キセキを越えるキセキ   作:ラトソル

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好評なら続けるかも


第1話

『おい《》、バスケしに行くぞ!』

 

『おう! 早く行こうぜ大輝!』

 

 とある日の朝、青色がかった髪の少年が響かせるような声をあげる。

 その声に待ってましたと言わんばかりの声で返事をする。いつもの光景だ。

 

『さつき! 行こう!』

 

 彼に名前を呼ばれる。それだけで私の心は嬉しくて、舞踊っているようだ。

 

『──―うんっ! 《》くん!』

 

 この3人での毎日は、きっと、ずっと続くんだろう。

 そんなことを、ことの時なんの疑いもなく思っていた。

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

『──―なんで……! なんでだよ!!』

 

『……ごめん、大輝』

 

 小学校の初めに、彼は引越しをすることを告げた。突然のことで頭が真っ白だ。今までの思い出が頭をよぎる。

 

『俺たちはずっと一緒じゃなかったのかよ!! バスケの決着だって決まってねぇぞ!!』

 

『──―悪い』

 

『──―っ!! さつきもなんか言えよ! こんな結末あるか!?』

 

『──―ぁ、わた、しは』

 

 頭が回らない。何も考えられない。──―何も、考えたくない。

 

『……俺も、お前と、この3人で、もっとバスケしたかったよ』

 

 そう言った《》君の目は赤い。当然だ。彼もしたくて引越しするわけじゃない。彼が言ったように、本当はここに残って、もっとバスケをしたかったのだろう。

 

『……いつ、帰ってくるんだ?』

 

『正直、分からない。一年かもしれないし、二年かもしれない。もしかしたら、──―ずっと向こうかも』

 

『──―っ!!』

 

 その言葉を聞いて、私の身体は凍りついた。彼が、ずっと向こう。ずっと、会えない。そう考えただけで、目の前がまっくらになりそうだ。

 ──―しかも、

 

『──―アメリカとか、遠すぎだろ……!!?』

 

 そう。彼が行くのはアメリカだ。気軽に会えるわけが無い。

 

『──―ぃゃ』

 

『さつき?』

 

『ぃゃ、ぃや、イヤ!! わたし、《》くんと会えないなんて嫌だ!!』

 

『さつ、き』

 

『わたし、ずっと《》くんと一緒に居たいよ!! 大ちゃんと、3人で遊びたいよ! 二人がバスケしてる所を見たいよ……!!』

 

 ただ、気持ちを叫ぶ。そうしないと、彼に二度と会えないと、そう思ってしまったから。彼と一緒に居たい。一生そばにいて欲しい。だって、私は、彼の事が──―

 

『わたし、わたし!! 《》くんが──―』

 

『さつき』

 

 彼の声が聞こえると同時に、頭に温かいなにかが置かれた。少し遅れて、それが彼の手だということがわかった。その温もりで、心が暖まるのが分かる。

 彼の方を向く。彼の顔は、いつもと同じ、暖かい笑顔を浮かべていた。その顔を見るだけで、私の心は踊り出す。

 

『俺は、絶対戻ってくるよ。何時になるか分からないけど、絶対』

 

 そう言って、彼は頭を撫でてくれる。今までの絶望的だった心が浄化されていくようだ。

 

『──―大輝。俺はアメリカに行ってもバスケを続ける。だからお前もバスケ続けろよ。俺はあっちでもっと強くなって戻ってくる。その時に決着をつけよう。だからその時まで──────負けるなよ、大輝』

 

『──―っ!! ああ、もちろんだ! お前こそ俺にやられるまで負けるんじゃねぇぞ!!』

 

 彼はそう言うと、大ちゃんに向けて拳をかざした。それを見て、大ちゃんも拳を突き出してお互いに交わした。その光景は、眩しくて、嬉しくて。

 

『じゃあ、そろそろ行くわ』

 

 父さん達が待ってるからな、と言って、帰る準備をする。ああ、もうお別れか。最後ぐらいは笑顔で迎えようと心掛けても、私の涙は止まってくれない。横を見ると、大ちゃんもそうみたいだ。

 そんな私たちを見て、彼は、困ったような、それでいてどこか嬉しそうな表情を浮かべて私の方へ近ずいてくる。

 

『さつき、俺は絶対に戻ってくるから。だからその時まで、大輝を頼んだ。──―戻ってきたら、どっか出かけようぜ』

 

『っ!! 、うんっ!』

 

