チルドレンズ   作:晩舞龍

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シアター 第二幕

 3/翔虎

 

 素体となる昆虫を改造し、人間型の肉体へと拡張させることで誕生する生体兵器……昆虫拡張人型生物・インセノイド。

 研究の方向性が合わず退職し、その後逆恨みした部下によって送り込まれるインセノイド。それに対抗するため、由井河あきら博士はインセノイド試作機・鏡花を作成。

 ナノマシンによる超高精細バトルスーツと、改造元となったタガメの能力で陸海空すべての敵に対応可能な彼女は、送り込まれたケブカオウサマグモのインセノイド・"蜘蛛"とトノサマバッタのインセノイド・"那弥"を撃破。

 次なる標的を倒しに向かう。

 

 由井河博士と鏡花の二人は、最初に鏡花を改造していた山中の廃工場に戻ってきた。

 辺りは木々に囲まれ、鏡花は罠や待ち伏せを警戒しながら建物に歩を進める。

「よし。異常はないよ」

「次のインセノイドの資料だ。目を通しておけ」

「博士は?」

「二体目に取り掛かる」

 そう言うと、由井河は何らかの昆虫のサンプルを持って最初に鏡花が目覚めた部屋へ入っていった。

 

 博士がまとめた資料によると、次のターゲットは昆虫拡張人型生物インセノイドNo.3、翔虎(ととら)

 羅喩弥《らゆや》モデル第一号機で、素体はカマキリ。

 武器は両腕の鎌と、展開し捕食対象の圧縮が可能な大顎。

 特に、両手の鎌は鏡花の前肢に勝るとも劣らないリーチだ。

(こちらからは相手の不利な空中戦か海中戦を仕掛けるのが得策)

 早速戦闘時のプランを練り始める。敵は主に人気の少ない路地裏を好んで徘徊しているようで、水中で戦うプランは現実的ではない。

 ならば、建物の間を縫って飛行しながらヒットアンドアウェイで攻める。

 

 奥の部屋から博士が声をかける。

「今回は場所が場所だ。二体目の準備もあるし、悪いが一人で行ってきてくれ」

「分かった」

 外に出る。時間は午後。まだ明るい時間帯だ。

 十字に腕を組み、変形。

 

 敵の潜伏する市街地まで20km。山中を飛行して一気に突っ切る。

 到着するとそこは、いわゆるシャッター街状態となったアーケード。出歩く人は平日の日中とはいえ、ほとんどない。そんな中、一本外れた細い路地から異様な気配を感じる。

 すぐさま跳躍し、アーケードの屋根へと飛び移る。同時に、斬撃。余波は屋根の上までびりびりと伝わってくる。

「わたしは鏡花。あなたが翔虎?」

 現れた女がただ頷く。大きな複眼、尾のように生えた昆虫型の腹部。そして頭部から生えた触角、彼女がインセノイドなのは明らかだった。それを見て、鏡花は敵の死角に飛び掛かり腕を振るう。

 当然、初太刀は腕の大鎌に防がれ、弾かれる。しかし、それは読んでいた。すかさず着地、同時に体勢を低くし、今度は足元から上へと切り上げる。敵の上半身が袈裟斬りにより断たれる。

(よし!)

 上半身が斜めに分断されては、さすがのインセノイドも命を保てない……だが、翔虎の体の中に詰まっていたのは彼女の臓器だけではなかった。

「あら。さすがは蜘蛛と那弥を倒しただけあるわね」

「!?」

 なんだ、これは。翔虎の臓器の合間を縫って、上半身の切断面から"頭"が這い出てきた。

 これが、本体? データには無かった、しかし慌てるな! 

