那由多誰何との因縁を仲間と共有して一夜あけた桃は、その少し前のケーキバイキングの時にシャミ子がクラスメイトに見せていた入院していた頃のまだ自分の知らないシャミ子の写真を見られなかったことがもやもやしていて。。。
那由多誰何に関しての過去をシャミ子や仲間たちと共有した翌日。
学校の教室で私はいつものように過ごしていたけれど、ふと先日のケーキバイキングの時の会話を思い出してしまった。
シャミ子と確かC組の子が話していて、その子がシャミ子が入院していた時の話を聞いていいかと訊ねた時、何の躊躇いもなく承諾して話だけでなく当時の写真まで見せていた。
私の知らない、角のない時のシャミ子。
正直、ものすごく見たかった。
というか以前からシャミ子のことなら何でも知りたいと思っているけれど、過去の体が弱かった時のことなどはあまり詮索しない方がいいのかと思ってあえて聞かなったのに、そんな私の躊躇いをあっさりと超えている他の学友たちをちょっと妬ましかった。
私が知りたくてたまらない、まだ知らない昔のシャミ子を他の子があっさりと、私よりも先に知ってしまった。
こんなことで、あっさりと闇堕ちしてしまうなんて、自分でもちょっと情けない。
あの後はバタバタしていたので忘れていたけれど、ふと思い出してしまったその感情に私はまた闇堕ちしかけていた。
「・・・私も見たかったな。あの写真」
「何の写真が見たかったんですか?」
唐突に背後から聞き慣れた声で話しかけれた私は文字通り飛び上がりそうなほど驚いて振り返ると、不思議そうな顔のシャミ子がそこにいた。
「シャ、シャミ子・・・!背後を取るなんて卑劣すぎるよ!私が某13な人だったら命を落としてるよ!」
「う、後ろから話しかけただけでそんな目に遭うなんてどこの紛争地域ですかここは!?それよりもさっきの写真なんたらって何のことですか?」
改めて聞かれた私は答えに窮してしまう。正直に言ったらものすごい恥ずかしいし、なんだか負けた気がするし何よりやっぱりすごい恥ずかしい。まるで子供の駄々のようで、自分が情けなくなる。あ、ダメだまた闇堕ちしそう。
「・・・って!何闇堕ちしてるんですか桃!ここ学校ですよ!?」
一歩遅かったようで、私は闇堕ちして黒をベースにした魔法少女闇堕ちverになってしまった。
「千代田さん?なんかいきなり服変わった?」
「背が高いから黒が似合うなー」
「魔のものだ!」
当然いきなり変身した私にざわつくクラスメイトたち。
「!も、もも!とりあえず出ましょう!」
なんかどうでも良くなってきていた私をシャミ子が腕を引いて教室の外へと連れていく。いつもと逆だなあとか他人事みたく私はこの状況を俯瞰して気の抜けた感想を抱いていた。
しばらくしてばんだ荘の私の部屋に着いた。とりあえずシャミ子と二人で部屋に入って一旦落ち着くと、自分がなかなか情けない状態になっていることを改めて認識してしまい、闇堕ちレベルがぐっと深まったのを感じた。
「お茶入れましたよ桃。飲みながらでいいので話してください。なんで闇堕ちしたんですか?」
「・・・・笑わない?」
「もちろんです!眷属のどんなことでも私が受け止めちゃります!」
胸を張ってそういうシャミ子に、私の気持ちは少し緩んでいく。先日一緒に過去を共有して以来、シャミ子をちょっとだけ頼もしく感じ始めてる自分がいた。
「・・・・この前のさ、ケーキバイキングの時、シャミ子他の子に入院してた時の写真見せてたでしょ?あれさ、私も見たかったんだよね。昔の、角のない頃のシャミ子のことって全然知らないしさ。私の知らないシャミ子を他の子が先に知ったのがなんだか嫌で、モヤモヤしてたら闇堕ちしちゃったんだ・・・」
私は溜め込んでいたものを吐き出すように一息で話した。
