した二人。
那須は、
「意外と普通の雑居ビルだな。予算無いの?」
などとのんきなことを言っている。
「無いのは予算じゃなく時間! 急に巨大生物がわんさか出るから人員だって二人だけ!」
矢季が吠えているのを歯牙にもかけず、霧崎は空を見ている。
「オレンジ、いやベージュ色の球体が見える。来るぞ」
瞬間、ドカンという轟音と共にビルの隣に球体は落下。爆風とアスファルトの破片が舞い上がり、三人はなんとか近くの電柱にしがみつく。
「あ、あれってこの前の……?」
矢季が見上げた先には、先ほどまで球体だったベージュ色の巨体。それは猫に酷似しており、体長も以前現れた巨大生物第四号「コスモキャット」と同程度だった。だが、よく見ると顔の形状が異なっている。以前は一つ目で不気味な印象を漂わせていたが、今回の個体は目が二つ。それだけなら地球上の猫と変わりないが、この宇宙生物は目に赤いバイザーのような機器を付けている。明らかに文明の機器だ。
「奴は知的生命体なのか……?」
驚く霧崎。写真に巨大猫を収める矢季。那須は一言も発さず、自身の中の狐と対話する。
(どうする、狐。あの猫が来るのは二回目だぞ)
(お待ちなさい。奴は以前の個体とは違います。私と対話するチャネルを備えてきています)
(ほほう。で、先方はなんて?)
(彼の名は小宇宙猫 第弐号機・チェムペーク。第壱号機・フォーモに代わり、この星を記録に残しに来ただけのようです。私の方から、上空での観察にとどめるよう打診し、了承を得ました)
猫はおもむろに飛び上がり、上空を飛行し始めた。
「最初からああしてくれよな」
「那須君、あの猫について何かわかるの?」
「ああ……観光しに来ただけだな」
「ふーん?」
狐と猫の間で不可侵の密約が交わされたが、地球人がそれを知るはずもなく。
「こちら霧崎。……了解」
「上層部はなんて?」
「他国と協力し攻撃に移るそうだ」
いまだ戦力の足りない巨大害獣殲滅班に変わり、政府は攻撃を決定。
30分後。
対空ミサイルの雨が猫を包んだ。
全弾命中、損傷なし。
猫、地上に再び降下。
(話と違う! 狐、貴様は人間の上位存在ではないのか!)
怒る猫。どうやら地球の生命体の現状を誤解し、狐にのみ接触を図ったようだった。
猫が癇癪を起し、街を破壊。自衛隊が攻撃を加えるも、効果なし。
(ものを頼みに来たのに自身の調査不足を棚に上げ破壊行為。駆除に値します)
(わかったよ。俺もこのまま踏み潰されちゃかなわん)
「矢季。頭がかゆい、かんざしを取ってくれ」
「何ですか、この一大事に!」
乱雑に引っこ抜かれたそれを、矢季は那須の手に持たせる。
「サンキュ」
閃光、轟音、爆風。
イナリマン、顕現。
「まさか、ほんとに那須くんなの」
「あの男が……今巨大化したのか」
イナリマンがチェムペークの首根っこを掴み、市街地から離れた所へ投げつける。
「うにゃあ! うにゃあ!」
イナリマンを威嚇するチェムペーク。しかし、恐れが勝っている。同族を瞬殺した存在であるからして、その感情は当然であろう。
イナリマンの瞳が光る。光ったと同時に、相手に隙を与えぬまま光波熱線が発射される!
チェムペークはすんでのところで飛翔し、逃げ去ろうとする、が!
熱線はチェムペークの体を追尾! すぐさま追いつかれたチェムペークは首元を貫通し、上空で爆発四散!
「なんて強さだ」
「まるで戦闘ではなく駆除ね……」
巨人を見上げながら呟く霧崎と矢季。その近くに、黒い影。
「私の餌場に、あれは邪魔ですなぁ」
そう言うと、その影はみるみる巨大化!
「霧崎さん! 後ろ!」
「何だ!? また巨人か!?」
昆虫のような頭部。人間のような体躯。文化活動による人間の感情の動きを食料とする宇宙人、メラノ星人だ!
(こんにちはイナリマン。私はメラノ星から来たもので。ここは私にとって格好の餌場、オアシスなのです)
(それで?)
(貴方のような星外生命体に不寛容な存在は邪魔なのです。消えてもらいましょう)
(私とて、危害を加えない限りは対話での解決を模索しているのですが……貴方はもうその気はなさそうですね)
(ええ、もちろん)
メラノ星人の触覚が怪しく動く。
(おい、狐! 連戦だが大丈夫か)
(先ほど熱線を打ってしまいました。再充填に30分かかります)
(大丈夫かよ!? こんなとこで死にたくないぞ)
(ええ、だから肉弾戦で仕留めます)
(お、そうこなくちゃな!)
イナリマンはボクシングのようにファイティングポーズを構え、次の瞬間、大気を切り裂く高速のフックがメラノ星人を強襲した!
「あなたが編入してきた霧ヶ峰さん?」
「そう。この星のこと、もっと知りたくて来ちゃった」
「? 不思議な言い回しするのね。でも、きれいな金髪! どこから来たの?」
「それはもう、遠くから」
国立池袋大学・秋葉原キャンパス。人文・歴史・科学、ロボット工学……あらゆる英知が集まる最先端の大学に、一人の変わった編入生がいた。
「それは……神話の本?」
「そう。九尾の狐について調べてる」
「じゃあ、私の研究室に遊びに来なよ! わたし歴史専門で、伝承とか伝説結構詳しいんだよ」
「そう、ありがとう」
その編入生はゆっくりとベンチから腰をあげ、手を差し出す。
「これでいいんだっけ? ここの挨拶」
「うん、バッチリ! じゃあよろしくね! 私は源頼子」
「わたしは霧ヶ峰エニマ。よろしく」
淡く輝く空色の瞳の奥が、怪しく光った。
新登場マシーナリーチルドレン
ミナ・ライコ(作中名称:源頼子)
補足(元ネタ)
小宇宙猫(Cosmo-Cat)第弐号機 チェムペーク…「大宇宙猫のmemeどれに関する記録(小宇宙猫ちんぴき)」より
霧ヶ峰エニマ…都合により#4で解説