ジェシカ・マージマン、本名ジェシカ・ルート。
若干12歳にして大人の魔術師と同様のマージマンの称号を得た彼女は、世界の危機を監視する魔術師の秘密機関への所属が決まった。
マージマンたちが集まるマジカルシティは、魔術師学院と同様に超常の力で作り出された、地図上にない空間だ。
そこには魔法道具屋や魔術書店などのマージマン御用達の店舗が並ぶ街並み、そして巨大な二本の塔を備えた異様な建物がある。
こここそ、ジェシカが務めることになる機関の本拠地である。
秘密機関の名は「ワイズマン」。魔術師、通称マージマンたちはその約半分がこの「ワイズマン」に所属し、残りはジェシカの母のように魔術以外の世界で活躍しているようだ。
「ワイズマン」に所属する魔術師たちの使命は、世界に起きる魔術的な……一般の人間たちが知覚することのできない……危機を事前に察知・解析・阻止することにある。
一つ、例を挙げるとするならば。
これは、魔術師学院であれば初等部で習う常識的な内容であるが、この世界には物理的な法則のほかに魔術的な法則がある。地球に重力があるのと同じように当たり前なこととして、この地球には魔術的な重力場がある。
これはほかの星にもあり地球固有というわけではないが、様々な要因からこの地球では場の力がとりわけ強い。
それが何をもたらすのか。
魔術師学校やマジカルシティのような魔術的空間・通称マジカルゾーンを作りやすくなる、という利点がある。一方で、デメリットもあり、それは他の星と比べ魔術的なルールが厳しいということだ。
この宇宙は大前提として、時間・(三次元)空間・四次元・並行世界との境界・霊界の五つに分けることができるのだが。
魔術を空間に作用させるマジカルゾーンやそのまま利用する元素魔術など、五分類でいう(三次元)空間には重力場の影響がプラスに作用する。
それ以外の時間・四次元・並行世界との境界・霊界……これらに作用する魔術は用いるのがほかの惑星に比べ非常に難しく、大惨事になりかねない。
これは一般世界(ここでは、魔術師の存在を知らない一般人たちの世界を区別して言う)にも少なからず影響しており、アニマル星人の超時間ロケットや凸凹星人のタイム・マシンなどに比べ地球人の技術力が劣っていることに繋がっている(なお、凸凹星では魔術の存在が秘匿されておらず、その影響も少なからずあるものと思われるが)
宇宙人の名前が挙がったので補足すると、これらの存在は一般世界ではほとんど認知されていないが、魔術世界ではすでに広く知れ渡っている。それもそのはず、今まで一般世界でUMAやUFOとされてきたものは、まだ一般世界には過ぎたテクノロジーや概念であるため混乱を招きかねない。そのため、「ワイズマン」が対処し隠匿してきたのだ。
2019年1月にも、宇宙から日本に飛翔体が飛来。「ワイズマン」の対応によりこの件は大っぴらにはなっていないが、この地球には宇宙人は確かに存在しているのだ。
宇宙人に対しては、正規の手続きを踏めば入星を認め、一般世界での戸籍も与えている。犯罪を起こしたりしない限り、「ワイズマン」が動くことはない。
2023年1月。ジェシカがこの組織に入ってたったの数か月で、とんでもない大事件が起きた。
そして、超優秀と期待されていたジェシカの初任務が、これの対処に決まったのだった。
「出ましたね……大仕事が!」
当のジェシカはといえば、期待に笑いが止まらないといった様子だ。彼女はこの二か月、大した事件もなく事務処理ばかりで歯がゆい思いをしていた。どんな事件でもかかってこいと事件のファイルをめくる。
「なになに……日本に宇宙人が飛来ですか。最近日本多いですねえ。確か、母上の母方の祖先も日本生まれだったような……なにか、縁があるのかもしれませんね」
などと余裕を見せていたジェシカだったが、その口数はページを追うごとに少なくなっていく。
事件の概要。
2022年10月某日、宇宙船の故障により凸凹星人・凸星ぽここが地球の日本へ不法入星。
この時点で、宇宙船からの入星依頼が入り、「ワイズマン」がこれを受理。
この日、霊界(別名、アストラル界)に微弱な揺らぎが観測されるが、すぐに収まる。(後に、この事件との関連が発覚)
11月。
