兎・狐 ヤケクソきつ子 400
兎・馬 ヤケクソうま子 400
わたしの名前はヤケクソうま子。
別の世界からやってきた、もう一人のヤケクソうさ子。
この世界には、ひょんなことから三人のヤケクソうさ子が共存している。
わたしとヤケクソきつ子―わたしと同様別世界からやってきたうさ子だ―の二人は、元の世界で排斥され、様々な偶然が重なりこの世界に居場所を得た。
そして現在は、衣食住を保証され、安全なぬるま湯のような生活を過ごしている。
わたしは、きつ子と自分の食事の買い出しに出ている。その道中、歩きながら思索に耽る。
「このままでいいのかな……」
きつ子は「出かけてくる」と言って、時々ふらっといなくなる。今日も行先も告げずに外出していた。
それをわたしは咎めない。きっときつ子も、自分と同じように悩んでいるのだ。
目的が無い……ということについて。
ヤケクソうさ子は、この町の人間を守るために改造人間を倒してきた。そして、それはすべての改造人間を倒すまで続くだろう。11子もそうだ。
一方、わたしときつ子はそういった「するべきこと」もないまま、自堕落な日々を続けている。
確かに、安寧を手に入れているが、生きる気力もない。
「このままじゃ、ゆっくりと自殺しているようなものだよね……」
元の世界よりはマシかもしれないが、それでも今より良い暮らしを求めてしまうのが人間だ。
「よし、今日はやったことない料理に挑戦してみよう」
うさ子たちを見習い、わたしは小さな第一歩を踏み出した。
わたしの名前はヤケクソきつ子。
わたしの中には今も、前の世界で感じていた焦燥が染みついている。
血。タリウム。果物ナイフ。チェーンソー。
あの時、警察に狙われ、わたしはいつも逃げていた。
そのころの感覚が、今も消えない。
今も背後に誰かの視線を感じる。ここにはわたしを追う者がいないというのに警戒心が抜けない。
今日は近所の大きな公園に来ている。
自然の光景、木々のせせらぎ、鳥たちのさえずりがわたしを癒す。
わたしはいつになったら、真に焦燥から解放されるのだろうか。
このところうさ子とは距離を取っている。
うさ子は今でも改造人間の残党狩りに出かけることがある。
その様子を見ていると、わたしの中の……殺人衝動が疼く。
心の奥に閉じ込めて消し去ってしまいたい。しかし、一度わたしの経験として刻まれたそれは、わたしに逃げることを許さず、依存症のように追い詰めてくる。
「うっ!」
気分が悪くなり、うずくまる。
とっさにわたしの外に耳を、感覚を向ける。
自然。鳥。木々。そして……足音。
「誰」
静かに、しかし拒絶の意思を持って言い放つ。
「よお」
そこにいたのは、普通の人間ではなかった。感覚で分かったのだ。
コイツは、わたしやうさ子、うま子に近い、と。
「……」
立ち上がり、そいつの方に向き直る。
公園は平日。近くに人気は少ない。その女はわたしに向けて、朗らかに言った。
「ホントにオレたち以外にアニマル星人がいるとは驚きだ。オレはサルゴウえい美。猿の獣人だ」
ヤケクソうさ子 第二部 獣人編
第一話 「アニマル星人」
地球にやってきたトンア星人は、地球の子どもたちを回収するという主目的の他に、この星に三人いるというアニマル星人を勧誘するという目的があった。
宇宙の中でも相当な戦闘力を持ちながら、その数は少なく、特殊な生態なために増やすことも難しい彼女たち。そのすべてを現在手中に収めているトンア星人にとっては、他の勢力の手に渡したくないのは当然と言える。地球からアニマル星人特有の反応が発されているのを知ると、急遽目的地を変更。
そして、自身のお抱えのアニマル星人、精鋭10人に同族の勧誘を指示した。
「で、誰が行くわけ? 全員でぞろぞろ言っても締まりが悪いでしょ」
鳥の獣人・コンドルたか奈が、三重県付近の森に降り立った他の9人に対し冷静に声をかける。
「とら子姉さん、奴らの戦闘能力は感知できる?」
兎と猪の力を併せ持つ、このアニマル星人たちのリーダー・ディシプリンうさ美が言うと、
「そうね、一筋縄ではいかなそうよ。穏便に事が進めばいいけど」
と、虎の獣人・デキルコとら子は電子端末を見ながら答える。
彼女らが用いるトンア星の技術によって、すでにうさ子・きつ子・うま子の現在位置からおおよその戦闘能力まで看破されていた。
「このウサギの能力をもつアニマル星人は戦闘能力200……アニマル星人のなかでも最弱クラスね」
「おい、アタシへの嫌味かよッ」
おなじく戦闘能力200のブラウンねず美が声を荒げるも、最弱なため誰も否定しない。
