チルドレンズ   作:晩舞龍

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梅村まち子・鬼・面 中編

 2021年9月

 

 藤野財団の研究施設は、三重県にある広大な森林を有する敷地内に複数存在し、それぞれのセクション別に研究・開発が進められていた。

 宇宙人の襲来に備えるための生物兵器を開発している彼らにとって、人間と近縁種と思われ、人間を超える力を有する"鬼"の生態は非常に興味深いものだった。

 2019年4月の発見以来、この研究施設では"鬼"に対する非人道的な実験行為が繰り返されてきた。

 その結果、分かったことが複数ある。

 

 年齢は幼く、生まれてから20年は経過していないであろうこと。

 体内を流れる血流の循環速度が非常に早く、人間と異なる体組織と合わせ自己回復能力が非常に高いこと。

 DNAの組成が人間と異なってしまっているため、人間との交配は不可能であること。

 角、尾、腕部、脚部は既存の生物に該当しない特異な形状と硬度を持ち、殺傷能力・防御力共に優れている点。このうち角は避雷針、脚部はアース、巨大な腕部は対熱・対冷の役割を果たしており、尾は触覚のような機能を有している。

 

 由井河は鬼の血流にも耐えうる(反抗しないようリミッター機能を搭載した)義肢の作成を進めていたが、四肢のバランスが人体と異なるため、その完成には時間を要した。

「あとは最終調整とリミッターのセットを行って完成か。もう十分従順な気もするが、万が一があっても困るしな」

 時計を見る。この日は、組織の再編に伴って人員が補充されてくる日だ。

 由井河はデスクに置かれていた資料を思い出し、手に取る。

「梅村まち子……新人か。雑用係だな。鬼の世話でもさせるか」

 義肢の完成後は、慣れるまでのトレーニングが必要だが、由井河は技術屋だ。トレーニングのような力仕事は得意ではない。新人が施設と仕事に慣れるまで担当してもらうことにした。

 

「梅村まち子です! 今日からよろしくお願いします!」

「ああ、よろしく」

 

 

 早速、まち子は鬼の居る区画に赴いた。

 現在、鬼は他の改造人間とは異なりひとりこの施設に残され、研究を続けられている。今日も超硬化ガラスでできた部屋の中で何をするでもなく虚空を見上げている。

「あなたが鬼ね。わたしは梅村まち子。よろしく!」

「……」

 鬼は人語を介さない。だが、それ以上に彼女は人間にボロ雑巾の如き手酷い扱いを受けすぎた。

 いまやそこにいるのは一個の生命体ではなく、全ての尊厳を凌辱されつくしただ人間に媚びへつらう奴隷であった。

「ウ、ウ」

 わずかなうめき声と表情で、死という名の慈悲を求めて縋りつく。

 そんな様子をここの職員たちは意にも解さなかったが、まち子はそれを捨て置けられるほど良心を捨ててはいなかった。

「……わたしが何とかしてあげるから。だから、待ってて」

 

 彼女は由井河の作成した義肢を無断で持ち出した。それは鬼の反抗を抑えるリミッターが取り付けられていない未完成品だった。

「自由」と「尊厳」を与えられた鬼の精神は荒ぶり、鉄の心臓は高速で脈を打ち始めた。

 鬼は、まち子には見向きもせずに研究棟へと駆けていった。その勢いは鬼気迫るもので、まち子が止める暇さえ無かった。

 

 次に鬼が意識を取り戻した時、そこには無数の死体が転がっていた。そして、彼女の大きな義腕は一人の体を貫通していた。

 鬼に対し様々な実験を行った、清水紙魚子……鬼によって腹を貫かれ、そこからおびただしい量の血が流れ出ている。

 だが彼女の表情には死への怯えはない。あるのは、この時間を無駄にされたことへの怒り。

「クソッ、誰だコイツを自由にしたのは……! また基底現実にハッキングするのは面倒なんだぞ! 最近はあの馬陸が邪魔で……」

 わめきたてている途中で首を吹き飛ばされ、こと切れる清水。

 そこで鬼は、自分を救ってくれた女性のことにやっと意識が思い至ったのであった。

 

「残念だよ、配属初日の新人を殺さなければならないとはね」

 由井河は、施設から逃げ出す梅村まち子を待ち構えていた。

「義肢の管理が杜撰だったのは私の落ち度だな。反省」

 顔色一つ変えず引き金を引き、言い訳する間も与えずに森の一角に赤い花を咲かせる。

「さて」

 逃走用の黄色い車に乗り込むが、凄まじい勢いで鬼が追ってくる! 

「この様子じゃ紙魚子は殺されたか。この施設ももう使えないな」

 由井河に追いついた鬼がフロントガラスにへばりつき、正に鬼の如き形相で腕を振り下ろす。

 由井河は運転席の奥に畳まれているレバーを取り出しグイっと引く。すると、車が揺れ、変形を始める! 

 振り落とされた鬼が見上げると、それは一瞬のうちに人型のロボット・ポー藤野へと変わっていた! 

「私はここで死ぬわけにはいかないのでね」

 鋼鉄のキックが振り下ろされ、鬼の血流が迸る義腕と激しく激突する! 

「ウオォォォォ!!!」

「さすが私が造った義肢だ! だが、負ける勝負を挑むほど馬鹿じゃない!」

 その声は遥か上空から聞こえる! 

 ポー藤野の上半身が、下半身を切り離し飛行! そのまま由井河を乗せ逃亡したのだ! 

 下半身を殴りつけ、破壊した鬼。だが、そこに残されたのは自分を救ってくれた恩人の死体だけだった……

「ウワァァァァァ!!!!」

 言葉を話せない獣の雄たけびが、夜の森にこだまする……

 

 

 

 

 2023年1月

 

 このような悲しい経緯があり、鬼は自由の身を手にした。彼女は、自分を救い出した「梅村まち子」のネームプレートを拾い、彼女の名を名乗ることにしたのだ。

 では、そんな彼女は今、何をしているのか? 

 

「いくぞ、まち子……この力で奴らに復讐する!」

「ウ!!」

 雷 撃 転 身

 

 電撃が周囲に迸り、仮面を着けた戦士が誕生する。

 鬼改め梅村まち子は、この仮面サンダー丁と共に、憎き藤野財団と由井河を倒すため共に行動していた! 

 なぜ彼女は、憎み恐れていた人間と手を取り合っているのか、そして仮面サンダー丁とは何者なのか……? 

 

 つづく

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