チルドレンズ   作:晩舞龍

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チルドレンズ

姫寺まつこの家 2022

 

 

 ピンポーン。

 

「うわ、タイミング悪いなあ。未来予知ってこれじゃないよね?」

「……」

 ぽここは黙って、我が家のドアをにらみつけている。

 すると、ドアの向こう、チャイムを押した人物がノックをし、声をかけてくる。

 

 コン、コン

「こんにちわ~。大宇宙倫理の会で~す」

 

「ぽここ。これって……?」

「ちょっと待っててぽこ」

 

 ぽここがまつこを制し、玄関のドアを開ける。

 そこに立っていたのは、紫のロングヘアにヨレヨレの服を着た怪しい女。

「あ、どうも~。大宇宙倫理の会の魂川りんりです~」

 そう言って、いかにもという感じの怪しい冊子を手渡してくる。宗教勧誘のようだ。それにしては、見た目が奇抜で怪しすぎる気もするが……。

 ぽここはそれを受け取り、まつこに手渡す。

 まつこはパラパラと内容を読むが、やはり胡散臭い。と、

「あ、これ……」

(やべっ)

 その内容に、思わず声が出てしまう。

 ────生命の死後、魂(アストラル体)のみとなった私たちは────

 以前まつこは、同じようなフレーズをぽここから聞いていた。

 宗教団体の突飛な発想だが、案外宇宙の真理をついているのかもしれない……そこまで考えが至ったところで、意識は現実に戻ってきた。

 ぽここが適当にあしらって魂川という女性を帰したところだった。

「その本がどうかしたぽこ?」

「ううん、なんでも」

 そして先ほどの勧誘について聞いてみる。

 

「さっきの人はただの偶然? それとも……」

「うん、いやな予想的中ぽこ」

 

 

 話を聞くこと十数分。

 ぽここの未来予知によると、先ほどの魂川りんりという女性は宗教団体「大宇宙倫理の会」の教祖。

 その団体は霊感商法・詐欺に加え、サイボーグなる存在に関する事業も始めているらしい。

 やがて来る2045年、サイボーグ事業によって莫大な資金を得たとして、サイボーグ本人(?)の逆鱗に触れてしまうという。

「サイボーグってなに?」

「この星には、人間の知らない不思議な生き物がまだまだいっぱいいるんだぽこよ」

 とのこと。

 とにもかくにも、大宇宙倫理の会のせいで、サイボーグたちの人間への印象が非常に悪くなってしまうらしい。もちろん、環境破壊など別の原因もあるだろうが。

「少なくとも、あの人たちが悪さをしなければ普通の人間は未来でも平和に暮らせるはずぽこ! それが、大虐殺の未来に変わってしまうぽこ! あの魂川さんもサイボーグに殺されちゃうぽこ……」

「おいおい、物騒な話になってきたなあ。どうするの?」

「もちろん、お話してやめるよう言うぽこ!」

「無理だと思うけどなあ……」

 

 

 

大宇宙倫理の会 事務所 2022

 

「あなたが宇宙人? 未来でわたしが死ぬ? まさか!」

 宗教勧誘を断ってしまったこともあり、魂川りんりはまつこたちの話をあまり真剣に聞いてくれてはいないようだ。

 すると、大宇宙倫理の会の関係者らしき桃髪糸目の女が突然話に割り込んでくる。

「りんりさん、私からもお願いします……もうやめましょうよ悪いことは」

「メリー? 急にどうしたの」

 どうやら内輪もめのようだ。まつことぽここは黙ってその場を見守る。

「この人たちの言うことは本当です! 私にはわかるんです!」

「未来を見てきたわけでもないのに」

 まずい。魂川の機嫌が悪くなってきた。

 ぽここが素早く立ち上がり、腕を交差させる。

 魂川が不思議そうに見上げる。

「なにか?」

「ミスティックシールド! ぽこ!」

 両腕をスナップさせると、ぽここの両手のひらに高温プラズマのシールドが構成される! 

