平衡より来たれり   作:月侍

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本気で話タイトルが思いつかないです。深海の海底に埋めてきました。


迷迭香-2

◇◇◇

 

「……ねえ」

 

 マリーゴールドを描くのに集中していたら、ロスモンティスが裾を引いてきた。

 

「ん?終わった?」

 

「うん。でも、うまくいかなかったの……」

 

 そう言って、若干しょんぼりしてスケッチブックを抱きしめている。

 

「最初から上手くいく人なんて、そうそう居ないよ。見せてもらいたいけど……いいかな?」

 

 少し悩んだ様子を見せてから、彼女はこくんと頷いてスケッチブックを渡してくれた。

 

 

 ぎこちなくて、たどたどしい線で描かれたローズマリー。決して、上手いと言えるようなものでは無い。

 しかし、輪郭はかなりしっかりと捉えられており、花弁や葉が一枚一枚微妙に違うのもよく分かる。

 

 自分は絵の専門家ではないが────これは、間違いなくとても良い絵だと言える。

 

「……うん。輪郭がしっかり捉えられているし、花弁や葉っぱが少しずつ違うこともよく分かる。頑張ったね」

 

 そのまま手を伸ばし、ロスモンティスの頭を撫でる。完全にこれは癖だ。

 

 手を伸ばした時に、少し萎縮した様子を見せたが、その時にはもう手は頭の上だった。変に引っ込めるわけにもいかなくなって、そのまま撫でた。

 

 ロスモンティスは最初硬直していたが、少しすると耳がぺたんとなった。どことなく、安心したような表情をしていた。

 

 

 これをきっかけに、ロスモンティスは『写生』が授業になった。

 

 元々、生徒一人一人によって教えていることは違う。基礎的な───僕が覚えている、青年が義務教育で学んだ範囲の中でも基礎的なことを教えるのは共通しているが、それ以外は全員違う。

 

 例えば、今教えている生徒なら、数学を教えている子もいれば、理科にとても興味を示す子もいる。

 彫刻や粘土をする子もいて、編み物と裁縫を教えている子もいる。

 

 元々、青年は実技教科の方が得意だ。数学や歴史は改めて自分でも学び直しているところもあるが、それでもまあなかなか器用だったのが今とてつもなく助かっている。

 

◆◆◆

 

 

 また時間は流れる。

 その時、僕は食堂でもっもっとホットサンドを食べていた。気になって食べてみたらとても美味しくて、時々食べている。

 

「先生、一緒にたべてもいい?」

 

「ロスモンティスか。いいよ」

 

 ホットサンドを乗せたトレーを持って、ロスモンティスはやってきた。

 OKの回答をすると、トレーをテーブルに乗せて、隣にちょこんと座った。

 

 もぐもぐと、ひとくちひとくちは小さいものの食べている。大きさは同じはずなのだけど、手の大きさの違いからかロスモンティスの食べているサンドのほうが大きく見える。

 

「……先生、先生はあんまり任務に行かないよね」

 

「僕?まあ確かに、あんまり任務には駆り出されないね。一応、何回か行ってるけど……ロスモンティスと同じ任務になったことは無いね」

 

「私が忘れちゃったのかなって思ったけど、日記にもなかったから不思議だったの。先生のアーツは、とっても不思議なんだってブレイズやみんなが言ってたから、気になったの」

 

「僕の『アーツ』か……確かに珍しい部類ではあると思うよ。効果が効果だから、使わない方がいいとは思うけどね」

 

 

 直近の事例だと、調査に行った先で現地のならず者たちに襲われた時に咄嗟に()を投げつけてしまったせいで、こう、なんというか……「いあ!いあ!」という感じになってしまった。これまた医療オペレーターにこっぴどく叱られた。

 

 どうも、しっかり意識しないと強すぎる()を与えてしまうようだ。最近は比較的精度が上がってきたものの、特に精神に異常をもたらす()はどうしても対象の精神に左右されて、効果量が大きく変わってしまう。

 

 

「そうなの?私は、私の力を使って守らなきゃならないの。でも、先生の力は使わない方がいいの?」

 

「まあね。ある意味薬みたいなものだからさ」

 

 薬────この表現は、ケルシーに言われたものだ。

 

 『薬というものは、時に毒になる。しかし、毒すらも呑まなければ生きてはいけない。

 この大地には様々な実験施設があり、そこでは常に特効薬を探し求めて、正も負もどちらもあらゆる人物へ打ち込まれて試されている。しかし何度も試行するには、幾つの犠牲を重ねても足りない。

 君の力もそうだ。時に生きるための力を、時に自死へと至る第一歩を与える。

 ……つまり、その力は正しく使われなければならないが、訓練が困難だ。気をつけろ』

 

 いつかの任務の後の説教の後に、そんなことを言われた。確かに、薬という表現は的を得ていると思ったよ。

 

「この世界に病気なんてない方がいい。それでも病気はあるから、薬を使う。でも、薬は間違えれば毒になるし、そもそも毒を調整して薬にしているものもある。まあ……薬を使わずに済む方がいいよねって思うんだ」

 

「ちょっとわからないけど……でも、なんとなく伝わるよ」

 

「それならよかった───ん?」

 

 通信機が反応している。誰からか連絡でもあるのだろうか。

 

 

 通信機をオンにする。

 

「はい、こちらRomeo。どうしましたか?」

 

『アーミヤです。ロミオさんですか?今すぐ来て欲しいんです』

 

「わかりました。CEOルームですか?」

 

『はい。お願いしますね』

 

 

 ぷつ、と通信を切る。

 

「……任務?」

 

「多分そうかな。行ってくるよ」

 

「うん、先生、気をつけて」

 

 

 残りのホットサンドを口に詰め込み、食器を返却口へと突っ込んで部屋へと向かう。

 

 

 

 

………そして、物語は大きく動き始める。




 かつてない感じの評価のされ方でビビり散らしています……嬉しいけど怖いなこれ……
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