人間には、"心"がある。"魂"と言い換えてもいい。
では、他の生物はどうか。興味深い実験がある。
ある医師は、死亡した時の人間の体重を測定。数10gの原因不明の体重減少を確認。
その一方で、犬ではそういった現象が認められなかった。
この実験が観測したのは、果たして人間の魂だったのだろうか? そして、人間以外にも……たとえば、微生物や単細胞生物のような存在にも魂は宿り得るのか?
プラナリアのような分裂する生物はどうか?
魂とは、いったいどの段階で、どのように"発生する"のか?
未だ明かされていない、世界の"法則"のひとつである。
「これが、いわくつきの霊魂ですか……」
白衣の男が、診察台に鎮座するいかにも怪しげな壺をちらりと見、同じく白衣を着た女に向き直る。
「その筋では有名な陰陽師の家系……琳間家の子息が捉えたらしい。真偽のほどは、これからわかるさ」
ふたりは、神をも冒涜する実験を前に身震いした。所属する研究施設では、世間では公にはできないが、強化人間に関する研究が秘密裏に行われており、ふたりもそのメンバーだった。
医学・生理学と眉唾物の陰陽道なるオカルト……それを組み合わせた実験とさえ呼べないようなシロモノは、新鮮な"死体"が運ばれてくると決まった今日、決行されることになった。
飛び降り自殺で亡くなった24歳の若者の死体が実験設備の揃った研究室に運ばれてくる。待ち構えていた二人は、さっそく作業に取り掛かる。
琳間家の術者によると、霊魂はいわくつきとはいえ、個々の霊力は弱い生霊の集合体のようなものだという。
つまるところ、そのうち一つの魂を抽出して使う分には大きな呪いは降りかからないだろうとのことだ。
だからこそ、すでに何年も現世をさまよい、意識や意思の希薄になった魂をひとつだけ譲り受けることが出来た。
「で、この壺からどうやって死体に魂を移すんです?」
「大丈夫ダイジョブ、虚気クン。それについてもちゃあんと聞いてある」
バインダーを取り出した女は、そこに綴じられていた二枚の羊皮紙を、それぞれ死体と壺にそっと乗せ、さらに取り出した怪しげな巾着袋に入った小さな墓石のかけらのようなものを、落ちないように重しにした。
「じゃあ始めるよ」
「ハイ、蓮沼さん」
術師のいない研究等に、素人の呪言が響く。研究成果を出せていないふたりに残された、最後の手段だった。やけっぱちのぶっつけ本番、予備も後もない、ギリギリ限界の実験は、果たして――
成功裏のうちに終わった。
「え?」
「蓮沼さん! 動いてますよ! ほら!」
死体は、ビクンビクンとまな板の上の魚のように跳ねている。死後硬直が始まった死体にはありえない動きだ。
幽霊のようなうらめしや、といった声ではなく。ゾンビのようなうーとかあーといったうめき声でもなく。
バキ
ボキ
奇怪な破裂音……よく聞くと骨同士がこすれるような音が部屋中に響き渡っている。
「この音……」
「う、うえっ!? 見てください、手足が!」
骨や筋繊維が縦方向に異常な膨張を見せている。不気味に感じる手足の長さになったとき、破裂音が止み、当初170cmだったそれは2mまで延伸していた。
「これ、魂の影響でおこったんですかね……? てっきり、意識とかが宿るものかと……」
「もしかしたら……魂に合わせて体が変化したのかも」
「どういうことです?」
魂と肉体の関係については解明していないことが多い。まして、別の魂を肉体に入れる……そんな実例は存在しない(イタコのような例はあるが、科学的に証明は為されていない)。
つまり、なにが起こってもおかしくないのだ。
「魂と肉体、どちらがどちらに依存した関係なのか。どちらが先にこの世に発生するのか。それが分からない以上、仮定でしかないけど……今目の前で起きていることは恐らく、魂と肉体がお互いに拒絶反応を起こした。そして、その反応の力で上回った魂が、肉体という"環境"を自分の住みやすいように変えた……んだと思う」
2mの死体は目を見開いた。
「ヒッ!」
おびえる虚気の声に反応し、死体はそちらに顔を向けた。
あっ……こんちは……っス……
「え?」
「喋った……死体が。成功だ!」
ばあ
翌日。
破壊された監視カメラに映像記録は残っておらず。
部屋には、まるで衝撃により
新登場マシーナリーチルドレン
腐爛ウジ