くだんの凸凹星人が、持ち込んだタイム・マシンで時間移動。
2045年から地球人を連れ出し、この霊体を2022年の同一人物に注入。
さらに、行き場のなくなった2022年のこの地球人の霊体を四次元空間に不法投棄。
「……」
ひととおり頭で整理した後、職場だというのに、ジェシカは叫んだ。
「な、なんですかーこれー!?」
時間移動取締法。
霊界取締法。
四次元廃棄物処理法。
歴史改変罪。
「時間・四次元・並行世界との境界・霊界……全部の犯罪満たしてるじゃないですか! 役満じゃないですかー!!」
どれか一つでも侵犯すればこの星を揺るがす大惨事を起こしかねない、四つの境界。そのすべてを見事に踏み荒らした歴史上類を見ない大事件だ。
おおかた、この星のルールを知らない凸凹星人が自分の星でタイムマシンなどを使えることからこのような事態が起こってしまったのだろう……それにしてもやりすぎだ。
誰かがジェシカにいたずらをしていると言われた方がまだ信じられる。
「しかし、おかしいですね……」
ジェシカのもとに報告が挙がったのは事件発生から三か月後。
すでに、この星が木っ端みじんになっていてもおかしくない。これは、何かしらの異変が発生したが、「ワイズマン」以外の何者かによって対処されたか、まだ異変が起きていないのか。
ともかく事態は急を要する。早速ジェシカは大犯罪者の顔を拝みに行くことにした。
2021年7月。
第1次アイドル戦争のさなか、アイドルグループPerfectionのメンバー・出羽次郎子(通称でじちゃん)が死亡。
2022年10月。
宇宙から一つの生命体が飛来。後に、地球人の姫寺まつこと同居生活をすることになる、凸凹星人・凸星ぽここ。
2022年11月。
姫寺・凸星姉妹のもとに大宇宙倫理の会教祖・魂川りんりが来訪。
凸凹星人の能力により、未来の危機を察知。
2045年。
大宇宙倫理の会の悪事により、サイボーグの攻撃を受ける人類。
凸星はこの時代の魂川りんりをタイムマシンで2022年に連れ出し、事態の収拾を図った。
再び2022年11月。
直後、凸星ぽここの精神に何者かが寄生。自身を出羽次郎子と名乗る。
その場にいた全員が寄生されるも、何故か数刻後に解放される。
「グッドぽこ。でも、調べがまだまだたりないぽこね」
時は2023年1月。あの事件から数か月、大宇宙倫理の会の事務所では、凸星ぽここが暖かそうなうどんをすすりながら、魂川りんりの報告書(といっても簡単なものだが)を読んでいた。
魂川りんりは未来の世界では人類滅亡のきっかけを作った人物といっても過言ではなく、改心したあとも罪滅ぼしとして凸星ぽここに協力していた。
凸星ぽここは、自分たちの安全のためにも以前起きた異変の原因を調査。一年以上前に死亡した一人の少女が関係しているところまでは調べがついた。
「まず、この第1次アイドル戦争。なんでこの平和な国で戦争やって、死者がでてるぽこ?」
「それがさっぱり。この件については情報が統制されてるのかも」
「第1次ってことは第2次もあるぽこ?」
「それもわからない……」
調査はここに来て行き詰まりを見せていた。
魂川も休憩に、とうどんをかきこむ。
「これ以上は、政府とか……そういう世界の人の協力が必要かもしれない」
「それか、もし、あの寄生体を倒したものがいたとしたら」
言うとぽここは、箸を置いて机から少し距離を取る。
「魂川クン。今から簡単な魔術を教えるぽこ!」
「急にどうした!? それに、魔術って……?」
「この前、アナタの本を読んだぽこ。スピリットの概念を信じている人間は珍しい。そして、そういう人間は魔術のスジがあるぽこ」
「目的が見えないんですけど!」
ぽここは魂川の肩に手を置き、語りかける。
「宇宙人であるぽここは、地球人にはない特殊な技がたくさん使えるぽこ。これから、寄生体を倒した奴をここに呼ぶぽこ!」
「た、確かにそれなら謎は解決できるけど……なんでわたしが魔術を習う必要があるんです?」
「危ない奴が出てこないとは限らないぽこよ! さあ、マネするぽこ!」
そういうとぽここは両腕をクロスし、振り払った。
「ミスティックシールド! ぽこ!」
両腕にプラズマ状のシールドが展開される!
