チルドレンズ   作:晩舞龍

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イナリマン#5 さらばイナリマンよ!イナリハーンよ!

 トンア星人リーアは確実にこの星を蝕み始めている……

 彼らトンア星人の強さは、水面下でことを進め、確実に勝利できる条件に場を整えることにある。

「エニマちゃん?」

 

 霧ヶ峰エニマは顔を上げた。長い金髪がふわりと揺れる。

 声をかけたのは、彼女の同級生である源頼子。

 その手には、数冊の書籍が抱えられていた。

「これでよかったかなぁ」

 研究室の卓上にドンと置かれたそれらを、エニマは早速検分する。

 太古より日本に残る、九尾の狐の逸話。それらを紐解けば、イナリマンの秘密、ひいては自分……ガミネに力を与えた金色の光について何かわかるかもしれない。

(イナリマンという弱体化をしてまで、私を救ってくれた九尾の狐。ならば、彼に報いるのが私にできる勇逸の恩返しだ)

 しかし、時は彼女を待ってはくれない。

「エニマちゃん、これ!」

 頼子の持つ携帯端末に表示されていたのは、最新のニュース速報。

 そこには、新たな巨大害獣が出現したとの報。

「急がないと……今、トンア星人が来たらまずい!」

 

 

 市街地に現れた二体の巨大な猫。

(灰色の猫は小宇宙猫 第参号機・キャスマム。橙色の方は第肆号機ウァーニャ。どちらも、壱・弐号機を倒した私たちを倒すために送り込まれてきたようです)

「やれやれ……ちゃちゃっとビームで倒しちまおう」

(待ちなさい、熱線には30分の再充填が必要なのを忘れたのですか。もし立て続けに敵が来たことを考え、ここはまず肉弾戦で仕留めましょう)

「わーったよ、狐! 行くぞ!」

 那須藤高は頭に差したかんざし型の棒を取り出す。赤いそれが淡く光を放ち……

 閃光、轟音、爆風。

 イナリマン、顕現。

 

 飛び掛かる二体の猫をひらりとかわし、すれ違いざまに音速の手刀を繰り出す。

「ガにゃーッ!?」

 それは真空の刃を生み出し、キャスマムの首を落とす。逃げ出したウァーニャめがけて両足を振りぬき、幅跳びの容量で突撃したイナリマンはそのまま敵の体を貫通した。

 

「片付いたな」

 那須が見下ろすと、現場に駆け付けた霧崎と矢季が手を振っていた。

 人間の姿に戻ろうとした那須に、狐が待ったをかける。

(なにか、嫌な予感がします。それも遥か上空から)

 空に顔を向けよく観察すると、曇天が晴れ、しかしそこに青空は無く。

 

「なんだ? 生き物の……毛皮?」

 空一面に、何らかの生き物の黒い体毛のようなものが蠢く。

(いや、これは……先ほどの猫どもの親玉です!)

 ぎょろり、と太陽よりも大きく見える巨大な目が大空の皮膚の上に開いた。

「マジか……!? いくら何でもサイズが違いすぎだろう!?」

(惑星級の大きさを持つ超弩級大宇宙猫・ユニキャット!)

 

 ユニキャットの声が、直接脳に叩きつけられる。

 ―我が名はmeme縺ゥ繧―地球人類はアカシックレコードに不要哉―

 

「狐、次こそ出し惜しみは無しだぜ」

(わかっています!)

 イナリマンの輝く青い瞳から光があふれ、そして同様の光が腕からもあふれ出る。

「しかし、本当にやれるのか!?」

(出来る出来ないではなく……やるのです!)

 腕を組み、そこから光の熱線を放つ! 同時に、両目からも熱線! 

 上空数千mから、惑星ほどの巨体で見下ろす巨大猫に、高々60mのイナリマンが放った小さな光線がぶつけられる。

 

「やっぱ無理じゃねえかなぁ!?」

(いや。見なさい、あれを!)

 狐が指し示したのは、巨大猫のもつ単眼。それが瞬きをし、大きく位置を変えるも、イナリマンから放たれる三本の光線は執拗に追い続ける! 

(奴の弱点である目に攻撃を集中しています! いずれ奴は限界を迎える!)

「しかし、このままじゃ長く持たないぞ!」

 

 その時。イナリマンの放つ熱線へと単眼を誘い込むように、波状攻撃が開始された! 

「これは、いったい……!?」

(見なさい、自衛隊とやらの戦闘機です)

「そうか! これなら……」

 逃げ場を失った巨大な一つ目が、ついにイナリマンの放つ三つの熱線に曝される。瞼を閉じ、瞳はその攻撃に抵抗する。

 ―我のアカシックレコードの編纂を邪魔する知的生命体……その傲慢さ、いつか身を滅ぼすぞ―

 

 巨大猫の声が脳内に響いたその刹那、空は普段と変わらぬ様相を取り戻していた。

「消えた」

(ええ……これでしばらくは地球に寄り付かないでしょう。このままあきらめてくれると良いのですが)

 

 

 その激戦を遠くから見ていた、ひとりの女性。

「光の熱線は使い果たし、疲労困憊のようだナァ」

 その手には、トリガーの付いた拳銃型の機械。銃口を自身の胸に向け、トリガーを引く。彼女……理亜、トンア星人リーアの持つ遺伝子が活性化を起こし、地球人類を模したその姿から本来の姿へと戻っていく。

 全身がメタリックな紺碧の西洋甲冑の如き、トンア星人の巨体がイナリマンの立つビル街に顕現する。

 

「初めまして。そしてさらば、イナリマンよ」

 

 蒼き甲冑の巨人。その腕部から刃物が伸びる。それを振りかぶり、既に現界を維持するのも精一杯なイナリマンに向けて斬りかかる。

 

(これは……まずい!)

「もう限界だぞ!」

 

 

「待て!!!」

 

 そこに駆け付ける、金髪の少女。霧ヶ峰エニマ。彼女の体に宿るは、狐より託された、金色の光。

「貴方にできるのなら、力を分け与えられた私にもできるはずだ。この力で、貴方に恩返しを」

 胸の内より淡く光が放たれ、彼女の体は宙へと舞い上がり……

 閃光、轟音、爆風。

 

 金色のオーラとともに、第二のイナリマン……イナリハーン、顕現。

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