 彼の言葉に胸が踊る。本当に単純だな、私は。でも、しょうがない。それほどまでに、私は、彼が好きなんだから。

 

『じゃあな』

 

 そう言うと、彼は今度こそ帰って行った。次に会うのはいつだろう。その時が待ち遠しくて仕方がなかった。

 大ちゃんは彼が帰ってきた時に備えて、今まで以上にバスケに打ち込んだ。私は、そんな彼を見守った。次会った時に、また三人で笑い合えるようにと。

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 高校男子バスケットボール、インターハイ予選。桐皇対誠凛。第4Q。

 その差は、圧倒的だった。

 

「──―終わりだ、テツ」

 

 それに畳み掛けるように、彼──―青峰大輝は、元相棒である黒子テツヤに告げた。

 

「火神も抜けた。光が居ない(おまえ)じゃ何も出来ねぇよ。諦めろ、テツ。

 結局──―俺に勝てるのは、俺だけなんだよ」

 

 それは、強くなりすぎたが故の言葉。彼の圧倒的な力について来れる者は誰もいなかった。

 

(火神君の怪我が悪化した以上、もう彼を試合には出せない)

 

 誠凛の監督、相田リコはこの状況を打破する方法を考えるも、そんなものは無く。点差は圧倒的、時間もない。

 

(どうすれば……)

 

「監督」

 

「っ、藍野、くん?」

 

「俺を出してください」

 

「……いいの?」

 

「はい」

 

 彼は、相田リコにそう告げた。リコは、誠凛で唯一、彼の本当の実力を知っている。それを隠す理由も、だ。その上での質問に、しかし彼は一切の迷いなく答えた。

 

「この試合で誠凛は勝てない。だからこの試合は勝ちません(・・・・・)。だから、せめてこの試合は誠凛の成長の糧にします」

 

 それに、と、彼はコートでもっとも強い存在感を放つ者に目を向けて言う。

 

「──―アイツのこんなバスケ、見たくないですから」

 

 その時の彼の顔は、悲しみや後悔といった感情が溢れていた。

 

「……分かったわ」

 

「監督!? いいのか!?」

 

 小金井は監督の判断に驚きを隠せなかった。それもそうだ。藍野は部活中では下手ではないが、突出したセンスを見せていた訳でもない。傍から見れば、彼の意見は間違っていないだろう。だが、リコだけは知っている。彼の強さを。

 

「残り時間、あなたに全部あげるわ。好きに使いなさい!」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言うと、彼はコートへと足を踏み入れた。試合に出ている選手達も、まさか藍野が出てくるとは思わなかったのだろう。各々驚きの顔を向けていた。

 

「──―火神君、目を離しちゃダメよ」

 

「……は?」

 

「今から始まるのは、まさに、キセキを超えたキセキ」

 

 何を言っているのか理解できない様子の火神を余所に、リコは語り続ける。

 

「──―あれが、最強よ」

 

 そう言ったリコの顔は、冗談でも何でもなく、今から始まるものが楽しみでしょうがないという顔をしていた。それを見た火神は、疑問が残るも、監督の言う通りに見逃さないようにコートへと視線を向けた。

 

 ────────────────────

 

「大丈夫か、藍野」

 

「問題ないですよ、キャプテン」

 

 誠凛の主将、日向さん周りが思っているであろうことを聞いた。その理由は小金井と同じであろう。だが、

 

「監督からも残り時間好きにしろと言われました。なので、できるだけ俺にボールを回してもらってもいいですか?」

 

「なっ!!?」

 

「大丈夫です、キャプテン。一度回してもらって、無理だと思ったら回さなくていいので。それと、俺は青峰につきます」

 

「!!?」

 

 周りの反応は、驚愕以外の何物でもないだろう。彼の実力を知らない者からすれば、ボールを集めろと言っていることだけでも驚きなのに、あの青峰につくとはどういうことなのか。

 

「……藍野君」

 

 やはり黒子もそのうちの一人なのであろう。心配だという表情で藍野に声をかけた。

 

「──―大丈夫だ、黒子」

 

 だが、そんな気持ちは無用なもので。

 

「アイツは俺が倒してやるよ」

 

 その表情は、どこか昔の青峰を感じさせるもので。それが信用に足りる表情であると一番知っているのも黒子だった。

 

「……キャプテン、ボクからもお願いします」

 

「黒子も、か。……分かった、藍野、お前に託すぜ」

 

「ありがとうございます」

 