「すごい……高温プラズマでできたひし形のシールド!」
「どうやら2022年のアナタよりは賢いようぽこね」
「で、マネっていってもどうやるんです?」
「プラズマは物体の気体・液体・個体に次ぐ第四の形態。そこで、スピリットの出番ぽこ!」
「スピリットは生物の魂に関する分野では?」
「その通りぽこ。でも、物体には出す魂がない。そうするとエネルギーが向こうの世界に逃げていかない……つまり」
「人間から魂を離すあの頭突きを、空気に対してやってるってことですか?」
「そうぽこ。人間には無理と思うぽこ? 道具があれば簡単ぽこ」
ぽここはカラフルなズボンのポケットから、自分がつけているのと同じカラフルなブレスレットを取り出した。
「これは、まさか!」
「アストラル体と生命の輪廻を再現できる、プラズマブレスレット! 本物ぽこよ」
「あ、ありがとうございます!」
魂川が目を輝かせて受け取る。
魂川りんりは両腕に装着し、腕を振り払う!
すると大気中の原子が、宇宙人のテクノロジーによって強力な力をかけられる! 気体の状態を維持できなくなったそれらは、プラズマとなってブレスレットの周辺にひし形を形づくり集まる!
「できた! できたーっ!」
りんりの腕にはミスティックシールドが形成されている! あらゆる物体を防ぐ電磁・バリアだ!
「じゃ、それ維持してるぽこよ!」
ぽここが腕を交差し、空間をこじ開けるような動作をする! すると、実際にぽここの眼前の空間に亀裂が走り、薄暗い空間が出現する!
「おお! 開いた!」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか、ぽこ!」
果たして亀裂の向こうの空間には、一人の少女がたたずんでいた!
「あ、あの子が寄生体を倒したのか!? とてもそうは見えないけど……」
りんりが話しかけるが、ぽここはミスティックシールドを展開したまま難しい顔をしている。
少女は薄暗い空間から亀裂を通ってこちら側にやってくる。空間が避けたことに動じる様子はない。
背丈は低い。12、3歳くらいだろうか。ステッキを手に持ち、青と黒でまとまった服装の、白髪の少女だ。
「あなたが、精神寄生体を倒したぽこ?」
ぽここが恐る恐る問いかける。次の瞬間、二人の周りに広がっていた大宇宙倫理の会事務所の風景は、まるで電子空間のような光景に変わっていた!
「ぽここーっ!! これどうなってるの!?」
「さっぱりわからないぽこ! ただ、さっき空間を開くとき変な感じがしたぽこ! 間違えて別の存在を読んじゃったかもぽこ!」
「間違ったんじゃない、僕が干渉したんですよ」
頭上から声がする。
重力など無いかのように、異様な空間の中で逆さまに立っている少女が話す。
すぐさまその方を振り向く二人だが、瞬時にその姿は消える。
「何者だっ!?」
「でてくるぽこ!」
「説明しましょう。まず、ここはマジカルゾーン。私の作り出した空間です」
異様な空間・マジカルゾーンの中で少女の声が響く。
「あなたたちの空間跳躍に干渉した理由は一つ。あなたたちは魔術世界のルールを違反しました」
「魔術世界のルールなんて知らないぽこ!」
「知らないでは済まされない。この世界は崩壊の危機を迎えている。そのために僕が来ました」
少女の姿が突然、再び二人の前に現れる。それはまるで瞬間移動マジック。
「僕はマジカルシティからやってきたマジシャン……ジェシカ・マージマン。魔術師です」
補足(元ネタ)
マジカルゾーン……ジェシカ・マージマン動画より
プラズマブレスレット……大宇宙倫理の会より