「次が問題よ。一人はウサギとキツネ。もう一人はウサギとウマ。戦闘能力は400と低いけれど、どちらもうさ美ちゃんと同じく二種類の力を持ってる」
「念には念を入れた方がいいかもな」
うさ美は姉と慕うとら子の分析に首肯する。
リーダーであるうさ美が配下の9人を並べ、作戦を立てる。
「えい美、たか奈、お前たちはキツネ獣人のところに行ってもらう」
猿の獣人・サルゴウえい美がぴょんと飛び上がり気合を入れる。
「オレ一人でも十分だけどなぁ!」
鳥の獣人・コンドルたか奈は変わらず冷静にうなずいている。
「えい美もわたしも、キツネ獣人より戦闘能力は高い……万が一の事態でも負けはしないだろうね」
「わん子、かう奈。お前たちはウマ獣人のところに行け」
犬の獣人・バンケンわん子は不服そうだ。
「私はうさ美のボディーガードだろぉ!」
牛の獣人・オックスかう奈は自分よりもねず美のことを心配している。
「ねず美ちゃん、私が居なくても大丈夫?」
「子ども扱いすんな!」
「ウサギ獣人のところには……あけ美、よう子。おまえたちが行け」
「「は~い」」
ヤケクソうさ子は隣の部屋の様子を伺った。人気は無い。今日はきつ子もうま子も不在のようだ。これは都合がいい。
「おいで、ここがわたしと11子の部屋。今日からあなたの家でもあるから」
「は、はい! ありがとうございます!」
水色のボブカットに白いカチューシャ。そして、桃色の眼鏡がかわいらしいその少女は、恐縮したようにうさ子のアパートに入る。
この少女は名前を春田ちあも、と言うようだ。というのも、彼女はその記憶を一部失っている。
不思議な事件の舞い込む魂川りんりの下にやって来た彼女は、「自分の知っている世界と違う」という不思議な違和感を抱いていた。りんりが調べたところ、彼女は戸籍も住所もなく、数日前に突然出現した人間としか言えない状態だった。しかし、日本語や常識は持ち合わせている。彼女自身は何の変哲もない人間のようなのだ。では、異常なのはこの世界なのか? はたまた……
魂川りんりのもとには、現在とある事件に巻き込まれた壊滅状態の魔術組織「ワイズマン」のメンバーがかくまわれている。
その一人で世界最強の魔術師、ジェシカ・マージマンが、春田ちあもを指さしこう言ったという。
「貴方からは危険な波動を感じます。できれば、ここではないどこかに行ってもらえませんか。我々は今、これ以上の問題を抱えられる状態ではないのです」
そして、ちあもの受け入れ先として白羽の矢が立ったのがここ、ヤケクソ家だ。
「ようこそ」
ぶっきらぼうに11子が迎え入れる。
「は、春田ちあもです、よろしくお願いします……」
「……」
どうやら、自分の縄張りにうさ子以外の人間が住むことになって警戒しているようだ。
「二人とも仲良く、仲良くね」
少しぴりついた雰囲気をうさ子がなだめ、戸棚からお菓子を取り出す。
「ほら、座って座ってちあもちゃん。アレルギーとかないよね?」
「あ、はい。いただきます……!」
ちあもも記憶が無い中で不安だったのだろう。優しく接してくれるうさ子に笑顔を見せる。
それを見て11子の眉間にしわが寄る。
「私も食べる!」
ドカッと座り、不機嫌な様子で11子もチョコをつまみ始めた。
「あ、そうだ……りんりさんからお礼にって貰ってきたものがあるんだ。それ開けてみよ」
うさ子が立ち上がろうとすると、突然チャイムが鳴った。
「おじゃましまーす」
ドアを開けた先にいたのは、うさ子と似た格好をした二人の少女だった。
「こんにちは……あなたたちは?」
うさ子が怪訝な表情と共に零す。
「や、どうも」
少女たちのひとり、緑の髪を後ろで結んだほうが一歩前に出て手を差し出す。
「わたしたちはあなたと同じアニマル星人です。どうぞよろしく」
部屋にいたちあもと11子が、様子を見にこっそり顔を出す。
「アニマル……星人? あなたたちが?」
うさ子は目の前の状況を冷静に受け止められていない。
物心ついて初めて、彼女は同族と出会ったのだから。
「自己紹介がまだでしたね、私はマトンよう子。羊の獣人です」
と、後ろにいた白髪の少女が名乗る。
「そしてわたしは蛇の獣人・ジャクズレあけ美。改めて以後よろしく」
鼠 ブラウンねず美 200
牛 オックスかう奈 600
虎 デキルコとら子 1200
巳 ジャクズレあけ美 400
羊 マトンよう子 300
猿 サルゴウえい美 500
鳥 コンドルたか奈 800
犬 バンケンわん子 700
兎・猪 ディシプリンうさ美 1500
新登場マシーナリーチルドレン
蛇崩アケミ(作中名称:ジャクズレあけ美)
補足(元ネタ)
春田ちあも:でじちゃん動画シリーズ本編動画第04話より