「これで信じてもらえるぽこ!?」

「そんなこともできたのか……」

 まつこも初めて見る能力だ。

 だが、魂川は全く動じていない。

「わたしは商品のブレスレットやモノリス、それにブレスレットにもプラズマ加工を施しているんだ。そんなちゃちなマジックじゃ騙されないよ」

 そう言うと、まつことぽぽこの二人を追い出した。

 

 

 

 

「プラズマ加工は低温プラズマ! ぽここのは高温プラズマだから別物ぽこ~!」

 怒るぽここと共に帰路につくまつこ。

「まあまあ、あの調子じゃいくらやっても聞き流されてただろ。なにか別の方法を考えよう」

 言いながらまつこは、一つの考えを思いついた。

「……あ」

「どうしたぽこ?」

「この前さあ、タイムマシン出してたよな……あれって本物?」

 

 

 

姫寺まつこの家 2022

 

 

 二人はまつこの提案について話し合いながら帰宅した。

 まつこが思いついたアイデアはこうだ。

 まず、魂川りんりの説得は不可能。そこで、タイムマシンを使って未来、それも死ぬ直前の彼女を連れてくる。そして、過去の自分を説得させる。

「これなら、なんていうか……時空犯罪? にはならなそうじゃないか?」

「確かに、未来予知だと大宇宙倫理の会は火の海に包まれて壊滅してるっぽいぽこ。だから、バレないようにさらってくれば、きっと大丈夫ぽこ!」

「言い出しといてなんだけど、時空警察とかにつかまったりしない? 大丈夫?」

「ぽここの経験上だと、分岐してパラレルワールドが発生するけど、少なくともこの宇宙は大丈夫ぽこ!」

「ちょっと心配だな……でも、このままだと人類滅びるかもしれないんだもんな、やるだけやってみるか」

「まつぽこ! タイムマシンの定員は二人ぽこ! だからお姉ちゃんはここで待ってるぽこ」

 ぽここは手のひらからオーラを出し、UFO型のタイムマシンを出現させる。

「大丈夫?」

「未来予知で、まつこお姉ちゃんの笑顔が見えたぽこ! だから大丈夫に決まってるぽこ!」

 搭乗し、ガチャガチャと計器をいじるぽここ。すると周囲の空間が怪しげに歪み、次の瞬間にはUFOごと消えていた。

 

 

「なんか、夢みたいだ」

 あっという間の出来事に呆然としながら、まつこは自身の頬をつねった。

 

 

 

 

 

大宇宙倫理の会 教会 2045

 

「メリー! どこに行く! メリー!!!」

 メリーは、荷物をまとめて教会から避難してしまった。

 出かけたままのめろじゅーが心配だ。彼女が戻るまで、ここを離れるわけにはいかない。そう考えていると家具でふさいでいたドアが勢いよく開け放たれた。

 しかし、そこに立っていたのはサイボーグではなかった。

 サイボーグの如く奇抜な恰好をし、その腕には迷子のめろじゅーを抱えていた。

 りんりとは面識のないはずのその少女は開口一番にこう叫んだ。

 

「急いで! タイムマシンで逃げるぽこ!」

「……ぽこ?」

 

 めろじゅーを連れて来たその少女は、凸星ぽここと名乗った。なんでも、宇宙人らしい。

 今、りんりを連れてタイムマシンに搭乗している。

「これ、何!?」

「タイムマシンぽこ! 定員は二人だけど、そこのちっちゃいメロンジュースちゃんも乗れるぽこ!」

 めろじゅーを後ろの荷物スペースに入れ、三人を乗せたタイムマシンが発進する。

「メリー……無事だろうか」

 

 そしてタイムマシンは、再び時空移動を始める。上空は紫、地面は青という不思議な空間を通り抜け、過去へと向かっていく。

「それで、わたしは全く状況が読み込めていないのだが、これは……」

「話すと長くなるぽこ。むかし、別の世界「マカロニアン」に行ったとき……」

「その話でホントに合ってる?」

「おっと。間違えたぽこ」

 

 

