チルドレンズ   作:晩舞龍

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レザーマスク・オリジン 前編

 序章 ~仮面憑依~

 

 その男には変わった趣味があった。もちろん、普通の趣味などない。人それぞれ、違った趣向を持っているのは当たり前だ。珍しい、と評した方がよいかもしれない。

 ともかく、男は人皮に対する狂気的な興味を抱いていた。

 昔から、人間は動物の毛皮を部屋に飾るという習慣を持っていた。また、人皮を装丁にした本を魔術書とした者もいた。

 現代の価値観からすると少々危険にも思えるその趣向は、人間が培ってきた歴史の中にもしっかりと刻まれたものではあった。

 

 男は、インターネット上で活動する自身のアバターにも人の顔ではなく、"人の顔の仮面"を用いていた。それだけに飽き足らず、彼は仮面を自作した。仮想の存在から現実のものへと昇華させたのだ。

 

 男がそれを被ると、突如として体の自由が奪われた。

 金縛りなどではなく、何者かに体の操縦を乗っ取られている感覚。

 そして、無意識に声が放たれる。それは、自分の声であって自分の声でない……なんとも不思議な感覚へ陥る。

 仮面だ。

 仮面が男の体を乗っ取り、口を操り話し始めたのだ。

 意思を持つ仮面に、男は歓喜した。

 そして、男と仮面の奇妙な共同生活が始まった。

 

 

 第一章 ~狭間の器~

 

 地球。日本某所……。特徴のない平凡なアパートの一室に、男はいた。黄緑色の眼鏡をつけ、フード付きのパーカーにジーパンという出で立ち。体格はがっしりとしている一方で、その顔色は少し暗い。

 

「おい、冠衣」

 男が仮面に向かって話しかける。

 壁に立てかけられている、ソフビ製の仮面が突然男に飛び掛かり、顔面に張り付いた。

 冠衣と呼ばれた仮面が男の体に憑依し、彼の声帯を乗っ取って話し始める。

「どうしたマスター」

「どうしたもこうしたもない……」

 仮面の下から、呆れるような声色の返答が来る。こちらは、声は全く同じだがマスターと呼ばれた男のものだ。

「こいつは何なんだ?」

 男が指さした先には、まだ冠衣が自我を持って動き出す前にソフビ仮面を装着させておく、いわゆるマネキンがあった。

 そして、いまは何も装着されていないそののっぺらぼう状態のマネキンが、

「私の名前はサーフィス間田……。以後よろしく」

()()()()()

 

「私にも、おまえと同じように自我が芽生えたのだ。瀬暮冠衣」

 男は、そもそもなぜ仮面が自我を持ち始めるに至ったのかさえ知らなかった。

 そのうえ、今度はマネキンと来た。

「いよいよ、俺の方に原因がある気がしてきたが……。間田、何か知っているか?」

「ふむ。これ以上同族を増やされるのも考え物だしな。いいだろう」

 高圧的な態度でサーフィス間田と名乗ったマネキンは語る。

「男、おまえは以前"知恵の実"を食べたな? そして、その体で我々に触れた。そいつが原因だ。なに、単純なことさ」

「待て待て、知恵の実……? りんごのことだよな、神話の」

 男には思い当たるフシが一つあった。

「この前の"夢のりんご"か!? 確かに、ただのりんごにしては不思議な色だとは思ったが……」

 SNSでのネタになればと専門店にふらっと入って買った、紫や桃色にも見える不思議なりんご。それが「玲瑠璃印の夢のりんご」

 味自体は、たしかに美味しい……その程度だったが。

「その話が本当なら、いまごろ世界中が大混乱になってるはずだが……」

 男がスマホでそのりんごや専門店について調べるも、まるで元からなかったかのように情報が無い。

 自分一人、狐につままれているようだ。

 しかし、目の前にある現実……喋る仮面とマネキンは紛れもなく事実だ。

 だが男は、この状況を以前から好意的にとらえてはいた。喋る"モノ"が二体に増えただけだ。

「じゃあ、今度からは冠衣が喋るとき間田に憑依して喋ってくれ。憑依されると意外と大変なんだよ、自分の意志に反して体動かされるの」

「ちょ、マスター!?」

「やはり有機物は愚かだな。冠衣、私と手を組みこの人間を支配下に置かないか?」

「バカだね、口以外動かせないあんたと組むわけないでしょ」

「仲良くしろよー、無機物どうし」

 こうして、奇妙な共同生活に新たなメンバーが加わった。

 

 

 第二章 ~仮面戦士~

 

 男が黙々と、店に運び込まれた商品を陳列棚に並べていく。段ボールいっぱいに詰まっているのは、防弾ベストやトンファー、スタンガン……どれも護身用の装備。

 ここは都内にひっそりと佇む、防犯グッズの専門店。他にも、特殊警棒や催涙スプレー、変わりモノとしては手裏剣までも扱っている。

 基本的な業務は品出しと問屋とのやり取り、そしてレジ担当だが、

「いらっしゃいませ」

 やってきた客に愛想よく挨拶。希望があれば、試しに持ってみたりすることも可能なため、近くで様子を見守ることもある。

「試しに投げてみても?」

 大学生くらいの男性客が試用スペースから声をかけてくる。

「構いませんよ」

 客は的に向かって手裏剣を投げる。もちろん、最初はあらぬ方向に向かってしまい……

「おっと」

 普段は、陳列棚や壁に当たってしまうそれを、男はなぜかキャッチしていた。

「……?」

 身体が自然と手裏剣を追いかけ、まるで吸い込まれるように自身の手に収めた。

「すいません! しかし……す、凄いですね」

 客も目の前で起きた光景にあっけにとられている。

「ああ、まあ、慣れてますので」

 男はなんとか誤魔化し、「こういう事故も起こり得ますので、防弾ベストもいかがですか?」

 セールストークも欠かさない。

 

 

 職場である店舗からアパートへの帰り際、男は以前冠衣と話していたことを思い出した。

 

「間田は俺を支配したいと言ってたけど……お前の望みってなんだ?」

「わたしの望みかー……今のところは、ネット活動で有名になる! かな」

「なんだかみみっちいな、せっかく喋る仮面なのに」

「そういうマスターは?」

「俺の望みなあ……最高の仮面を作りたいっていう夢はあったけど、それこそ喋る仮面が出来てしまったからな……」

 

 俺の夢……

 俺は超人的な力に目覚めたかもしれない……

「スーパーヒーロー、目指しちゃうか~」

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