「私の名前は、
桃色の派手な頭髪。見慣れない奇妙な服装。それを前に、二人は困り果てるばかりだった。
「なあお嬢ちゃん、どんな魔法を使ったのかは知らんが、うちの
「そうっすよ! あの人がうちらのメインアタッカーなんすから、欠けると困っちゃうっす」
「えっと……ツバサ、って?」
事件は数分前に起きた。
冒険者や決闘者。荒くれ物の集まるこの街の一角。
いつものように三人は仕事のために酒場に集合した。
三人は同じチームのメンバーとして、依頼される仕事をこなす何でも屋の仲間だった。
「今日の仕事はなんすか?」
緑がかった頭髪の合間から角を覗かせる少女が聞くと、
「うん、今日はこんな仕事を貰って来たよ。二人も確認して」
と、赤いハットを被った銀髪のリーダーが依頼書の写しを二人に手渡す。
「なになに……北西の森の魔獣退治か。しかしこの規模、ちいとばかし大変すぎやしないか? ツバサ」
全身を甲冑の如きフルプレートに包んだ巨漢の男が依頼書に目を通しながら疑問を呈す。
「大丈夫! 今日は……」
そういいかけたリーダー・ツバサの体が突如として青色に光り始める。
「えっ!? な、なにこれ!? 二人とも、助け、てっ」
光る本人にも状況は掴めない様子で、それをどうにかする間もなく、目の前には別の人間……槌谷解子が、入れ替わるように出現していた。
とりあえずテーブルにつき、三人は状況を整理することに。
「私にも、今の状況がよくわからなくて……ここはどこなんです?」
「ここはブンバウリュの街だ」
「バン……なんて?」
「ブンバウリュ、だ。聞いたこともないってか?」
「はい……皆さんは日本や埼玉って……知らない、ですよね……」
明らかに人間でない、角の生えた少女に、歴史やファンタジーでしか見たことの無い甲冑の男が、とても解子の故郷について知っているようには見えなかった。
「聞いたことあるか? ナナシ」
「いや、ないよ。でも、言葉通じてるんだし、近いんじゃない?」
「う~む、だがこの服装も見たことの無いものだ。お前さん、いったいどうやって俺たちの目の前にいきなり現れたんだ?」
「はい、私は故郷で学校という場所に向かってて……その途中で突然、体が光りだしたんです」
「それで、気づいたらここにいたのか」
「そう、みたいです」
うーんと甲冑の男が腕を組む。
「よくわからんが、ツバサが消えて、この女が現れたのは事実のようだ……見たところ危険そうではない、というところか」
「ツバサって?」
解子が聞く。
「我々チーム・ストーンズのリーダーだ。あいつがいないと仕事ができん」
「もしかして、入れ替わったとか? でも、確認するすべもないっすし、とりあえず今後のこと考えましょうよ」
そう言って少女が、解子に向き直る。
「ボクはナナシ。ワーオーガっす! よろしくっす!」
「ワー、オーガ? って?」
「ヒト族とオーガ族のハーフっす! って、その様子だとオーガ族も知らないっすか!? ほらここ」
ナナシと名乗った少女は自身の頭から生える角を指さす。
「これがオーガ族の特徴。かっくいいっすよね!」
「う、うん。えと、よろしく」
「よろしくっす!」
「じゃあ、次は俺だな」
甲冑の男が解子に向き直る。
「俺の名はパイライト。巷では、この見た目だからか、鉄鉱仮面と呼ばれている。よろしくな」
「改めまして、槌谷解子です。よろしくお願いします、トキコって呼んでください」
自己紹介も終え、ひと段落着いたところでナナシがあっと声をあげた。
「そうだ! いいこと思いついた!」
武器屋「ガトレイン」
「ここは武器だけじゃなく防具も揃ってる。とりあえずは武器と、足の装備だな」
物珍しそうに武器の棚を眺める解子は、その言葉に驚く。
「私、戦ったことなんてないんですけど! 先に防具を買わせてください!」
「ダメっすよ! 武器や魔導書が無いと、依頼を受ける騎士としてエントリーできないんすから」
「私が、騎士? 魔法使いとかじゃダメなんですか!?」
「このチームだと俺が戦士。ナナシが盗賊。ツバサは"決闘者"だったが……あれは特殊だからな。そして」
