チルドレンズ   作:晩舞龍

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イナリマン#4 子どもの星よ永遠に

 イナリマンの超音速フックは、メラノ星人の頭部にめがけて放たれたが、それが直撃することはなかった。

 超音速のパンチが大気を切り裂き発生させた衝撃波が、拳が当たるより先に敵の頭部を霧散させてしまったのだ。

 物言わぬ死体となった胴体を焼却するため、イナリマンは右腕に大気中のエネルギーを集め始めた。

 普段は体内のエネルギーを目から光波熱線として照射しているが、今回はそれを使い果たしてしまったためだ。

 

「腕が淡く光り始めた……」

 その様子を矢季は写真に収めた。

 エネルギーが十分に充填され、肘から手首の間が熱線発射前の目と同じように一瞬発光。

 次の瞬間、腕から極太のレーザーのような熱線が容赦なく照射され、死体は塵さえ残さず消滅した。

 巨人の姿が縮小。人間・那須藤高の姿へと戻る。

 

「那須くん……」

「あの男を捕縛するのはやめよう」

「霧崎さん、いいんですか」

「あの巨人に対抗するすべを我々は現在持ち得ていない……あの猫にさえ有効打を加えられない自衛隊もな……だが、今のところは他の巨大生物を駆逐するのみだ。人間にとって敵ではない」

「今のところ、ですか」

「怒らせなければいい。まずは彼の目的を聞こう。対等な立場でな」

 

 政府は新たに出現した巨大生物を命名。第五号「コスモキャット二代目」第六号「ハエ人間」

 

 

「えー。それでは」

 霧崎がこほんと咳ばらいをする。

「我が巨大害獣殲滅班に加わった新メンバーの歓迎会を行う」

 大河内と矢季、そして霧崎が見守る中、那須が居心地悪そうに入ってくる。

「君が例の巨人か。私は班長の大河内まくら。会えて光栄だ」

「霧崎刃。よろしく」

「どうも」

 萎縮しながらも二人と握手を交わす那須。

 ささやかな歓迎会も済んだ後、霧崎が那須に小声で話しかける。

「まどろっこしいのは苦手だ。単刀直入に言う、君の望みは……目的は何だ」

「以前、取り調べしたとき言ったよな。俺の中には狐がいる」

「ああ……確かに聞いた。もちろん信じている、でなければ巨人の力の説明がつかない」

「なら話は早い。俺はそいつの、"地球人を守る"とかいう身勝手の手伝いさせられてるだけだ」

 霧崎は絶句する。あれほどの力をもった超越存在が、勝手に地球人を守る……都合がよすぎる。

 確かに、那須藤高という一人の若い人間の平和と自由が脅かされているが、巨大生物の脅威と比べればその代償は社会全体で見れば小さすぎる。

「君は強制させられて?」

「半ばそうだな。なってしまってどうしようもないって感じだ」

「君の体を調査しても? 分離の方法がわかるかも」

「狐がどういうかな。まあ、聞いておく」

 霧崎は思案する。今後巨人と付き合っていくうえで、どのような行動をとるのが最善か。

 狐のご機嫌取りをすべきか、那須に歩み寄るか。

 まだ情報が少ない。そして、人員も、時間も。

 しかし、そうしているうちにも新たな魔の手が訪れないとは限らない……実にもどかしい。

 

 

 ショッピングモールの子ども広場に、幼児たちに混じって遊ぶひとりの女性がいた。彼女は、幼児たちの母親ではない。スマホや雑談に興じ、子どもたちへの注意を散漫にしている親たちに代わって相手をしているだけ。

「いいなぁ! 僕もお姉ちゃんと一緒にその楽園に行きたい!」

「私も私も! 遊園地みたいでたのしそ~!」

「今度連れて行ってあげるからね、それまでいい子にしてるんだよ」

 

 小学生の通学路に、うつむいて歩く少女と並んで歩くひとりの女性がいた。彼女は、少女の身内ではない。自分の娘に虐待を行い、生きる気力を奪っている親に代わって愛情を与えているだけ。

「私も、幸せになれる?」

「もちろん。一緒に行こう。この町の大人たちのいないところ……楽園へ」

 

 中高生のたまり場である、さびれた公園に、高校生と一緒に砂場でたたずむひとりの女性がいた。彼女は、先行きが不安でもうまくその気持ちを大人に吐き出せない少年に、相談の機会を与えているだけ。

「将来に対する漠然とした不安、つーか……やりたいこととか見つけらん無いし」

「いいところを紹介してあげるよ。そこでは、将来の不安に悩むことはない。ただ五つの誓いを守ればいい」

「五つの……誓い?」

「そう。それを守れば、不安からも、恐怖からも、退屈からも、大人からも。すべてから解放された、楽園で暮らせる」

 

 幼児たちは、少女は、少年は。

 皆この世界に嫌気を感じ、あるいはさまざまな要因で、その女性に……そして、楽園に助けを求めた。

 その過程で、五つの誓いについて聞かされた。

 

 一つ、つらいことをつらいままにしないこと

 一つ、みんな仲良くすること

 一つ、命を落とさないよう気をつけること

 一つ、大人の力を頼りにしないこと

 一つ、積極的に子どもを産み育てること

 

 特に最後の一つに疑問を持つものも多かったが、多感な年代であることや助けを求める切羽詰まった状況であったことなどが影響し、誘いを受けたほぼ全員が女性の提案に同意した。

 

 こうして、大人たちの目の届かぬうちに、ひとり、また一人と子どもたちは姿を消した。

 

 一見無害そうなどこにでもいる女性が、その元凶であるとは露知らず。

 

 公園の砂場に"楽園"へのゲートが開く。

 少年に向かって彼女は言う。

「さあ、そのゲートを通って……そこは大人のいない、子どもたちだけの楽園。平和と幸せだけが形作る、新しい国」

「……理亜ねえちゃんは来ないの?」

 理亜、と呼ばれたその女性は頷く。

「まだまだ救わなくちゃいけない子どもたちがいっぱいいるから」

 ゲートが閉じる。

 

「それに、私の理想の国を邪魔する奴もナァ」

 

 女性の背後には、金髪の少女の姿。

「何しに来た、キリ星獣」

 そこいたのは、霧ヶ峰エニマ。大学生としてこの星に身を置いているが、その正体はキリ星からやってきた宇宙生命体であり、狐と対峙したガミネという存在である。彼女が今持つ美しい頭髪の"金色"は、そのときに狐からもらったものだ。

 

「我はこの星の狐という存在に借りがある。トンア星人、君に警告しに来た」

「狐……最近ウワサの例の巨人かァ、あれも私の障害になる。いずれ消す」

「君と狐は共に地球人の平和を願っている。衝突する理由は無いはずだ」

「いーャ、違うね。私の目的は現住の成体地球人を駆逐し、幼体地球人による理想の国を作り上げることだ」

「なんの目的で」

「私の大いなるマザーはこの星の汚い大人を大層お嫌いでいらっしゃる。私もそうだ。だから、いずれそんな大人になってしまう前に隔離し、私が正しく導く」

「その理想は正しい。しかし、そのために大人を消すのは間違っている」

「他生物から"色"の施しを受けるような奴には分からんだろうさ、この宇宙の悪辣さが」

 

 刹那、理亜という女性……トンア星人とも呼ばれていた……の姿は消えた。

 彼女の計画は、確実にこの星を蝕み始めていた。

 




新登場マシーナリーチルドレン

すな場くろ蟻(作中名称:トンア星人リーア(理亜))

補足(元ネタ)
霧ヶ峰エニマ…ガミネ氏のTwitterアカウントより
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