チルドレンズ   作:晩舞龍

40 / 44
レザーマスク・オリジン 中編

 第三章 ~ヒーローの条件~

 

 2023年3月、とある映画が公開された。

 劇場版「つむりん生誕」

 

 4月上旬。都内。

 矢季とその上司・霧崎は、遅れながらもそれを鑑賞しに映画館へと赴いた。

 二人は、自衛隊内の独立組織「巨大害獣殲滅班」に所属するメンバーであり、任務の一環映画の内容を秘密裏に"調査"したのだ。極秘の任務であるため、関係筋を頼ってフィルムを借りるのではなく、こうして一般人に紛れ込み通常通りの映画鑑賞という体裁をとっている。もちろん二人とも私服だ。

(これが例の、"黄金の果実"を食べたという監督の作品ですか)

(ああ。不定期に出店しては、怪しげな果実を売りつけて人の暴力性を煽る、それが「玲瑠璃(れるり)印の夢のりんご」らしい)

(しかし、自衛隊で手に負えない巨大生物・異星人事案ならまだしも、警察がお手上げの難事件まで巨大害獣殲滅班に回されてくるなんて……私たちは便利屋ではないんですけどねぇ)

 ぼやく矢季。霧崎は購入していたパンフレットに目を通しながら(調査のためネタバレをまったく気にしていない)矢季に応える。

(まあメラノ星人以降、巨大生物や宇宙人の出現報告はないからなぁ。イナリマンの存在が良い牽制になってるのかもしれん。那須君に感謝だな)

 

 上映後、映画館併設のカフェ。

「問題なさそうでしたね」

「ああ。自身の衝動をうまく作品に昇華したようだな。観客への被害もないし、制作現場でのトラブルも報告されていない」

「じゃあ、この件については一件落着ですか?」

「そう言いたいところなんだが……もう一人、「夢のりんご」をつかまされた奴がいるようだ」

 霧崎がカフェのテーブルに調査資料を広げる。もちろん、二人は盗み見を防止するため最奥のボックス席に陣取っている。

 資料に載っているのはこれといった特徴のない青年だ。彫りが深く、ややハンサムな顔立ちに、黒縁眼鏡。体格はがっちりとしており、職業である防犯グッズ専門店の店員が影響しているのか。名前は……

「瀬暮芽琉(める)

 

 同日、都内。瀬暮芽琉の自宅アパート。

 男……瀬暮芽琉は、自身が「夢のりんご」の力で生み出した喋る仮面「瀬暮冠衣」と喋るマネキン「サーフィス間田」に、昨日の顛末について話した。

 内容はこうだ。自身の勤める防犯グッズ専門店の店舗内で、あわや事故という場面……芽琉の超人的な反射能力によって事なきを得た。

「こんな力、今まで無かったんだよ。これもりんごの力かな」

「おそらくそうでしょうね」

 冠衣はさらりと言い、さらに問う。

「マスター、その力どう使います?」

 それについては冠衣に言われるまでもなく芽琉も考えてはいた。彼には今現在夢が無い状態だった。そのため、この力を使って何かを為したいという強い欲望はない。

 ただ、漠然とした願望はあった。

「スーパーヒーローになりたいっていう憧れはあるよ」

「スーパーヒーローか。面白い」

 サーフィス間田が口をはさむ。

「ヒーローに必要なものは何か知ってるか?」

「1に正義の心、2に力。違うか?」

 間田の問いに、芽琉は間髪入れず答える。

「大間違いだ、ダメダメだ」

 キッパリと否定する間田。不満げな芽琉に模範解答をぶつける。

「それは"敵"であり"悪"だ。それらが無くてはヒーローはヒーロー足りえない。お前は一体何と戦う? 俺か?」

 芽琉は言葉に詰まる。確かに、自分は何と戦えばいいのだろう。

「指名手配犯……いや、手掛かりがないか。しかし、現行犯の場に居合わせるのだって確率的にあり得ない」

「イナリマンに加勢するのだって無理だろうな。巨大生物相手じゃ、おまえはお話にならない」

 昨日まで有頂天だった気分が、一気に落ち着いてきた。

 人間、多少身体能力が超人的になったところで一人だけで為せることなどあまりにも少ない。

「わかった。もう少し、落ち着いて考えてみるよ」

 ともあれ、話し相手が二人いることで客観的に自身を整理することが出来ている。その点では、この不思議な仮面と怪しいマネキンに感謝しているのだった。ただ、時は待ってくれない。

「マスター。アパートの前に怪しい車が。中から二人降りてきます」

「そんなことも分かるの? すごいな……しかし、誰だ?」

 間、髪を入れずインターホンの音声が部屋に響く。

「我々は警察のものです……瀬暮芽琉さんはいらっしゃいますか?」

 スーツ姿の男女二人。

 芽琉は落ち着いてインターホンのカメラ越しにこう告げる。

「警察手帳を、見せてください。そうしたらお通しします」

 直後、鍵のかかっていたドアがいとも簡単に開錠され、強引に室内に入られる。

「我々は政府筋の情報機関……いえ、隠す必要もありませんか。巨大害獣殲滅班です」

「私は霧崎刃。ご同行願おう」

 芽琉は仮面――冠衣を手に取った。

 

 




登場人物紹介
霧崎刃:「巨大害獣殲滅班」所属の青年。班長の大河内を含めた3人しか所属していない、急ごしらえのチームで奮闘している。
矢季弥生:「巨大害獣殲滅班」の女性。那須とは学生時代からの知り合い。特技は写真術。
那須藤高:イナリマンに変身する青年。「巨大害獣殲滅班」に協力する。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。