 そしてぽここは、2022年で起こったことを話した。

「なるほどね……昔のわたしが迷惑かけた。すまない」

「全然いいぽこ。ちょっとむかついたけど」

「あの頃のわたし、調子乗ってるだろうからなぁ……ん?」

 りんりの頭に疑問が浮かぶ。

「そういえば、2045年のわたしはたぶんどのみち焼死体だからいいけど、このままだと2022年にわたしが二人いることにならない?」

「そうぽこね。でも大丈夫。まず、あなたの頭に頭突きをさせてもらうぽこ。そこのめろじゅーちゃんにも」

「???」

 

姫寺まつこの家 2022

 

「お帰り!」

「ただいまぽこ~! 無事、連れてきたぽこよ!」

「あ、どうも……」

 まつこのアパートに帰着したタイムマシンから、ぽここに続いてりんり(2045)とめろじゅー(2045)が出てくる。

「うわ! なにこの生き物! 可愛い~スゥーッ…………」

 まつこはめろじゅーを吸うのに夢中だ。

 

「早速、大宇宙倫理の会に突撃ぽこ!」

 りんりの手を引いて外に飛び出すぽここ。

「ちょ、まだ何も聞いてないんだけど!?」

「あ、待ってぽここ!」

 

 

 

大宇宙倫理の会 事務所 2022

 

「たのもー!」

 元気よくドアを蹴破り、応対に向かった桃戸メリーを押しのけ、ぽここはりんり(2022)とめろじゅー(2022)に頭突きをかます。

 

 ゴツン ゴツン

 

 続いて、何が起こっているのかわからない様子のりんり(2045)と、めろじゅー(2045)にも頭突き。

 

 ゴツン ゴツン

 

 凸凹星人の頭部には、エネルギーをアストラル界……死後の世界とつなげる力がある。この瞬間、未来と過去の二人の精神と肉体が分離した。

 

「えいっ!」

 りんり(2022)とめろじゅー(2022)の精神と、りんり(2045)とめろじゅー(2045)の肉体を、ぽここは手のひらから出現させた四次元ホールに投げ捨てる! 

 

「これで、もう一度!」

 

 ゴツン ゴツン

 

 何が何だかわからないという様子で顔を見合わせる桃戸メリーとまつこ。

「う~ん」

 りんりとめろじゅーが起き上がる。

「どゆこと?」

「簡単に言うと、同じ時代に二人いるのはまずいから、若い体に未来の精神を入れたぽこ!」

「さっき捨ててたのは?」

「四次元ぽこ! こっちの世界とは関係ないから大丈夫ぽこ!」

 

 こうして、色々と不安の残る要素はありつつも、未来の惨劇を回避する作戦は無事成功したのだった。

 

「悪いなあ、メリー……わたし改心したよ。自分の宗教観は捨てられないけどさ。悪いことはやめるよ」

「ああ、りんり……何回も転生してきて、ついに報われました……」

「?」

 

「よかった~! これで、ハッピーエンドぽこ!」

「ぽここがいなかったら、人類滅亡してるとこだったよ。本当によくやった」

「えへへ」

 

 喜びあう五人。誰にも知られない、この五人にしか共有できないことだが、彼女たちは人類を救ったのだ。

 

 

「むっ!!」

 突然ぽここが奇声をあげてぶっ倒れた。

「どうした!?」

「もしかして時空犯罪の代償!?」

「違うぽこ……これは……何者かが脳の中に侵食してきてるぽこ」

 ぽここの意識は途切れ、その声帯から全く異質な声が発せられる。

「私の……名前は……出羽、次郎子」

 そしてぽここのカラフルな髪の毛が、まっピンクに染まっていく。

 見ると、その顔もまるで別人のようにすり替わっていた。

「でじちゃんッテ、呼ンデネ」

 

 

 ぽここがこの星にやってきてから幾日か経ったころ。彼女はネットサーフィン中に、地球の文化である「アイドル」に興味を持った。そして、人気アイドル達についても知ることになった。

 その内容はこうだ。

 アイドルが増え続けていたその時代において、ファンの数は有限であり、アイドルたちはそれを奪い合うことで生き残ってきた。

 しかし、戦争は過熱し、ついに大きく2つの陣営に分かたれた。

 