 黒子も加わったことで折れたのか、日向は彼に託した。ほかのメンバーも彼に託すことに疑問はあれど、不満はなかった。

 

「よっしゃ、まずは一本だ、死んでも諦めるな!!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 絶望的な点差ではあるが、時間は残っている。日向の掛け声とともに、誠凛の気迫は戻った。

 

「……あ? 誰だお前? 見たことねぇな」

 

 各々マークにつき、藍野も青峰のマークについた。青峰もまさか一年がマークにつくと思っていなかったのか、少し驚いていたが、すぐに拍子抜けだといった表情に戻る。

 

「テツの新しい光がどんなもんかと思えば、この程度かよ。緑間のやつも、こんなのに負けたとか笑い話にもならねぇぜ」

 

 青峰は誰に告げるでもなく、ただただ自分の落胆を零した。その言葉に、藍野は反応を示さない。

 

(……こいつ、どっかで……)

 

 試合再開の笛が鳴る。誠凛スタートのボールは、話通りに藍野の手に渡った。桐皇の選手もこれには驚いていた。予想していなかったのだろう。当たり前だ。誰が好き好んで青峰という猛獣の前にエサをやるような真似をするか。それにマークについているのは今まで試合に出たことの無い一年だ。桐皇選手は、ついに血迷ったかと誠凛に落胆していたが、二人、そうでは無い者がいた。

 

「どうしましたか? 桃井さん」

 

「彼……」

 

 桐皇マネージャー、桃井さつきは彼にボールが渡った瞬間、どこか違和感を感じた。いや、懐かしい、というべきか。あの二人が向き合っているのが当たり前だったような。

 

(―――この感じ)

 

「──―ぁ」

 

 彼女は違和感の正体に気づいた。身長も変わっているし、顔つきなんかも変わっている。でも、あの時の暖かい雰囲気は、何一つ変わっていなかった。バスケをしてる時の雰囲気だって。

 

 彼がボールを持つ。それだけで、青峰は空気が変わったのを感じ取った。

 

(……こいつ、まさか)

 

 

 瞬間。

 視界から人が消えた。気を抜いていた訳でもない。いや、青峰ならば気を抜いていたところで見失うなどということは起こらないだろう。

 青峰は何が起きたのか分からなかった。ただ、一つだけ。

 

(抜かれた、のか? 俺が?)

 

 その事実を確認している間に、後ろからゴールネットの揺れる音が聞こえ、その後にボールが跳ねる音が聞こえた。桐皇も、味方のはずの誠凛でさえ、何が起きたのか分かっていない。誰も動けない中、彼は動いていた。

 

 

「──―ずいぶん、面白くねぇバスケをするようになったな、大輝」

 

 

 挑発にも聞こえるその言葉に、しかして青峰は別のものを感じていた。彼に大輝と呼ばれたのが懐かしい。青峰の体は喜びで震えていた。

 

「くっ、は、ははははははは!!!」

 

 自然と笑いが込み上げてくる。こんな感情いつぶりか。そんな中でも彼は続ける。

 

 

「たしか、『俺に勝てるのは俺だけだ』、だっけか?」

 

 

 彼の一つ一つの言葉に、全員が注目する。桃井の目からは、涙がこぼれ落ちていた。

 

『──―俺は絶対に戻ってくる』

 

「──―っ、約束、守ってくれたんだね……!!」

 

 彼女の涙は止まらない。それは、嬉しくて、でも、自分は約束を守れなかったという後悔から来る悲しみでもあって。

 その中でも、彼は続ける。

 

 

「教えてやるよ、大輝」

 

 

 彼の歩みは、青峰の目の前で止まった。周りは彼の行動を逃すまいと瞬きすらしていない。そんな中で、青峰は笑っている。それは、単純な嬉しさから来るもので、あの時の約束を果たすことが出来る、と。

 そして、彼は、青峰がもっとも欲しいものをくれた。

 

 

「―――お前より強いやつが、ここにいるってな」

 

 

 お互いに視線を外さない。一瞬たりとも無駄にしたくないと、お互いに思っているから。何秒経ったのか、何分か、何時間かもしれないと思えるほどの長い時間を送ったあと、青峰は告げた。それは、自分のもっとも欲しかったものが貰えた子供のような表情で。それでいて、獲物を見つけた猛獣のような鋭さを持っていた。

 

 

「──―やっぱ、最高だぜ! あの時の続きだ、悠!」

 

 

「加減はなしだ。全力でいくぞ、大輝」

 

 

 ここに、かつての約束が果たされる。

 




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