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全力疾走する先に、ロドスの制服と目立つ金髪の騎士が見えた。
あの騎士は確か、ニアールさん……だっけ。
少し離れた位置にレユニオンの構成員がロドスの一団を追っているのが見えている。
迷いなく、
「このアーツは……ロミオさん!」
「ただいま。追ってきてたのは、あれで全部?」
割と体力があれなのはそっと出さないようにしつつ、アーミヤに答える。格好つけは……そっとスルーして欲しい。
「……偵察完了。敵遊撃部隊の壊滅を確認した」
と、敵があれで全部かということについては、ドーベルマンが答えた。
ひとまず、一息つける状況ではあるようだ。警戒は緩められないけども。
「なんとか包囲網の突破に成功したな。チェルノボーグのアップタウンからほぼ離脱したといっていいだろう」
あ、僕、結構な距離を走ってたんだそりゃ疲れる。ただでさえ、エリートオペレーターの中でもかなり体力低いのに……。
「まあ、我々は敵の包囲網の兵力の一部を削ったに過ぎないが……少なくとも、当面の安全の確保はできた」
「おや、Aceさんも合流してたんですね」
「ん?ああ、そう言えばロミオもこの作戦に参加していたんだったな」
エリートオペレーターのAceさん。何となくさん付けなのは、どうしても「ゲーム」内での彼の最期を知っているからだろう。……どうにかしたいものだ。
「忘れられちゃ困りますよ。……そうそう、レユニオンの幹部っぽい人に襲われましたね」
「奇遇だな。こちらもレユニオン幹部と思われる人物から襲撃を受けた」
情報共有の時間だ。とりあえず僕は、スカルシュレッダーについての情報を話した。この時点で明かしても問題なさそうなものを、だけど……。
「グレネードとブレードを扱う、ガスマスクの人物か……」
ドーベルマンは「厄介だな」と呟く。確かにあれは、集団戦闘で高い威力を発揮するから厄介なことには変わりない。
「うん。足止めはしたけど、1人じゃ拘束してもどうしようもないし、あまりとどまって居られなかったから捕縛は出来なかったけど……」
「よく生きていたな」
「僕の『アーツ』を受けて尚立ってたんですよ?彼。部下は失神させてたけど……銃を使ってやっと足止め出来て、こっちまで全力疾走してきたんです」
Aceさんから言われて、確かによく生きてられたよなと思う。もしも相手が、パトリオットやフロストノヴァだったらヤバかったかもしれない。特に、パトリオットは間違いなく僕の『アーツ』は通用しないだろうし。
ある意味、スカルシュレッダーが相手で良かったと言える。
「で、そっちは何に襲われたんです?」
「はい、霧のアーツを使う人物と、杖を持った指揮官の少年とその配下、遠距離からの高火力射撃です」
「……指揮官の少年と、遠距離からの射撃?」
もしかして、と思った。霧のアーツを使う人物はともかく、後者二人は……いやいや、ここはおそらく別世界なのだし、彼ら本人であるという確証もない。
そう僕が考え込んでいる間にも、会話は進む。
「先程の狙撃手についてわかったことは無いか?ニアール」
Aceさんからそう話題を振られて、ニアールは少し思い出す素振りを見せる。
「……ああ。あの強力な狙撃以外に、私は十字砲火を受けた。しかし、その時点では敵の狙撃手は1人しか確認できていなかった」
「なるほどな。複数の攻撃地点と、自動射撃装置が用意されているのだろうな……」
敵が一人しかいなくて、十字砲火ならば、何かしら装置が用意されていると考えるのが普通だろう。
「私も同じ意見だ。私が受けた一発目の狙撃と二発目の狙撃の着弾は、微妙なズレはあったもののほぼ同時だった」
あの射撃間隔が可能な射撃装置なんて存在しないし、私が突撃した時に遭遇したのは別の狙撃手だった─────と、Aceさんは言う。
そこから考えるならば、あらかじめ複数の場所に展開していたという結論に皆は至った。……多分、僕以外は。
「狙撃手の機動性がそこまであるとは思えないし、それだけの連射ができる装置も思いつかない。もしも、超高速で移動できる狙撃手が居れば話は別だが……」
「……いや、存在するという可能性はあるよ」
あっ、と口に出してしまったがもう遅い。考えていたものが口から飛び出してしまったが、取り消せない。
「どういうことだ?ロミオ」
「あー、いや。会ったことがあるんだよ、そういうアーツの使い手に。僕がロドスに来る前は、生徒二人と共に各地を旅していたことはニアールも、Aceさんも知ってるよね?」
「アーツ……なるほど、それなら可能性もあるにはあるな。だが、そうだとすると、ほぼテレポートのような移動速度になるぞ?」
「ある程度短距離なら出来てたんですよ、その人……」
無論、その「アーツを使う人物」というのは、僕の可愛い生徒の1人であるサーシャだ。彼は、ステルスと短距離の超高速移動を可能にするアーツを持っていた。
もしその狙撃手がファウストならば、間違いなく「超高速で移動できる狙撃手」だ。
「……まあ、可能性は考えておくに越したことはないな」
「そういう事だよ。戦場と修羅場では、最悪の可能性も考えておく……生徒達に教えてることの一つかな」
「何を教えているんだ、君は……」
ジョークと言うやつです。いやあの、だからその……えっ、すべった?すべっちゃった?悲しいな……。
ドクターが、プッと吹き出した気がするが、多分気の所為だろう。そこまで沸点が低いが訳ない。
「ともかく、レユニオンは想像より危険な相手だってことだよ。僕に襲いかかって来た奴然り、君たちに襲いかかった奴然りで」
「あの凶悪なガキが仕込んだ作戦だろう。我々を包囲した時点では、あの狙撃手の力は使っていなかったが……」
「それにしても、あの下劣な性格を危険な力が支えているとなると厄介だな」
あ、やっぱりどうも『メフィスト』と『ファウスト』のようだ。下劣な性格……イーノは確かに残酷ではあるが、彼は「ゲーム」のメフィストよりも、遥かに倫理観自体は比較的マシにはなっていた。というか、なんとかした。
……やはり、違う人物なのだろうか。
「しかし、奴自身が手を出すことは無かった。その上、怒りかけたのを抑えて、冷静に戦場を見ていた……」
「奴自身は戦闘能力を持たないか、あるいはまだその力を見せるべきではないと判断したのだろう。もちろん、奴の指揮能力は……驚くべきものではあった。奴の部隊は、完全に奴の駒そのものだった……」
ドーベルマンはため息をついた。レユニオンはやはり、ごちゃごちゃしているのにどうしてか統率が取れている。僕がさまよっている中で出会った
そして、その間にニアールはアーミヤとドクターへと礼を言っていた。そういえば、二アールの「記憶のない友人」とは誰の事なのだろうか?
「────それに、あなたにとって一番大切なのは消えた記憶ではなく『今』だということだ」
「はい……そうですよね!」
アーミヤの言葉に、二アールは頷く。
「行こう、みんな。ドクターをロドスに送り届ける任務が残っている」