言い終わると視線を上げて恐る恐るシャミ子を見ると、シャミ子は少しぽかんとした表情をした後に今度はふやけそうなにやけ顔になっていった。
「・・・笑わないって言ったじゃん・・・嘘つきまぞくめ」
「ごめんなさい桃。でもあんまりに桃が可愛くて」
シャミ子はそう言うと私の肩を抱き寄せてそっと頭を撫でてきた。普段の私ならきっとびっくりして距離をとりそうだけど、今ばかりはもうそんなことをする気にもならなかった。
そんなことをしてまで守るようなプライドなんて、とうになくなっていた。
「桃って前よりずっと感情を見せてくれるようになりましたよね?私、実はすごく嬉しいんですよ?いっぱいいっぱい桃のいろんな表情が見れて」
「・・・シャミ子のくせに・・・生意気」
「ふふふ・・・」
ああ、だめだ。温もりに溺れてみっともない顔になってしまう。それでもいいかって思う自分もいるのがちょっと困る。
ポンっと音を立てて私の姿は元に戻った。ちょっと優しくされて撫でられただけであっさりと闇堕ちから戻るなんて本当に子供の駄々のようだ。
「元に戻りましたね桃!よかった!」
「うん、でもまだ写真見てないよ?」
「そんなのいくらでも見せてあげます!」
そう言うとシャミ子はポケットからスマホを取り出して写真を表示すると私の前に出して見せてくれた。
「本当に髪、短かったんだね」
「これ、カツラなんですよ?薬の影響で抜けちゃってたので」
ケーキバイキングの時も言っていたけれど、さらりと言う割にかなり過酷な状況だったのがわかる。大概の人は髪が抜けるような副作用の薬なんておそらく一生使わないだろう。
だけどシャミ子はこんな幼い頃に、そんな薬を使わないといけないような治療を受けていた。
それを思うと、私の胸は締め付けられるような感覚になる。
「これ、何年前」
「多分9年くらい前ですかね?桜さんのコアをいただいてから少したったくらいだと思いますよ」
「・・・・辛くなかったの?」
「・・・・ここからの話は、桃にだけしか話さないことを話しますね?」
シャミ子は私の肩に回していた手に力をこめてまた話し始めた。
「すごく、辛かったですよ?毎日痛くて、気持ち悪くて。見えるものは病院の白い天井や壁ばっかりだし。お母さんはよく来てくれましたけど、いつも辛そうな顔で、私のせいで苦労しているのは明らかでした。何度も思ったんですよ。私がいるせいでお母さんが苦しんでる。私がいなければ。私が早く死んじゃえばって・・・」
「シャミ子・・・!」
私は咄嗟にシャミ子を抱き締めた。
シャミ子は昔から明るくていい子だと思っていたし、きっとそうだったのだろうけれど、それでも彼女は子供で、当時はほんの6歳の女の子だったのだ。
辛くないわけがなかったのだ。
「ごめんねシャミ子!変なこと聞いちゃったね・・・!」
「・・・桃だって昨日、怖くて辛いはずなのに、昔の記憶を見せてくれましたよね?だから私も、ちょっとだけ昔の辛かった話を知ってほしくなったんです。それに今は本当に生きていてよかったって思うんです。桃に、みんなに会えて、すごく幸せです」
体をちょっとだけ離してシャミ子を見る。そこにはいつだって私に安らぎをくれる笑顔があった。
「・・・なんで桃が泣くんですか?変なの」
そっとシャミ子が私の頬を伝う涙を拭ってくれた。自分では気がつかないうちに私は泣いていたみたいだ。
「・・・今日のシャミ子は大人まぞくだね・・・」
「何ですか大人まぞくって!そういう桃はまるで小桃みたいですね今日は!」
そう言ってお互いに笑い合い、私たちは日が暮れるまでいろんな話をした。
シャミ子のことを知れば知るほど、もっと知りたいと思い、彼女の存在が私の中でかけがえのないものになっていくのを感じる。
目の前で笑う彼女のこの笑顔を、いつまでも見ていたい。
私が魔法少女を続ける理由なんて、本当にそれだけでいいって思った。
了