鉄鉱仮面が立てかけてある巨大なハンマーを手に取る。
「魔法使いなんてものは伝説だ。お前さんが言いたいのは魔術師だろうが……あれは才能が無いとなれん。お前さんは、とても有りそうには見えんな。そうなると、一番簡単なのは騎士。武器を持つだけで今日からなれる」
「頼むっすよトキコさん! リーダーがいない今、戦力が欠けると次の仕事ができないっす~」
「で、でも私が戦力になんてなれるのかな?」
「仕事ができなくなるよりはマシだ、という判断でいい武器を買ってやるから大丈夫だ。ほれ」
重そうな漆黒のハンマー。それをふいに投げられ、思考停止してしまうトキコ。だが、次の瞬間……
片手でそれをキャッチし、指先で一回転してみせた。
「あれ!? 私、いま……」
「うむ、上出来だ。それは使用者に魔力を流し込み、動きをサポートしてくれるハンマーだ。新米にはとても買えない値段だが、特別だ。それと自動回避の靴……これがあれば雑魚相手には防具いらず」
「あ、ありがとうございます!」
「そのかわり、ツバサが戻ってくるまでバリバリ働いてもらうっすよ!」
「う、うん。頑張る!」
北西の森
「い、いよいよですね……緊張してきました」
「お前にはナナシのフォローをしてもらえばいい。俺が一人で魔獣を狩るあいだ、いつもナナシとツバサがサポートし合っていた。その代わりだ」
「はい!」
「いい言葉を教えてあげるっす! このあたりに伝わる言葉なんすけど。「日々を生きるのに必要なのはスリリングさと力試し」っす!」
(スリリングさと……力試し……)
「よし、私の力、試してみます!」
「その意気だ! がんばれよ」
鉄鉱仮面はずんずんと魔獣の群れに向かっていき、その両腕にそれぞれ握られた二振りの剣で魔獣を屠っていく。
一部の魔獣が逃げ出し、それをナナシとトキコが追いかける!
「せいっ!」
ナナシの飛び道具が魔獣の足止めをし、そこにトキコが追い付いてとどめの一撃!
「うおりゃああっ!!」
魔獣の胴体にヒット! ハンマーの魔力によって最適化されたトキコの体はホームランバッターのように華麗なフォームで、魔獣を霧散させる!
「やったっす!」
「うん!」
「あ、っでもまだまだいるっすよ! 逃がすと街に被害が出るんで、しらみつぶしにやっちゃいましょう!」
ナナシが斧型武器を取り出し、トキコがそれに続く……
「おつかれさん」
魔獣を殲滅し、街への帰路につく三人。
「私にも……出来ました」
「どうやら、スリリングさがクセになったみたいっすね」
「だって、私今までこんなことやったことないもん……まだ心臓がバクバク言ってる」
「そりゃあよかった。これからもツバサの代わりにガンガン働いてくれよ」
「ツバサさんはどうするんですか? それに、私も元の世界に……でも、こっちも捨てがたい……」
「まあ、おいおい考えよう。今日はナナシと同じ部屋に泊まれ。あそこの食堂はうまいぞ」
「考えたらよだれ出てきちゃったっす」
「ハハハ!」
「ふふっ!」
突如、異世界にやってきたトキコ。彼女は鉄鉱仮面やナナシに助けられ、最初の一日を無事に終えた。衣食住に加え、職も見つけ……
一方、全てを失ったものもいた。
「本日午前8時ごろ、埼玉県XX市で不審な人物がいるとの通報があり、銃を持った人物が警察に拘束されました。自称マリガン=ツバサ容疑者(25)は意味不明な供述を繰り返しており……」
新登場マシーナリーチルドレン
マリガン=ツバサ
補足(元ネタ)
槌谷解子…https://twitter.com/pylite6/status/1538134325212094464より
ナナシ…https://twitter.com/pylite6/status/1538269622138732544より
鉄鉱仮面…https://twitter.com/pylite6、https://twitter.com/gaminessium/status/1550117612343795714より
武器屋「ガトレイン」…https://www.nicovideo.jp/watch/sm39493588より