平衡より来たれり   作:月侍

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長くなりました(当社比)


脈動

◆◆◆

 

 僕は単独行動なのもあり、若干先行しながら偵察をしていた。

 ()を伸ばすだけなら、基本的に気付かれることは無い。その上にある気配を感じれば……うっわ。

 

 なかなかとんでもない量の敵意、憎悪、怒気────まあ、掃いて捨ててもそれ以上に湧いて出てきそうなくらいの負の感情が点在している。たった数十メートル()を伸ばしただけなのに。

 

 ……いや、それはいい、良くないけど、いいんだ。

 それよりもキツいのは、()の上で呪詛のような負の感情を撒き散らしながら消えていく命が多いのが分かってしまうことだ。

 

 別に、僕は発狂はしないさ。だけど、どうしても良心が痛むし、情報量の多さに若干の頭痛がする。なによりも、その情景を勝手に想像してしまうのが辛い。しなければいいだけの話なのは、分かっている。

 

 

 とりあえず、だいたいの位置関係の把握はできた。アーミヤ達の方へと戻ろう。

 広場出口の方に、レユニオンの大部隊がいる。

 

 

◇◇◇

 

 

「────待て!この地形ではまず優位に立てん。他人の心配をしている余裕はないぞ」

 

「……」

 

「……命は大切なものだ、アーミヤ。それは誰の命であっても同じだ」

 

 おっと、戻ってきたと同時にかなり不穏な会話が聞こえてきた。

 

 ……ああ、なるほど。あのレユニオンに殺された一般市民を助けようとしたのか。アーミヤらしいが、この状況ではそれは許されない。

 

「どのみちもう間に合わない……それに、まだ我々も危機的な情報だ」

 

「そうだよ。悪いお報せだ……広場出口の方向に、レユニオンの大部隊がいるよ。多分、そろそろ気付かれる」

 

 皆が広場の出口の方を向く。同時に、彼らもこちらに気付いたのだろう。

 

 

「───────奴らを殺せ」

 

 確かな殺意をこちらに向けてくる一団。その憎悪と殺意の大きさはあまりにも膨らみすぎていて、少し気分が悪い。

 

「作戦準備だ!全隊構え!」

 

 そのドーベルマンの号令で我に返り、僕も『アーツ』を行使する準備をした。

 

 

■■■

 

 

「────そうだよ。あいつらは、ファウストの追跡にまだ気づいてない。ファウストのところから戻ってきた伝令が、色々教えてくれたよ」

 

 メフィストは、ある人物へと報告をしていた。

 

「ロドスは今、ミッドタウンの外周で足踏みしている状態だ。多分、天災の混乱に乗じて逃げ出そうってわけだね」

 

 報告を受ける彼女は、黙ったまま目を瞑っている。

 それを気にすることなく、メフィストは続ける。

 

「チェルノボーグの現状を知られてしまったからには、逃がせば計画の邪魔になる可能性が高い……少なくとも、先生以外は始末しても悪い事はないはずだ」

 

 彼女は、空を見上げた。

 

■■■

 

 

「チェルノボーグのクズどもめ!貴様らが俺たち感染者をこんなふうにしたんだ!」

 

「ちょっと黙って!」

 

 次から次へと、レユニオンは突っ込んでくる。自分の方に向かってくる者は失神させるか()を撃ち込んでいるものの、あまりにも数が多い。

 

「この狂乱状態は一体なんなんだ……?」

 

「それになぜこんな時に、これだけ多くのレユニオン部隊がここにいるんだ!不合理だ!こいつらがいまのこ場所を守る理由などないはずだ!」

 

「暴徒に理由を求めるものじゃないと思うよ!」

 

 一気に失神させたいところだが、それをすると一切の加減が出来なくなる。0か100かの出力になる。その上、本当に近くにいる味方ならともかく、それ以外のオペレーターも間違いなく巻き込む。

 

 

「クッ……オペレーター各位、保ちこたえろ!下がるな!敵を殲滅し、撤退ルートを切り拓くぞ!」

 

 最前線に立つ二アールが叫ぶ。そうだ、下がってしまえばもう進めなくなる。

 

■■■

 

「─────あれが噂に聞く『ロドス』か?フッ……勇敢なものだ」

 

