前回「ヤケクソうさ子」の続きです
うさ子がその日家を出ると、突然彼女の頬を刃物がかすった。
「!!」
すかさず体勢を低くし、追撃に備える。すると狙いすましたかのように別軌道で追撃が来る。
うさ子は投擲武器として常備している釘を投げつけ、放物線を描く飛来物を打ち落とす。
物陰に隠れ、周囲をうかがう。死角に入ったのか、次の襲撃はやってこない。
先ほど飛んできた2つの刃物はいずれも、鎌だった。その刃渡りは30cmはあるだろうか。農作業用のものと比べると大きい。
次に敵の姿を探す。うさ子はそこで背後に気配を感じ、とっさに振り向きナイフを抜刀!
しかしそれも鎌に阻まれる!
そこでうさ子が目にしたのは、巨大なカマキリ! それも、2足歩行で鎌を手に持っている! カマキリ人間だ!
「なんなんだ、お前は!?」
「俺か? 俺はな……」
だが、うさ子の意識はすでに途切れかけ、敵の言葉を最後まで聞くことはかなわなかった……。
ガシャン!
物音にうさ子は目を覚ました。
寝覚めが悪い。それもそのはず、うさ子は独房のような石の床に手錠と足枷を付けられて転がされていたのだ。
「あれ……。わたしは確か……!? いてて」
うさ子はカマキリ怪人に襲われたあとの記憶が無かった。混乱する記憶を整理し、どこかしらに連れてこられたのだと理解した。
すると、すぐ後ろから物音がした。
「誰っ!!」
うさ子は手足を封じられながらも、下半身を大きくそらして床にたたきつけ、瞬時に後ろを向く。そこには、同じように手足を封じられた少女がいた。
「あなたは……?」
「私? 私は11子。あなたこそ、誰」
「あ、わたしはうさ子。ヤケクソうさ子」
「へー。変な名前」
「あなたのほうが変な名前だよ。なに、11って」
そう聞いたうさ子に少女は、顔色一つ変えずに答える。
「製造番号」
少女は明らかに通常の人間とは違っていた。
体のいたるところが変形し、いびつな突起が発現している。右手は肥大化し、巨大なシャチの歯のようなものがいくつも並んでいる。
「番号……?」
「じゃあ、まずこの施設から説明しよっか。この施設は、藤野財団の研究所」
「藤野財団って……」
うさ子は普段コマーシャルや広告でよく聞く大企業を思い出した。
「あの藤野工業と関係ある?」
「藤野工業は財団も運営していて、そっちで隠したい事業を行っている」
「隠したい事業?」
「私みたいな、改造人間を作りたいんだって。表向きは、医療の研究としてだけどね」
うさ子は改造人間という言葉に思い当たる節があった。
以前うさ子は、体にかまぼこ状のパーツやタイヤのついたいびつな男と遭遇した。殺人を犯し市民を悲しませたその男の様子はしかし、尋常ではなかった。
うさ子がその男について聞くと、11子は頷いた。
「その男は改造人間5号・ロンリーウルフ・ジョーだね。家を焼かれて、妹も殺されて。最後は頭がおかしくなっちゃったみたい」
「そうか、それで……」
うさ子は彼の最後の様子を思い出した。妹の仇を討とうとし、だが自分の前に立っているのが誰かもわからない状態になっていた狂った男。
「あの人も、被害者だったんだ」
うさ子は以前から気になっていた疑問を思い出した。
「その時、ロンリーウルフ・ジョーと一緒に現れた怪物たちがいて、みんなそれぞれの場所を守って殺人をしていたんだけど……もしかしてそいつらも?」
「ああ、それなら最近施設からいなくなった奴らかな? たぶん、1号・殺人ヒルと3号・人肉吸収犬だね」
「うん! わたしが見たの、そんな感じだった! でも、そいつらも改造人間なの?」
「う~ん、最初は動物実験から始めていたみたいだから。製造番号が古い順に作られたんだけど、3号の犬までは人間は入っていないはずだよ」
「あなたも、何かの動物と?」
「そう。私はシャチと融合させられた。あなたは? ウサギ?」
「あ、違うの。わたしは別の星の生まれで……」
「別の星? 宇宙人ってこと? ウッソだあ」
「でも、どうして11子ちゃんはここに閉じ込められてるの? 私はたぶん、ジョーやヒル、犬を倒したからだけど……」
「私は藤野財団にさらわれてきて改造されたけど、もともと孤児だったから家族もいないし、ジョーみたいに頭がおかしくなったりしなかった。でも、やる気も特にないんだよね。だから上も持て余してるんだと思う」
「確かに……目的はよくわからないけど、悪いことには間違いなさそうだしね……あ、そういえば、ここってどこなの?」
「ん? 三重の山奥だよ。正確な位置は外に出ないと分からないけど」
「改造人間は、11子以外に何人?」
「1人と2匹うさ子が殺して、2人は脱走、2機は停止中……あと、実験中に1匹死んだから、ひいふう、あれ、二人しかいない」
うさ子はいままでの内容を頭の中で整理した。