 自分を叱咤しながら鏡花はバックステップで距離をとり、冷静に相手を観察する。

 確実に翔虎の体は生体機能を終えている。しかし、先ほども会話を交わしたわけではない。中に入っていた"頭"が操っていた? だとしたら、翔虎は最初から生きてなどいない。敵は、死体というマネキンを操る……

「あなたもインセノイド?」

 頭に続いて、ケーブルのように細い胴体と腕が現れる。頭だけが普通の人間と同じ姿なだけに、異様さが際立つ。

「ご明察。私は波那(なみな)……ハリガネムシのインセノイドよ。普段は宿主のインセノイドの体内で暮らしているのだけれど……やっぱり自分の体が一番動きやすいわ」

 瞬時に波那の姿が消える。

「ねッ!!」

 後ろから声。反射的に屋根に飛び、その攻撃をかわす。

(背後に回られたことに気づけなかった……!!)

 相手の持ち札が全く分からないこの状況はまずい……そう考え、鏡花は全力で飛行し逃亡を図る。

 だが、足を掴まれ、地面に叩きつけられてしまう。

「ぐぁっ!」

「私の体は伸縮自在。そう簡単に逃げられると思わないことね」

 

 

 4/波那

 

銀子(ぎんこ)。起きろ、お前の姉が死にそうだ」

 飛び起きた。視界は良好。意識も問題なし。瞬時に把握する。僕はベッドに寝ていたようで、目の前には母・由井河あきら博士。

「僕の名前は由井河銀子。由井河あきら博士に作られたギンヤンマ型インセノイド。これより姉・由井河鏡花の救出に向かいます」

「苗字を名乗る許可を出した覚えは無いが……まあいい、頼んだぞ」

 腕を十字に組むと、背部から2mにもなる巨大な翅が展開。解放されていたドアをくぐり抜け、大空へと飛び立つ。その速度、時速にして100km。

 

 

 鋼の如く硬き、波那の腕は鏡花の足を絡みとって離れない。それどころか、引きちぎる勢いで締め上げてくる。

 鏡花の強靭な前肢をもってしても引きはがせず、切断も叶わない。

「このままじゃ……!」

 鏡花が自身の足を切り落とそうとしたその時、空気の刃をまき散らしながら何かが通り過ぎた。

 それは、高速で空気を裂きながら波那の頭部に膝蹴りを決めた。

「また、知らないインセノイド……」

「助けに来たよ、お姉ちゃん」

 

 いつの間にか、足を掴んでいた波那の腕は解けていた。

 目の前には、鏡花とよく似たバイザーを付けたインセノイドの少女。先ほど波那を攻撃したところから、鏡花は自分が助けてもらったのだと理解する。

「貴方は一体だれ?」

「僕は由井河博士に作られた二体目のインセノイド。あなたの妹、銀子。よろしくね、お姉ちゃん」

 確かに、バイザー以外にも所々の容姿に鏡花との共通点がある。だが、まず目を引くのはその背中から生える大きな翅だ。

「僕はギンヤンマのインセノイドだから、奴にとは相性がいいと思う。お姉ちゃんは下がってて」

 そう言うと、銀子は駆けっこの前のようなポーズから一瞬で姿を消す。

 鏡花の目の追い付かないスピードで波那に突撃し、鏡花はその衝撃音で起こったことを知る。

 波那は伸縮自在の両腕と体でなんとか銀子を捕えようとするも、目にも止まらぬ速さでヒットアンドアウェイを繰り返す銀子に追いつくことはできず、次第に防戦一方になっていく。

(今だ!)

 鏡花への注目が逸れたタイミングで、波那の背後を奪った鏡花。瞬時に躊躇いなく、決定打に欠ける銀子に代わってその首を刎ねる! 

「獲った! 私たち姉妹の勝ちだ!」

「フゥー疲れた……やったねお姉ちゃん」

 汗だくの銀子が倒れこむのを抱きとめ、鏡花は夕日に照らされるアーケードを後にした。

 

 残るインセノイドは、あと4体。

 

 

 




なみな 波那
ハリガネムシ
No.00

らゆゃととら 翔虎
カマキリ
No.03

キングクモ 蜘蛛
ケブカオウサマグモ
No.06

らゆゃなゃー 那弥
トノサマバッタ
No.07
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