 ぽここはこの時点で、争いを続けるこの業界への興味がなくなり、アニメのアイドルに興味がシフトしていくのだが……

 ここで、ぽここは知ってしまった。

 出羽次郎子。通称でじちゃんの存在を。

 

 自分を認識したすべての存在を支配下に置くことができるという"力"を持つ彼女は、あるきっかけで死亡したが、支配した相手の肉体に"侵食"できるという能力も隠し持っていた。その力で、死後も様々な人間たちに自身の存在を認識させ、狂信者カルトとして活動させているのだ。

 彼女を知ったものは、彼女に侵食される。

 ぽここは宇宙人であったためその浸食には時間がかかったが、それも今発現した。

 

 そして、この場所で彼女はぽここの体を乗っ取り、言った。

「私の……名前は……出羽、次郎子」と。

 それはすなわち、ここにいた他の四人も、出羽次郎子の存在を"知った"ということ。

 ハッピーエンドも束の間、そこにいた五人は全員、邪悪な精神体の傀儡となってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京 2022

 

「ここに、そのウイルスってやつの親玉がいるの?」

「そのはず。ウイルスの量も多いし、私のソナーも強く反応してる」

「でも、良かった~。改造人間ってウイルスにも強いんだね!」

 

 渋谷の街を、奇妙な恰好をした二人の少女が歩いていた。一人は全身桃色衣装。頭には大きなウサギのような耳。

 もう一人はまるで水生生物のような青黒い姿に、その右腕は巨大で無数の歯のようなものが生えている。

 

 アニマル星からやってきた正義の切り裂き魔・ヤケクソうさ子。

 そして、うさ子に救われ仲間となったシャチの改造人間・11子。

 

 先日、11子は精神体・出羽次郎子の攻撃を受けた。しかし、彼女は改造人間。一部が機械となった体とシャチの強靭な細胞が瞬く間に洗脳ウイルスを撃破した。

 その特性についても生体コンピューターで分析した彼女は、うさ子にそのウイルスに対し「知覚」しないように、つまり彼女の名前を出さないように説明。そして、シャチの能力と機械の体のハイブリッド能力であるソナー・アイによってウィルスの大本をたどってきたのだ。

 

「いたよ。たぶんあれ」

 冷静沈着に、11子が指さした先には、なんの変哲もないサラリーマン姿の男性が。

 おそらく、精神寄生体と最も相性が良かったために、ウィルスの親玉の宿主とされてしまったのだろう。

 

「どうすればいいのかな? ウイルスだけ引きはがせない?」

「じゃあ、超音波でやってみる」

 シャチは、イルカと同様に超音波が使え、先ほどのソナーもそれを応用した能力なのだが……

 獲物に対して集中して照射することで、相手をマヒさせることもできるのだ! 

 11子は男の脳内に住み着くウイルスの親玉に凝縮させた超音波を放つ! 

 

「出たよ」

「すごーい!」

 ソナー能力の効果で、うさ子にもそのウイルスが男の頭から外へ逃げ出すところが見えた。

「とどめはわたしがっ!」

 目にも止まらぬ早業で、ナイフが精神寄生体を切り裂く! 

 

「どう!?」

「うん、成功だ。周りの人たちからもどんどんウイルスが消えて行ってるよ!」

「よかった~!」

 

 

 

大宇宙倫理の会 事務所 2022

 

「ぽこ!?」

「よかった、何だかわからないけど戻れたみたいだ」

 まつことぽここが目を覚ます。大宇宙倫理の会の三人も一足はやく目が覚めていたようだ。

「一体何だったんでしょうね、さっきのは?」

 桃戸メリーがそう呟く。

 その問いに答えられる者はこの場にいない。しかしこのとき、離れた二つの場所で、二つの人類滅亡の危機が防がれたのだ。

 

 これから先、この地球、いや宇宙にはまだ見たこともない未曽有の脅威が訪れるかもしれない。しかし、この世界に生まれ落ちた彼女たちがいる限り、脅威は打倒されるであろう……

 

 

 

 つづく




補足(元ネタ)
原案:大宇宙倫理の会「マシーナリーチルドレン」

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