うさ子は改造人間たちを倒し、藤野財団に監禁された。やる気のない改造人間11子。
財団は誘拐や殺人を行う悪の組織。敵の改造人間は2人。
うさ子は隠していたナイフで拘束を切り落とした。
「11子ちゃん、ここから出てわたしと一緒に行こうよ」
「……いいね、面白そう」
頑丈な11子の拘束を外し、11子の巨大な腕で鉄格子を破壊。二人は長い廊下に出た。
「この先の案内頼めるかな!?」
「いいよ。でも、少なくともあんたをさらったやつは絶対かぎつけてくる。だから、そいつとの戦いは避けられない」
「確か、カマキリ人間だよね」
駆け足で進みながらも情報共有を行う。
「そう。奴は改造人間7号・デススパイラル・マイケル。カマキリと融合したエリート改造人間。六本の腕で鎌を投げてくるのが厄介」
うさ子は現在ナイフ以外の武器を持っていない。11子がいるとはいえ、彼女は戦闘の経験はほとんどないという。
できればエリートであるカマキリ人間との戦闘は避けたいところだが……。
うさ子たちは一つ上の階に来た。11子によると地下2階のようだ。
壁側にガラス張りの部屋があり、そのいくつかは空になっている。
「ここは改造人間たちの部屋。気を付けて。ここには生命の縫合者がいる」
「さっき言ってた二人のうちの一人?」
11子は頷き、奥の一部屋を指さす。そこには、少女の頭部に巨大な三本の針、異形の生物の肉体を持った生物の姿。その目は虚ろで、どこか空中をぼーっと眺めている。
「あの子は制御不能。あそこにいれば大人しいままだから、今は構わない方がいい」
生命の縫合者の部屋を静かに通り過ぎると、巨大な緑色のロボットのしまわれている部屋が。
「これも改造人間?」
「それはもうほとんど機械ね」
「仲間にして連れて行こうよ!」
「名前みなさい、(仮)ってかいてある。制御できなかったら大変」
「じゃあ、その隣のは!?」
見ると隣にも、今度は山吹色のロボットが。
「あのねえ、うさ子は機械に強いの?」
「えっと、Excelも苦手……」
「じゃあやめときましょ」
結局、ロボット二体もスルーし上の階にやってきた。
「ほら、もたもたしてたからもう来てる」
「え?」
見ると、黒スーツに身を包んだカマキリ人間の姿。
その口からは、キシャシャシャと奇妙な音が響いている。
「構えて!」
「うん!」
「俺は残念だよ、11子。お前は俺と同じエリート改造人間になれるポテンシャルがあったのに、な!」
ドンッと音がして次の瞬間、うさ子の後ろに回り込まれている!
「そこだ!」
最初に対峙したとき、うさ子はおそらくガスか何かを嗅がされて昏倒した……。そして、その時も背後に回り込まれていた。それは奴の得意戦法である可能性が高い!
11子は事前にそれを聞かされており、うさ子と打ち合わせをしていた。
11子の右の大腕と、うさ子のナイフが左右から同時にカマキリ人間を狙う!
だが、カマキリ人間もただではやられない! 彼の最大の武器である六本の腕を的確に使い、二人の攻撃をさばきにかかる!
うさ子のナイフを二本の腕で正確にいなし、もう一本でうさ子の頭を叩きに行く!
だが!
シャチの大顎かと見まがうほどの強大な11子の腕が、迎撃するもう三本の腕を丸ごと咬み砕く!
「グギャァぁぁ!!!」
激痛に叫び、ロックされた腕がほどかれたうさ子!
そのまま一直線に、そして的確にカマキリ人間の喉元を切り裂く!
血飛沫を勢いよく吹き出し、死亡!
「急ごう、うさ子!」
11子が急かす。それもそのはず。カマキリ人間との対決中に、すでにサイレンが鳴り響いている!
「11子! こっち!」
1階まで上がった二人。出口に向かう11子を呼び止め、うさ子は壁を指さす。
「ここを壊して脱出しよう!」
「そうね、そのほうが速いッ」
振りかぶって放つ超重量のパンチはいとも容易く壁をぶち抜き、外の森への道が開いた。
「いこう、11子! この先は自由だよ!」
「うさ子……。ありがとう」
二人は、この広い世界に飛び出した。
つづく
補足(元ネタ)
デススパイラル・マイケル(カマキリ怪人)…pixiv第42回より
11子…Youtube配信【ヤケうさ定期便「みんなの好き要素をあつめて最強のかわいいキャラをつくろうの回」】及びpixiv第170回より
生命の縫合者…pixiv第141回より
●藤野財団・改造人間一覧
1 殺人ヒル(死亡)
2 ■■■■■■■■■■■■■■■
3 人肉吸収犬(死亡)
4 生命の縫合者
5 ロンリーウルフ・ジョー(死亡)
6 ■■■■■■■■(脱走)
7 デススパイラル・マイケル(死亡)
8 ■(脱走)
9 ■■■■ー■■ー■(仮)
10 ■ー■■
11 11子(じゅういちこ)(脱走)
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