 ()()は、ロドスから見えない位置から彼らを見下ろしていた。

 

 その傍には、数名の幹部と思しき人物もいた。

 

■■■

 

 

 戦いだして数分した頃。真横に、高所から石が落ちてきた。

 

「……落石?こんなときに?!」

 

 前衛オペレーターが少しの動揺を見せた。

 

「止まるな!防衛線を維持しろ!」

 

「いや……建物が崩れて破片が降ってきてるんだ……」

 

「お前たち何を言って───」

 

 ドーベルマンが問いただそうとする前に、レユニオンが騒ぎだした。

 

 

「来たぞ!ついにこのときが来た!」

 

「ひひっ……感染者の救済の刻が来た。お前ら健常者はここで粛清されるんだ!」

 

 狂喜する、暴徒(感染者)。彼らはひとり、またひとりと突如潰れ、倒れていく。

 

 

「───おい!奴らは何に……やられたんだ?お前たち……攻撃したか?」

 

 ドーベルマンの問いに頷くものはおらず、首を振るのみ。

 

「ロミオ、お前の『アーツ』か……?」

 

「僕は何もしてないよ。……多分、まさかって思ってるものだと思うよ」

 

 目を背けたい気持ちはよく分かる。だって、『それ』は、平等に全てを砕いていくのだから。

 

「ドーベルマンさん!空が……!」

 

 アーミヤが指さす空は、血のように暗い色だった。

 

□□□□

 

「たぎる空が火の中で渦巻き……」

 

◇◇◇

 

「慌てるな!」

 

「自分の身を守ることを優先しろ!」

 

 Aceさんと二アールの声に、空へと向いた意識が戻ってきた。

 そうだ、まだ生き残るすべは消えたわけじゃない。

 

□□□□

 

「────恐怖がかの者たちの声を奪い、大地は静寂に包まれる。巨大な源石が降り注ぎ……そは堕ちる、死に焦げた影の上に」

 

 ()()は、赤く紅く、昏い空を見上げ、口にした言葉が消えるのを待っていた。

 

 そこへ、影は歩み寄ってきた。

 

「タルラ」

 

 影───王冠殺し(CrownSlayer)は、()()────『タルラ』へと、声をかけた。タルラは、無言でクラウンスレイヤーへと視線を向けた。

 

 クラウンスレイヤーの問は、至極簡単なものだ。

 

「どうすればいい?」

 

 その問いに、タルラは目を瞑り息を吐くと、もう一度空を見上げて、答えた。

 

「────奴らは天災を生き延びるかもしれん。生き延びたものは、お前が始末しろ」

 

「了解」

 

 その司令に、悪魔(Mephisto)は不満の眼差しをタルラへと向ける。

 命知らずなはずの行動だが、タルラはそれを咎めることなく、付け足した。

 

「……ああ、ただし。あの鉄仮面の人物と、あのエーギルの男だけは捕縛しろ。生き残っていれば、の話だが」

 

◇◇◇

 

 

「あぁぁ……あぁぁ……空が、空が……落ちてくる……」

 

 医療オペレーターは錯乱状態に陥ってしまった。そこに襲いかかってくる狂乱状態のレユニオンを、前衛オペレーターが守る。

 

 だが、その前衛オペレーターも混乱の様子を隠せていない。

 いや、前衛オペレーターだけじゃない。僕も、皆もそうだった。ただ1人を除いて。

 

 

「────しっかりしなさい!」

 

「……あ!」 

 

 アーミヤの叫び声に、我に返る。

 

「彼女を安全な場所へ!」

 

「了解!」

 

 同じく我に返った前衛オペレーターが、医療オペレーターを抱えて鉄筋の影へと向かう。

 

 そうだ、やれることをやらなければ。

 

「各自、それぞれ退避できる場所を探せ!」

 

「不安な子は僕の方へ!」

 

 数人の精神的に錯乱しかけているオペレーター───主に医療系のオペレーターと少しの術師を連れて()を与えながら、僕も別の鉄筋の陰へと入る。

 

 

「各小隊!天災に………備えてください!」

 

 

 ほぼ全てのオペレーターの退避が終わった瞬間、空が落ちてきた。

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